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「働き方改革」を本気で進めるために必要なこと、教えます。 ~ワークスタイルのリアル~(全1記事)

2018.05.17

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日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」 マイクロソフトが働き方改革で歩んだ“地雷だらけ”の道

提供:ウイングアーク1st株式会社

最新テクノロジーやデータを活用する企業が一堂に会し、先進的な取り組みを共有するカンファレンス「ウイングアークフォーラム 2017」。11月14日に開催されたウイングアークフォーラム 2017 [東京]では日本マイクロソフト株式会社の澤円氏が登壇し、「『働き方改革』を本気で進めるために必要なこと、教えます。 ~ワークスタイルのリアル~」と題して講演を行いました。

マイクロソフトが歩んできた“地雷だらけ”の道

澤円氏(以下、澤):澤と申します。よろしくお願いします。40分間を使いまして「働き方改革」を本気で進めるときに必要なことをみなさんにお伝えしたいなと思っています。

タイトルが「『働き方改革』を本気で進めるために必要なこと、教えます。」だと、偉そうに聞こえますけど、なんていうことはない。我々が、散々先に踏んだ地雷の話をするわけですね。ですから、どのように地雷を踏んで道を作ったかというのを共有したいなと思っています。

我々の働き方改革という話をする時に、一応、私の肩書についてもお話ししておきたいと思います。

まず、マイクロソフト テクノロジーセンターのセンター長というものをやっています。これは全世界に50カ所あります。その50カ所に同じようにテクノロジーセンターダイレクターというのがいるんです。そのダイレクターというのは、みんな同じ仕事をするんですね。同じ仕事というか、評価をされるポイントがまったく同じになっています。

全世界でロールモデルが決まっている。そのロールモデルが協調されているというのがポイントとなります。

そして、アメリカの本社のほうのサイバー犯罪から独立した捜査を行なうデジタルクライムユニットがあるんですけども、そちらの出先機関として、全世界7拠点にサイバークライムセンターというものがあります。アメリカに2拠点、ヨーロッパに1拠点。あとは全部アジアにあります。ソウル、北京、シンガポールそして日本。

アジアがホットスポットになっていますので、「その情報の発信機関としてやりなさいよ」と、これはリーガルチームとペアになってやっているんですね。そういったクロスグループでやっているというのも1つのポイントとなっています。

それからもう1つ、データセンターツアーガイドがあります。これは文字通り、ツアーガイドなんですが、ただ社会科見学やはとバスツアーみたいな感じではなくて、セキュリティの重要性を体感いただくためのツアーをやっています。これをデータセンターをつくるために特別に組織されたグループと一緒につくっているんですね。

こうしたクロスグループでやるところに関しては、非常にマイクロソフトは重視をしております。それから、なんといっても大事なことは僕がサラリーマンだということですね。

僕は、よくミュージシャンなんかと間違われるんです。この間、飛行機に乗ったときに、前にCharさんが座っていて、絶対に同じバンドの人間だと思われているんだろうなと思ったんですけど。……そんなこと、どうでもいいですね。

(会場笑)

本業が6割、副業が4割の働き方

会社勤めをしている一方で、琉球大学の客員教授もやっています。私のチームのメンバーは、私を含めて4人、大学で教鞭をとっている人間がいます。

また、株式会社FiNC。これはオンラインのヘルスケアのアプリケーションなんかを提供しているベンチャー企業です。こちらの顧問なんかもやっています。

株式会社ビズリーチ。これはCMでもやっているのでご存知じゃないかなと思います。こちらには創業当時、まだ6人しかいなかった頃から関わっています。今は、協力会社を入れると1,000人ぐらいになっていますが、そういった会社の顧問をやっている。

もう一つ、TECH LAB PAAK。こちらはリクルートさんの社内ベンチャーなんですけども、こちらの顧問もやっています。

要するに、副業は完全にOKになっています。私は、だいたいざっくり言うと会社の仕事は6割、それ以外で4割ぐらいの割合で他のことをやっています。これがOKになっているんですね。

なぜそんなことができるのか、その内容に少し触れていきたいと思います。あとはテクノロジーの話などもしていきたいと思います。

テクノロジーによって仕事が大きく変わる

働き方改革は、テクノロジーが進んでいくことによって大きく変わる側面が最近では強いですが、こういったことは100年ぐらい前にすでに起きていたという話をします。

(スライドを指して)これ、どこだかパっとわかる方いらっしゃいます?

この当時、ここにいたという方はたぶんこの中にはいないと思います。なにしろ1905年の写真ですからね。これはどこかというと、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのあたりですね。

今でも同じような建物が建っているわけですが、見ていただくとわかる通り、ビジネスエコシステムがすべて馬車で作られていました。アメリカ全土で作られる穀物のうちの25パーセントは馬用だったんですって。

それぐらい馬を中心にすべての物流は回っていたということなんですが、当然こういう街には馬に対するビジネスをする人たちがいるわけですね。馬の面倒をみる。馬車のメンテナンスをする。馬車を停める場所を提供する。そういったビジネスが起きていたわけです。

その当時、車はどうだったのか。この20年前、すでに特許の申請をされて開発が進んでいました。自動車は存在していたんです。

ただその当時なんて言われていたかというと「これは悪魔の乗り物」でした。内燃機関があるので、中で燃えている。ボンネットの中で火が燃えているから危ないじゃないかというのがまず1つ。もう1つが既存のビジネスエコシステムを崩す。

今までは馬で生計を立てていたわけだから「車なんかに出てこられたら迷惑」という側面もあったんですね。まさに、新しいテクノロジーが自分たちの仕事を奪うと考えていたんです。

(スライドを指して)これが20年後なんです。20年経ったらこの通り。みんな車になっているわけですね。馬車なんてどこにも走ってない。たったの20年です。私が社会人になってからもう25年以上経っているんですけども、その20年という間に馬車が車に置き換わる。これがテクノロジーによって仕事が大きく変わるということなんですね。

じゃあ、全員失業者になったかというと違うんですね。馬の面倒をみていた人は車のメンテナンスをすればいいし、馬車を停める場所を提供していた人は駐車場をやればいいし、馬車のメンテナンスをしていた人は車の板金工や整備工をやったりすればいい。仕事が変わる。

テクノロジーが変われば働き方が変わるというのは、100年ぐらい前にはもうやっているわけなんですよね。それを今からはITでやればいいわけなんです。

“働き方ファースト”にならない日本の傾向

コンピューターはこういう巨大な機器、みんなで使う端末を使って仕事をしていたわけなんですが、どうしても、これだと物理的な制限がありますね。なにしろちょっと持って歩くには大きすぎるわけなんですよね。そして当時はそのでかいコンピューターを針金で引いてきて端末に繋ぐんですけども、それが非常に高価だったり、専用線でなければいけないという制約を受けていた。

それが今や手のひらの中にある。すべて手のひらの中にテクノロジーが収まる状態になっていて、その端末そのものもすごく賢くなっているし、クラウドというものものすごく賢くなっている状態なんですね。ですので、これを使ってビジネスをやらない判断は、もはやないんじゃないかと思うわけなんですね。

例えばなんですけども、朝起きてテレビ以外のなにかが映る機械のうち、最初に見るのがパソコンだという方はどれぐらいいらっしゃいます? パソコンだという方。

(会場挙手)

あっ、いたいたいた。ありがとうございます。でも絶滅危惧種ですね。

ちなみに私はパソコン派ですから、みなさんの味方です。スマートフォンだという方はどれぐらいいらっしゃいます?

(会場挙手)

ありがとうございます。もうずらっと挙がりますね。

まだスマートフォンって10年経ったか経たないかぐらいですよね。もうなっているわけですよ。もう世の中がそうなっている。モバイルファーストなんですよ。最初にモバイルを使う。

ちなみに、前の日に撮った自撮りの画像しか見ないという方ってどれぐらいいます?

これはいないんですよ。ほとんどの人はソーシャルネットワークのニュースを見たり、天気予報を見たり、インターネット上のリソースを見たりするんですね。だからクラウドを見るという、そういった話なんです。

ライフスタイルの中ではモバイルファースト、クラウドファーストの考え方はすでに浸透しているんですけども、なぜか働き方のところにいっていない。これがおもしろいところなんですよね。とくに、その傾向が強いのが日本だなと思います。

アメリカと日本の「忙しい」は違う

(スライドを指して)これはよく引き合いに出されるグラフなので、覚えている方は多いと思いますが。なにかというと、労働生産性です。19年間ずっとビリです。19年間、G7の中で1度もビリから2番目になったことがないんですね。

順位は不動のビリケツ。労働生産性はGDPと労働人口の割算です。これは実は公式な数字だけで計算しているので、非公式な数字、つまりサービス残業は含まれていないんですね。ですので、実情はおそらくはもっと悪くなっています。

ちなみに、アメリカ人が忙しいという感覚と日本人の忙しいという感覚はずいぶん違います。

日本人の「忙しい」「超忙しい」「俺すげー忙しい」という感覚は、だいたい残業では(仕事が)終わらなくて休日出勤までするような状態ですね。しかし、アメリカ人の忙しいとはどれぐらいかというと、8時間勤務時間があって、7時間35分ぐらい過ぎるともう忙しいと言い始めるんですよ。そういう感覚なんですよ。

「働いてないやん」と思うかもしれないですが、要するに「生産性の高い働き方をしてれば、そんなことはいらないだろ」「ましてやオーバータイムで働くなんてありえない」というのが基本的な考え方なんです。本当はそうじゃない場面もあるかと思いますけど。

別の話になりますが、私のところにバリバリの日本企業から、インターンとして毎年1人ずつ、交代で4年連続で来てもらったんです。

それで僕と一緒にミーティングに出たりしてたんですけども、彼は非常に驚いたんですね。「こんなペースで仕事をしているんですか?」と。

我々は、朝はそんなに早くない。夕方もとっとと切り上げて帰ってしまう。18時、19時以降のミーティングは少なくとも私のところではやっていません。その代わり、間隔をギュッと詰めているわけですね。30分、1時間のミーティングをぎっしり入れて、1時間、3時間をお客さんとのセッションだったりして、あとはとっとと帰るという感じです。

彼はこのような状況を見て「密度が濃いですね」と言いました。そして続いて言ったのが「会議でみなさん発言されるんですね」です。なんとなくその辺から雲行きが怪しくなってきますね。次の一言が僕の度肝を抜きました。

「私は会議でなにかが決まるのを初めて見ました」。

(会場笑)

「はぁ? じゃあ会議でなにするの?」と聞いたら、「その会議に出ている偉い人が喋っているのを一生懸命に聞いてメモをとるのが会議」だと。本当に会議で発言した記憶がないって、僕に言ったんですよ。

非常に日本的で歴史のある企業で、そういったカルチャーがきっちりつくられるような、特殊な事情があったかもしれないですが、これはかなり問題なんですね。

「じゃあ、もし会議中に質問したらどうなるの? 会議中にわからないこともあるでしょう」「怒られます」「なんで?」 「会議の進行を乱したから、そういう扱いになるんです」「じゃあ、わからなかったらどうするの?」「終わった後に年次の一番近い人に聞きます」「それがわからなかったら?」「その先輩が主任に聞きます。係長、課長、部長、最終的には一番偉い人に聞きます。そうすると極めて抽象論な答えが返ってきます」

わからないまま次の会議にいく、そういうサイクルなんですね。それをエコシステムといいます(笑)。

偉い人の話を黙ってきちんと聞きましょう。それが「まじめ」という言葉で表されます。

「会議で発言しなかった」「じゃあ次の会議にはこなくていい」

残念ながら、これが実情なんですね。会議で発言しないことに対して、日本ではペナルティを課している会社のほうが少ないんじゃないかなと思います。実際に、「会議で発言しなかった。ペナルティだから、もう次の会議にこなくていい」というやり方をしている会社さんってどれぐらいありますか?

(会場挙手)

ありがとうございます。うちの会社は次から呼ばれません、基本的に。それはペナルティじゃないんですよ。

「あなたはこの会議に出なくても大丈夫だね」「だから、時間を返すね」という考え方なんですよね。

私はいつもこの写真を使うわけなんですけど、これ、わかりますよね。サラリーマンといえばこれですね。この前は小松菜の写真を間違って使っちゃって話が進まなくなっちゃったのですが(笑)。

なにか会場が極めて微妙な雰囲気になったんですけども、「報連相」ですね。「報告・連絡・相談」が、サラリーマンにとっては最も大事。

ただ僕はここにある程度のカテゴリ分けをしています。「報告・連絡・相談」、どれも大事なんですよ。どれかがいらないと言っているわけじゃなくて、どれも大事です。

ただ特徴として、報告と連絡は過去の言葉で言う。だいたいそうですね。報告とは過去に起きたことです。「これがこうなりました」と報告する。過去に起きたことをデータ化して可視化して伝えるということです。「これからお客さんのところへ行きます」「これから戻ります」「こういったことがありましたので私が今から対応します」。これが連絡というかたちですね。

相談に関しては、未来なんです。なので僕は「報・連」の部分の時間を圧縮する。時間を使いすぎているからこの時間を圧縮することによって、実際に働き方が変わってくる。

よく「残業をなくすぞ」という旗印でやっている人は多いですけども。仕事量が同じなのに残業なくせと言ったらどうなるか……という話なんですね。売上を達成しなくていいのだったらできる。それは、1つのあり方ですね。

でも、そうならないんですよ。日本人はそのあたりをきっちりやろうとしますので、残業するなと言われたら定時で退社します。そして会社を中心とした、その周りのお店に社員が集まる生息域ができるんですね。ドーナツ型をしていて、すべての周辺でおそらくは150メートルぐらいの社員食堂になる。だんだんと席などが決まってくるかもしれないですね。そういうことが起きる。

日本企業の「礼儀正しく時間を奪う」あるある

もう1つ問題があります。さっき会議の話をしました。なにも発言しないのはよくありませんが、そもそも会議のありかたというのは、場所と日時を合わせることをしなければいけない。つまり、スケジュール調整をするんですが、それはコストだという意識があまり僕は備わっていないんじゃないかなと思っていますね。

スケジュール管理をする、スケジュール調整をするとは、実はめちゃくちゃコストなんですよ。ですので、これをカットしてほしいんですね。スケジュール調整をするということ。とくに時間と空間を合わせることは極めて難しいんですよ。

ある外資系でバリバリに活躍していた人が、日本企業に三顧の礼をもって役員待遇で転職をされた話を聞きました。

その人はものすごく高待遇で、本当にもう大歓迎の状態で、州知事をお迎えするような状態だったんです。しかし、その人が転職をした後で知り合いのコンサルタントが「今どう? すごく大歓迎されたんでしょ? 調子いい?」と聞いたら、「悩んでいるんだよね。ぜんぜん調子よくない」「どうしたの? だってすごい頼りにされているんでしょ?」「そうなんだけどさ。考える時間がないんだよ」と言っているんですね。

なぜかというと、別にいじめられているわけでもなんでもないんですが、みんなその人をすごく頼りにしています。みんないろいろな相談をするようになった。なにもかも報告をミーティングでしようとするんですね。

いちいち全部、会議をやっている。朝来て帰るまですべて会議。聞いた話では、ほとんどが社内の会議になります。なぜか。「◯◯さんにこのことをご報告するのにメールで送るなんて、失礼だと思って。フェイス・トゥ・フェイスできちんとお話をさせていただきます」。

こういうことをみんなが言うんですね。そしてみんながどんどん会議の時間を入れていってしまうんで、結果的にゆっくりなにかのレポートを見て考えて、じっくりなにかを判断をする時間を取れなくなってしまうんですね。

これを私はこう表現します。「礼儀正しく時間を奪う」。礼儀は正しいんです。良かれと思ってやっているんです。ですが、結果的に裁量能力があるはずの人の一番貴重な時間というリソースが奪われていってしまうんですね。

1日の時間は24時間。これは誰しも同じですから、それを浪費されてしまうと活躍の場がなくなっちゃうんです。この人になにが起きたかというと、ずっとミーティングで時間を詰められてしまっているので、その場その場で判断しないといけなくなってしまったんですね。瞬間的に判断を下さないといけなくなってしまう。

もちろん能力が高いのである程度のところまではいけます。ですが、考える時間がじっくりあった時と比べると当たり外れの差が出てきてしまうんですね。ですから、彼からすると本望じゃない。そういった感覚になっていたということです。

もう1つ、そういった報告をする人たちは、もちろん良かれと思ってやっているんですが、レポート作成に時間をとられて仕事をしている気分になる。レポートを作る作業は、麻薬みたいなもので、仕事をしている、忙しいという気分にさせてはくれます。ただ、やっていることは過去の出来事の焼き直しですから、前には進んでいないのです。

今この話を偉そうに言ってますけども、これは評論家として言っているんじゃないんです。マイクロソフトがそうだったから言っているんです。我々はこの問題を解決済みなんです。

「旅するダンボール」に眠る情報漏えいのリスク

(スライドを指して)これは新宿の本社時代。今は品川に本社を移したんですけど。新宿の時代はこんな感じでした。いわゆる島型対向という座り方で、そしてキャビネットが大量にあって、紙の書類がいっぱい置いてあったんですね。プリンターがあちこちにありました。

後ろからみるとこんな感じ。席と仕事が一致しています。どういうことか。ここに固定電話がある。この固定電話が鳴ると席にいってピックアップしなければいけない。席と仕事は一致している。ちょっと持ち運びには重すぎるデスクトップパソコン。ここのハードディスクの中にあるデータには、ここに行かないとアクセスができない。ここにいて仕事をする。ここにあるキャビネット。この中にはたくさんの書類がある。席にいて仕事をすることになりますね。ある一定の人が集まると、だいたいこういう人が出てきます。片付けられない人がでてきますね。

片付けられない人が問題だということではなくて、例えばこれです。旅するダンボール。このままの状態でずっと積まれた状態になっていて、次の引っ越しの時にはずっと横に移動していくわけですね。

でも、足が生えて歩いていくわけではありません。これは運ばなければいけない。おまけにここの部分には、ちゃんと家賃が掛かっています。ここに立つことができません。そして、この中のドキュメントには、お客さんのデータがたっぷり入っています。抜かれても、気づかないんです。ですので、情報漏えいのリスクもこの中にはある。

ちなみに、サイバークライムセンターをやっているので、いわゆるサイバー犯罪にはくわしいですが、一番狙われて一番被害に遭うのが紙です。紙はコントロールできないので、実は産業スパイをやる人たちが最初に狙うのです。紙はだいたいずさんに扱われているので、それをピックアップして、ヒントにして入り込む。そういうやり方になります。

風通しのいい職場で起きた「コミュニケーション不全」

パーテーションがあったりすると、実は人が探せない問題があるんですね。「XXさん来ているのかな」とぱっと見えない。仕方がないので、同じフロアにいて空間を共有しているはずなのに、コミュニケーションがメールベースだったりチャットベースだったりするんですね。そういうことが起きる。

ですので、こういったかたちでパーテーションを外してみました。そうすると、確かにこの人はこの人を見つけることができるようになりました。

島型対向で席をつくっていると、同じルートしか通らないんですね。だいたいルートがワンパターン化します。それで同じ人にしか会わない。立ち話をあまりしない。違った人としない。そして日本の会議体で一番多いのは、同じ島に座っている人たちがそのまま会議室に移動して会議して、そのまま戻ってくるというやつですね。民族大移動が行われるだけという、そういう会議が行われることが非常に多くなります。

物理的には風通しのいい職場で、せっかくみんなが出勤してもコミュニケーション不全になっている例なんていくらでもあるんですね。マイクロソフトもそうでした。

(スライドを指して)見ていただくとわかるのですけども、会議室は常にいっぱいなんです。なにしろ立ち話をするところがないですから、会議室に行かざるを得ない。会議室は常にいっぱい、席はガラガラです。ポイントは席にポツンといる人ですね。会議室争奪戦に負けたんです。仕方がないから席にいます。

会議室争奪戦に負けたから席にいる。それが問題なんじゃないです。この人はなにかを先延ばしにしている可能性があります。「会議室がとれないから、この件については来週決めよう」「20人が集まれる会議室は来月まで空きがないから、この件については来月にしよう」。スペースの問題が、ビジネスのスピードにまともに跳ね返ってきています。

結果的になにが起きたか。マイクロソフトでは先ほども言ったように、全世界を同じロールモデルで揃えてマネージするやり方をとります。ですので、簡単に比較ができるんですね。この国はこの国よりイケてない。この地域はこの地域よりイケてるというのが一発でわかります。

日本はその当時、ビリ中のビリだったんです。超ビリ。すごいビリ。ついたあだ名が「Sick StaffSub」。Sickは病気、SubはSubsidiary の略で、「支社」という意味です。つまり、病気の支社という意味です。売上がとんでもなく悪いせいでそう思われしまっていました。「お前ら病気だ。だから俺が治してあげるよ」と、おせっかいまで言われるんですね。

そうすると先ほど言った報告連絡の時間が増えます。お客さんのところへ行く時間が減ります。また売上が下がります。また怒られます。報告が増えます。「お客さんのところへ行けません」というのをずっと繰り返していたんです。何年もビリの下り坂まっしぐらなんです。

ということで、これではいかん。このままだとまずいということで、なにをしたかというと引っ越しをすることにしました。東京都内の5つに分かれていたものを1カ所に集めることをやりました。

マイクロソフトの大移動計画、失敗は「電話」

やっぱり移動時間が無駄になっているということもあって、1カ所に集めたほうがいいだろうという引っ越しプロジェクト。

まず選定されたのは紙の位置。先ほどのようなキャビネットなどではなくて、80パーセント以上のストレージを減らしました。「だから紙は捨てていけ」「もしお客さんからもらった大事な紙のデータがあるんだったら、全部スキャンニングをして電子データ化して自分のところに置け」。そのためのサービスの契約をして、実際にそれを行なうことができる環境を用意しました。とにかく紙を持っていくことを許可しないようにしたんですね。

ワークプレイスの1つの例をとると、椅子があります。これはフレキシブルシーティングという、要するにフリーアドレスですね。そしてフリーアドレスをする時に、みんなが好きな椅子を導入しようということで投票し、みんながチェックをして椅子を決めました。そして同じ型の椅子をずらっと買ったんですね。そして、結果的にはコストを抑えることができました。

さあ準備万端! しかし、反対運動がおきます。大騒ぎです。もう文句ばっかりです。

まず、「朝の山手線に乗れというのか」「あんなものは人が乗るものではない」ということで、すごく文句が出たんです。なぜかというと、それまで新宿を中心に西側にオフィスを持っていることが多かったので、小田急線、京王線沿線に家を建てるようにしている人が多かったんです。

僕も明大前というところからドアツードアで15分で出勤していたんですね。引っ越したら45分。山手線に乗らないといけない。これがストレスだったのは事実です。

あと文句が出ていたのは、スペースの問題。「私はたくさんの専門書を持っています」「私はマシンパワーが必要」「だから私たちに固定席をよこせ」と。もう1つすごく多かったのが、「過去に失敗したじゃないか」ということでした。実は、過去に3回フリーアドレスにチャレンジして、3回とも失敗していたんです。

失敗の理由は、すべて電話です。ログイン式の電話を使っていました。その当時はSkypeのような製品がちゃんと機能していなかった。機能していなかったというか、まだ出てきていなかった。まだ(マイクロソフトが)買収する前だったので、そういった技術はまだ存在していなかったんですね。

ですからログイン式の電話を使っていた。朝来たらそこに暗証番号を入れると、その日にその電話が自分の番号になるという使い方なんですね。

しかし、だんだん面倒くさくなってくる。そして、既成事実を作り上げるんですね。コーヒーメーカーを置いてみたり、サボテンを置いてみたり。電話の周りにそういったものがだんだん住み始めます。巣をつくる。巣をつくる連中は声が大きい。腰巾着になるような連中がいるわけです。「ですよね」と言う人がいるわけですね。

そして、集落をつくります。集落がポツンポツンとできます。集落がだんだんと大きくなります。村になります。そしてめでたく固定席の完成なんですね。

フレキシブルシーティングは社員数より少ない椅子にするのが通例です。なにが起きるか。村八分になる連中が出てくるんですね。そうすると、村八分になった連中はジプシーと化します。遊牧民です。これが非常に問題なんですね。

ではなにが問題か。会社に対する帰属意識がすごく下がりますので、いわゆるロイヤリティが下がったようになります。これがそのままコンプライアンスリスクに発展します。「これくらいはいいか」と、電子データを持ち出したりする。「だってしょうがないよ。俺ら席がないんだもん」、それが彼らのエクスキューズなんですね。

ですから、今回はそうならないように「Business Justificationを示しなさい」という指示をしました。「黙っていうことを聞け、ではない」「あなたの話を聞きますよ」ということです。「ビジネスの正当性を数字で示してくれたらOKですよ」というコミュニケーションをすることにしました。

さらに、部門代表者による啓蒙を行いました。これは全社のソフトボール大会とはわけが違います。なので、1~2年目の若手をアサインなどするのは意味がありません。そういう若手の人が部門に戻って会社の方針を伝えても、袋叩きに合いますからね。「お前、ちゃんとこっちの都合を言ってこいよ」なんて言われちゃうんですね。萎縮しちゃいますよね、若手は。

なので、若手ではなくて声の大きいインフルエンサーに入ってもらいました。私のチームのメンバーには、ここにガッツリと入ってもらいました。その人は今なにをしているかというと、働き方改革担当大臣に直接プレゼンテーションしたり、あるいは働き方改革に関する政府の分科会のボードメンバーになったりしています。おそらくこの領域においては間違いなく最先端。私のチームメンバーがそういったことをやっています。

そんな中で起こった3.11

そして、なにより一気に定着した要因は、これだったんですね。「3.11」。私たちが引っ越したのは2011年2月1日。その年の3月11日にあの大震災がありました。もちろん、我々のオフィスにも帰宅困難者がすごく出て、大変な思いをしたんですね。

その時、全社宛のメールが来ました。3月13日に、当時は日本マイクロソフトの社長だった、今はパナソニックにいる樋口(泰行)さんという人が、日曜日の19時46分に出したメールです。

日曜日の19時46分にメールを見られるようにしていることが大前提にあるんですけども、これを全員が見られる状態になっていました。スマートフォンで見ることができる。明日以降の勤務・安否確認など、つまりいつでもメールが見られるようになっていないといけない。ここに「在宅勤務を推奨します」「在宅勤務に切り替えてください」とありました。

それで月曜日から金曜日までは在宅勤務になりました。85パーセントの人間は出社せずに、家もしくは避難先から仕事をする。そういったことをしました。やり方については、そのメールには一切書いてありませんでした。

「こんな設定をしなさい」「こういうレポートをしなさい」とは一切書いてません。「本能的にわかるはずである」という前提で、この指示は出されました。もちろん、少し混乱したというか、戸惑った人間もいなくはなかったです。

ですが、もう2日目あたりから完全にワークしました。「あっ、俺らできるじゃん」と気付いたんですね。

震災時に気づいた「クラウドで仕事ができるぞ」

環境としては、我々はすでにクラウド化がかなり進んでいて、どこからでもインターネットに接続さえすれば、社内の環境に繋がることができました。ワンクリックでセキュアなネットワークを張って基幹業務にアクセスすることができる環境になっていたんです。ですので、その環境が与えられていることに気付いたんですね。

つまり、会社にいることが仕事の中のオプションの1つでしかないとわかったんです。やらなきゃいけないことは会社に行くことではなくて「さっと決めて、すぐにやる」。これだけだったんですね。決めるためにはオフィスに行く選択をとる必要がないということに、我々はようやく気付いたんです。

一般的にはテレワークとは、例えば自分が患者の立場になったり介護する立場になったりしたときに仕事を切り出して自宅で行う状態だったんですが、会社の仕組みがこのままだとワークしないんです。

会議のために紙を配るとなっていると、在宅勤務の人には紙が配られません。だから、会議に参加できないんですね。マイクロソフトの場合は、いつでも、どこでも、誰とでも、とにかく全員が仕事をできる状態に考え方を変えました。

繰り返しになりますが、出勤することは仕事のうちではない。やらなければいけないのは、「あなたはこれを持って仕事をしたとみなす」というようなジョブディスクリプションを徹底的に満たすことなんですね。ですから、先ほどからしつこく言っているように、「全世界統一をされていますよ」「これをもって評価しますよ」が効いてくるんです。

それが明確になっていて、それさえちゃんと果たすことができれば、出勤に時間を使わないでもいいんだとなるわけですね。それがなかなか腹落ちしなかった。でも、たまたま「3.11」の後で、自分たちがそのITツールを使えると気づき、その後、そして制度も完全に浸透していきました。

本社で行われていたミッドイヤーレビューというマイクロソフトの中で一番重要な経営会議があるんですけども。アメリカの同じ会場に役員が全員座って年に1回、5時間の会議が行われます。本社と子会社の役員が出てきます。めちゃくちゃコストの掛かる大変な会議だったんですが、全部止めました。すべてSkype経由で行なうことになったんですね。

コミュニケーションをツールも合わせて使う状態にすると、一般的な企業だと月当たり335人ぐらいしか会いませんが、マイクロソフトは500人近く会います。そして対話成立に至る時間は、普通のお客さんだと90時間ぐらいかかります。

しかし、マイクロソフトだとその半分ぐらい。そしてイメージをしてなにかを決めることができる。非常に特徴的なのが、普通の企業だと86パーセントが直接対話して面談しますが、マイクロソフトは半分。これは2年前の数字なので、今はもっと減っていると思います。半分以下になっていると思います。それくらい、我々はオンラインで会議しているんですね。

残業代よりワークライフバランスは跳ね上がった

(スライドを指して)今のオフィスはこんな感じです。そして、いろいろなルートがあるんですね。ここに複数の歩くルートが存在しているのがおわかりいただけるかなと思います。ちなみに、これはカフェテリアなんですけど、17時半以降になると1杯やることもできます。社外に行かなくても社員同士のコミュニケーションがとれるようなスペースが提供されているわけですね。

そうすることで、単に働くということだけでなく、人間関係も構築することができます。もちろん、最新のテクノロジーはそこら中で使い倒されます。その体験を我々はお客さんに伝えようと、セールスやマーケティングはかなり徹底して意識しています。伝えたくなるような、いい結果が出ているんです。ペーパーレスや女性の離職率の低下、それからレポート費の削減。

しかし、残業代は減っていないんです。5パーセントしか減っていません。ですが、ワークライフバランスは跳ね上がっているんです。なぜか。時間割を自由に変えられるようになったんですね。

それまでは、例えば小さいお子さんがいたりする人たちは「ごめんね。これを明日までにお願いね。悪いけどこれ代わりにやっておいてくれる?」と謝って帰っていた。今は違います。「いったん帰って、子どもを迎えにいって、家に着いたら18時ごろ、このミーティングに入るね」というような時間割の組み換えができるんですね。そうすると「ああ、わかりました。じゃあ僕も家に帰って18時からオンラインで入りますね」。そんな感じです。

重要なのは、決めることです。そしてもっと重要なのは、実行することです。そのためには、わざわざオフィスの中でやる必要はないということなんですね。

ちなみに、私は一切のレポートをチームメンバーに書かせていません。すべてダッシュボードに表示されるようになっています。

私たちのテクノロジーセンターのセッションを予約すると、その段階ですべてのデータが自動的にここに入ります。自動化をしたんですね。そうするとレポートというような、過去をほじくり返すことに時間は使わないんですよ。私はそのダッシュボードだけを見ます。ドリルダウンしていくと、さまざまなデータを見ることもできます。

例えば、私のチームのメンバーがどれぐらい働いているかをぱぱっと見ることができる。もっと細かい体験に関する話がほしいときにはSNSであるMicrosoft Yammer (ヤマー) を使えばいい。

自動化による業務イノベーションという意味だと、経理の仕事をどんどん機械学習で自動化しています。例えば、売上入力は、今は機械学習のほうが精度が高い。精度が高くなるように経理の連中はデータを入れてないといけない。それはパッと見、自分の首を締めているように見えるかもしれませんが、こうすることで彼らはAIにできない仕事に集中できるようになるんですね。

サボる人より「イケてる人」に働き方を合わせる

既に売上予測はあるので、売上をもっと上げるために「予測を上回るためにはなにをすればいいのか」というイノベーションを起こすための時間をより多くとれるようになってきたんですね。これが自動化です。それを「仕事が奪われる」と言っちゃうと、残念ながらイノベーションは起きません。

機械を使えるものはガンガンと機械を使ってしまって、とにかくいつでもどこでも仕事ができる状態にする。ある意味、機械におんぶに抱っこ。そして働き方のイノベーションを興していくことが大事。

働き方改革の話をするとき、必ず管理職が思うこと。何を思うのか。「そんなにね、いつでもどこでも仕事ができるようにしたら社員が仕事をサボるのではないですか?」。心配しないでください。私の答えは1つです。「そういう社員はもうサボってます」。サボっているんですよ、そういう人たちは。よーく見てみてください。きっとネットサーフィンしてます。スマホの中でなにか買い物してます。結局、サボり方が変わるだけなんですよ。

サボる人たちに合わせるのではなくて、イケてる人たちに合わせて「生産性を阻害するルール」を取り払ってください。そして経営者は「腹をくくってください」。そういう言い方をします。そのために最も大事なことは社員を子ども扱いしないことなんですね。

これは、実はアメリカのMBAで日本企業の特徴として教えることです。

日本企業は終身雇用が前提でしたので、会社の中で人を育てることに徹底的にコストをかけます。欧米の場合は人材の流動性が高いので、最初からそういったことは考えないんです。「スペシャリティを持った人を雇う」という考え方をします。昔は日本企業の考え方がワークしていたのです。

ただ、グローバルの波がこれだけ来ている今だと、日本企業の考え方が立ち行かなくなっているんですね。人材は流動していくものだという前提で考えるフェーズにきている。

テクノロジーとは、ビジネスを思いっきり推進するもの

それからもう1つ。あれもこれも手取り足取りで教えるような、子ども扱いをすると、残念ながら子どものようにふるまうんですね。社員はどんどん子どもになってしまいます。

ではなにをすればいいのか、「Accountability」、責任を明確にすることなんです。それは先ほど言ったジョブディスクリプションです。「あなたはなにをもって成果を出した」と評価するのか。これを明文化して合意を得ることなんです。

そして、そこに例外を認めない。いちいち例外を認めると無尽蔵に例外を認める羽目になります。すべてがリスクとコストとなって跳ね返ってきます。ですから「No Exception」を徹底する。

「いやいや、マイクロソフトだからできるんでしょ? ITリテラシーが高いからできるんでしょ?」。これは誤解なんですね。違うんですよ。

マイクロソフトは普通の会社です。もしかしたら、この中にトヨタさんの社員がいらっしゃるかもしれません。トヨタさんの社員の中に免許を持っていない人だっているはずなんですよ。アサヒビールさんの中にお酒を飲めない人だっているんですよ。私、知っていますからね。一滴も飲めない社員さんを。

マイクロソフトの中の3割はリテラシーが高い。7割は低いという前提です。だって社員に求められている期待値はITリテラシーとは違うんですもん。

経理や総務、人事はITリテラシーが高いことを求められているわけじゃないです。ITリテラシーの高さに依存するような企業はだんだんと立ち行かなくなります。ですから、リテラシーの低い人に合わせて、みんながすぐに仕事ができるようにすることが鉄則になります。そのためにテクノロジーがあるんですね。

テクノロジーとは、ビジネスを思いっきり推進するものなんです。AIがこれだけ騒がれると「仕事が奪われる」と心配をする人がいるかもしれませんけども、心配してる暇はないんですね。「テクノロジーによってビジネスを推進していく」と思っていかないと、これからは厳しくなってくる。ましてや日本をマーケットとして見ていると、それ以外の諸外国からマーケットを奪われていくことは目に見えている。

どんどん我々がグローバルに出ていけるように、生産性を阻害されるものをどんどん取り払って、のびのびと働けるように、楽しく働けるように、もっと素敵で新しいワークスタイルが提供できるように考えていくといいんじゃないかなと思います。

ちょうどお時間になったようです。私の40分間は以上とさせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)

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