マイクロソフトが歩んできた“地雷だらけ”の道

澤円氏(以下、澤):澤と申します。よろしくお願いします。40分間を使いまして「働き方改革」を本気で進めるときに必要なことをみなさんにお伝えしたいなと思っています。

タイトルが「『働き方改革』を本気で進めるために必要なこと、教えます。」だと、偉そうに聞こえますけど、なんていうことはない。我々が、散々先に踏んだ地雷の話をするわけですね。ですから、どのように地雷を踏んで道を作ったかというのを共有したいなと思っています。

我々の働き方改革という話をする時に、一応、私の肩書についてもお話ししておきたいと思います。

まず、マイクロソフト テクノロジーセンターのセンター長というものをやっています。これは全世界に50カ所あります。その50カ所に同じようにテクノロジーセンターダイレクターというのがいるんです。そのダイレクターというのは、みんな同じ仕事をするんですね。同じ仕事というか、評価をされるポイントがまったく同じになっています。

全世界でロールモデルが決まっている。そのロールモデルが協調されているというのがポイントとなります。

そして、アメリカの本社のほうのサイバー犯罪から独立した捜査を行なうデジタルクライムユニットがあるんですけども、そちらの出先機関として、全世界7拠点にサイバークライムセンターというものがあります。アメリカに2拠点、ヨーロッパに1拠点。あとは全部アジアにあります。ソウル、北京、シンガポールそして日本。

アジアがホットスポットになっていますので、「その情報の発信機関としてやりなさいよ」と、これはリーガルチームとペアになってやっているんですね。そういったクロスグループでやっているというのも1つのポイントとなっています。

それからもう1つ、データセンターツアーガイドがあります。これは文字通り、ツアーガイドなんですが、ただ社会科見学やはとバスツアーみたいな感じではなくて、セキュリティの重要性を体感いただくためのツアーをやっています。これをデータセンターをつくるために特別に組織されたグループと一緒につくっているんですね。

こうしたクロスグループでやるところに関しては、非常にマイクロソフトは重視をしております。それから、なんといっても大事なことは僕がサラリーマンだということですね。

僕は、よくミュージシャンなんかと間違われるんです。この間、飛行機に乗ったときに、前にCharさんが座っていて、絶対に同じバンドの人間だと思われているんだろうなと思ったんですけど。……そんなこと、どうでもいいですね。

(会場笑)

本業が6割、副業が4割の働き方

会社勤めをしている一方で、琉球大学の客員教授もやっています。私のチームのメンバーは、私を含めて4人、大学で教鞭をとっている人間がいます。

また、株式会社FiNC。これはオンラインのヘルスケアのアプリケーションなんかを提供しているベンチャー企業です。こちらの顧問なんかもやっています。

株式会社ビズリーチ。これはCMでもやっているのでご存知じゃないかなと思います。こちらには創業当時、まだ6人しかいなかった頃から関わっています。今は、協力会社を入れると1,000人ぐらいになっていますが、そういった会社の顧問をやっている。

もう一つ、TECH LAB PAAK。こちらはリクルートさんの社内ベンチャーなんですけども、こちらの顧問もやっています。

要するに、副業は完全にOKになっています。私は、だいたいざっくり言うと会社の仕事は6割、それ以外で4割ぐらいの割合で他のことをやっています。これがOKになっているんですね。

なぜそんなことができるのか、その内容に少し触れていきたいと思います。あとはテクノロジーの話などもしていきたいと思います。

テクノロジーによって仕事が大きく変わる

働き方改革は、テクノロジーが進んでいくことによって大きく変わる側面が最近では強いですが、こういったことは100年ぐらい前にすでに起きていたという話をします。

(スライドを指して)これ、どこだかパっとわかる方いらっしゃいます?

この当時、ここにいたという方はたぶんこの中にはいないと思います。なにしろ1905年の写真ですからね。これはどこかというと、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのあたりですね。

今でも同じような建物が建っているわけですが、見ていただくとわかる通り、ビジネスエコシステムがすべて馬車で作られていました。アメリカ全土で作られる穀物のうちの25パーセントは馬用だったんですって。

それぐらい馬を中心にすべての物流は回っていたということなんですが、当然こういう街には馬に対するビジネスをする人たちがいるわけですね。馬の面倒をみる。馬車のメンテナンスをする。馬車を停める場所を提供する。そういったビジネスが起きていたわけです。

その当時、車はどうだったのか。この20年前、すでに特許の申請をされて開発が進んでいました。自動車は存在していたんです。

ただその当時なんて言われていたかというと「これは悪魔の乗り物」でした。内燃機関があるので、中で燃えている。ボンネットの中で火が燃えているから危ないじゃないかというのがまず1つ。もう1つが既存のビジネスエコシステムを崩す。

今までは馬で生計を立てていたわけだから「車なんかに出てこられたら迷惑」という側面もあったんですね。まさに、新しいテクノロジーが自分たちの仕事を奪うと考えていたんです。

(スライドを指して)これが20年後なんです。20年経ったらこの通り。みんな車になっているわけですね。馬車なんてどこにも走ってない。たったの20年です。私が社会人になってからもう25年以上経っているんですけども、その20年という間に馬車が車に置き換わる。これがテクノロジーによって仕事が大きく変わるということなんですね。

じゃあ、全員失業者になったかというと違うんですね。馬の面倒をみていた人は車のメンテナンスをすればいいし、馬車を停める場所を提供していた人は駐車場をやればいいし、馬車のメンテナンスをしていた人は車の板金工や整備工をやったりすればいい。仕事が変わる。

テクノロジーが変われば働き方が変わるというのは、100年ぐらい前にはもうやっているわけなんですよね。それを今からはITでやればいいわけなんです。

“働き方ファースト”にならない日本の傾向

コンピューターはこういう巨大な機器、みんなで使う端末を使って仕事をしていたわけなんですが、どうしても、これだと物理的な制限がありますね。なにしろちょっと持って歩くには大きすぎるわけなんですよね。そして当時はそのでかいコンピューターを針金で引いてきて端末に繋ぐんですけども、それが非常に高価だったり、専用線でなければいけないという制約を受けていた。

それが今や手のひらの中にある。すべて手のひらの中にテクノロジーが収まる状態になっていて、その端末そのものもすごく賢くなっているし、クラウドというものものすごく賢くなっている状態なんですね。ですので、これを使ってビジネスをやらない判断は、もはやないんじゃないかと思うわけなんですね。

例えばなんですけども、朝起きてテレビ以外のなにかが映る機械のうち、最初に見るのがパソコンだという方はどれぐらいいらっしゃいます? パソコンだという方。

(会場挙手)

あっ、いたいたいた。ありがとうございます。でも絶滅危惧種ですね。

ちなみに私はパソコン派ですから、みなさんの味方です。スマートフォンだという方はどれぐらいいらっしゃいます?

(会場挙手)

ありがとうございます。もうずらっと挙がりますね。

まだスマートフォンって10年経ったか経たないかぐらいですよね。もうなっているわけですよ。もう世の中がそうなっている。モバイルファーストなんですよ。最初にモバイルを使う。

ちなみに、前の日に撮った自撮りの画像しか見ないという方ってどれぐらいいます?

これはいないんですよ。ほとんどの人はソーシャルネットワークのニュースを見たり、天気予報を見たり、インターネット上のリソースを見たりするんですね。だからクラウドを見るという、そういった話なんです。

ライフスタイルの中ではモバイルファースト、クラウドファーストの考え方はすでに浸透しているんですけども、なぜか働き方のところにいっていない。これがおもしろいところなんですよね。とくに、その傾向が強いのが日本だなと思います。

アメリカと日本の「忙しい」は違う

(スライドを指して)これはよく引き合いに出されるグラフなので、覚えている方は多いと思いますが。なにかというと、労働生産性です。19年間ずっとビリです。19年間、G7の中で1度もビリから2番目になったことがないんですね。

順位は不動のビリケツ。労働生産性はGDPと労働人口の割算です。これは実は公式な数字だけで計算しているので、非公式な数字、つまりサービス残業は含まれていないんですね。ですので、実情はおそらくはもっと悪くなっています。

ちなみに、アメリカ人が忙しいという感覚と日本人の忙しいという感覚はずいぶん違います。

日本人の「忙しい」「超忙しい」「俺すげー忙しい」という感覚は、だいたい残業では(仕事が)終わらなくて休日出勤までするような状態ですね。しかし、アメリカ人の忙しいとはどれぐらいかというと、8時間勤務時間があって、7時間35分ぐらい過ぎるともう忙しいと言い始めるんですよ。そういう感覚なんですよ。

「働いてないやん」と思うかもしれないですが、要するに「生産性の高い働き方をしてれば、そんなことはいらないだろ」「ましてやオーバータイムで働くなんてありえない」というのが基本的な考え方なんです。本当はそうじゃない場面もあるかと思いますけど。

別の話になりますが、私のところにバリバリの日本企業から、インターンとして毎年1人ずつ、交代で4年連続で来てもらったんです。

それで僕と一緒にミーティングに出たりしてたんですけども、彼は非常に驚いたんですね。「こんなペースで仕事をしているんですか?」と。

我々は、朝はそんなに早くない。夕方もとっとと切り上げて帰ってしまう。18時、19時以降のミーティングは少なくとも私のところではやっていません。その代わり、間隔をギュッと詰めているわけですね。30分、1時間のミーティングをぎっしり入れて、1時間、3時間をお客さんとのセッションだったりして、あとはとっとと帰るという感じです。

彼はこのような状況を見て「密度が濃いですね」と言いました。そして続いて言ったのが「会議でみなさん発言されるんですね」です。なんとなくその辺から雲行きが怪しくなってきますね。次の一言が僕の度肝を抜きました。

「私は会議でなにかが決まるのを初めて見ました」。

(会場笑)

「はぁ? じゃあ会議でなにするの?」と聞いたら、「その会議に出ている偉い人が喋っているのを一生懸命に聞いてメモをとるのが会議」だと。本当に会議で発言した記憶がないって、僕に言ったんですよ。

非常に日本的で歴史のある企業で、そういったカルチャーがきっちりつくられるような、特殊な事情があったかもしれないですが、これはかなり問題なんですね。

「じゃあ、もし会議中に質問したらどうなるの? 会議中にわからないこともあるでしょう」「怒られます」「なんで?」 「会議の進行を乱したから、そういう扱いになるんです」「じゃあ、わからなかったらどうするの?」「終わった後に年次の一番近い人に聞きます」「それがわからなかったら?」「その先輩が主任に聞きます。係長、課長、部長、最終的には一番偉い人に聞きます。そうすると極めて抽象論な答えが返ってきます」

わからないまま次の会議にいく、そういうサイクルなんですね。それをエコシステムといいます(笑)。

偉い人の話を黙ってきちんと聞きましょう。それが「まじめ」という言葉で表されます。