電子書籍とリアルな本は今後どうなっていくのか

森オウジ氏(以下、森):こんにちは。ずいぶんお待たせしてしまいまして申し訳ありません。今日司会をさせていただきます、森オウジという者です。職業はフリーライターをしておりまして、『STUDIO VOICE(スタジオボイス)』とか『CINRA(シンラ)』とかっていうカルチャー系のインタビュー記事とか。

あとロフトワークさんで今回(2012年)リニューアルします『OpenCU』にWebエキスパートっていうメディアがあるんですけれども、そこでWebのクリエイターさんたちにインタビューしたりとか、そういう活動をしたり。あと単行本の編集とか構成もやっております。

それで今回は、ロフトワークさんのOpenCUで何かできないかなぁというところだったんですが、ずっと前から僕の中ですごく気になっていることがありました。今、本というのは2つの意味があると思うんですけども、従来の本であるリアルな本と、もう一つはバーチャルな本で電子書籍っていうのが出てきてると思うんです。

この電子書籍というのが、ずっと話題になっている状態が続いているというか、もう2年前から「今年こそ電子書籍の時代だ」と言われて、そのままずっと続いてるんですけども。

ですが未だに、ライフスタイルを変えるほどの変化っていうのは感じられないんじゃないか、という違和感が僕はすごくあって、その違和感をテーマに内沼さんと喋ろうよと言ったら、その違和感に皆さんが共感していただいた、とちょっとそういう風に思ってるんです。

今日はそんな事で、リアルの本とバーチャルの本、この2つの間がどういう風にこれから仲良くなっていくのかっていうところで、内沼さんからお話をいただきたいと思います。それではまず、内沼さんからいろいろとお願いいたします。

"本のプロ"内沼氏とは?

内沼晋太郎(以下、内沼):初めまして、内沼と申します。よろしくお願いします。初めましてじゃない方もいるんですよね。僕がどこかで喋ったのを、他で聞いたことある方っていますか? ……そんなに多くないですね。じゃあ良かった。

ちょっと最初、単純な自己紹介をさせていただきますので、一度聞いたことがある方はどこかで見たスライドとかも出てくるかもしれないんですけども……。ブックコーディネーターという仕事をしております、内沼と申します。numabooksという屋号でやっておりますが、基本的には一人、アシスタント一人で、まぁ1.5人ぐらいでやっております。

ブックコーディネーターって自分でつけた肩書きなんですけれども、そういう仕事と、一般的にクリエイティブディレクターと言われるような、広告であるとかWebであるとか、そういうもののクリエイティブのディレクションの仕事も若干しております。

1980年生まれです。一橋大学という大学を出て、ブランド論っていうのを勉強しています。で、展示会の会社に入ったんですけれども、その会社を2ヶ月で辞めまして、往来堂書店ていう千駄木にある本屋さんがあるんですけれども、そこでアルバイトをしながら、book pick orchestraというユニットで2006年の末まで代表をしておりました。この団体は今もあって、川上っていう別の2代目の代表がやっています。

僕はその辺りからnumabooksっていう自分の名前で一人で活動をするようになりまして、現在31歳でございます。ブックコーディネーターという肩書きで仕事をしていると、「なんでそんなわざわざ、横文字の」って……(笑)。こういうのダサいですよね。僕ね、わかってるんですよ?

なんかよく言うじゃないですか。「横文字職業を自分で作りやがって」みたいな。最近そういうのすごいダサいなって僕もわかってるんですけど、もう僕もこれで何年もやってきてるし、説明のしようのないっていうところがあってですね、仕方なく名乗っておりまして。本当は恥ずかしがって「本屋です」って言う時もあるんですけど。なんかこう、「わかってるぞ」という事だけ言っておきたいです。

人と本との出会いをつくる仕事

内沼:人と本との出会いを作る仕事だというふうに言っています。具体的に写真を見ていただくんですけど、元々はこういう仕事から始まりました。

洋服屋さんに本の売り場みたいなものを作ったりですとか。

まぁ雑貨屋さんだったりとか。

旅館のロビーみたいなところに本棚作ったり。ここまではちょっとなんとなくわかると思うんですけど、ここからちょっと変なやつがいっぱい出てくる。

これは古本の文庫本を包んで葉書みたいな形にしてですね、それを中身が見えない状態で売ったりみたいな事であるとか。

書き込みがある古本っていうのは、実は普通、価値が下がるんですけど、ありなんじゃないかっていうことで「書き込みができる本屋」っていうイベントをやったりとかですね。

顔写真と出身地と好きな食べ物だけを手がかりに本を売るっていうのとかですね。

紙袋に入って中身が見えない本との偶然の出会いを楽しむ会員制の本屋。こういうのを、まぁやったりとか。

それを移動式にしたりとか。

野外でもそんなような事をしたりとかですね。

表紙画像の折り鶴で本を売ったりとかですね。

要らなくなった雑誌を椅子にしたりとかですね。

カフェの本棚で背表紙にセリフを印刷した本屋っていうの……。まぁこれ要は、本の中にあるセリフが背表紙に印刷してあって、謎の会話みたいのができあがってるみたいなやつとかですね。

文庫本は写真立てになるなぁと思ったりとか。

美容師に、これは美容師さんに-髪の毛を普段切るわけですけど-本を、まぁ紙を-paperであるところの紙を-切ってもらってですね、で、それで作品を作ってもらって展覧会みたいのをやったりとか。

本を素材に作品を作るアーティストの展覧会と洋雑誌の古本市みたいな事をやったりとかですね。

ここまでの活動は2009年に本に、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』になっています。それ以降の活動がここから先なんですけども。

カフェでケーキセットならぬ「文庫本セット」っていうメニューを出してですね、ケーキのかわりにお皿に載って文庫本が出てきたりとか。

ヴィレッジヴァンガードで、ちょっとさっき見せたような中身の見えないものコーナーみたいなのをやったりとか。

これは香港の空港なんですけども、真っ赤なお店でして、そこに背表紙に国名だけが書いてある本棚みたいなものを作ってみたりとかですね。

ZINE(ジン)を交換するピクニックっていうのを仲間とやったりとか。

みんなで、DJが音楽をかける中で同じ本を読むっていうイベントをやったりとか。

雑誌の、電子書籍とか本屋とかの特集の編集をやったりとかですね。

本についてのWebサイトで編集長みたいのをしたり、インタビュアーみたいな事をしたりとか。

これは、さっきの「文庫本セット」っていうやつをもうちょっと膨らませて、作中に出てくる食べ物とか飲み物を再現して「文庫本セットスペシャル」っていうのをやったりとかですね。

これは最近やったやつですけど、レコード屋さんに音楽の本棚を作ったり。これ今はもう4店舗あります。

文庫本で作った、顔の形の無人本屋みたいのをやったりとかですね。

それを猫の形にしたりとかですね。

で、これは最近、読書用品のブランドっていうのをやってまして。これ、「ビブリオフィリック」っていうブランドなんですけども、新宿にお店をやっていたりとかします。

ということで、ブックコーディネーターっていう肩書きでやってんのは、だいたいこういう事なんですね。まあ、これを「本屋です」って言ってもなかなか説明できないので……。これらの事をやっていますと。

で、こういった経験を生かして、本屋さんとか、取り次ぎとか、電子書籍とか、そういうような事のコンサルティングとか顧問みたいな事もちょっとクライアントワークにさせていただきつつ、クリエイティブディレクターとして、本とは直接関係ないような仕事であったり、そういうものの企画とか編集とかディレクションみたいな仕事をしています。という、ざっくりした自己紹介でございます。

「人と本の間」がリアルでも電子書籍でも、どっちでもいい

内沼:で、こういうところが取引先です。

ということで、どういうことをやっているかというと、「人と本との出会いを作る仕事」って最初にお話しさせてもらったんですけど。なので、人と本との間にあるものっていうことをいつも考えているわけなんですね。

人がいて、本がそこにあって、売り場を作る、っていうのも、もちろん間にあることだし、紙袋で包んで中身を見えなくする、っていうのも間にあることだし。なんかその、人がいて本にどういう風に出会うかっていうところなので、その間の部分をいつも考えていると。

直接本を売っているわけではないんですけど、その間を考える仕事っていう風に思っています。ただ今日は、電子書籍の話をしてくれ、という事だったので、電子書籍のこともいつも考えていると。

これも僕はさっき森さんが言ったような、いわゆる紙の本と電子書籍っていうのは、2つわかれている、みたいな風に実はあんまり思っていなくて。どちらかというと「電子書籍がくるから紙の本がなくなるんじゃないか」みたいな事を言う人がすごく増えているわけで、みんなそれが怖いわけなんですけど。

せっかくなら、出版社が潰れようと、本屋さんが潰れようと……。いや本当はダメなんですけど、少しは潰れてもしょうがないとしてもですね、本というもの全体の未来としては良い方に向かう、という事にしたいなあというふうに思ってます。

電子書籍によって、どうやって本を読む人が逆に増えたりするんだろうかとか、あるいは、もはや「本を読む」っていう事以上のことになっていったりするんじゃないか、とか。そういうような事を普段考えています。

電子書籍専用の端末って必要?

ちょっとここから電子書籍の話しますね。たぶん今日ここにいらっしゃってる方は、OpenCUさんてわりかしデジタルに強い感じなので、こんなこと釈迦に説法かもしれないんですけど、一応お話しをさせてください。

電子書籍っていうと、普通はここのこと(赤線内)を言う人が出版業界では多いんです。これ、最初は出版業界向けに作った資料なんですけど、出版業界には専用のストアがあって、その前には出版社さんがいるわけです。出版社さんがあって、それを専用の電子書籍のストアで売って、で、その専用のデータを専用のアプリケーションで読みましょうと。

まぁKindleとか、ソニー・リーダーとかが専用端末ですね。ただ専用端末を誰もが買うわけではないので、汎用性の高い端末に向けた専用のアプリケーション、例えばKindle for iPhoneみたいな。そういうアプリもあるので、iPhoneとかiPadみたいなものでも読めるよ、というような事をやっているわけです、出版社の人たちっていうのは。

ただ、今この「専用」っていう所を赤くしたんですけれども、専用の端末とか専用のアプリケーションって「買うのかそもそも?」とか、「わざわざダウンロードするのめんどくさいんじゃないの?」とか、そういうような事があるわけですよね。

それをめんどくさいと思う人も、いっぱいいるだろうと。そもそも環境によっていろいろ違うっていうのはどうなんだっていうような考え方の元に、こんな事をやってる人達もいます。専用のアプリケーションとか要りません。Webブラウザ型の専用ストアっていうのもいろいろあります。つまり、ブラウザで見ましょうと。

Internet ExplorerとかFirefoxとかGoogle Chromeとか。そういうので電子書籍を読みましょうっていうのをやっているのが、例えばボイジャーさんであったりとか、美術出版ネットワークスさんがやっている「ブックピック」っていうやつとか。

これ、僕の「ブックピックオーケストラ」っていうのとすごい名前似てるんですけど(笑)。この間会ったんで言ったんですね。そしたら、後から気がついたみたいで「名前を変えよう」っていうような会議になったらしいんですけど「まあいっか、そのままいけ」ってなったらしいです。

ブックピックさんとか、太田出版さんがされている「ぽこぽこ」ってやつとか。Webブラウザで見られるタイプのやつ、いっぱいあるわけですね。それは汎用性の高い端末何でも、タブレット端末、スマートフォン、iPod、パソコン、何でも見られると。

コピペできない電子書籍って、超かっこ悪い!

ただ、やっぱりここまでの話っていうのは、だいたい出版社の都合っていうのがあるわけですね。著作権保護のためのDRMをかけましょうとか。あともう一個、一番みんなが電子書籍にいかない理由は、そのサービスがいつまで続くかわからないっていう部分を無意識に感じるからだと思うんですよね。

で、こういうのがあってですね、これ講談社の「電書info」っていうサイトにあるページなんですけども、ある本をクリックするとこれが出てくるんですよ。

これは講談社の電子書籍が全部書いてあるサイトなんですけど、例えばこの『わかりやすく伝える技術』って本をクリックするじゃないですか。超わかりにくいわけですね(笑)。

で、それをクリックすると「配信開始日は各書店ごとに異なります」と、「また書店によっては取り扱いのない作品もございます。あらかじめご了承ください」って書いてあって、あるかもないかもわからないのに、しかもこのつらっと並んでる「ebookjapan」とか、なんとかbooks、ガラパゴスなんとかかんとかって、これ全部違うプラットホームなわけです。

それぞれに対して、講談社の電子書籍が網羅されているっていう状態で。この18個ある電子書籍のストアが、10年後いくつあるか。18個あると思う人は絶対いないと思うんです。っていうのがあって、これユーザー目線で言うと、要は「そんなの不安だよね」と思ってるんじゃないかなと。

じゃあユーザーにとって、今のところ安心なやつっていうのはどういうのかっていうと、この(スライドの)下のタイプのもので、ここで丸ついてるストアっていうのは、例えばpaperboyさんがやってる「パブ-」とか、あとは例えば「ガムロード」でPDFとかEPUBをアップして売るとか。

そういうのも含めてストアって書いてますけど、要はデータです。汎用性の高い、DRMのかかっていないPDFとかEPUBのデータをただ買って、それをただ読むと。これだったら、そのストアがなくなるとか全然関係ないので、安心じゃないですか。

あとは、普通これを電子書籍って呼ばない人もいっぱいいますけども、いわゆる紙の蔵書を断裁してスキャンして、で、そのスキャンしたデータっていうのも当然生のPDFなので、それを保存しておくと。これはつまりどういうことかっていうと、みんな今のところ、様子見なんですよね。もしくは、仕方なく。

電子書籍っていうのを楽しみたいけど、なんかスライドの上のやつとか不安だし。だからこういう形でやろう、というようなことなんだと思うんです。

ちょっと、ざーっとしゃべりますね。なので、電子書籍に対しての僕の基本的な立場、スタンスとしては「コピペできない文字はかっこ悪い」っていうのが1つです。

デジタルなのにコピペできないって、Webサイトでいうと右クリックしても開かないやつとか、長いテキストなのに全部画像とか。そういうのってWebサイトでは、もはやかっこ悪いじゃないですか。

それと同じで、今の電子書籍ってコピペできないから超かっこ悪いな、っていうのが単純な意見です。これはもちろん出版社がやってるんですけど、じゃあ何故コピペできないようにしてるかっていうと、買った電子書籍を全部コピペして自分のブログに貼るやつとかいるんじゃないか、とか、つまりそういうことなわけじゃないですか。

でも僕ね、これ全部コピペできたからっていって、そんな奴いるかな? いても、それってみんな、そいつがやってることは悪いことだってわかるし、そんな人たちがいても、その存在を無視して余りあるほど、こっちの方が売り上げあがるんじゃないかと僕は思っていて。

いや、いるかもしんないですよ。もちろんブログとかって今はどんどん機械でがんがんやってたりして、誰がやってるかもわからないブログをいっぱい立ち上げたりもできるから、そういう事もあるかもしれないけど。

それでもじゃあ、音楽だってそうなわけじゃないですか。もうはっきり言って、探せばどんな音楽でも……どんな音楽でもとは言わないけど、中国のサーバーとかにあったりするわけですよ、データが。

でも音楽も結局そういう風に流通しているわけで、文字もコピペできなかったらかっこ悪いんじゃないだろうか、というのが1つ目。

2つ目は、今日は未来の話なので、未来は出版社の都合じゃなくて読者の都合の先にあるんだと思うんですよね。こういうコピペの話もそうなんですけど、さっきのスライドの上と下の話ですね。上は出版社の都合なんですけども、今のところ読者の都合で暫定的に下みたいな形になっているという風に、僕は基本的に考えています。