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内沼晋太郎×OpenCU これからの“本の周辺”を考える、ブックコーディネーターの仕事(全5記事)

「紙の質感」とか言いだす人が最近増えた--読書用品ブランドBIBLIOPHILICが“モノとしての本”に注目するワケ

本にまつわる様々なプロジェクトを数多く手がける内沼晋太郎氏が、これからの「本の周辺」を語る。そのプロジュエクとのひとつ「本のある生活を楽しむ」をコンセプトにした読書用品ブランドBIBLIOPHILIC。良質な読書用品を提供し、「形から入る」という新たな読書への入口を提案するにいたったきっかけを語る。

電子書籍の登場による変化

内沼晋太郎氏(以下、内沼):僕がすごい気になっているのは、本っていうのは長年「売れない」って言われてきたわけですよね。ここ10年くらい。だから、みんな本に興味なかったはずなんですよ、わりと。普通の人も。

なんですけど、なんか電子書籍っていう言葉がついここ2、3年で出るようになってから途端に「紙の質感とか、匂いとか好きなんだよね」とか、「紙をめくる動作の身体性が云々」とか、そういうような事を「ホントにお前、本好きだっけ?」みたいな人まで言うようになってきたな、って思いませんか? 

みなさん。思いますよねえ(笑)。なんか僕すごい不思議でね、「やっぱ紙の方がいいですよね、内沼さん」みたいな事をおじさんとかが言ってくるわけですよ。

「そっかぁ」みたいな(笑)。「その人、そんなに本好きなのかな?」みたいな事がいっぱいあって。でも、やっぱなくなるって言われると嫌なんだろうな、と。やっぱそれは、自分が読んでなくても本っていうものにこだわっている。

としたら、その人が読むようになる可能性はあるわけなんですよ。それは、なんかきっかけとか、それはひょっとしたら電子書籍かもしれない。何かわかんない。

そう、逆説的に電子書籍かもしれないけども、まぁとにかく、売れなかったはずなのに興味ある人がこんなにいるっていうのは、おかしいな。つまり、本はそんなに売れないって言われてたのに、電子書籍の特集号とかだとバカ売れする、みたいなね。なんでだろうなぁ、って思うわけです。

居酒屋で酒を飲んでいるのも本かもしれない

内沼:で、もう1個。これ、定義がぼやけているからこそ、さっきみたいにぼんやりしているからこそ、まぁ再定義っていうのは別にひとつの定義を作る必要は全然ないんですけど、その人なりに「じゃあ、こういう風に僕は本を定義して、そこでこういうビジネスしようかな」とか「こういうプロジェクトを始めようかな」っていうのが、できるタイミングだろうな、と。

今こうやって、もうどんどん意味がわかんなくなっている、「本ってなんだろう」ってことがわかんなくなっている今だからこそチャンスがある、って考えた方が楽しいんじゃないだろうか、という風に思っているわけですね。っていうことをしゃべったんですよ。今の話をスクーでやったんですけど。

森オウジ氏(以下、森):さっきの、手品みたいな本の話ですけど、

内沼:はい。

:あぁいう発想の元で、内沼さんの今まで作られてきたものっていうのは全て生まれてるんだな、っていうのはすごい納得がいきます。

内沼:ありがとうございます。そうなんですよ、私、なんかそんなような感じでやってると思って。なので、まぁ、「本」の定義を拡張して考えるっていうのは今の話なんですよ。本っていうとつい紙の本とか電子書籍って言われている、とりあえずその2個っていうふうに今のところなってる感じがするんですけど、いや、居酒屋で酒を飲んでるのも本かもしれないね、とか。

トークイベントをやるのも本屋の仕事

内沼:で、ちょっと話変わるんですけど、僕今度本屋を始めるんですね。下北沢に本屋をオープンするんですけども、そこでは本屋なんですけど実は毎晩トークイベントをやるんですね。

まだオープンにしていないんですけど、まぁそのうち、すぐ公開されるんで、別にどっかに書いてもらってもいいんですが。毎晩トークイベントをやる予定で、その「毎晩トークイベントをやる」っていうのも、僕は本だと思ってやってるんですね。それは本屋の仕事なんです、つまり。

だって、このトークイベントだって、タイトルがあって、誰と誰がしゃべるかを決めて、この時間を取って、編集をされているわけじゃないですか、つまり。これ、雑誌の企画と全然変わらないわけですよね。立て方としては。

まさにフリーライターの人が企画をして、こういうような形になっている、っていうことも含めて、全然本との違いが僕はわからなくて。だから、毎晩トークイベントをやるのも、本屋の売るもののひとつだ、っていう風に思ってます。

っていうことは、例えば本の定義を拡張して考えた時に「本屋」っていうのはなんだろうと考えると、僕がやる本屋は、毎晩トークイベントをやるのが本屋だ、と。いや、もちろん紙の本も売るんですけど、毎晩トークイベントをやるのも本屋の仕事だなぁ、って。これからの町の本屋ってそうあるべきだなぁ、っていう風に思っていて。それで、そういうことになった、と。例えばそういうことだなぁ、と思っております。

面白いデータだから買う

:今すごく「本」の意識っていうのは広がっていったんですけども、その中で内沼さんがイメージしている電子書籍のあり方というか。じゃあ、そもそも「電子書籍」っていうのはどういうものなんですか、内沼さんの中で。

内沼:いや、うーん……。コピペできないと本当は嫌だ、っていうモノですね(笑)。

:はいはい。しかも、僕たちが電子書籍だって思っているのって、PDFに綴じられているものっていうのが電子書籍っていう風にやっぱり呼んでいるじゃないですか。

内沼:うんうん。

:でもなんか、それ以外にも、さっき、Webサイトも本だし、っていうような。

内沼:うんうん。

:どこまでが電子書籍なんですかね? 

内沼:いや、だから、それを定義する必要とか全然ないと思っている。

:ああ、なるほどね。

内沼:だって、別に電子書籍だから買うわけじゃないじゃないですか。面白いデータだから買うんであって、それはタダであろうが有料であろうが、PDFであろうが、EPUBであろうが、HTMLで書かれたWeb上にあるものであろうが、みんな、おもしろければ読むし、ひょっとしたらお金も出すわけですよね。

だから、あんまりそこは「ここからここまでが電子書籍」とかって思ってなくて、まぁ、言うならもうね、デジタルだったら全部電子書籍なんじゃないかな、って。つまり、このUstreamで流れてるこれだって電子書籍なんじゃないかなっていう風に思っています。

電子書籍市場の可能性

:電子書籍っていうのが話題になる前に、Web上で何でもフリーになっていくっていうのが一時話題になったじゃないですか。

内沼:はい。

:それで、ようやくひとつの形になってビジネスチャンスが生まれる、っていう面でも電子書籍っていうのはすごい期待された時期っていうのがあったじゃないですか。

内沼:うんうん。

:で、その後で、例えば最近だと官民ファンドの産業革新機構が、業界団体の出版デジタル機構に150億円出資して、200億円の電子書籍市場を作る、とか。

インプレスの調査によると、平成27年度には2000億円程度に成長する、とか言われてるんですけれども、これってなんか出版全体がだいたい今8000億円くらいの市場ですよね。それに比べたら、4分の1程度になるのでかなり大きいと思うんですけれども。じゃあ、ビジネスとしての電子書籍っていうのはどういう風に捉えてらっしゃいますか。

内沼:まぁ、そこで言っている電子書籍、今言ってる電子書籍っていうのは狭義の電子書籍だと思っていて。

:あぁ、なるほどなるほど

内沼1番最初にお見せした図でいうところの真ん中の点線から上のやつが2000億円になりますよ、っていう、ただのそういう予想の話だと思っていて。

でも、そのことはあんまり読者と関係ないかなぁ、というか、つまり、コンテンツ市場の大きさっていうのは、僕は興味あるわけですよ。それは、アニメとか漫画とかまで含めてというか。

でも、コンテンツ市場と言って今計算されているものだって曖昧だなぁ、と思うわけです。さっき言った意味で言うと、僕居酒屋で友達としゃべってるのもコンテンツだと思ってるので、そうすると、その居酒屋の3000円ずつの会計のうちいくらがコンテンツ市場かって言われると、まぁ誰もわからないわけじゃないですか。

:(笑)。

内沼:わかんないわけですよ。

ビジネスの可能性はどこにでもある

内沼:だから、コンテンツ全体がどうなっていくかっていうことには興味あるんですけど、それが2000億円なのか、いや500億円にしかなりませんでした、っていうことはあんまり関係ないと思っていて。

僕にはというか、結局それって出版社のビジネスが2000億円になるっていう話だと思うんですよ。出版社から発信されたコンテンツに関するビジネスの大きさ。

だけど、例えば今言った出版物の売り上げとして出されているデータのものも、例えばそこにKAI-YOUの武田くん(武田俊氏)っていうのが来てるんですけど、KAI-YOUの売り上げは入ってないんですよ。それは、インディペンデントな雑誌だからですよ。

だから、もともと「本」って呼ばれてきたもののその最初の数字だって曖昧で、もっと僕は本の売り上げって、多分さっきのパンフレットとかも本だとしたら、それも売り上げになってるし、そもそも雑誌のメインのビジネスのお金って広告費だったりするわけで。

なので……そうですね、ビジネスとして拡大していく可能性は、どこにだってあると思うんですよ。さっきお見せしたようなもののどこにだってあると思っていて、それは別にぼんやりしているから、つまり、トークショーだからお金にならないってことじゃないわけじゃないですか。

むしろ、トークショーの方がお金になったりする。でもこれ、電子書籍っていうところにカウントされない。っていう意味で言うと、やっぱりその狭い意味で言っている電子書籍っていうのは、僕が出版社さんのコンサルティングをするとしたらそれにはすごく関係あるけど本の未来を考えよう、っていうことの中ではあんまり関係ないかな、という風に思っています。

「モノとしての本」を楽しむ

内沼:次いきましょうか。

内沼:これですね。「中身=データ」としての本と、「モノ=プロダクト」としての本とを分けて考える、と。もうちょっと大前提のお話しとして、電子書籍って中身なんですよね。

:そうですよね。

内沼:うん。で、ちょっと話は戻りますけど、いわゆる狭義の本っていうのはやっぱり紙に綴じられて、僕らが愛してきた本っていうのはあるわけなんですけど、電子書籍っていって流通させようとしているものは、中身だけなのですよね。「モノ」じゃないわけですよね、当然。データなわけです。

だけど、要はさっきの話ですよ。紙の触り心地がとか、匂いがとか、質感がとか、めくるのがみたいな事を、本好きな人は言うし、僕だってさっき茶化して言いましたけど、僕だって当然それを愛しているわけですよ。紙の匂いを。

なんですけど、まぁそこは、これから別になろうとしてるんだろうなぁ、ということを自覚しないといけないと思ってるわけです。で、例えばこの「本」の中身性とモノ性っていうのは、これからどんどん離れていくと思っていて、要は中身だけも流通するようになるわけだから、モノになるものはもっとより「モノ」である必要がある、と。

まぁこれも、みんな電子書籍とか本の未来を考えてる人は言うんですけど、つまり、本ってもっとこう嗜好品みたいになるんじゃないの? みたいな。贅沢品になるんじゃないの? みたいな事、みんな言うじゃないですか。

僕そんなに極端に贅沢品にはならないと思うんですけど。でも、そういう側面は絶対あると思っていて。で、僕はビブリオフィリックっていう読書用品のブランドを、さっきちょっとお見せしましたけど、ディスクユニオンさんっていう会社と一緒にやってるんですね。

それはどういう考え方でやっているかっていうと、まさにきっと未来、「モノ」としての本、っていう風に本っていうのを愛する人たちの趣味。そういう趣味。

「モノとしての本」っていうのが、もうちょっと一般的な趣味になるだろうなぁっていう想像をしていて、こういう時代が来ることによって、その人たちのための素敵な道具を作るブランドをやろう、という発想なんですよ。

「形から入る」を本の世界にも取り入れたい

内沼:アウトドアブランドをイメージしているんです。この話も他のところでもしてるんですけど。パタゴニアとか、グレゴリーとか、そういうアウトドアブランドって、いわゆるアウトドアユースの人、山を登る人とか向けに作ってるじゃないですか。

で、そういうジャンルには「形から入る」っていう言葉があるんですよね。ま、釣り道具とか、何でもそうなんですけど、アウトドアの趣味のものには「形から入る」っていう言葉があって、それはつまり、先に良い道具を揃えたくなるわけですよ。

良い道具を揃えて、そこからやりたいっていう気持ちにさせるぐらい魅力的な道具たちがあるわけじゃないですか。その魅力的な道具を作ってる人たちは別に、一般の人たちが形から入るために作ってるわけじゃないわけですね。

本格的に山を登る人とか、むちゃくちゃ釣りが好きな人向けに作っていて、だから機能美みたいなのがあって。で、結果的にそれで良いものができた結果、その良いものっていうのを入門者の人も欲しくなる。

っていう風になっていると思っていて、だから「山ガール」とか「森ガール」……「森ガール」はちょっと違うな。「山ガール」っていうムーブメントがちょっとあったと思うんですけど、パタゴニアとかを着るわけですよ。

街でパタゴニアを着るわけですよ。全然街で着なくてもいいハイテクな素材の、山で寝ても大丈夫みたいな素材で街を歩くじゃないですか。

その感じと同じぐらい、例えば、本とか普段読まないんだけど、ビブリオフィリックの道具かっこいいから買っちゃった。その道具使いたいから、本でも読もうかな、みたいなふうになってくるといいなと思っていて。そういうブランドにしましょう、っていうことで始めているところがあってですね。それはこの「モノ」としての本っていうところにフォーカスしていくことで生まれた感じなんですよね。

「読書用品」の店をつくる

:ビブリオフィリックに行かれたことがある方? 

(挙手の仕草)

あ、やっぱりいらっしゃいます。結構いますね。

内沼:ありがとうございます。

:本棚とか、すごいかっこいいですよ。どういうかっこよさか、ちょっと伝えられないんですけど(笑)。

内沼:(笑)。ええとね、出ますよ。出ます。

こういう店ですね。

こういう感じです。

:本が、やっぱりたくさん置いてあるんですね。

内沼:そうですね。あのー、これは、ごめんなさい、実は正式名称はBIBLIOPHILIC & bookunion 新宿なんです。で、ブックユニオンっていう、ディスクユニオンの本屋さんの業態と、それとこのビブリオフィリックっていう読書用品のお店の複合店みたいな位置づけなんです。

ちょっと宣伝っていうか、まだどうなるかわかんないんですけど、さっきちょっと遊んでいたこれがですね、(自身の隣に置いてあった道具をスタンドから外し、手に取る)ビブリオフィリック。

電子書籍の端末も、それはそれでモノとして愛すべきものだと思っていて、だから電子書籍の端末周りの道具とかも作るんですけど、これは今試作品で、アクリルのiPad立てなんですけど、これはあのマイクスタンドにはめる用にできてるんですよ。

だからこれ、例えばミュージシャンとか、こういう風にプレゼンする人とか。で、マイクスタンドだけじゃなくて、こう、こういうゴムとかつけて机の上にも置けるんですけど。

:便利ですね。

内沼:ちょっとこれ、新しいかなぁ、と思って今作ろうとしている試作品です。

:内沼さんがプロデュースしてるんですか? 

内沼:いや、これは……、でも結局ビブリオフィリックのブランドで出ることにきっとなるので……。これのアイデアを考えた人は、実はこのアクリル屋さんなんですけど。でも、ビブリオフィリックで出しましょうか、って言って今試作を重ねていただいているところですね。

オリジナルの商品の開発とかいろいろやっていて、これは電子書籍と言っても、例えば譜面台ってあるじゃないですか。楽譜だって本なんですよね、もともと。

それの電子版という風に考えたりしてもいいのかな、と。まぁ、色んな使い道があると思うんですよね。ミュージシャンの人はiPadコントローラーにしていろいろやる人とか、DJに使う人とか、楽譜見る人とか、いろいろいると思うんで。

マイクスタンドにはまるって、実はすごい、なんかこう、未知の体験なんですよ。この自由な場所に固定できるっていうのは、結構使い道があるなぁ、と思って。

もちろんiPadを掛けとくための道具っていっぱい出てるから、いろいろあるとは思うけど、マイクスタンドにはまるっていうのは今までなかったと思うので、ちょっといいなぁ、と思ってます。

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