2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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内沼晋太郎氏(以下、内沼):本とインターネットとの接続について考える、っていうことなんですけども、僕は電子書籍っていう風に一般的に言われているものの最も本質的なところはここだと思ってるんですよ。
だからコピペできないのがかっこ悪いと思ってるんですけど。つまり、電子書籍っていうのは、言い換えると「本がインターネットに繋がる」っていうことだと思うんですね。
というか、そうじゃない電子書籍ってあんまり意味ないなぁ、と思っていて。例えばどういうことかって言うと、こんな事例はいろんなところで普通に言われることですけど、例えば、旅行ガイドみたいな本は電子書籍に向いてるね、と。
なんでかっていうと、それを持って歩いたら、GPSで今自分がどこにいるかわかって、その旅行ガイドブック見てて「ここに行きたいなぁ」と思って住所クリックしたらクルってなってそこの地図が出てきて、自分が今いる所からどこに行けばいいかわかるから、単純に旅行ガイドみたいな本は紙よりも電子の方が向いてるよねえ、と。
例えばこれって、「旅行ガイドブック」っていう風に今まで紙で出ていたこれがインターネットに繋がった、ってことだと思うんですよね。旅行ガイドっていう本に書かれていたコンテンツがインターネットと接続しました、ということなんだと思うんです。
さっきの電話帳の話とかもそうなんですけど、電子書籍になる1番のメリットっていうのは、多分、いつでもどこでもダウンロードできるとか、持ち運びが簡単とか、場所を取らないとか、そんなことじゃなくてインターネットとつながるってことだと思うんですよ。
森オウジ氏(以下、森):なるほど。
内沼:デジタルカメラができたっていう時に、デジタルカメラの本質的な部分って場所を取らないことですよね。前のカメラだったらフィルムの場所も取るわけですよね。
で、プリントしたらアルバムがあって、それも場所を取って、みたいなものだったわけですけど、その場所を取らなくなったことがデジタルカメラの本質じゃないじゃないですか。
やっぱりそれは僕らが今デジタルカメラを使ってると、1番本質的なのは添付して送れるとかそういうことなわけですよね。デジタルの楽しみ方っていうか、1番意義深い部分っていうのは、メールに添付して送れるとか、何枚撮っても大丈夫とか、そういうことなわけじゃないですか。
消せるとか修正できるとかは、コピペできるみたいな話と似てるんですけど、つまりインターネットと繋がるっていうところが電子化の本質だと思っていて、読者の都合もそっちにあると思うわけですよ。
出版社の都合は、インターネットとかに繋がって欲しくないんですよ。なんでかっていうと、それがコピーして流通することを嫌がるからです。だけど、読者の都合は完全に、その本のコンテンツがインターネットとなんかこう……インターネットにそのまんま載ってタダで欲しいっていう話とはちょっと違いますよ。
そのコンテンツがインターネットと繋がることによって、例えば「住所」っていう文字列がインターネットと繋がることによって、自分がいる場所と紐付いて地図上に表示されるとか、ひとつひとつの中身がインターネットと繋がることによってより面白くなる、みたいな。
森:なるほど。
内沼:これ、ソーシャルリーディングみたいな話もそうですよね。
森:はい。
内沼:美術出版社さんのブックピックっていうサービスは今すごく、多分僕、1番ちゃんと進んでる人たちがやってるサービスだなぁ、って思うんですけど。ページに対してつぶやきを投稿したりできるようなサービスとかですね。で、まぁそういういわゆるソーシャルリーディングって呼ばれているジャンルのサービスも、本をインターネットと接続する試みなんですよね。
森:なるほど。
内沼:うん。そこに意味があるよなぁ、って思ってるっていうことです。
森:それって、どっかのプラットホームに行ってこの本の何巻を買う、とかじゃなくて、例えば検索で「まぐろ」って入れたらトップに美味しんぼの何巻がヒットする、とかそういう意味でのインターネット的な。
内沼:そういう部分もありますよね。
森:なるほど。
内沼:それはどっちかっていうと、やろうと思えば、電子書籍とかってよりはオンライン書店っていうレベルで実現できる話ですけど。
森:その場で売れるようにしてっていう。
内沼:そうですね、見つけられるっていうまでで言うと。
森:ああ、なるほど。
内沼:どちらかというと僕はその、抽象的な言い方で申し訳ないんですけど、本の中身がインターネットに……インターネットと呼ばれるものの中の一部になるというか。それが別に流出する必要は全然ないんですけど、なんていうんでしょう。
言い方を変えると、インターネット上には、本ってやっぱりコンテンツとしては相当ちゃんとお金かけて作られている分、質の高いコンテンツが多いわけですよね。
森:なるほど。
内沼:で、その質の高いコンテンツっていうのは、やっぱり今まであんまりインターネットにはなかったタイプのコンテンツで、そのコンテンツをインターネットの側も欲っしているんですよね。だからグーグルはグーグルブックスとかやるわけです。
だから、本の中身がインターネットに溶けていくとしたら、そのコンテンツは何100倍にも価値を増すだろうなぁ、って思ってるわけです。
単純にグーグルがやろうとしていることは、本の中身が全部検索できる、と。まぁでも、もちろん買うのは、その先は電子データを買ってくださいっていう風に、一部だけ見せてあとは買ってもらえばいいわけですけど、そのことが人類にもたらす価値というか、インターネットの中に本が少しでも溶け出していることの利便性みたいなことについて、言っているというか。
森:なるほど。
内沼:という感じです。本の側から見てる感じですね。なんかその、インターネットの側から見てるというよりは。
森:はい。次いってみますか。
内沼:はい。これは、まぁ「インターフェイスの最適化について考える」っていう6つ目なんですけども、これはどういうことかっていうと、ある人のiPhone電話帳の例ですね。紙の本だった時代は、電話帳っていうものの最適なインターフェイスは「あ」から「ん」……「ん」ってことはないか(笑)。
「わ」ぐらいまで、こう端っこに印刷されていて、黒くなっていて、それを斜めにこういう風に横から見ると見えて、バッて「か」とか開けるっていう、これが電話帳っていうコンテンツを紙に印刷する時の最適なインターフェイスだったわけですよね。
だけど、電話帳というコンテンツをiPhoneという端末で見ようとすると、おそらく最適なインターフェイスはこうであるっていうのがiPhoneの電話帳なわけじゃないですか。
これは当たり前の話なんですけど、どんなコンテンツでも電子化する時には、最適なインターフェイスっていうのはコンテンツのタイプによって違うよっていうことですよね。そのことを単純に考えないとだめだよねっていうことです。
森:わかりました。
内沼:7つ目は、本の国境について考えるっていうところで、これはもう書いてある通りなんですけど、要は紙の本は印刷して輸送しなきゃいけなかったから、今まで世界で流通するっていうのは大変だったわけです。単純な話として輸送コストがかかるよね、と。だけど、電子化すると輸送コストかかんないよね、と。
ここが画期的な部分の1つであるわけですよね。だから、今までは英訳しても成り立たなかったコンテンツも、これからは英訳するだけで成り立つかもしれない、みたいな。
そういうような、つまり、音楽なんかはまさにそうじゃないですか。レコード盤の時代は、言っても海外で……レコード盤の時代に限らない、そうだな……きゃりーぱみゅぱみゅみたいなのがいきなりヨーロッパでヒットみたいなことっていうのは、やっぱりレコードの時代にはあんまりあり得なかったんだと思うんですよね。
森:流通にモノを運ばなきゃいけないから。
内沼:そうそう。あとワールドミュージックみたいなものも多分今は……ああ、これ僕が推測で言うのはあんまり良くないな。ただ、きゃりーの話は別なんですけど、今までだったら例えばマニアック過ぎて成り立たなかった本も、これからは英訳するだけで、ひょっとしたらマニアックさは一緒なんだけど、世界中にちょっとずつ読者がいるので成り立つ、みたいな本があり得るなぁ、と思う。
思うというか、実際にあり得るわけですよね。単純にそういう意味で国境を越えやすくなっているから、そのことについて考えると、本っていうものの流通の仕方も今までとは違うよなぁ、っていうことです。
森:なるほど。
内沼:最後が、「本のある場所について考える」。これは僕がそういう仕事をしているから、っていうのもあるんですが。例えば僕の仕事って、洋服屋さんの中に本棚を作るっていうのは、今まであんまり洋服屋さんの中に本棚がなかったけど、本棚を作るとその店がなんとなくわかるじゃないですか。友達のお家に行ってその友達の本棚を見たら、その人がどういう人かわかるみたいに。
例えばここに本棚が1個あって、ここは普段いつもロフトワークさんのオフィスです、と。で、本棚がどーんってあったりとかしたら、「あー、ロフトワークってこういう会社なんだなぁ。へー」みたいな、その中身がある程度わかっちゃうわけですよね。良い部分も悪い部分も。
だから、ここに例えば本棚を作るんだったら、「ロフトワークとはこういう会社です」っていうのをすごくかっこよくちょっと上に見せるような本棚にするべきなわけですよね。友達の家の本棚でもそうですよ、やっぱり。こう、頭良さそうに見える本だけ表にしといて、なんかこう、これちょっと隠しときたいなっていう本もあったりするじゃないですか。友達が来る時とか。
そういう意味で言うと、例えば本が並んでいるっていうことだけで持つ意味っていうのは、ただの本の価値そのもの以上に何かあったりするわけですよね。そういう「本は行く場所によって持つ意味が変わってきたりする」っていうことであるとか。
あと本のある場所って言った時に本屋さん。普通の本屋さんっていうのはこれから厳しくなってくるよ、と。図書館とかひょっとしたらあんまり……なくなっちゃうかもしれない。なくなりはしないか。ごめんなさい。
意義が難しい、意義の再定義をしなきゃいけないよね、とか。という風にして、リアルの本がある場所がひょっとしたら減っていくかもしれないのと同時に、洋服屋さんとかカフェとかなんか不思議屋さんとか、いろんなところにちょっとずつ本があるような時代がなんとなくやって来ていて。
電子書籍とかっていうことになったら、インターネット上にも本があって、携帯の端末の中にも本があって、いろんな場所に本があるわけじゃないですか。
それが、多分もともとは本棚の中に、人んちの本棚の中か本屋か図書館ぐらいにしかなかった本っていうのが、いろんな場所に点在することによって、またちょっと未来が変わってきているだろうな、と思っていて。
その場所っていう視点を持った方がいいな、っていうようなことですね。うん。っていうのが、だいたい僕が8つ考えている、本の未来を考える時の視点の持ち方っていうか。
まぁ、考えてみたらこの8つで見てるような気がするなぁ、っていうのを、実は僕これ最初7つだったんですけど(笑)。なんかこう、こないだ増えたんですけどね。あの、質問されて。会場から。こういうのは? とかって言われて。
実は国境の話なんですけど、なんか「今日グローバルな話が出ませんでしたが」みたいに言われて、それもあるな、みたいな感じで(笑)。増やしたりとかしてるんです。だから、今日から8つになりました。はい。
森:じゃあ、この8つを内沼さんの新しく作る本屋さんではどのように実現していこうという風に考えてるんですか?
内沼:うーん。そうですねえ……。さっき言ったトークイベントみたいなことも本だと思っている、とか。別に僕の下北沢でやる本屋が本の未来の全てを表すわけではないので、そういう発想ではあまり考えていないですね。
どっちかっていうと、この8つっていうのは、本の未来全体に対して僕が考えていることというか、僕のモチベーションでいろんな人としゃべったり、アイディアをどこかに出したりする時に「あ、気づいたらこういう風に考えてたなぁ」っていうくらいの話で。お店をやるっていうのは、またちょっと違うんですよね。
やっぱそれは、僕らがやろうとしてるのって、「これからの町の本屋」っていうコンセプトなんですよ。で、町の本屋って、今いわゆるみなさんが想像する「町の本屋」っていうモデルはちょっと崩壊していて、やっぱ儲からないもの。そもそも新しく立ち上げることさえ、今は難しいものなんですよね。
だけど、まさにこれ8個目の話なんですけど、町には本屋がないといけないなぁって僕も嶋さん―あ、嶋さんっていう人と一緒にやるんですけど、えっと博報堂ケトルっていう会社の社長の―も思っていて、「町に本屋は必要だよね」と思っている、と。
だから、儲かる町の本屋のカタチっていうのをある種の再定義っていうか、モデルを何か提示しないとね、みたいな。ちょっと偉そうにというか、大げさにというか、社会的に言うと。っていうのを思っていて、それをやろうとしているんですよね。
だから、場所にかなりコンシャスです。下北沢っていう街といかにうまくやっていくかとか、街の人たちにまず愛されていくこと。それありきで、いろんな遠くから人が来ること。
結局いろんな所、遠くから人を集めるっていうこともひとつ街の魅力を増していくことでもあるので、いわゆるその、下北沢っていう街をどうするか、っていうこと。大げさに言うと。その1つのソリューションに本屋がなりたい、みたいなそういうところはあります。
なので、本の未来全体を考えてそこにフラッグシップを作るとかっていうよりは、「町の本屋」っていうものを1つ更新したいっていう、もうちょっとその中の1つのポイントについてやっているっていう感じですね。
森:これからもし、アメリカで起こったような電子書籍の流入によって書店が閉店に追い込まれるっていうことが日本でもし起こるとしたら、大手と小さい店舗ではまたちょっと違いが出てくるじゃないですか。
内沼:はい。
森:小さい店舗とかだったら、内沼さんみたいにどんどん面白いことを提案していく、まぁ要するに書店員、さらに店長の個性によって価値が決まっていくっていうか、そうやって広がっていくと思うんですけど、大手はどうするべきなんですかね。
内沼:いやー、でも大手の本屋さんだって、結局どっちにしても個性出していかなきゃいけないと思いますよ。
森:ですよね。
内沼:それは別に、小さいから個性を出しやすい、っていうのはそうなんですけど、大きい方がパワーがあるので、それはそれで個性を出すお金がある、っていう可能性はあるので。
森:ああ、なるほど。
内沼:まぁ、ないんですけどね、あんまり(笑)。あの、あるっていうこともあり得るので。どっちにしてもただ、これはポジショニングの話で。アマゾンっていうのがあるじゃないですか。
これはよく言うことですけど、「この本が欲しい」ってわかってるんだったら、アマゾンが1番便利に決まってるわけですよね。なんだけど、その本が欲しいかどうか迷っている。で、それを現物を見てから買いたい、っていう人には町の本屋よりも大型書店の方が絶対便利なんですよ。
だって、町の本屋にその本があるかわからないじゃないですか。でも、大きい本屋さんは大きいからある気がする、と。前に、丸善の人と何人かで対談みたいなのをブックフェアの会場でやった時に、丸善の人が言っていておもしろかったのは「大書店の1つのコンテンツは、そういう幻想なんだ」っていうふうに言うわけです。
内沼:それはつまり、「あそこに行けば全部の本がある」。実際は、いくら大書店って言ったって、全部の本はないんですよ。ないけど、大書店だと全部の本がありそうに見えるんですよね。
かなりの規模までいくと。その「あそこに行けば何でもある」っていう風に人が思っている。まぁ、何でもとは思ってないけど、たいていあると思っているということは1つの大きな書店の大きな強みなんですよね。
実際にそこに行ってなくてもしょうがないんですよ。なくても、「たまたまなかっただけなんだ」って思うんですよね。大きな書店に行くユーザーの気持ちとしては。その、「でも、きっと、あれはある。これはある」って言ったらあるわけじゃないですか。
そのたいていある、っていうことは、人にとってはほとんど全部あることと一緒で、「たまたまなかっただけ」「たまたま在庫が切れてただけ」で、基本的にはあるという前提の元にそこへ人の足を運ばせるということは、大きな書店の昔からある名前の付けられない価値だと思います。それを強めていく、っていう方向は絶対あるんですよね。
つまり、何でもある。それがひたすら検索しやすい。でっかい。そういう場所は、なくなることはないと思いますね。ただ、すごく減るとは思う。それはやっぱり成り立ちにくいから。
ただ、減れば当然淘汰されて、いくつかは残るっていうか、それを求めてる人は確実にいるので。今みたいに、ターミナル駅に5個も6個もそういうものが必要か、っていうと必要じゃないけど、新宿に1個、渋谷に1個、とかは絶対必要だし、もっと必要かもしれない。
まぁそういう感じですよね。あとは逆に、もっとテーマパーク的な感じっていうか、本以外のものもいろいろ売ってたり、なんかこう超ワクワクする、みたいな。要は個性的な本屋さんの集合体みたいな、そういう大きな本屋だってあり得ると思うんですけど、今はそれにコストをかけられないっていう判断が多いとは思いますけどね。
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