2024.12.10
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パーソンズ美術大学 卒業式 2014 ライアン・マッギンリー(全1記事)
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ライアン・マッギンリー:いつも人から、「気持ちを落ち着けるために、聴衆の皆さんを裸にして写真を撮ったら」と言われるのですが、残念ながら、そうするとまた今日も仕事になってしまいますので(笑)。
パーソンズ美術大学2014年卒業生の皆さん、若き写真家の先生方、保護者の皆様に、ご挨拶とお祝いを申し上げます。ご列席の大学関係者の皆様、本日はお招きいただき、ありがとうございます。本当に光栄です。
(会場拍手)
そして誇らしげに見つめる保護者の皆様、アートを学ぶお子さんのご支援をありがとうございます。創造性を支える努力は、尊く、美しいと思います。
人生においては、怖くてもしなければならない時がありますが、私にとっては、スピーチをするというのがまさにそれです。私は写真家として自分が知っている唯一のアプローチを取りました。今日のスピーチを準備するために、大学に立ち寄ったのです。この場所を実際に見て部屋を偵察し、雰囲気をつかむためです。キャンパスに着くと、私が学生時代に通ったビルを思い出しました。そこはコンピューター室だったのですが、出る時に警備員が在学当時からいるルイスだと気が付き、とても勇気づけられました。卒業してからまだそんなに時が経っていないかのように感じました。
あれは大学5年生の時でした。
(会場笑)
そうです、私はここに5年間通いました(笑)。私はジョージ・ピッツ先生の「写真におけるヌード、セクシュアリティと美」という講義を受けました。その講義から非常に大きな影響を受け、以来私はキャリアを通じて、その3つの言葉にこだわり続けてきました。講義の初日、バンド「ザ・クランプス」のTシャツを着ていた私に、先生は「私たちはウマが合いそうだな」と声をかけてくれたのを覚えています。先生は私のアウトサイダー的発想をほめてくれました。ジョージ先生、ありがとう。先生のおかげで、人生がすっかり変わりました。
(会場拍手)
しかし、実は私は画家になろうと思ってパーソンズに入学したのです。ところが2年生の時に、ビート世代に夢中になり、両親には内緒で、受けていた講義を全て詩学に変えてしまったのです(笑)。
(会場笑)
それを知った両親から「大学を続けたかったら、いざという時に頼りになるような科目を選びなさい」と言われ、3年生でグラフィックデザインを学ぶことにしました。そうして、課題製作のための写真をすべて自分で取るようになったのです。Yashica T4というコンパクトカメラを買い、どこに行くにも常にポケットに入れて持ち歩きました。初めてのカメラを手にしたことで、私は翼を得ました。新たな方法で世界とつながるようになりました。
カメラのおかげで、恥ずかしがらずに社会通念の外へ踏み出すことができるようになりました。私はカメラの魅力にとりつかれました。結果的には、美術のカラーパレット、詩の感情、デザインのバランスという、自分の取りたかった科目を一つにしたものが写真だったのです。
友人から引き延ばし機の使い方を教えてもらって以来、私はパーソンズの暗室にこっそり行くようになりました。毎週、Adorama(カメラと写真器材の店)で使用期限切れのフィルムを3ドルで買いました。暗室の係員の男性がいつも同じつまらないジョークを言っていたのを思い出します。「シンデレラは写真店を出る時に何て言ったか?」「いつかプリンツが来てくれる(Some Day My Prince Will Come)」。
(会場笑)
以前、20”×24”の写真用紙を50枚買ったことがあります。当時としては大きな投資だったので、1枚も無駄にはできませんでした。暗室に一日中こもり、細心の注意を払って1枚1枚をプリントしました。その晩、5番街のビルを出る時、私の両手は写真を入れた大きな箱とバッグパックと食べ物でふさがっていました。風の強い日で、不意の突風で写真が入った箱のふたが吹っ飛び、中の写真もすべて飛び散ったのです。目の前で写真が空高く舞い上がり、5番街をひらひら飛んで行きました。それから1時間、写真を拾い集めようと探し歩きました。11番街からワシントン・スクエア公園まで歩き、中にはウエストブロードウェーやハウストン・ストリートで見つけたものさえありました。写真は傷つき、台無しになってしまったことはわかっていても、回収しなければなりませんでした。すべて友人たちの裸体写真だったからです。
(会場笑)
ですから、写真を入れる箱はテープでしっかり留めておくのを忘れずに。今で言えば、必ずノートパソコンと携帯はパスワードで保護しておくように、ですね。
4年生になると、毎日朝から晩まで写真を撮っていました。三度の食事から、落書きで埋まった戸口、友人やルームメートまで、日常生活の些細なことを写真に収めたのです。最初の“ボーイフレンド”だったマークには拷問だったでしょう。2人の関係のあらゆる瞬間をカメラで捉えようとしたのですから。私は自分の人生を記録することにとりつかれていました。
そんな私から皆さんへのアドバイスです。夢中になるものを見つけたら、それにこだわること。他人と競おうとせず、自分だけの何かを見つけてください。自分の人生経験と写真の歴史についての知識とを結びつけてください。それをすべて混ぜ合わせて、誰もが参加できる芸術的な世界を作り出すのです。
携帯電話で写真を撮ることに興味があるなら、やってみましょう。お父さんが工事現場で働く様子がかっこいいと思ったら、被写体にするのもいいでしょう。お母さんがプードルを飼っているなら、写真に収めましょう。カメラで、他の誰も知らないもの、自分しか近づけないもの、自分とつながりのある人やものを撮影し、自分自身の世界を作り出してください。
常にアクティブでいること。自分がやりたいことをするための方法を探し、見つけること。やりたいことがわかったら、実践すること。それについて長々と議論するのはやめて、実行あるのみです。改善して、さらにやってみる。違う方法も試してみる。次のレベルに到達するまで粘り強く続けましょう。「やめてしまおう」と考えたり、自分に言い聞かせたりしないこと。たゆまず歩き続けていれば、自然となるようになります。
パーソンズでの最後の年、写真科の友人たちは皆、学内で卒業制作展を行いましたが、私は写真専攻ではありませんでした。友人のジャックとレニーのつてで、衣料品店に改装されることになっていたソーホー地区の空き家のロフトで、ポスターサイズの写真約30枚を展示させてもらえることになりました。それが私の初めての写真展「The Kids Are Alright」です。グラフィックデザインコースで製本の仕方を習ったので、写真展のカタログを自分で作成することにしました。
ホームプリンターで100部を制作し、友人たちが展覧会開催の直前まで、人海戦術で製本を手伝ってくれました。カタログの一部を尊敬するアーティストや購読していた雑誌の編集部に郵送したところ、何本か電話がかかってくるようになりました。そうするうちに、雑誌Index Magazine誌が私の写真を気に入ってくれ、編集の仕事をもらいました。最初の撮影はイギリスのよく知らないバンドで、友人のエイミーがインタビューをしている間にシャッターを切っていたのですが、緊張のあまり、最初の20分間はフィルムが入っていないことに気が付きませんでした。
(会場笑)
次の撮影で、ある電子音楽アーティストの取材のためにドイツに飛びました。フライトの間は不安な気持ちで、しかもひどい腹痛と闘っていました。どうやったら普段自分の友人たちを撮っているような親密なイメージが出せるのか、考え続けていました。赤の他人を自分の世界の一部であるかのように撮らなければならなかったのです。アーティストがガールフレンドと一緒に到着した時、私は2人にシャツを脱いでもらうように頼み、2人がホテルの部屋でのんびり過ごしている姿を撮影しました。
編集部は私の写真を気に入ってくれました。まったく知らない人であってもくつろいだ写真を撮ることができる、と気づいたのです。それが私にとって、突破口となりました。人は、写真に撮られること、注目されること、普段はしないこともやって欲しいと頼まれることが好きなのです。あとはただ、相手にお願いするだけでいいのだ、と学びました。
何事にも「イエス」と言って、新しいことにチャレンジしましょう。失敗すること、一生懸命働くことを恐れずに。自分らしい写真を撮るのです。他人の真似や、真似しようとする必要はありません。くよくよ考え過ぎるのはやめましょう。どんなカメラを使おうが、心配することはありません。
伝説的なインディ映画の監督、デレク・ジャーマンから芸術映画を撮影する際の3つのルールを聞いたことがあります。「(撮影現場に)早く到着すること、ライトを自分で持つこと、お金がもらえるなどと期待しないこと」。私も常にその教えに従っています。アートに取り組むのは仕事と同じです。毎日8時間、写真と向き合うこと、医師が薬を処方するように、写真と真剣に対峙すること。あらゆるものをカメラに収めましょう。一生懸命、真剣に取り組んでいれば、チャンスが巡ってきます。いつその瞬間が来てもいいように、常にカメラを手に準備しておくことです。
忘れないでください。写真を撮ることは限りなくロマンティックです。この世界の美とユニークさを見いだし、人生を鋭く観察しましょう。写真を撮ることは「尋ねること」です。なぜなら「クェスチョン(尋ねる)」の語根は「クエスト(探求する)」なのです。自分がわくわくすること、インスピレーションが与えてくれるものを探し求め、追い続けてください。チャンスとサプライズは進んで受け入れましょう。自分の中にある芸術的狂気を認め、尊重しましょう。
一生懸命取り組めば、幸福なアクシデントに遭遇するでしょう。そして、それこそがアートなのです。2014年卒業生の皆さん、ありがとう、そしてご卒業おめでとうございます。
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