英語でのトークに緊張

南場智子氏(以下、南場):SLUSHにお集まりのみなさん、こんにちは!

村田マリ氏(以下、村田):こんにちは、みなさん!

南場:またこの場に来られてうれしく思っています。

今回はもう少し……なんて言うんでしょう……。

村田:違う雰囲気ですよね。ワクワクします。

南場:そうそう、ワクワクする感じですね。またこの場に立てて光栄です。とくに、私にとってとても特別な方をゲストに呼んでいますので。村田マリさんです。拍手をお願いします。

(会場拍手)

マリさん、今どんなお気持ちですか?

村田:緊張してます。

南場:緊張? マリさんが緊張している姿、初めて見ましたけど。一体どうしたんですか?(笑)。なんでそんなに緊張しているんですか?

村田:英語だからです。

南場:なるほど!(笑)。言葉は重要じゃないですけどね。舞台上で2人の日本人が英語で話している……この状況からしてすでにすごく落ち着かない感じですよね。それなので、「ちゃんぽん」しましょう。いいでしょうか?

村田:観客のみなさん、ほぼ日本人ですからね。

南場:そうですね、ほぼ日本の方たち。「ちゃんぽん」でいきましょう。会場からも承認をもらいましたので、「ちゃんぽん」でいきますよ。

まずは、マリさんについて手短ですがご紹介します。iemo株式会社のCEOです。iemoはインテリア関係の……。

村田:そうです、インテリアと住まいのリフォームなどに関するスマホ向けメディアです。

iemoを売却したのはなぜ?

南場:そうですね、ありがとうございます。そして、iemo株式会社を私たち株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が買収したんです。いつのことでしたっけ?

村田:1年半前ですね。

南場:それに伴って、マリさんはご自身の会社とともにDeNAに参画。iemoのCEOでありながら、DeNAの執行役員も務めています。

ではここで、マリさんの経歴を少しご紹介しましょう。これがマリさんの略歴です。私はマリさんの大ファンなんですが、その理由の1つに、日本での数少ない女性シリアルアントレプレナー(連続起業家)の1人だということが挙げられます。

日本の女性シリアルアントレプレナーとしては、私が知る限り唯一の方ですね。もちろんそれだけが理由ではなくて、マリさんからはたくさんのワクワクする刺激を受けています。

そしてですね、ものすごく尊敬している大きな理由がほかにあります。彼女がDeNAに加わったとき、つまり自身の会社を売却したときのことですが、売却せずに株式を公開することができたのに、それをしなかったんです。どうしてですか?

マリさんは業界の先導者だったわけです。やろうと思えば、株式公開できた。新規株式公開(IPO)が現実的に可能な選択肢だったんです。マリさんに投資したいという投資家や資本家はたくさんいたんですよ。でも現金化したり投資家から資金を得たりせず、ある時点でDeNAへの売却を決めましたね。どうしてそういう決断をしたんですか?

だって、簡単じゃないですよね。私自身、eBayからDeNAの買収を持ちかけられたとき、日本人の同僚たちから、「会社の売却は賢明な選択じゃない」と口を揃えて言われましたから。ほら、降伏するみたいな感じに捉えられるわけですよね。「あなたになにか問題があるの?」と。なので、マリさんの決断はとってもユニークですよね、日本では。

村田:私はクリエイターなんです。事務処理が好きじゃなくて……経理、人事とかですね。メディアでの創作に集中したかったんです。

南場:株式公開にあたっての事務作業をしたくなかったと。上場企業のCEOになった後も、書類・事務作業は膨大です。ある意味で確かにそうです。わかりますよ。ユーザーに集中して、事業の開発に集中したかったわけですね。

村田:そうです。仕事をつくり上げることが好きなので。

DeNAには大金があるのが強み

南場さんは、楽しんで上場企業のCEOを務めていますか?

南場:ええ、楽しんできましたよ。でも、上場企業のCEOだからというより、事業の創造に喜びを感じてきたので、そこはマリさんと同じです。でも私自身は事務作業も厭わないです(笑)。サービス開発がそこまで得意なわけではないですし。そのあたりが理由ですかね。

それで、ほかの複数の大規模企業からも売却の話があったんですよね。そのなかで、なぜDeNAを選んだんですか?

村田:DeNAは決断が早い企業です。DeNAの企業風土が好きで。スタートアップ、立ち上げ力のある企業風土です。Facebookに似ていますよね。マーク・ザッカーバーグはInstagramやOculus、WhatsAppを買収しましたけど、ハンズオフ・マネジメントスタイル(買収先・投資先の経営者に任せる方式)です。DeNAも同じくハンズオフです。

南場:それは買収前に知っていましたか? どうやってDeNAについてそんなによく知っていたんですか?

村田:起業家の友人がたくさんいまして。なかには買収された企業もあるんですが、幸せそうじゃない友人もいる一方で、DeNAで働いている人はみんなすごく幸せそうで。南場さんも守安(功)さんも。起業家だけでなく、スタッフに対してもハンズオフで、とても自由な風土ですよね。

南場:マリさんは今、キュレーションプラットフォーム事業全体を率いています。DeNAで現在行っていることの戦略を話してもらえますか?

村田:はい。私たちは10種類のメディアを所有しています。DeNAには人材、経験、それから大金があります。

南場:大金(笑)。

村田:そう、大金です。ですので、10種類ものメディアをつくることができるんです。そしてデータや人的資源に関して、日々、全員でグロースハックのノウハウを共有できています。それが私たちの事業の原動力、強みですね。これは、小さなスタートアップ企業には難しいことです。

南場:小規模な会社のCEOとしてできることより、さらに大きな夢を達成したいということですね。DeNAで本当に探し求めていたことが見つかりましたか?

村田:見つけましたよ! ワクワクしています。

高校にも大学にも行かなかった

南場:マリさんはどんな子供時代を送っていたんですか? 起業家で会社のCEO、自社を規模の大きな会社に売却するという独自の選択をして、iemo時代よりも10倍は規模の大きな事業に携わっている。iemoを含んで、と言ったほうがいいですね。

非常にユニークですよね。それなので、生まれ育ちが気になるんですよ。どんな子供でしたか? 例えば学校で。優秀な生徒でした?

村田:いやいや。落ちこぼれましたから。高校にはあまり行かなかったんです。

南場:高校に行かなかったんですか!? なにをしていたんですか?

村田:ただただ本を読んでいました。

南場:読書だけ? ……すごい。

村田:家にいて。

南場:家でね……。学校が好きじゃなかったんですね? なぜですか? 読書なら学校でもできましたよね。

村田:私、歴史作家になりたかったんです。それで毎日、本を読んで、小説を書いたりしていました。

南場:それから早稲田大学に入学しましたね。

村田:そうです。

南場:大学ではなにをしていましたか?

村田:(苦笑)。行かなかったです。勉強しなかったんです。

南場:勉強せず……なにをしていたんですか?

村田:パソコンを購入して、Webサイトを立ち上げました。

卒業後、3年で起業

南場:すでにWebデザイナーだったわけですね。

村田:そうです。毎日いろんなWebサイトの制作をしていました。

南場:それで、大学卒業後、なにをしましたか?

村田:株式会社サイバーエージェントに入社しました。

南場:インターネット広告の代理店ですね。

村田:そうです。

南場:営業ですか?

村田:いえいえ。新規事業の立ち上げです。6つの事業ですね。

南場:新規事業の立ち上げに携わっていたと。会社には何年いたんですか?

村田:3年ですね。

南場:その後……?

村田:コントロールプラス株式会社を創業しました。自分の会社です。

南場:自身で会社を興したんですね。3年のサイバーエージェントでの経験を経て。

村田:そうです。

南場:どんな会社ですか?

村田:Web制作会社です。後に、Mobage(モバゲー)向けゲームも開発していました。

母親でいることの孤独がiemoにつながった

南場:ゲーム開発、なるほど。それから……。

村田:ゲーム開発運営事業をほかの会社に売りました。

南場:株式会社gumiですね。

村田:そうです、gumiの國光(宏尚)さんですね。

南場:その頃、母親になったんですよね?

村田:ええ。

南場:gumiへの売却前に、お母さんになった。

村田:そうですね。

南場:すごいですね。それから1年間、専業主婦に。

村田:ええと、2年間ですね。毎時間、毎日、赤ん坊と話していましたね。

南場:すばらしいじゃないですか。どんなことを感じましたか?

村田:孤独を感じましたね。母親でいることの孤独ですね。二人きりの生活ですから。赤ん坊に話しかけても、泣くだけですし。それも24時間。

南場:赤ちゃんは話せないですもんね。

村田:そう、すごい孤独感でした。でも、その孤独感がiemoにつながったんです。

南場:なるほど! そこにiemoの発想の源があったんですね。

キャリアの中断は悪い面ばかりではない

村田:iemoはお母さんたちの孤独の解決場所なんです。iemoでは母親同士でコミュニケーションもできますし、掃除、料理、子育てなどのノウハウについても共有できます。お母さんたちはつながりを求めているので、それを解決する場になります。

南場:母親として家にいる間、孤独感が募るとともに、キャリアも中断された感じがしたけれども、その経験がiemoを生み出すきっかけになったわけですね。それで2年後、事業経営に復帰してiemoを興した。

村田:そうです。

南場:すばらしい話です。私自身、子供はいませんが、似たような経験があるんです。主人が病気になって2011年にCEOを退き、2年間、看病に注力しました。その後復帰したわけですが、その頃、日本でのヘルスケア領域にいろんな問題があったんですね。復帰後、そうした問題に取り組みたいと思い、DeNAで新規事業を開始しました。

ですので、キャリアの中断は悪い面ばかりではないですよね。その間に新たなアイディアを思いついたり、中断がなければまったく気づかなかったことに気づいたり。みなさん、そう思いません?

マリさんは復帰後にiemoを創業、そのiemoは大成功を収め、業界のトップを走る存在になりました。ですから、実際に上場が現実的な選択肢にあったわけですが、書類とか事務処理作業を避けて事業に集中するために会社をDeNAに売却、ユーザーやサービスに集中したんですね。そして現在、DeNAのキュレーションプラットフォーム全体の戦略を統括しているというわけです。

DeNAについて、いろんないい面をお話してもらいましたが、気に入らないところもあるんじゃないでしょうか。好きじゃないところ、問題だと思うところを教えてもらえませんか? いい会社です、大好きですよ。自分が創業しましたしね(笑)。

村田:(笑)。

南場:マリさんの会社を買収したのには、事業面での利点だけじゃなく、マリさんみたいな方を仲間に加えて「会社として若く生き生きとしていたい」っていうのがあるんですよ。会社を若返らせたいんです。ですから、いいことばかりじゃなくて、なにか……助言でもいいですし、好きじゃない点とか、変えるべき点とか教えてください。

メディアに情熱を注げる人が必要

村田:難しいですね……。ないですよ。本当に助言もなにもないです。なぜなら、今とても居心地がいいんです。自由にさせていただいていて、事業に集中できて。完璧です。

南場:これは内部の情報ですけど、マリさんは経営会議で、人事採用面での問題を指摘していましたよね。DeNAで採用する人材は誰もが能力の高い若い人ばかりです。でも、DeNAは、総合的な能力のある人材を多く採用する傾向にあるんですね。それでマリさんは、「メディア事業にかける情熱に欠けている」と指摘していましたよね。

マリさんはメディアプラットフォーム全体を統括していて、メディア事業に情熱を注げる人を探していた。DeNAのスタッフは優秀で常識人で、計算が速いとかいろんな能力に長けているけど、情熱に欠けている、と。これに関しては、どうしていこうと考えていますか? どうやって変えていきますか?

村田:全員が情熱を持たないといけないです。

南場:マリさんみたいに?

村田:はい、私みたいに(笑)。

南場:では、マリさん自身でiemo独自の採用を進めていますか?

村田:進めています。

南場:DeNAの採用とは別に、こうしてマリさん自身で採用活動を行っていると。iemoはDeNAグループの企業でありながら、iemo単独の採用も行なっているわけですね。この説明で合っていますか?

村田:はい。

南場:どうですか、うまくいっていますか?

村田:うまくいっていますよ。

事業領域を超えて組織全体を変えていく

南場:これまでに何名採用しましたか?

村田:いつからでしょうか?

南場:単独での採用を開始してからだと?

村田:20~30名ですね。

南場:DeNAの人材と、iemoで採用した人材の交流とか付き合いは問題なかったですか?

村田:問題ないですよ。iemoのスタッフが、DeNAのスタッフの友人を招いて交流したりしました。

南場:一緒に参加できるように、ですね。双方のスタッフの協力関係はうまくいっているということですね?

村田:そうです。

南場:こういうのが、私たちがやりたかったかたちですね。マリさんが気づいて私が気づかないことがあり、マリさんが問題を指摘して、自身の事業領域を越えてDeNAの組織全体を変えていく。マリさんがDeNAの執行役員である理由は、こうしたところにあります。

そして、DeNAで「あること」を主導していますよね。なにをしているんですか? iemoのことではなくて、ですね。今やっている経営関係の……。

村田:買収先について……?

南場:そうです! 買収可能な企業を探しているんですよね。

村田:3社すでに買収しました。

南場:どの企業かみなさんに紹介してください。

村田:Find Travel井出(一誠)さん、MERYの(中川)綾太郎さんですね。

南場:2社ともに業界を率いる存在ですよね。

村田:彼らもハッピーですよ。

本物のシリアルアントレプレナーとは

南場:そうなんですね。どうやってDeNAへの売却を説得したんですか? 両社とも業界のリーダー的存在なわけですよね。彼らにとって難しい決断でしたか?

村田:いいえ。

南場:難しくはなかったと。なぜ、あやたん(中川綾太郎氏)は会社をDeNAに売却したんですか? どうやって説得したんですか?

村田:あやたんもクリエイターなので。

南場:事務作業が大の苦手なんでしたね。

村田:DeNAは創業者に優しい会社です。それを彼らも知っていました。

南場:なるほど。だからDeNAグループに入るという説得は難しくなかったんですね。

村田:そうです。すぐに理解を示してくれました。

南場:すばらしい。マリさんはこうして買収先を探して、プラットフォーム戦略の強化を図っています。そして、彼らと一緒になって大きな事業をつくり、DeNAを変え続け、その努力で会社を若々しく保ってくれています。DeNAは永遠にスタートアップ企業でありたいので。2,000名の規模ですけど(笑)。

本日はたくさんの方にお越しいただいています。聴衆のみなさんになにかアドバイスはありますか? なにかあるだろ~? 日本語で大丈夫なんだけど……いいですか。 大丈夫ですか。

とくに日本で生まれ育った方にはよくおわかりいただけると思うのですが、私がマリさんをすごく尊敬する大きな理由に、彼女がいつも自分で物事を決断する、ということがあります。常に自分で判断するんです。

日本では学校に通うことって重要ですよね。でも彼女は高校を中退した。早稲田に入学するも、ほとんど通学せずにWebデザインに没頭していた。みなさんに中退をお勧めしているわけではないですよ。でも、非常にユニークですよね。すごく違っていて独特。

ここ数年で変わってはきましたが、私くらいの年代だと、大きな会社に自分の会社を売却するって、相手に降伏、降参するような感じなんですよね。「なにがあったの? 会社を売るなんて正気なの?」という感じなわけです。シリコンバレーとはだいぶ違う状況です。

そこへきて、マリさんは自分で独自の決断を下して、会社を売却。家で子育てする専業主婦になってキャリアの中断も経験し、孤独を感じたけれども、それをバネにして新しい独自の事業を再び興した。本物のシリアルアントレプレナーです。

DeNAグループのみならず、日本の女性、社会全体に常に刺激を与え続ける存在として、マリさんにこれからも期待しています。ありがとうございました!

村田:ありがとうございました!