東大発モノ作りベンチャーの挑戦
IoTの深刻なエネルギー問題と対応策とは

モノ作りベンチャーの最新トレンド #4/5

IVS 2015 Spring Miyazaki
に開催

2015年6月12日に開催されたIVS 2015 Springの本セッションに、WiL・伊佐山元氏、ITジャーナリスト・林信行氏、東京大学・川原圭博氏が登壇。モデレーターを務めるソラコム・玉川憲氏の進行で「モノ作りベンチャーの最新トレンド」をテーマにディスカッションをしました。東京大学でモノ作りベンチャーの技術アドバイザーを務める川原氏は、IoT分野が抱える「製造コスト」「バッテリー」「通信費」の3つの問題を解決するための研究活動を紹介しました。

研究者が考えるIoTの成功事例

玉川憲氏(以下、玉川):次は川原さんから研究のエリアにおける課題であったり最新動向であったり、今取り組まれていること、私はお伺いして非常におもしろかったんですけれども、そういったところをお話いただけたらと思います。

川原圭博氏(以下、川原):はい。私はずっと大学にいた、いわゆる大学の先生でした。研究分野としては情報通信で、2000年の始めぐらいからユビキタスコンピューティングとか、IoTにかなり近いコンセプトをずっとやってきました。何が行われてきたかと新しい仕組みをずっと見てきたんですけれども。

IoTの今の動きはアカデミアで過去に誰かによって提案されたものが「あ、やっと実用化されたな」というのが多いなという印象を持っています。そう考えると、僕の中では、まだキラーアプリケーションというか、本当の成功事例はあまり見てないなという気がちょっとします。

「たぶんこういう問題にぶち当たるんだろうな〜」とか思いながら、温かい目で見ていると(笑)。上から目線で申し訳ないんですけど、そういう状況です。

私自身もこれまでいろいろやって、もがいてきているんですけど、いろいろな要素、技術がだんだん研究から実用になるような環境が整ってきたというのもあって、今いくつかの技術を切り出してやっています。

「東大発モノ作りベンチャー」みたいなことを言われるんですけれども、今2社の設立に関わっています。1つは銀ナノインクという新しいインクを使って、電子回路を即座に作る技術を開発しています。これはもともとは日本の化学メーカーが作ったものなんですけど、その技術を多方面に展開する「AgIC(エージック)」という会社を作りました。

もう1つは最近、農業用センサーを作る会社をやっています。これは低コストでやるというのが1つ、キーになっています。

Internet of Things、IoTなんですけれども、これを一番象徴するコンセプトは、西海岸あたりのエレクトロニクス系の会社がやってる「Trillion Sensors」というコンセプトでして、1兆個のセンサーが将来的に使われるようになるだろうと。

1兆って気前のいい数字ではあるんですけど、それなりに根拠があり、例えば70億人が毎日150個のセンサーを使うと、だいたい1兆になるんですね。これは今の需要の10倍とか100倍くらいなので、結構達成しうる数字なんですよね。

勝手に情報配信して、しかも情報を消費するようなセンサー、あるいは自動で動く機械のようなものが本当に使われるようになると、本当にIoTなんだろうなという気がしています。

農業で水を有効利用するセンサー作り

先ほど農業の話をしたんですけれども、アメリカの典型的な農業はこんな感じなんですよね。雨が降らないところが実は農地に適しています。というのは、くもりの日がないので、よく日が照るわけですね。そこに地下水なり川の水を汲み上げて、こんな大きな機械で水をやるわけです。

全地球の淡水の70パーセントが実は農業に使われているのですが、アメリカは今非常に深刻な1000年に1度の干ばつが襲っていて、畑が干上がってしまっています。土地は無限にあるけれども、使える水が制限されているので、収穫量がキャップされているという状況になっています。

なので、水の有効利用というのは農業にとって非常に重要な課題なので、そういうことをするために(開発が行われています)。

実はこのスプリンクラーは画期的なものでして、関係者が見たら非常にびっくりするんですね。まあ素人が見ても、何のことやらという感じなんですけど。奥のほうだけ水が出ていて、手前のほうは水が出てないですよね。こういうちょっとしたことが、やっと最近できるようになった。これ全米で数十台くらいやっと入ったみたいな、そういう世界なんですね。やることはいっぱいあります。

これをちゃんと使おうとすると次に必要なのが、土壌水分を正確に量るセンサーでして、向こうの茂みと手前の茂み、ここで必要な水分量は全然違いますので、「ここはこれだけ必要なんだよ」というのを計測します。

密にセンサーを配置しなきゃいけないんですけど、今最も多用されてるセンサーは、1ヵ所設置するのに40万円くらいかかってしまうんですね。そうすると(農業で得られる利益が)安くて全然割に合わないです。なので低コストのセンサーを作るのが非常に重要です。

Parrotの植物用センサーも、先ほどNobiさんのスライドで紹介されてましたけど、あれは家庭用のちょっとしたものなんですけども、もうちょっとプロが使えるようなものというのが今後必要になってくる。Parrotのようなものを改造して、ちょっとしたものを作れば作れるんですけど、だいたいこの3つの問題にぶち当たるかなと思います。

伊佐山さんがおっしゃってましたけど、プロトタイプを作るのは簡単なんですけど、簡単といっても最初のうち小ロットの製品を作るのは未だにコストがかかるんですよね。

それからやってみればわかるんですけど、電池が持たない。Apple Watchも、僕1週間電池がもったら買おうかなと思ってるんですけど(笑)。まだ残念ながらそういう感じではない。

通信はWi-FiとかBluetoothとか、無料であるのは魅力なんですけど、通信距離の点ではそれが本当の理想的な通信ではないだろうと。やっぱりSIMとか買おうとすると、固定費が非常に高くなりますね。

この3つの問題を5年後、10年後に解いていきたいっていうので、今いろいろ研究してまして、1つめの「モノの製造は安くない」というところに関して1つやっています。

これは先ほど言いました、銀ナノ粒子を使ったインクを使って回路を作る技術です。通常のプリンターのインクカートリッジの中にそのまま銀のインクを詰めると、それで電気を通すようになります。

右下のものはペンの中にインクを詰めて手で書いてるようなものなんですけど、こうパターンを書いてLEDを乗せて、それで電池を乗せるとパッと光るというようなものです。

これは従来の基板作成技術と違って、機械に投資するコストも従来の100分の1ぐらい。数万円のプリンタで十分であると。ランニングコストに関しても、A4が1枚100円程度でできます。

従来、基板製造サービスを使ってプロトタイプを作ろうとすると、データを出してから手元に届くまで1週間かかったのが、手元のプリンタで2分で印刷できると。それから製造コストに関しても、1枚作るのに最低でも1万円とか払わないとできなかったんですが、それが100円くらいでできる。

要は、試作を何度も何度も繰り返すことができて、その試作で満足なものができたら、基板製造サービスですとか、大量生産をしてくれる会社にデジタルデータを送るだけで、中国から大量の基板を、1000枚でも2000枚でも送ってくれるということができるようになります。

こういうものを使って2社目の農業用センサーをやっていこうかなと思ってまして、土壌水分センサをつけます。それで水分量のデータを地中から汲み取って、マイコンが載ってるんですけども、マイコンで読み取ってそれをネットワークで吸い上げて、広域にモニターする、というようなものを作りたい。

ここの1つのポイントとして、インクジェット印刷技術に限らず、印刷エレクトロニクスと呼ばれるもの。従来の基板よりも安く多品種作れるような、そういう技術なんですけども、それを使って安く筐体を作る。それからネットワークでデータを吸い上げてクラウドで栽培管理等をする、というものを目指しています。

IoTの深刻なエネルギー問題と対応策

実は、エネルギーの問題が本当のIoTの深刻な問題でして「センサーを作りました!」と勢いで作ることはできて、配ることもできるんですけど、その後定期的に電池交換するというのは、ほぼオペレーション的に不可能なんですよ。世界で1兆個の、一人当たり150個のセンサーのバッテリーを誰が替えますかという話でして、それはなんとかしなきゃいけないんですね。

これは本当に深刻です。そもそも、シリコンの世界やインターネットの世界は結構楽観的な世界なんですよね。ムーアの法則が未だに支配しています。1年半で半導体の集積密度が2倍になるんですよね。プロセッサーの速度が、放っておいても2倍になる世界です。10年待てば性能が100倍になるんですよね。みなさんもすごく実感してると思います。

でもバッテリーの世界にはそれは起こりません。これは結構古いチャートなんですけど、見れば明らかなように、CPUやディスクのキャパシティに比べるとバッテリーはほとんど進化してないも同然です。

これは日本の経産省関係の団体のNEDO(ネド)が出した、二次電池の技術開発ロードマップです。研究開発が順当にいったらこれだけの性能になるだろうというのがあって、ここから先の予測も立てています。文字が小さくて見えないとは思うんですけど、10年で今のものの2〜3倍です。

テスラとか電気自動車が流行っていますが、今200〜300キロメートルの航続距離ですかね。でもこのままなら、10年待ってもたぶん2〜3倍にしかなりません。細かい改良で更にそこからストレッチすることはできると思いますけど、我々がiPhoneやインターネットで経験したようなハードウェアの進化は、今後は期待できないというのが冷静な判断です。

エネルギーが足りない、バッテリーが交換できない、じゃあ何をしなきゃいけないかというと、1つの方法は、周りにあるエネルギーで何とかまかなう方法です。

例えばソーラーパネル、これはいっぱい展開されてますけれども、このぐらいの量ができます。これに見合うような消費電力のシステムなりにアプリケーションの作り込みを考えると、結構うまくいく。

他にも振動とか熱とか、人の動き、電磁波とか、いろんなものでいろんなエネルギーが取れます。これはiPhoneやApple Watchを動かせるとか、すごいエネルギーではないんですけれども、チップの性能が上がってだんだん消費電力自体も下がってます。

少ないエネルギーでよりたくさんの仕事ができるようになってるので、すごく微々たるエネルギーでもいろいろできるようになると思います。このへんはアプリケーションをうまく考えれば、このシーソーのバランスが取れる日がすぐ来るのかな、とは考えています。

ロボットの24時間稼働を可能にする電力技術

我々のところでは電波に着目してまして、電波というのは通信機器には必ず扱える要素があるんですね。アンテナがあります。アンテナがあると、それだけで電波を受けることができます。受けたエネルギーを普通は通信に使うわけなんですけど、そのエネルギーを回収するのに使ってもいいんじゃないかというので考えてます。

東京タワーやスカイツリーのような放送塔から放送用電波が出てますけれども、その電波を受けてだいだい100マイクロワットぐらいのエネルギーに変換して、小さなマイコンを動かして温度を計るというプラットフォームを2007〜2008年頃に作りました。

携帯の基地局からでも、取ろうと思えばちょっとだけですけど取れます。ただ、学者なので警鐘を鳴らすのも大事かなと思うんですけども、これですべてのエネルギー問題が解決するわけでは全然なくて、iPhoneやApple Watchを動かすのは、環境の電波だけではまだまだ無理です。

それなら時代を待つしかないのかと言ったらそうでもなくて、電波のもうひとついいところは、振動や光と違って、なければそこにエネルギーの場を作ることができるんですよね。

アンテナを置いて電波を出してやれば、その電波に乗せてエネルギーを送ることもできるようになっています。それでやっているのがこの無線電力伝送で、しかも私たちのところが注目しているのがマルチホップ型で、磁界共振結合と呼ばれる方式を使ったものです。

コンセプトとしては、カーペットのタイルのようなものを、すごく薄型にコイルを作って、空間中にあるようなもの、面に接しているような所にエネルギーを無線で届けるというものです。

コンセントや電源コードを無線化するのと同じだと思ってください。赤い所が電源の供給元、コンセントのようなものがあって、そこからエネルギーを受ける。例えばロボットとかテレビとか、そういったものに仮想的なパスを作ります。

こういうパスを作って、パス上をエネルギーがじわじわと伝達するように条件を作ることができます。

せっかくなので、どうやるかという話なんですけど、結構難しいんですよね(笑)。コイルを2つ置くと共振周波数が割れるという現象が起こって、それを東大の優秀な大学院生に式を解かせると、こういう2つの方程式が出ます。この式になるように、このLという相互インダクタンスの値を調整すると、いい感じに電気が流れてくれます。

2つ置くと山が2つできて、本当は真ん中で最大になってほしい効率が、ボコッとへこんでしまいます。6つ並べると、こういうジグザグになって全然うまくいかない。

これをさっきの魔法の数式で調整してやると、フラットになってくれる。これで、私たちは特許を取っていますので、これを実用化してくれる人も募集しています(笑)。社長さんとエンジェルさん、募集してます。

地味なデモンストレーションなんですけど、それができるようになると……。右下のパソコンで赤いところをクリックしました。クリックするとそこに仮想的なパスができて、扇風機が回り始めます。

今度は一番右のLEDのところをクリックします。そうすると、またそこに仮想的なパスができて光ります。これ、それぞれのタイルは全然繋がってなくて、ただ置いてるだけです。なので家を建てるときにペタペタとタイルを貼っていくだけで、結線なしにこういうことができるようになります。

何に使えるのかというのはぜひ想像してほしいんですけれども、例えばKivaロボットという、アマゾンが買収したロボットなんですけど。工場内での物の整理ができます。棚が自動的に動いてくれて、必要なものが集まってくれる、そういうことをしてくれるロボットなんですけど、24時間稼働することができます。

ルンバというのは、掃除してくれる時間と充電してる時間が必要で、24時間働けないんですけど、こういう環境があるとできるようになります。

スマホはキラーアプリケーションになりえない

もう1つの問題、無線技術について紹介します。最近結構いろんなチップが出てきて、無線規格も出てきてかなり変わったなという印象はあるんですけれども、一言で言うといろんなトレードオフがあります。カテゴライズするとだいたいこんな感じで、横軸が通信距離、縦軸が速度ですね。

さっきの農業センサーをやろうとすると、できれば畑から家まで数キロメートル飛ばしたくなりますが、そうすると今3GかLTEとか、そういうのを使うしかありません。

今IoTで流行っているのは、BLEとかNFCとかそういうユーザーの身の回り1メートルのところでちょっとしたデバイスを、スマートフォンを軸にして吸い上げるというような話が多いんですけれども、1兆個のセンサーを置くなら、そこが本命ではないんだろうなと思います。右上のほうがうまく解決してくれるといいんだろうなと思います。

ですが、青い字で書いてるんですけど、そこを使おうとすると非常に問題になるのが、電力の問題ですね。帯域を上げようとすると数ワットのエネルギーを使って、太陽電池で言うとこのテーブル1つ2つ分くらいのものが必要になって、もう全然動かないわけです。

これがどうにかならないのか、イノベーションは起こらないのかという話なんですけど、起こらないです。

シャノンの通信路容量という公式がありまして、通信路容量Cは、使う帯域と信号強度とノイズ、この3つのパラメータで決まります。したがって、遠くまで飛ばそうとするとSを大きくする、すなわち電力を大きく使うしかないわけです。

見ていただくとわかるんですけど、左から右にいくごとにエネルギーは10倍とか100倍になってます。これはもうどうしようもないです。

さらに、速くするにはどうすればいいかというと、Sを大きくする、あるいはBを絶対的に大きくしなきゃいけないんですね。たくさん周波数を使わないといけない。そうすると、エネルギーをたくさん使っちゃうわけですね。

どっちにしろエネルギーはたくさん使わなきゃいけないので、細かい省電力手法、チップの消費エネルギーが2分の1、3分の1になりましたというのは起こると思うんですけど、10分の1とか100分の1というのは結構厳しいと思っています。イノベーションが必要です。

IoTをずっと見てきて思うのは、モノが通信をするようになることがやはり本質的なことだと思うんですよね。スマホと拡張してっていうアプローチが今ほとんどだと思うんですけど、スマホって所詮、人が契約するものなわけですよ。スマホが必ず必要になるサービスというのは、人口以上に伸びないはずです。

そうすると、本当のキラーアプリケーションってまだ見たことがないようなもので、スマホを捨てるようなサービスができたら、本当の勝ち組になれるんじゃないかなと考えてます。

あとは、Nobiさんのセキュリティの話もありましたけど、もっと長い目で、30年規模で業界を見てみるとおもしろくて。電話網の時代、インターネットの時代は電話会社が置き換えたという歴史がああります。

電話網の時代というのは、ネットワーク自体がインテリジェントだったんですね。端末はシンプル。電話線は電源も供給できるので、本当に単純な端末で、ダイヤルをくるくる回すだけで世界中どこにでもつながったわけです、ネットワークは賢いので。

インターネットは真逆の発想で、コンピュータという何でもエッジでやるような端末で、中の網を非常にシンプルにすることで総合接続性を非常に高めたという歴史があります。

IoTではまたその逆転が起ころうとしていて、無数のシンプルな機器が繋がれる。そうなると必然的に、今のシンプルなインターネットで展開しようとすると、いろんなほころびが起こるんだろうなと思います。そのへんを解決できるようなプラットフォーム事業者なりが出てくると、次のインターネットというのを握れるんじゃないのかなと思います。

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