CLOSE

モノ作りベンチャーの最新トレンド(全5記事)

WiL伊佐山氏「ベンチャーがハードを作るのは難しい」お金をかけずにIoTで価値を生み出すアイデアとは?

2015年6月12日に開催されたIVS 2015 Springの本セッションに、WiL・伊佐山元氏、ITジャーナリスト・林信行氏、東京大学・川原圭博氏が登壇。モデレーターを務めるソラコム・玉川憲氏の進行で「モノ作りベンチャーの最新トレンド」をテーマにディスカッションをしました。伊佐山氏は、スタートアップがハードウェアを作ることの難しさについて、従来のソフトウェアやネットワークを活用してIoT分野に付加価値を生み出すことの可能性について語りました。

スタートアップがハードウェアを作る難しさ

玉川憲氏(以下、玉川):IoTの周りには非常に投資のお金も集まって、メガが出てきている一方で、アーリーステージのものが投資家から見ても非常に難しいというご意見で、参考になったんですけども。

伊佐山さんはポートフォリオの中でもIoT系であったり、ハードウェアのビジネスを持たれていると思うんですけれども、実際どうなんですかね?

ソフトウェアやインターネットビジネスと違って、どこかの特有のタイミングで非常に難しくなるとか、実はこの辺はメリットがあるとか、そういったところってありますか?

伊佐山元氏(以下、伊佐山):たぶんこの後にもお話があると思うんですけど、やっぱり今センシングするデバイスってハードじゃないですか。「IoT」の「Things」なんで。やっぱりハードを作るというのは、ベンチャーにはすごくハードルが高いと思うんですよね。

今までのベンチャーはソフトウェアでお金がかからなくて、知恵とパソコンさえあればできるという、ある意味ものすごくフラットな環境で勝負できる産業だったところが、ハードになった瞬間に、製造のプロセスや高い金型、量産するための工場、センサー、半導体のデバイスであればクリーンルームが必要だったりということで。

今までのベンチャーの価格と真逆のところから始めなきゃいけないという意味での難しさはあるので、ハードウェアのベンチャーをスタートアップがやるというのは、めちゃくちゃハードル高いと思うんですね。

だから今、いろんなハードウェア向けのコワーキングスペース、高い設備を置いてあげて、「使ってくださいね」みたいなものが流行るのはすごくわかるんですけど。

玉川:DMMさんとかですね。

伊佐山:そうですね。DMMさんとか、アメリカでいうとテックショップみたいなのがあるんですけど。そこで作れるのは所詮プロトタイプ止まりで、量産品とプロトタイプ品はものすごく大きな壁があります。

WiLの共同創業者(コファウンダー)の西條(晋一氏)が、今ソニーと一緒にジョイントベンチャーで、家の中をスマートにしようというテーマで「Qrio(キュリオ)」という会社を作って。

僕は、「家の中をスマートにするならまず入口からでしょ」と思って、鍵、始めはドアという案も入れていて、「ドアをスマートにしたらもっと簡単じゃないの」という話もしたんですけど、まあとりあえず鍵を作ったわけですね。

西條さんがソニーに行って、プロトタイプを作って、「これであとは量産だ!」ってなった瞬間に、「いや、こんなの量産できませんよ」ってダメ出しが入って(笑)。またゼロから作り直し、みたいな。もう笑い話のような……西條さん的には引きつってたと思うんですけど。

僕は現場に毎日いるわけじゃなくて、普段は役員としてコミュニケートしているので、大変だなと思いながらそれを見てましたけども、

経験を持っている人でも、いろいろ準備したにも関わらずそれだけのハードルがあるという意味では、ハードは本当に「ハード・イズ・ハード」って言われてるように「ハードウェア・イズ・ハード」じゃないですけど、すごくハードルが高いなと。

ベンチャーがIoTに見出せるチャンス

伊佐山:他方、いろんなメーカーとIoTの議論をしてわかったチャンスは、ソフトウェアやネットワークで何をするかというアイデアは弱いんですよね。

やっぱり日本のメーカーは、「IoTはチャンスだ」ってみんな言ってるんですけど、ハードを作るところに目を向けがちで、その後の付加価値の出し方はわかってるようでほとんどわかってないということがわかったので、これはチャンスだと。

なので、玉川さんの会社にも投資したわけですけども、繋がってセンシングされたもの、集められたデータがどうやって分析されると役に立つのか、そこはまさにクラウドやソフトウェアの勝負なので、いろんな形で付加価値は出せると思っていて、そこはいろんな方がアイデアを持ってやってるので、私もいくつかあるんですけれども、そこはいくらでもベンチャーが取り組む余地はあるかなと思います。

玉川:なるほど、ありがとうございました。ところで、川原さんは研究をずっとやられてるわけですよね。ハードウェア周りの研究で、今IoT周りにお金が集まってるというところがあるんですけれども、研究はどうなんですか? やっぱりハード周りにお金は集まるんですか?

川原圭博氏(以下、川原):ものすごく集まってますね。これまで情報通信の研究はソフトに閉じてたり、プロトコルを作ったりというのが多かったんですけども、実世界に存在するちゃんとした問題を解くためには、やっぱりハードウェアと絡めて、みたいな話があって。そういう提案は増えてはいますね。

玉川:川原さんのところも、お金が集まっているということなんですかね?

川原:まあ、研究費なんで必要な分だけいただいてます(笑)。

玉川:ありがとうございます。伊佐山さんから、全体的な米国投資の動向をお伺いしたんですけれども。次は、アメリカから帰ってきたばっかりで、昨日の夜に着いて食べるものがなくて、そのまま今日飢餓状態でセッションを迎えられた林さんのほうから(笑)。

IoTビジネスが加速した背景

林信行氏(以下、林):まさに今、玉川さんがおっしゃっていたように、IVSとWWDCが重なってしまって、家にも寄らずに昨日サンフランシスコからやってきました。私はどうしてもApple関係のジャーナリストという形で知られてることが多いと思うんですけれども。

実はそれ以外の活動として、今年からグッドデザイン賞の審査員やジェームズダイソンアワードという、英国ダイソン社の財団がやってる学生向けの工業デザインコンテストの審査員もやってたりします。

それ以外にも、今月の始めにバイドゥさんに買収されたpopIn(ポップイン)という会社のアドバイザーをしていたり、オウンドメディア作成プラットフォームを開発するリボルバー社の社外取締役、さらにはクチュールデジタルという会社にも関わっています。この会社はまだ活動をあまり明かしていませんが、ファッション分野でのeコマースにおいて激震を走らせるんじゃないかなと思っているベンチャーです。

それに加えて、いろんな日本のメーカーさんが参加する、iOSコンソーシアムの顧問もしていて、ここいら辺の活動でもIVS参加のみなさんと連携できたらいいなと思ってます。

Internet of Thingsって、改めて何のことか言う必要もないんですけれども、今年の1月にあったCES(Consumer Electronics Show)では、クァルコム社がInternet of Everything、IoEなんていう言い方もしていました。

昨日ちょうどGoogle社が、都市をデザインするサイドウォークという事業を発表してましたが、そのようにこれからモノだけじゃなくていろいろなセンサーや、ハードウェアですらないモノがどんどんと繋がっていくことを考えると、Internet of Everythingのほうがいい言葉な気がしています。

先ほど伊佐山さんも言っていた通り、呼び方こそユビキタスだったりと違うものの、同じような概念はずっと昔から繰り返し言われてきました。

そんな中で、なんで今IoTが大きめな波に見えるのかというと、センサー自体が多様化したこと、バックボーンとしてのクラウド環境が充実してきたこと、それから今朝のLaunch Padにも登場した優秀な人工知能が出始めてきたことも関係あると思っています。あとはやっぱり使う人の慣れ、タッチセンサーとかそういったものに慣れた人が増えたというのも大きな環境変化じゃないかと思います。

今注目すべきIoTの活用分野

:IoTの活用分野ですが、橋が老朽化していることを教えてくれるセンサー、これもIoTだと言われています。実際、こうした渋いIoTこそ数が多く出そうですよね。インフラ・エネルギー・製造管理に使われるセンサーも同様でしょう。Googleのサイドウォークとかで活用されそうなIoTですよね。

スマートシティ、メディア機器、環境モニタ、こういったものも含めて本当はIoTなんですけれども、今おそらく一番注目を集めているのは、スライド一番上の列の分野、ホームオートメーションだったりとか、交通、それから医療ヘルスケアの分野じゃないかなと思います。

なんでこうしたコンシューマー向けIoTがこれだけ盛り上がってきたのかというと、BluetoothやWi-Fiなどのデバイスがどんどん小型化・統合化されていって、低価格化もされていった。今はもう、Wi-Fi対応のテレビを作るにもほとんどコストがかからない。

それに加えてArduino(アルドゥイーノ)とかが流行ってきたんで、ソフトウェア制御可能なものが圧倒的に作りやすくなってきたというのもある。ソフトウェアの開発は非常に重要なキーワードだと思うんですけれども、そのための環境も以前とは変わってきたというのもある。

それからなんといっても、スマートフォン・タブレットが普及してきて、この後少し話しますけれども、スマートフォンがいろんなIoTのリモコン、あるいは部品になってきたという側面もあります。ここらへんのことはさっきの伊佐山さん(のお話)が詳しかったので飛ばしちゃいますけれども。

ユーザーのスマホと連携させた製品の台頭

:スマートフォン、タブレットがこれだけ普及してるじゃないですか。部品になってきたというのはどういうことなのかを説明します。

例えば、スライド真ん中にいるこのぬいぐるみも、普通の布のぬいぐるみだと抱っこしておしまいなのが、このスマートフォンをぬいぐるみの胸元のポケットに入れてあげると、このぬいぐるみが急にしゃべれるようになり、タッチ操作にも反応する、アニメーションも表示できる、といった具合に進化します。

この左上のおもちゃにしても、今はピアノのおもちゃでしかないのが、設定を変えればギターにもなればマンドリンにもなるとか、いろいろ変えることができる。こういうapp toy(アップトイ)というものがアメリカですごく増えてきています。

トイザらスの棚を見ても、右下のほうにある釣り竿にiPhoneを入れるとブルブルってiPhoneの振動でアタリが来て、釣り上げると何が釣れたというのが表示されるようなものから始まって、こんなに数が出てきてるというのがあります。

スマホやタブレットは、中にタッチスクリーンもあれば、マイク、スピーカーもあれば、通信機能も入っている。Wi-Fi、大容量フラッシュメモリーとか、すごい(技術の)宝庫じゃないですか。

この1個1個の部品をおもちゃに組み込もうとすると、それだけでコストがガーンと高くなってしまうところが、すでに大勢の人の手元に(スマートフォンが)あるんで、これをうまく活用しちゃえばおもちゃも低コスト化ができるんじゃないか、そういった見方もあるんじゃないかなと思います。

しかも、このスマートフォンという部品が、アップルのiPhoneだけでも年間2.1億台のペースで売れていて、スマホ全体では12.5億台出ています。これだけユビキタスな操作機器というか、インテリジェンスを足せるデバイスが家庭に部品として転がってるのなら、これを自社製品と連携させてしまったほうが、操作面でもセンサー面でも有利です。

例えば、テレビもWi-Fiが入っていて、100何十個ついてるボタンを選んで押す付属のリモコンじゃなくて、スマホだったらサーッとスクロールして番組表からパッと視聴・オンエアができるようなリモコンができる。エアコンも、もっと設定や状態を記録できるようなリモコンになる。

掃除機なんか、今年ダイソンも出してきますけれども、(自分が)部屋のどこにいるかということを理解して、カメラで撮ってくれるような、そういった室内監視移動型ロボットみたいな側面も掃除機にあったりとか。

あとスマートロックも僕は本当にアツいと思っています。なんでアツいかというと、例えば金沢で町家さんをいっぱい買って、それを全部スマートロックに変えちゃう。Airbnb(エアビーアンドビー)でそれをリスティングすれば、メールで鍵が送れて部屋を貸せるサービスにもなる。

IoTの普及は、そういったアプリケーション、どう応用するかもセットで考えていくと、おもしろいと思います。家の鍵だけじゃなくて、自転車の鍵、車の鍵がスマートになれば自転車シェアリング、自動車シェアリングになりますよね。

スライド右下にスターウッド(ホテル&リゾート)が出てますけれども、これは何かというと、Apple Watchがスターウッド系のホテルの鍵になるという話です。フロントを素通りしちゃって、いきなりApple Watchからホテルにチェックインすると部屋番号が発行されて、その部屋に直接行って、Apple Watchで部屋の鍵を解錠して中に入れる。こんなものもできてます。

おもしろいところでいうと、トイレなんかにもIoTが関わってきていて、リクシルの旧イナックス部隊の人たちが、ふたの開閉だけじゃなくて、なんと記録が取れる(笑)。変な趣味じゃなくて、これを使って健康管理をしよう、こんなトイレも出しています。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 1年足らずでエンジニアの生産性が10%改善した、AIツールの全社導入 27年間右肩上がりのサイバーエージェントが成長し続ける秘訣

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!