教育系は全く熱くない

藤田功博(以下、藤田):それでは次のセッションはスペシャル対談ということで「日本のスタートアップの今後」というテーマでお話いただきたいと思います。ライフネット生命保険株式会社から岩瀬様、株式会社gumi から 国光様、よろしくお願いいたします。

国光宏尚(以下、国光):次の2014年のベンチャー、「日本のスタートアップの今後」ということで、ではLaunch Pad (IVS内で行われるスタートアップによるプレゼン大会)の話から(Launch Padのまとめ記事はこちらから)。

岩瀬大輔(以下、岩瀬):ちょっとしか見れなかったんですけれど。ドリコムさんのやつ(参照記事)とか、教育系のやつを結構見てて、逆にお伺いしたかったんですけど。僕、ベネッセの社外取締役を6月からやっていて。子供をもつ親が対象のビジネスなのでライフネットともかなり被るところもあるので。色々勉強になるし、何か将来一緒にできたらいいなあと思いながらやっているんですけれど。教育系のベンチャーが熱いみたいですね。国光さんから見てどうなんですか?

国光:現実的には全く熱くないですね(笑)。

岩瀬:あ、そうなんですか(笑)。なんかアメリカのバリエーションがすごい高いとか。

国光:結局のところ一切今のところ皆儲かっていなくて。教育系のベンチャーってザクッと言って二つに別れると思うんですね。一つは教育って言っても「子供向け」って感じのところ、学校行く前のそういう子供に向けての教育と、あとはもうちょっと上の世代に向けての教育という感じにわかれていると思っていて。日本の場合は子供に向けてやるのが多くて。

岩瀬:タブレットの子供が喜ぶやつか。今朝の親とコミュニケーションとかいうやつ(参照記事)ですね。

国光:それと比べて今アメリカのほうで盛り上がっているのって、ハーバードだったりとかスタンフォード大学だったりが大学の授業を公開してきて、その公開データを使ってどういうふうにしていくとか。

岩瀬カーンアカデミーは高校生とかに勉強教えるんでしたっけ? 分かりやすい授業をネットでやっているというやつですよね。

国光:そうですよね。そういう感じでいくと割と大人向けと子供向けというところでけっこうわかれているんじゃないかなと思って。だから教育って結構、アメリカと日本で盛り上がっているところが違う。アメリカも教育がすごい盛り上がっているじゃないですか。でもアメリカで教育が盛り上がっているのって、本質的にNPOとかも含めて「Teach For America」みたいな感じの、新しい教え方の形、ただ覚えさせていくだけでなくて、自分で考えたり自発的な感じの新しい教育の仕組みを作るとか。あとは大学の授業で閉ざされていたやつが公開されていってどう変わっていくというような感じの、割と大きなところのくくりのところの議論が多かったり。

"小粒感"が目立つ日本のスタートアップ

岩瀬:日本は割とコンテンツに近い感じなんですか? 子供向けの。

国光:でも結構多いですよ、それ。ちょっと話飛んじゃうけど多いのが動画のほう。「スマートテレビ」とか今噂でしょう。スマートテレビもアメリカと日本の議論で全く違うんですよ。日本って未だに、日本の家電もそうだしテレビ局もそうだけど、テレビで番組を流すとか、ようやく『半沢直樹』が何日か遅れで流したことがすごいみたいな。でもそんな議論アメリカではないんですね。アメリカでは基本的に同時じゃないですか。(日本では)テレビを見ながらツイッターで突っ込むとかその程度。「やらないだろそんなの」とか。未だにスマートテレビをパナソニックがどう作るとかなんとか言っているんですけど。

スマートテレビの議論なんてアメリカではとっくに終わっていて。要するに「でかいタブレット」がスマートテレビみたいな感じがアメリカ。その中でのイノベーションが、向こうで言ったらマルチチャンネルネットワーク、MCNと言って。要するにYouTube を使った形でのバーティカルのコンテンツを配信していくチャンネルを作っていくという。単純に言うとケーブルテレビがテレビに出てきたときに、もともと地上波だったら何でも流すのが地上波みたいな。そのときにケーブルテレビでユーザーごとに送れるようになって。

その時にはじめてバーティカルチャンネルが出来たんですね。そのバーティカルチャンネルが、例えば若者に向けた音楽クリップのYouTube 、ニュースだけ流すCNN、スポーツだけのESPNとかそういう感じで出来てきたっていうところで一気にユーザーを獲得した。結局ネットとでかいタブレットがYouTube とかに繋がって、世界中にコンテンツを送れるようになって、より細分化されたバーティカルチャンネルみたいな感じの、要するにテレビとかケーブルテレビをディスラプトしていくというのが方向性なんだけど。

岩瀬:日本はあくまでも今の枠組みの中でのちょっとした進歩なんですか。

国光:そう。だから結局のところアメリカと日本のベンチャーを比べてすごい思うのは、まさに「枠組み」といったみたいに、向こうは今までの教育の仕組みを変えるみたいな。「詰め込み学習って意味ないよね」っていう感じだったりとか。大学も、ただ授業を教えるんじゃなくて、それをベースに考えるコミュニティが大学だっていうのを置くからコンテンツをどんどん出したらいいとか、テレビでもそういうところを使って、ケーブルテレビをディスラプトするとか。日本の枠組みの中でどうこうじゃなくて。

岩瀬:今朝呟いていたのが「色々面白いのあるけど小粒だね。業界の枠組みを変えるような、大きなビジネスが生まれるような感じのは出ていないよな」というのはそういうことですか?

国光:そう。だから結局は全部今あるものをより良くするとか、結局教育と言っても今の教育の仕組みに乗った形で、「受験が楽になりますよ」とか。そんな、今の受験続ける意味あるの? と。そういういうのが多くて。全部の感じが割と小粒なのが多いかなと。

日本のベンチャーは増えている?

岩瀬:関連しているんですけど昨日のLaunch Padも含めて、ベンチャー界の外の人に聞かれるんですけど、「日本ってベンチャー増えてるの? どうしたらもっと増えるの?」と。感覚値としてここ(IVS)に来ると、すごく層は厚くなっている気がするんですけど……。今の二つの質問について国光さんはどういうふうに考えられていますか?

国光:そういう意味でいくと、僕ITのほうに入ったのが7年くらい前で。もともとはテレビとか映像系だったから。その時からって感じだけど、めちゃくちゃ増えていますよ。実際「小粒」って言ったけど、元々はビジネスモデルすらない思いつきみたいな感じっていうところだらけだったから。それでいくと皆ちゃんとストーリーもあるし、小粒ではあるけどちゃんとしたビジネスモデルもあるし成長プランもあるから、そういう感じでどんどん……。

岩瀬:進化していると。

国光:めちゃくちゃ進化していると思いますね。

岩瀬:昔はLaunch Padもアイディア的なものとかプロトタイプくらいしかなかったのに、最近はお客さんが一万社いますとか、売上が、とか。そういうところが層が厚くなっているという感じですか?

国光:そういうところはもう確実に。シリコンバレーがすごいところだと言っても、彼らだって何十年とか、100年近くああいう感じをどんどん繰り返していく中でFacebookやGoogleが生まれてきているので。日本の方もここから何回転か回っていくとけっこう大きく(なるのでは)。とくにサイバーエージェントの西條 さんもそんな感じでああいう感じで辞めて自分でやるような人が。

岩瀬:スピンアウトして、楽天とかヤフーとかサイバーエージェントとかを出て、また次の会社を生んでいくというエコシステムが出来始めている気がします。

国光:そう。だからこのエコシステムってそんなに簡単にすぐ出来るものじゃなくて。やっぱり積み重ねの上で。例えば、俗に言うエンジェル投資家というところも、僕らがやった頃でいうと、事実上本当に片手で数えるくらいしか(いなかった)。川田さん、小澤さん(現在ヤフー)、松山大河さんとかこういうのしかないなかったけど。今、結構そこにエグジット(会社を売却)した人も増えて。けっこう裾野って大きくなってきてるんじゃないかなと思いますね。

国はまずは「邪魔をしない」こと

岩瀬:よく官僚の人に聞かれるんですけど「政策的に何が出来ますか?」って言われることがあるんですけど、何かありますか? ベンチャーを増やすために。

国光:ありますよ、政策的な感じでいうとまず一つは「邪魔をするな」でしょ。これが肝心なところで一番でかいのと。あと一番シンプルにできるのが「挑戦するのはいいんだ」という空気感。

岩瀬:僕もそれ全く同意ですね。

国光:とにかく空気感だけでも「挑戦したらいい」と。たまに法律とかでも既存の法律の枠組みに収まらない時も出てくるじゃないですか。それでもやっぱりトライするのはいいと。孫泰蔵さんが何かの記事で書いてたけど、「オプトイン」と「オプトアウト」みたいな。

岩瀬:原則やっても良くて、ダメだったときは怒られるよみたいな。

国光:ダメだったときに、とりあえずいいか悪いかわからないこと、ルールに書いてないことはやっちゃダメじゃなくて、ルールに書いてないことはやってもいいと。ただその上で問題が発生してきたらお互い話し合って早期に直していこうよと。そういう感じのカルチャーを作っていかないと。

日本で言うと、「やっていいって言われていないことはやったらアカン」みたいな。この部分を直していって。ここってシンプルに官僚とか政治家を含めたメッセージだと思うんですね。「日本というのは挑戦する人を応援します」と。応援したところで枠組みが無かったらとりあえずやっちゃえと。その上でもしダメだったり問題が出たら、そこで直していけばいいと。そういう空気感がね。

安倍首相に起業家を褒めてほしい

岩瀬:結論は全然アグリーなんですけれども、空気感を作ってというのもなかなか難かしそうで。僕もう一つできるなあと思うのが、やっぱり教育って大きいなと思うんですよね。留学していて、ベンチャーやるのってかっこいんだぜっていう。どんな小さな会社でも自分でゼロから起こすのが、そういう生き様がかっこいんだぜっていうのを叩き込まれたんですね。自分の日本の大学ではそういう話全然なかったので。教育というか、そういう多感な時にそういうことを吹き込まれるのはすごく良いと思ってて。我々皆最近大学に呼ばれて話しに行ったりするじゃないですか。ああいうのもいつか効果が出てくるんですかね。

国光:そこのところでいくと、若者は変わりつつあると思うんですね。ただ未だに親とかマスコミとか含めて、エスタブリッシュなところが変わっていないんですよ。エスタブリッシュなところは自分たちがエスタブリッシュな人生だから、こっち(若者)がすごいというとこっち(エスタブリッシュメント)が否定されるみたいな感じも出てくるから。むしろ、単純だと思いますよ。安倍首相が先に言えばいいんですよ。なおかつ安倍首相が僕のところに来て褒めればいい。「国光さんすごいね、こんなに頑張って。雇用こんなに増やしたの」って。

岩瀬:それだけでも全然違いますよね。

国光:とにかくまず安倍首相が僕のところ来て僕を褒めると(笑)。あともう一個、すっごい重要なことあると思ってて。最近、僕走っているんですよ、朝。

岩瀬:走っていますね、Facebook見てたら。もともと健康キャラなんですか? 不健康キャラのイメージがあったんですけど。

国光:不健康キャラだし、酒飲みまくるし。

岩瀬:夜ふかしキャラなイメージで、酔っ払いキャラですし。この間僕らの共通の友人の結婚式での大スパークぶりはインターネット界で話題になっていましたね。

国光:そう、もともとそういう感じのキャラではあるんですけど、ただビジネスをやっていくと海外出張とか色々行くじゃないですか。だけどやっぱり体力がすごくいるじゃないですか。体力がないと働く気がないでしょ。

岩瀬:多分そう思い始めたのがやっぱりもう歳に……。自分もそうなんですけど、もう37なんで。若い頃はそこまで考えずに突っ走ってきたけど。

国光:リアルに最近疲れるようになってきて。海外便とかでも、気の利いた便で夜に出発して朝着く便っていう、あの迷惑な便があるでしょ。あれとか、スケジュール入れれるから入れちゃうんだけど、着いたあとに絶望感しかないじゃないですか。でもやっぱりグローバルでいくんだったらそれじゃだめだと思って、走り始めたんですよ。

走るとね、毎回とりあえずFacebookに上げるわけですよ。僕とにかくその時に「褒めてくれ」って書くんですね。「偉いでしょ?」と。そういうときにイイネとか「がんばってるよ」と言われるとヤル気が出てくるわけですよ。それで気づいたのが、僕もともと褒められて育った。褒められると嬉しいし、ヤル気が出るから。

岩瀬:そういう社会の空気として起業家を褒めるべきだということですか。

国光:そう。起業家じゃなくてもいいと思うんですよ。日本って褒める雰囲気が少ない。どんなやつでも褒められたら嬉しいじゃないですか。

うまくいっているときに、さらに攻められるか

岩瀬:僕あとね、最近国光さんのスタンスって素晴らしいなって思うのが、荒唐無稽なというか、無謀なくらい大きな夢を見るというのがすごい大事な気がして。自分を含めてなんですけど、ついつい「まあこんなもんかな」と思っちゃうんですけれど。Appleのスティーブ・ジョブスの映画を見に行って、本を読んでて詳しい人は「ジョブズはあんなんじゃない」とか言うんですけど、僕は読んでいなかったんで猛烈に感動して。

何もないところから最後世界一の時価総額とかになるわけじゃないですか。誰でもできるわけですよね、やろうと思えば。もちろんジョブズはすごい天才ですけど。ついつい「自分たちはそこまでできるなんて思っちゃいけない」みたいに思ってしまうんですけど。でも国光さんはずっと言いまくってるじゃないですか。「一兆円くらいすぐいくぜ」とか。「ソフトバンクの孫さん、ユニクロの柳井さんすぐ抜くぜ、待ってろよ」とか呟いてましたよね。そういう「できるんだぜ」っていう空気を作っていくことってすごい大事だなと思いました。

国光:ですよね。でも一兆円くらいいきそうですよね、もうそろそろ。でも僕一個気がついたのが会社作って起業していくときに、若い子で起業するとなってくると、二つ重要なポイントがあると思っていて。結局自分自身に打ち勝てないやつは成功しないじゃないですか。二つのでかい試練があると思って、一つ目の時は会社が潰れかけのときがあるじゃないですか、立ち上げて。どうしようもない時に頑張って乗り切れるかどうか、これめちゃくちゃ重要でしょ? 

岩瀬:gumi もあったんですか、そういう時期が?

国光:いやうち三回くらい潰れましたからね。つい最近も潰れかけていましたし。ようやくここで復活みたいな。三度の地獄から復活って形なんですけど。この潰れかけているときに頑張るというのは多くの人が挫折しちゃうけど結構あるじゃないですか。でも決定的に重要なのってこの後のところで、ある程度成功してくるでしょ。資金調達もいっぱいして売上とかも上がってくると段々「潰れることないかな」と思ってくるじゃないですか。なおかつ良いスタッフとかも揃ってくるでしょ。社会的にもチヤホヤされるようになってくるでしょ。っていう感じになってきたときに「このくらいでいいかな」みたいな。そういう疲れてきた時に耳元で「一番じゃなくちゃダメですか?」みたいな。多分ほとんどの起業家はここで辞めちゃうと思う。

ここ(一つ目の試練のとき)は頑張らないと潰れる。ここ(二つ目の試練の時)は頑張らなくても潰れないじゃないですか。そこでもういっぺん「会社潰れてでも……」とか。ソフトバンクの孫正義が一番凄いと思うのは、それで痺れたなと思うのが、孫さんから結構影響受けているんですけれど。やっぱりスプリントを買収したときに、ツイッターで「守りに入りかけてた己を恥じる」って。ビビリましたね。「えっ、今まで守ってたの!?」って。「守ってたのか孫正義!」と。電話事業だなんだって攻めまくってたようにしか見えなかったのに。あれ見た瞬間に俺と彼の距離はどれだけあるんだと思って。そこのところでさらにもう一歩みたいな。

岩瀬:そういう意味では、このIVSのコミュニティや仲間ってすごい大事だなと思うのが、常に上の人が近くにいるじゃないですか。だから「一千億になれる、三千億になれる、一兆円近くになれる」って身近な人たちがそうなっているからそう思えるところがありますよね。そういう意味では日本のネットのベンチャーコミュニティも、クラスターというか相乗効果はある気がしますよね。絶対ほかの会社に、近しいところにはとくに絶対負けたくないとか思いますし。それいいですよね。

国光:しかもここから日本のベンチャーが面白くなってきてるのが、モバイルのゲームのときって凄まじい争いだったでしょ。ほとんど全員友達じゃないですか。けっこうグローバルでリアルに勝てると思うんですね。理由は簡単で、他の韓国やアメリカの会社ってつい最近モバイルで戦い始めたくらいなんですよ。こっちは延々と熾烈な競争を生き残ってきて、さあ次って感じでしょ。だから競争って組織とか人を強くするかなと思ってて。ようやくここ以外にも、ニュースのところでもスマートニュース、Gunosyとか。とくにCtoCのショッピングとかね。

岩瀬:そういうところでも競争が始まって層が厚くなっていくという感じなんですか。

国光:そう。この中でどこが勝って負けてとかという中で強くなっていくと思うんですよね。