2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
提供:NEC
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松島倫明氏(以下、松島):本日は「人生100年時代を豊かに生きるキャリア構築」をテーマに、日本において先進的なキャリアを積まれながらご活躍されている二人をお迎えして議論を進めていきたいと思います。
さっそく、1つ目の問い「個人の能力・選択」について。パンデミックによってまさにいま人々の価値観が大きく変化している時代だと言われますが、どんな能力があればさまざまな領域を行き来しながら自分だけのキャリアを選択できるのでしょうか。まずはこれまでの人生のなかで大きく価値観が変わった経験についてお二人にお話を伺えたらと思っています。
中島さち子氏(以下、中島):価値観は日々変わりつづけている気もするのですが、私の場合は高校2年生のときに国際数学オリンピックでインドに行ったことが大きいですね。そこで100カ国くらいの方々とお会いして、いろいろな生き方があることや自分にとっての当たり前がぜんぜん当たり前ではないことを知ったんです。
ヴァーチャルの世界もすごくおもしろいし可能性は感じるのですが、リアルの空間で出会うことはやはり大きな力をもっていると思います。数学オリンピックではアルゼンチンやルーマニアなど少し変わった国に行けることが多くて、いろいろな子どもたちに会うことで生き方の可能性が広がった気がしますね。
松島:あちこちの国を巡るなかで勉強したくてもできないような子どもたちもたくさんいるという現実を見たことが、いまの中島さんの活動にもつながっているのだと思います。片野さんはいかがですか?
片野晃輔氏(以下、片野):小学生や幼稚園生のころにたくさん映像作品を観たことで、いま見えている風景も多様な人の視点を通してさまざまな切り取り方ができるんだなと気付かされたことを覚えています。ほかの人のフィルターを通すとこんな見え方になるのかという驚きを通じて価値観が変わっていったなと。
その後中高生のころは、自分の感性を確固たるものにしていくことをすごく意識していました。高校時代はどんな研究を行なうか考えるためにたくさんの人に会いに行っていたのですが、あるとき尊敬している人とおもしろい研究について話していたら「この研究はおもしろいけどクールじゃないよね」と話されていて、何だその価値観はとショックを受けたんです。技術をつくった人や研究している人の素顔を知ることで、その研究の深みにたどり着けることを知りました。いろいろな感性+αの感性というか。感性の奥で眠っていたメタ感性みたいなものかもしれません。
松島:メタ感性というのはおもしろいキーワードですね。研究といえば江村さんも長年日本の第一線で研究を続けてこられたと思うのですが、そのなかで見えてくる感性やその変化についてはいかがお考えですか?
江村克己氏(以下、江村):私はNECでずっと研究に携わっていましたが、続けていると研究の方法や物の見方が固定化してしまうんですよね。決まった生活を送っていると、価値観も徐々に固まっていってしまう。それを常にほぐしていくことが重要だと思うんですが、お二人はかなり自由にいろいろなことを感じられているんだなと。それは感性というより「感度」が高いからだと思うんです。お二人は少し違うものに気づける度合いが普通の人より高いのかもしれません。
松島:決められた場所にいると感性や感度も摩耗していきますからね。片野さんは高校からそのままMITメディアラボに進まれたことで知られていますが、固定観念を外していくような感覚は普段から意識されているんでしょうか。
片野:そうですね。いままさに生態系の拡張や人類の創意工夫の拡張について研究しているのですが、すべての人間がもつすばらしい能力の1つに、いろいろなことに「気づく・気づける」能力が挙げられると思います。
京都に不便益システム研究所という不便/不満から得られるものを研究する機関があるのですが、満たされている状態からなかなか気づきは得られないと思うんです。利便性を追求すると徐々に個人の自律性が失われていくとイヴァン・イリイチも語っています。僕にとっても、不便や不満から得られた気づきは大きい。
松島:なるほど。
片野:いま生物学の民主化をテーマに研究しているんですが、多様な価値観を取り込もうとするなかで、いろいろな問題と向き合っている人たちの声を聞き入れることが何よりも自分に気づきを与えてくれるんだなと実感しています。
松島:気づくという点では、たとえば数学も解法に気づくような瞬間がありそうだなと思っています。中島さんは感度や気付きについて意識されていることはありますか?
中島:数学や音楽って創造性の民主化の世界だと思っています。どちらも学校教育のなかでは決まった答えがあるように思われるかもしれないけれど、実際はむしろその答えを外していくようなことが大事で。先人たちがつくってきたものを完成した知として受け取ってしまうとおもしろくない。先人の知を受け取りながらも、そこから自分自身が広がっていくことが重要ですよね。それは数学や音楽に限らず人生でも教育でも一緒な気がします。
松島:数学はある種の解決に向かって突き詰めていくイメージがある一方で、音楽は決まった譜面から自由に広げていくようなイメージがあるのですが、ご自身のなかではわりと同じようなものとして捉えられているんですか?
中島:少しずつ異なる部分はありますが、似ているなと。たとえば数学でもそもそも1ってなんだろうとか、距離ってなんだろうとか、問いの枠組みを外していくことがおもしろい。ただ外せばいいものではなくて、本質は何か常に考えていかなければいけない。もちろん本質は簡単には見えないので、万華鏡のようにたくさんの顔があるものに対して、いろいろな方向から光を当てていくような行為の繰り返しなのですが。
松島:音楽も同じなんでしょうか。中島さんはジャズピアニストでもありますよね。
中島:ジャズはかなり自由度が高いんですが、もちろんフォーマットはあるんですよね。先人がやってきたことをコピーしつつ、ライブの瞬間ごとにコミュニケーションがあって、一期一会に生まれる何かがある。自分一人じゃないからこそ生まれるもの。それは数学や音楽に限らず、すべてが総合的なものなのだと思います。
江村:お二人の話を聞いていて、「氷山」を思い浮かべました。フォーマットや定式のように学べるものは氷山の海上に出ている部分で、その下側に人の想いみたいなものが実はある。それは形として見えないから伝えにくい部分なのだけれど、実はそこが大事なんだなと。
NEC未来創造会議を3年続けるなかでも、人間の内面について語られることが何度もありました。コンテキストまでは伝えられるけれど、本当の内側にあるものは一人ひとり異なっている。去年の会議ではUNLEARN/LEARNをテーマの1つに挙げていましたが、それだけだとまだ氷山の上部だけしか議論できていないのかもと想いました。
松島:片野さんのおっしゃっているメタ感度も、江村さんの言うように捉えられないものを捉えていくためのものですよね。捉えられない部分を掴むという意味では、片野さんはいかがですか?
片野:MITメディアラボでの最も大きな学びの1つとして、anti-disciplinaryという言葉があって。interdisciplinaryは学際性といって日本でもよく使われますが、学問に名前をつけてつなげていくってダサいと言っている人たちがいて。anti-disciplinaryは学問を名前で呼ぶなという考え方で、手法は無限にあるし本質に到達するためなら何をやってもいいと考えるんですよね。分野名をつけて権威づけするな、と。個人的にこの考え方は気に入っていて、明確に分かれているわけじゃないと思うんです。
たとえば身近な氷山の下側を覗く方法として、相手が普段聴いている音楽について話すことでその人の感性を探っていくようなことを僕はよくやっていて。研究や論文の話をするのは氷山の上の部分だけで、むしろパブリッシュされているもの以外について話すのがおもしろい。趣味に根ざしている部分を聞くことでその人のバックグラウンドもわかるし、なぜその人がそういうものをつくったのか少しずつ見えてくる。偏光フィルターを通してその人を見る感覚ですね。
松島:「ダサい」というのは片野さんが挙げたキーワードの1つですが、ダサいかどうかを認識することって、生物的なものなのか、あるいは人間特有のものなんでしょうか。価値観や環境が変化するなかで生物がもっているレジリエンスと、その認識はどう関係しているのかなと。
片野:僕がダサいと思うかどうかは僕個人の感性によりますが、生物も差分を見つけようとしますよね。たとえば草むらのなかに何かがいそうだったら注視するし。僕自身、昔は斜に構えていたので自分がこの人に対して時間を割いてコミットする必要があるか考えることもあったんですが、よく考えると、相手が自分にとって害かどうか、自分にとっていいことをしてくるのかどうかを探るのは、生き物らしい振る舞いなんだなと思いましたね。
松島:なるほど。しかもそれは考えながらやっているというより、無意識にやってしまっている。
片野:この研究おもしろいなと思って話を聞いてみても、その人の考え方がいまいちだなと思ったら興味がなくなってしまいますし。この人ダサいなと思ったら、それ以上深堀りしなくなる。
松島:それはもうれっきとした感度ですよね。
片野:ただ、初見でダサいとか受け入れられないとか思ったものでも、いいと思える余地はあると思います。自分の教養がないだけで、コンテキストが説明されると楽しみ方がわかったりする。選択肢自体は無限にあるので、いろいろな楽しみ方ができるんですよね。それを謙虚に受け止めていくことが大事ですよね。
松島:中島さんにも、氷山についてお伺いできたらと思います。音楽のインプロビゼーションや数学も氷山の奥深くに潜っていくようなイメージがありますが、中島さんは氷山の下部とどうかかわられていると思いますか?
中島:意識/無意識、個/個じゃないものという二組のキーワードを思い浮かべました。数学でも音楽でも無意識から何かが生まれると思うんです。意識下ではもちろんいろいろ苦闘するわけですが、徐々に無意識やメタ感性のようなものも鍛えられていく。それは失敗の重要性でもあって。失敗するということはまだ見えていないものやわからないものがあるということで、その学びは本当に大きいと思うんです。試行錯誤や悪戦苦闘のなかでこそ、自分のまだ開かれていなかった部分が鍛えられていく気がしています。
松島:なるほど、成功より失敗の方が得られるものが大きい、と。
中島:数学者も、たとえばフランスのセドリック・ヴィラニは何かが生み出される瞬間の心の状態について書いていて、最後に神様から直通電話が鳴り響くというふうに表現しているんですよね。
松島:さすがフランスというべきか、すばらしい表現ですね。
中島:わーっと音楽が鳴り響くような感じはよくわかります。一方で、数学者の岡潔などを見ていると、日本ではまたちょっと違う感覚があって。道端に咲いている小さなすみれに気づける感覚、あるがままのものに気がつける感覚が重要だと言われるんですが、そこがおもしろいと思います。若いころはとにかく強烈な刺激を求めるんですけど、深めていくことでむしろあるがままの状態が見えてくるところがおもしろいなと。
2つ目の問いにもつながるのですが、たとえばジャズのセッションでもSing your own voiceといって自分自身の声で歌うことが大事だといわれるんですが、同時に、これからの時代は個が溶けていくとも思うんです。いろいろなものが混じり合って変わっていったり、集まることで初めておもしろい動きが生まれたり。氷山の下の部分についても、単に一人の人がいるだけではなくて、個と個が溶け合っていくような部分があるからこそ重要なのかなと思っています。
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