CLOSE

アブダクション(全1記事)

アブダクションとは? 演繹法・帰納法との違いからビジネス・日常での実践方法まで解説 [1/2]

【3行要約】
・アブダクションは結果から原因を推測する思考法で、演繹法・帰納法と並ぶ第三の推論形式として注目されています。
・イノベーションの源泉となるアブダクション思考は注目されていますが、AI時代における人間特有の強みとしての位置づけと実践方法が課題となっています。
・ 組織でアブダクションを促進するには、心理的安全性の確保、多様性の促進、「問い」を重視する文化の醸成など、総合的なアプローチが重要です。

アブダクションとは

アブダクションとは、結果から原因を推測する思考法です。演繹法や帰納法と並ぶ第三の推論形式として知られており、「仮説的推論」とも呼ばれています。日常生活では「仮説検証法」という言葉で表現されることもあります。

アブダクションの最大の特徴は、既存の事実や知識に基づいて結論を導き出すのではなく、新たな仮説を導き出す「逆転の発想」を可能にする点です。つまり、目の前の現象から「これはなぜだろう?」と原因を探り、最も合理的な説明を推測する思考プロセスなのです。

アブダクションは「可能性のある説明」を生み出す推論法であり、常に確実な結論を導くわけではありません。しかし、その不確実性こそが新しい発見や創造性につながるのです。

アブダクションは、科学的発見や芸術的創造、ビジネスイノベーションなど、さまざまな領域で重要な役割を果たしています。それは、既存の枠組みを超えた「新しい価値」を生み出す原動力となるからです。

演繹法・帰納法とアブダクションの違い

アブダクションを理解するためには、他の推論形式との違いを明確にすることが重要です。推論には主に「演繹法」「帰納法」「アブダクション」の3つのタイプがあります。それぞれの特徴と違いを見ていきましょう。

演繹法とは

演繹法は、一般的な原則から特定の結論を導き出す推論法です。例えば「すべての人間は死ぬ。ソクラテスは人間である。ゆえにソクラテスは死ぬ」という三段論法がこれにあたります。

演繹法は論理的に確実な結論を導き出せますが、新しい情報は創出されません。あくまで既知の前提から論理的に導かれる結論を明らかにするだけです。

帰納法とは

帰納法は、特定の観察を積み重ねて一般的な結論や理論を導き出す推論法です。「観察したすべての白鳥は白い。ゆえに、すべての白鳥は白い」といった推論がこれにあたります。

帰納法は一般的な法則を発見するのに役立ちますが、常に正しい結論を導けるとは限りません。例えば黒い白鳥が発見されれば、その結論は覆されてしまいます。

アブダクションとは

一方、アブダクションは結果から原因を推測する推論法です。「地面が濡れている。雨が降った場合、地面は濡れる。したがって、雨が降ったのかもしれない」という推論がこれにあたります。アブダクションは可能性のある説明を提案するもので、確実な結論を導くものではありません。しかし、新しい仮説や発見につながる可能性を秘めています。

アブダクションの重要な特徴は、既存の知識や事実だけでは説明できない状況で、最も合理的な説明を探る点にあります。そのため、イノベーションや創造的な問題解決に不可欠な思考法となっています。

例えばマーケティングの世界では、消費者の行動データから「なぜこの行動をしたのか」という原因を推測し、効果的な戦略を立案するプロセスがアブダクションにあたります。また新製品開発においても、市場の反応から最も効果的な改善策を導き出す思考プロセスにアブダクションが活用されています。

演繹法が確実性、帰納法が一般化を強みとするのに対し、アブダクションは「新しい可能性」を生み出す力を持っています。不確実な現代社会において、アブダクション思考の重要性はますます高まっているのです。

アブダクションとイノベーション

アブダクションは、イノベーションや新しい価値創造の根幹となる思考法です。イノベーションを起こすには、既存の枠組みを超えた発想が必要になりますが、それこそがアブダクションの本領です。

イノベーションのプロセスを考えると、まず市場や顧客の現状を観察し、そこから得られる事実(ファクト)を集めます。次に、それらの事実から意味を見出し、洞察(インサイト)を導き出します。そして、その洞察に基づいて将来の展望(フォーサイト)を描き、具体的な行動(アクション)に移していきます。

このプロセスの中核を担うのが、アブダクションという思考法です。ファクトからインサイトを導き出し、さらにフォーサイトへと発展させる過程では、既存の知識や常識では説明できない「飛躍」が必要になります。その飛躍を可能にするのが、アブダクションなのです。

「行動観察」の第一人者である松波晴人氏は、次のように述べています。
新しい価値・サービス・商品を考える時に、従来はアンケートを取ったり、インタビューをしたりしてきました。もちろんそれも重要なことだと思います。ただ、それは氷山の見えている部分で、お客さまがニーズを自分で言語化できる「顕在化ニーズ」です。一方「潜在ニーズ」と呼びますが、お客さまが言語化できないニーズが氷山の下に膨大にあります。

だから我々は現場に観察しに行き、お客さまを深く理解することで、お客さまも言葉にできないようなニーズに、先回りして気付こうとしています。これが「行動観察」です。

引用元:顧客も自覚していない「潜在ニーズ」に、“先回り“して気付く 消費者の行動観察を進化させた、「新しい価値」を生む方法論(ログミーBusiness)

行動観察から得られた事実(ファクト)から顧客の潜在的ニーズという洞察(インサイト)を導き出すプロセスは、まさにアブダクションそのものです。そして、その洞察に基づいて新しい価値を提案することで、イノベーションが生まれるのです。

例えば、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのか わからないものだ」と言いましたこれは、顧客が言語化できない潜在ニーズに着目することの重要性を示しています。
アブダクションとイノベーションの関係は、単なる思考法の話にとどまりません。組織文化や働き方にも関わる重要な要素です。イノベーションを促進するためには、組織内でアブダクション的思考を奨励し、失敗を恐れずに新しい仮説を立て、検証するサイクルを回すことが重要になります。

アブダクション思考の実践

アブダクション思考は、誰もが実践できる思考法です。日常生活やビジネスのさまざまな場面で、アブダクションを活用することができます。ここでは、アブダクション思考の実践方法について考えてみましょう。

日常生活での実践

日常生活において、私たちは無意識のうちにアブダクションを行っています。例えば、「玄関のドアが開いている。誰かが家に入ったのだろう」と推測するのは、アブダクション的思考です。しかし、より意識的にアブダクションを活用することで、日常の問題解決や創造性を高めることができます。

アブダクション思考を日常で実践するためのポイントは、以下のようなものがあります。

1. 観察力を高める
身の回りの現象をただ見るだけでなく、「なぜそうなっているのか」と考える習慣をつける

2. 複数の仮説を立てる
一つの現象に対して、複数の説明可能性を考える

3. 異なる視点を持つ
自分の常識や経験だけにとらわれず、他の視点からも物事を見る

4. 「なぜ?」を繰り返す
子どものように「なぜ?」を繰り返すことで、物事の本質に迫る

例えば、家事や料理においても、「なぜこの調理法だと美味しくなるのか」「どうすればもっと効率的に掃除できるか」と考えることで、新しい工夫が生まれます。これもアブダクション思考の一例です。

ビジネスでの応用

ビジネスの世界では、アブダクション思考はイノベーションや問題解決のカギとなります。特に不確実性の高い状況や、前例のない課題に直面した際に、アブダクション思考は真価を発揮します。

ビジネスでのアブダクション思考の応用例として、以下のようなものが挙げられます。

1. 顧客理解
顧客の行動データから、潜在的なニーズや課題を推測する

2. 市場分析
市場の変化から、背後にある本質的なトレンドを読み解く

3. 新製品開発
既存の技術や知識を組み合わせて、新しい価値を生み出す

4. 問題解決
複雑な組織課題の原因を多角的に推測し、最適な解決策を探る

BBT大学 グローバル経営学科長・教授の高松康平氏は、ビジネスにおける仮説立案の重要性について次のように述べています。
でも、事業全体が変わっている時は、一事業全体に対してやらないといけないわけですね。事業全体で何が違ったところに異変があるのに「いや、俺は営業だからどう売るかだけで解決しよう」と思っても、まあうまくいかないわけです。

なので、担当としてすぐ自分の責任をまっとうしようというだけではなくて、どんな方であっても視野を広げて事業全体を見なきゃいけない。ここが大切になるのかなと。

引用元:どんな状況でも「筋の良い仮説」を立てるには? ビジネスの因果関係を読み解く視点(ログミーBusiness)

このように、アブダクション思考を実践するためには、自分の専門領域や担当業務の枠を超えて、事業全体を俯瞰する視点を持つことが重要です。そうすることで、より本質的な問題発見と創造的な解決策の立案が可能になります。

アブダクション思考を組織に浸透させるためには、「正解を求める文化」ではなく、「良い問いを立てる文化」を育むことが大切です。失敗を恐れずに仮説を立て、検証するサイクルを回すことで、組織全体の創造性とイノベーション力を高めることができるのです。

アブダクションとAI

アブダクション思考は、人間の知性の中でも特に重要な側面です。近年、人工知能(AI)の発展により、多くの知的作業が自動化されつつありますが、アブダクションは依然として人間ならではの強みとして残っています。AIと人間の思考の違いを理解することで、アブダクションの本質とその価値をより深く理解することができます。

現在のAIは、主に演繹法と帰納法に基づいて動作しています。例えば、大量のデータから一般的なパターンを見つけ出す(帰納法)、あるいは事前に定義されたルールに基づいて結論を導く(演繹法)といった方法で問題を解決します。しかし、まったく新しい仮説を立てるアブダクションは、AIにとって依然として大きな課題となっています。

アスクル主席研究員の小池和弘氏は、AIとアブダクションの関係について次のように述べています。
安藤:じゃあまだ人工知能がアブダクションを実装するのは、少し遠いんですかね。

小池:未来がどうなるかというのが、実はよくわからないんです。もしかしたら、全脳アーキテクチャーなんかは、そのロードマップの中に出てきたりして、着実に進歩していく気が、ちょっとしています。もしかしたらその過程で「アブダクティブななにか」が、出てこないとも限らない、という気がします。

引用元:「驚けるコンピューター」の出現が、AIにブレイクスルーを起こす 人工知能にはできない仮説的推論の持つ力(ログミーBusiness)

人工知能(AI)がアブダクションを実装することが困難であるのは、アブダクションが本質的に創造的な思考プロセスであり、文脈や背景知識、直感などの要素を総合的に活用する必要があるためです。現在のAIは、大量のデータから統計的なパターンを見つけることは得意ですが、データだけでは説明できない「飛躍」を実現することは依然として難しいのです。

アブダクションが人間の強みである理由の一つに、「暗黙知」の存在があります。暗黙知とは、言葉では明確に表現できない知識や経験のことで、マイケル・ポランニーが提唱した概念です。アブダクションにおいては、この暗黙知が重要な役割を果たします。経験や直感に基づいて「これはなぜだろう?」と考え、仮説を立てるプロセスには、暗黙知が不可欠なのです。

また、アブダクションは「認知的不協和」にも関連しています。認知的不協和とは、自分の信念や価値観と矛盾する情報に直面した時に生じる不快感のことです。この不協和を解消するために新しい仮説を立てるプロセスが、イノベーションや創造的な問題解決につながります。

将来的には、AIがアブダクション的な推論能力を獲得する可能性もありますが、現時点では人間とAIが互いの強みを活かし、補完し合うことが最も効果的です。AIは大量のデータ処理や演繹的・帰納的推論を担当し、人間はアブダクション的思考で新しい仮説や方向性を提案するといった役割分担が考えられます。

そのためには、私たち人間がアブダクション思考を磨き、AI時代においても価値を発揮できる能力として育てていくことが重要です。アブダクションは、単なる思考法ではなく、人間の創造性と知性の核心に迫る要素なのです。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
スピーカーフォローや記事のブックマークなど、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

すでに会員の方はこちらからログイン

または

名刺アプリ「Eightをご利用中の方は
こちらを読み込むだけで、すぐに記事が読めます!

スマホで読み込んで
ログインまたは登録作業をスキップ

名刺アプリ「Eight」をご利用中の方は

デジタル名刺で
ログインまたは会員登録

ボタンをタップするだけで

すぐに記事が読めます!

次ページ: アブダクション思考を鍛える実践的なエクササイズ

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

    新着イベント

      ログミーBusinessに
      記事掲載しませんか?

      イベント・インタビュー・対談 etc.

      “編集しない編集”で、
      スピーカーの「意図をそのまま」お届け!