イメージは「思考という水の流れを良くしてあげる」

佐藤将高氏(以下、佐藤):その勝率7割、8割までいく過程で大変だったことはあるんですか?

広木大地氏(以下、広木):脳に思考を進める上での引っ掛かりがないとか、「課題はこれです」と言い出さないうちからやろうとすると……いろいろ固辞しちゃうとか。

なので、あくまで演算能力を貸している感じなんですよ。傾聴するというのも、その人の問題解決をするために僕の脳を貸しているんであって、脳というハードウェアというか思考パターンを貸していんであって、僕の考えを言うわけじゃない。「Google Colab」とかを起動する時に、GPUオプションとかをつけるじゃないですか。

佐藤:はい(笑)。

広木:GPUが速くなったりするわけじゃないですか。あれに近い感じで、なにかする時に、僕っていうオプションを使うと、脳みその一部が拡張されて、なにかを思考した時に、コール&レスポンスをすると、思考のレベルが上がる。

それは僕の演算能力がどうのこうのというよりも、むしろ他人が思考を促してくれることによって、その人の思考の引っ掛かっている部分に出くわす。デバッグするみたいな、小石みたいなのが残っているから。

「この小石って何だろう?」という話を取り上げていって、この小石そのものの正体に当人が気づいた時に、な水がダッと流れるみたいな、そういうイメージをしながら会話をしていることが多いです。

そうすると、気持ち良くなるなみたいなことがあるし、逆に、まだ、この堂々巡りになる思考の話をする前の段階だったら、別に雑談をしていてもいい。それって、「問題について話そう」の前だからあれなんだけど、「あぁ、すっきりした」となって帰ってもらった時に、この考え方の一部を相手の脳みそに置いて帰る。

そうすると、2回目、その問題に出くわして、「あっ、広木とこの間話した気がする」「その時なんて言っていたっけな?」という時に、考え方のフレームが残っていて、「あっ」て思って問題解決できるようになると、2次的にも効果があって。

そうすると、納得感がより自分の中で高まっていいなみたいなイメージを持ちながら会話している感じですね。

佐藤:なるほど。じゃあ、相手からすると、「あぁ、広木さんにこういう問いされたな」というところで、脳内に小さい広木さんがいるみたいな状態になって。

広木:酷い嫌がらせだよね(笑)。

(一同笑)

広木:プロジェクトマネジメントってそうなんだけど、やはり前提条件となってしまってぐるぐるしてしまっているのを取り除いて、思考という水の流れを良くしてあげるというイメージを持ったほうが、1on1の問題解決ってスムーズにいくなと思っていて。

「自分にできることは何だろう?」を探っていくのも大事

広木:もう1つ、信頼みたいなところで言うと、今僕はこういう立場だけど、僕にインプットして、「僕がやったほうがいいことってある?」とか「できることある? こういうこともできるけど」と言うのは1つあって。

これ、何かというと、信頼関係は、自己開示、傾聴、そしてその人へ意識を向けることがすごく大事なんですけど、本当の信頼関係というのは、動いてくれて効果があったことじゃないですか。

良くないのは、「なんか悩んでいることない?」って聞くんだけど、問題解決されなくて、「そうだよね」って言ったのに、「この人が動いてくれたらなんとかなるかもしれないのに動いてくれなかった」となること。話を聞かれていても、「意味あんのかな、この時間」って思い始めちゃうと、信頼関係って損ねるじゃないですか。

「アクションしてほしいことある?」ということをきちんとすり合わせないと、期待値が今度ずれて、「言ったのになにもしてくれなかった」という感じにもなる。

そういった信頼関係のステップの先に、「あなたのために動けるんだよ」ということを明示して、「その部分に関して動いてくれた」がないと、その先のステップに行きにくくなっちゃうから、個人的には、あまり解けない問題のことを聞きすぎないほうがいいと思う。

だからキャリアの話も、「俺はお前の上司だから給料を100万上げるわ」みたいなことって、すぐできるわけじゃないじゃないですか。

給料の不満の話ばかり聞いて、「そうだね、そうだね、確かにね。いくら欲しいの?」という話ばかりしても、給料上げる権限がないと、「この人、給料の話ばかり聞いてくるから俺も『欲しいっす』って言ったけど、ぜんぜん上げてこないじゃん」となって、がっかりしちゃうと思うんだよね。

だから、自分ができる部分について会話をして、なにかサポートすることや手伝えることに持っていくのが自然なのかなと。

逆にそこの期待値調整がうまくいっていないと、「なんかすごく1on1されたんだけど、どんどん辞めていくんだよね」みたいな。「仲良くなれてよかったです。僕は別のところ行きます」みたいな(笑)。

佐藤:ありがとうございます。信頼関係も大事だけど、「自分にできることは何だろう?」というところを探っていく会話の仕方ですね。

物事全体をシステムで捉えて、レバレッジ・ポイントを解消していくほうに動いていく

佐藤:ゆのんさんはどうですか?

湯前慶大氏(以下、湯前):そうですね。お二方は、はり治療って受けたことありますか?

佐藤:あります、あります。

広木:あります。

湯前:はり治療って、痛いところ付近も打つけど、ぜんぜん痛くないところにも打ったりとかしません? 「腰痛い」って言っても「これはね、このへんを打つんですよ」みたいな感じで、お尻のところを打たれたり、背中の上のほうを打たれたりして。

つらいことや改善したいことがあるとわかってはいるけど、それをシステムとして捉えられていないとか、もしかしたらぜんぜん違うところに要因があって、そこを押したらうまくいくのかもなみたいなことが、こっちは見えているケースがたまにあるんですよね。

そういう時に、「こういうことをやってみたらいいんじゃないですか?」とか、「このへん、やってみましょうか?」とか提案したり、物事全体をシステムで捉えて、レバレッジ・ポイントを解消していくほうに動いていくというのは、よく1on1で、意識しています。

佐藤:本質的なところによりフォーカスしていく感じなんですかね?

湯前:そうですね。やはり、その人が気づいていないことがあるんですよね。さっきの、「給料が上がらない」みたいになった時に、給料が上がらないのって、会社の方針が良くないとかももしかしたらあるかもしれないけれど、そのほかに、その人のパフォーマンスもあるのかもしれないし、評価制度の話もあるかもしれない。

たぶんいろいろなところが、課題になっているケースがあって、それが必ずしもその人自身に問題があるわけでもないし、そこの上司に当たる人が悪いわけでもないし、別のところが悪い可能性もあって、そういう時に、「あぁ、じゃあ、それは僕のほうでちょっと調整つけとくわ」みたいなのとか。

そういう感じで、その人がやれることは、その人に、「こういうものをやってみたら?」と言うし、こっちがやりやすいことは、「こっちで、やっておきますね」みたいな感じで言ったりして。

さっきの広木さんの話と最終的に近しいところに行き着いていますが、そんな感じで、その人にできることと、こっちでできることを最後分けて、「じゃあ、こういうかたちでやってみましょうか?」みたいな感じで。

そういうことを何回も何回も繰り返していくと、気がついたら、「あっ、肩こり治った」とか「腰痛治った」みたいな(笑)、そんな感じになっているといいなと思っていますね。

佐藤:なるほど。

レベル1として大事なのは「1on1の時間は楽しいですか?」

広木:問題解決やキャリア、その人の成長が最初の目的として語られて、それは確かに達成可能ななにかなんだと思うんだけど。

上司と部下というフィールドで、いざこざになるのが一番困るから、まずはちょっと時間、話して、仲良くなるぐらいのことはしておいてくれよというのが、たぶんレベル1。

レベル2として、その人と仲良くなった後に、いろいろ悩みとか今困っていることとか、卑近なことでもなんでもいいから相談されたりとか、話をするようになって。

それに答えてくれたから、「あっ、この人はちゃんとしてくれるな」とか、「尊敬しているな」とか、「この人が介入してくれたらうれしいな」となって、その人にキャリアの話やその後の人生の話とか相談してみたいなと思うし、本当に悩んでいることを相談するという次のステップに行くという、もうすごく至極単純にそれだけのことだと思うんですよね。

最初に、「成長がどうの」みたいな本をかじって、「よし、君を成長させるぞ。君をなんとかするぞ」「1on1だ」って言われても、尊敬もしなきゃ、何もしてくれないし、信頼関係もなければ仕事人としてもどうとも思ってないやつと1時間毎週しゃべらなきゃいけないって苦行じゃないですか。

その苦行状態だと、1on1って最悪だなと思っていて、まず大事なのは、部下の人たちに聞いて、「1on1の時間は楽しいですか?」。これがまずレベル1としてはやはり大事です。

そういうステップを抜きにして、「本で読んだ。わかった。やるぞ!」とやっちゃうと、意味不明なことになる。きちんと何事にもステップがあって、恋愛とかでもそうだと思うんですよ。最高のプロポーズの場面をセットアップして、それを最初に会ったタイミングでやったらおかしいじゃないですか。

佐藤:(笑)。

広木:バラを持って、「君のことを幸せにします!」と言って、パカッと結婚指輪を、最初に会って出すのっておかしいじゃないですか。

なんだけど、本の最初のページのほうに「こんなに1on1って効果あるんだよ」、「結婚しました」の話が比較的入っているわけ。

佐藤:入っていますね(笑)。

広木:それって、すごく勘違いさせると思って。それ、魔法じゃん。初めて会った人をバリバリ成長させるとか、いきなり会った瞬間に結婚を申し込んで、うまくいくとかって、もう魔法であって、そんな魔法は存在しない。単純に、順序というものがあるでしょっていう(笑)。

佐藤:そうですね。僕が抱えていた「1on1、難しくないですか?」というテーマの背景も、僕自身が、「あれ? 関係構築したと思っていたけど、そもそもできていなかったのでは?」みたいな瞬間がこれで(笑)。

もちろん、ノウハウとか、テクニックとかはあるんだけれども、そもそも聴ける状態を作った上で、お互いに気持ちいい状態を作り続けられたほうが全員お得なんじゃないのというのが、今回の大事なところかなと思っています。

広木さんがおっしゃったように、「こういうのをやろう」とする前に、まずお互いを知ることがファーストステップだよねという(笑)、まさにレベル1だよねというところかなっていうのがあったので。

「1on1、楽しいですか?」という質問に帰着するかなと思うんですけど、今日聞いていただいている方も、「楽しくないとしたらどういうところなんだろう?」とか、「どうしたら楽しくなるか?」みたいなところにフォーカスしてもいいのかなと思います。

広木:そう思います。

佐藤:なので、ぜひ新しいタイミングでは、関係性を構築してみてくださいというところです。

湯前:というわけで今回は、1on1の難しさについて話をしていただきました。関係性も大事だし、そもそも、最後に広木さんのおっしゃっていたように、ちゃんと手順を踏んで、本質的にやらなきゃいけないことをちゃんとやるとか、その上で、ちょっとプライベートなキャリアの話とか、そういうところも含めて話をするのが大事だと。手順が大事という結論ですかね(笑)。

佐藤:はい(笑)。

湯前:はい。というわけで、今日はありがとうございました。

広木:ありがとうございました。

佐藤:ありがとうございました。