2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
料理の学習体験をデザインする(全1記事)
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須藤耕平氏:みなさん、こんにちは。私からは「料理の学習体験をデザインする」と題して発表をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
まずは自己紹介です。
私は須藤と申します。現在は新規サービス開発部に所属しております。肩書きはいろいろありまして、デザイナーであったりエンジニアであったりプロデューサーであったり、その時のプロジェクトや状況に応じていろいろな肩書きでお仕事をさせていただいております。また、デザイナー統括マネージャーでもあります。
今日お話しすることなんですが、私どもは去年アプリをリリースしました。そのリリースしたアプリについてどのような思考で開発を進めていったのかをお話しさせていただきたいなと思います。
さっそく本題です。
「美味しい食べ方学習ドリル・たべドリ」というアプリをリリースいたしました。こちらからアプリの簡単な紹介ページをご覧いただけますので、ご興味のある方はご覧いただければと思います。
このアプリはどういったテーマで開発がスタートしたかというと、「ユーザーの料理の腕を上達させる」。これをテーマに開発がスタートしました。
ここで、プロジェクトの簡単な歩みを紹介したいと思います。
ちょうど今から1年ほど前にプロジェクトをスタートさせました。最初は苦戦したんですが、5月の末頃に悩みながらベータ版をリリースしました。その後、少し方向性を変えて、8月頃に本番のアプリをリリースしました。現在それを悩みながらリニューアル中という状況です。
始めてみると、とにかく難しいんです。何がそんなに難しいのかというと、大きく2つあります。
まずひとつが、「上達の定義」がなかなかできません。ユーザーさんによって現在の料理スキルのレベル感もまちまちですし、何がどうなったら料理が上手くなったと言えるのか。それを定義することが非常に難しいです。また、それが定義できないので、何を学ぶべきかがわかりませんでした。
では、わかりやすく「初心者向けのサービスを作ったらいいのではないか」ということで、ひとつやってみました。それをもっていろいろと話を聞いてみると、意外とみんなできてるんですよね。
先ほど「ベータ版をリリースした」と申し上げましたが、これはその時に実際にストアに載っていた時のアプリのスクリーンショットです。
「料理のきほんが学べる100レッスン」や「初心者さんが知りたい『なぜ?』がわかる」など、本当に初心者向けのアプリとしてリリースしました。
これを改善するために初心者をたくさん呼んでヒアリングをしたところ、「もっと料理を始めたばかりの頃に知りたかったですね」と言われてしまいました。これは日常的に料理を始めて半年という方でした。「これちょっと厳しい」ということで、方向転換を余儀なくされました。
そこで、「みなさん一体どうなりたいですか?」と徹底的にヒアリングしました。ヒアリングを重ねていくうちに、ある共通する答えが返ってくることがわかりました。
「レシピを見ないでも、あるものでパパッと作れるようになりたいです」と。なるほどな、と。「パパッと」というのはどういうことなのか深く聞いていったところ、時短・簡単ではないと。
「毎日のごはん作りをなるべく手間なくやり過ごしたい」というよりは、まぁそういった部分もなくはないんですけれども、それだけじゃなくて。
例えば「買い物に行けなくて冷蔵庫の中に食材が限られたものしかない」、そういった状況にあっても、なにか自分なりに料理を発想して、それをおいしく作って、一食分の食卓をコーディネートできる。そういった対応力のようなものを欲しているということがわかってきました。
これに関しては、自分自身も過去に同じように感じたことがありました。その時のエピソードを紹介したいと思います。
数年前に、クックパッドのレシピサービスに、ある機能を追加しました。それは「食べ方提案機能」と呼んでいるものです。
これは、例えば「豚肉」で検索した時に、豚肉で作れる定番のメニュー。しゃぶしゃぶやしょうが焼き、とんかつなどですね。そういったものを検索結果の上位にサジェストする機能です。
我ながら「なかなかいい機能を作ったな」と思って、しばらく使っていたんですが、使っているうちにちょっと違和感を感じるようになりました。
それは何かというと、改めて考えてみると毎日のごはんというのは、こうしたしっかりした名前のついたものは食べていません。今日はハンバーグで、明日はオムライスで、その次は麻婆豆腐で。そういうことをやっている方は、おそらくいらっしゃらないんじゃないかと思います。
もっとふだんのおかずにマッチするように変えていかなければいけないと思いまして、チューニングをしました。
「ナス」で検索したら「麻婆茄子」を返すのではなく、ちょっとした味噌炒めや揚げ浸しとか、焼きナスとかですね。そういったものを返すようにしたところ、だいぶしっくりきました。実際、ユーザーさんの利用データもこちらの方が高かったというデータが取れました。
このことを通して、毎日のごはんというのは名前がないようなものを食べているんだな、と。その時あるものでパパッと作ったようなものを食べているということに気づきました
毎日のごはんというのは、つまるところ「手元の食材をどうおいしく食べるか」。これの試行錯誤であることに気がつきました。
この体験と、今回ユーザーさんが「あるものでパパッと」「対応力を身につけたい」と言っていることが、自分の中ですごくリンクしました。いろいろな制約の中でも、自分でコントロールしている実感を得られると、すごく料理ができているなと。こういうことができるようになると「上手くなったな」というふうに感じるんじゃないかと思い至りました。
そうすると、「一生懸命レシピを探し求める必要がそもそもあるんだろうか」とか、「もはや特定のレシピにたどり着かせようとしていること自体がナンセンスなんじゃないかな」とか思うようになりました。
我々が本当に解くべきなのは、「どうすればユーザーの料理の腕を上達させることができるのか」。もっと言うと、「あるものでパパッと作れるレベルに最短で到達するにはどうしたらいいのか」。これを解くことが、ユーザーさんの長期的な利益にかなう本質的な取り組みなんじゃないか、と思うようになりました。
これでやることは決まったわけですが、どうやっていけばいいのかなかなか難しいです。ここからは、これから作っていくアプリのコアになる体験の部分を、どのように考えて作っていったかというお話をさせていただきたいと思います。
「あるものでパパッと」というのを自分なりに分析して考えていったところですね、この実態は「総合力」であるということに気がつきました。
これどういうことかというと、1つは買い物のスキルですよね。どんな食材をふだん買ってきたらいいのか、また家にどんな調味料を常備しておいたらいいのか、とか。
それから買ってきた食材をどのように使い回したらいいのかという、献立の計画。また、実際に料理をするにあたって、その食材をどのように調理すればいいのかといった知識ですね。そして最後に「場数を踏んで経験値を上げる」。パパッと作るためには、やはりある程度経験値がないと難しいだろうなということがわかりました。
こういった総合力の上に成り立っていことがわかってきたんですが、これを1つのアプリ・サービスでカバーするのは難しいと感じ、フォーカスを絞るということにしました。
この、上の2つを捨てました。
この上の2つは、ユーザーさんとしても課題感が強く、わかりやすいので解決しがいがあるところではありますが、こと「料理の上達」という観点からすると、ここではなくてむしろその下の二つなんじゃないかということを考えました。
「食材の調理に対する知識」はいくつか解決のしようがあるかなと想像ができたんですが、とくに一番下の「場数を踏んで経験値を上げる」について、「いかに効率よく経験値を稼ぐか」という部分に関しては、かなり難しそうだなと思いました。ですが、そう思いつつもトライしてみることを決めて進めました。
改めて、場数を踏むことで鍛えられていくものとは何かということを考えていったんですが、大きくはこの2つ、手元の食材をどういうふうに料理したらいいか「発想する力」と、それを実際に「具現化する力」ですね。この2つは場数が必要になります。
ふだん自分がこれをどのようにやっているかというと、発想する力というのは、結局は検索に頼っています。具現化する力は、そのレシピに書いてある手順通りに追いかけることで再現していて。これではレシピに頼ってしまっているので、「これは上手くならないよね」と改めて理解がクリアになりました。
ではこの発想力と具現化力、この2つを鍛え、身につけましょうということで、また深く考えていきました。ではこの発想力というのは、どうしたら身につくのか。
家庭料理ですので、創作料理のようなまったく新しい味を作りたいわけでもないですし、シェフではないのでマニアックな素材を使いこなしたわけでもありません。必要十分でいいんだろうなと考えたわけです。
その時、スーパーの店頭に並んでいる安い旬の食材を取り入れて、簡単でおいしくて、そこそこ栄養も考えられていて。そんな料理で1ヶ月分くらい食卓を回せれば、それで十分なんじゃないかと思うわけです。
ただ、この「必要十分」というのがどのくらいのレベル感なのかが定量的にわからないということで苦戦しました。このときに参考にしたのがこちらです。「五法の表」というものがあります。
これはどういうものかというと、縦軸に調理法、横軸に食材を置いた表になってまして。ここに自分の作れる料理を書き入れていくんですね。例えば鶏肉を焼くとしたら「鶏の照り焼き」。豚肉を煮るとしたら「豚の角煮」とか。
それから「魚」を「揚げる」としたら、「アジフライ」とかってあるよね、とか。あと同じ照り焼きでも、「ぶりの照り焼き」なんてのも作れるよね、と。
こんな感じでこの表を一通り埋めていきます。そうすると、例えばある日豚の角煮を作ったとすると、次の日は何にしようかなと。お肉ばっかりじゃアレなので、その次の日は魚にしようと。魚でも、煮魚にすると角煮とかぶってしまうから、今度は揚げ物にしよう。じゃあ今日はアジフライでいいよね、と。
こういった具合に、効率よくバランスのいい献立を組み立てることができます。これを一通り埋めることによって献立に困らない発想ができるのであれば、「この表を埋められるレベル感」を「必要十分なレベル感」に設定したらいいんじゃないか、と考えて進めました。
これは実際に紙にプリントして埋めてみたものです。この写真の人はけっこう埋まっているほうなんですが、僕がやるとぜんぜん埋められませんでした。どうして埋められないかというと、そもそも発想が違うからです。今手元にある豚肉を、「今日は焼こうかな」とか「今日は煮ようかな」とか、そういうことを考えていないんですよ。
僕なんかは手元に豚肉があったら、「じゃあ豚汁かな」とか「ポークカレーかな」とか、料理をレシピ単位で覚えてるんですね。上達という観点からすると、「料理をレシピ単位で覚えている」というのは非常に非効率だということが見えてきました。
先ほどの表を埋められるレベルでレシピを記憶しようと思っても、記憶力には当然限界あります。完全にレシピを覚えるまで繰り返すには、大変時間がかかります。さらにレシピに必要なものがいつも揃ってるとは限らないので、これはすごく非効率です。
ではどうすればいいのか考えた中で答えとして出てきたものが、「料理を分解して捉える」ということです。
料理を「食材」「味付け」「調理法」の3つに分けて考える。こうすると比較的発想がしやすいことがだんだんわかってきました。
すでにパパッとできている人の話をよく聞いてみたら、どうもこの3つのスロットを自由に組み替えながら料理を発想していることがわかってきました。
豚の生姜焼き、おいしそうですが、これ分解してみると「豚肉」を「生姜醤油」で「焼く」ということになります。
これがおいしい食べ方として成立するのであれば、この「豚肉」を別の食材に変えてもいいんじゃないかと。
「鶏肉」に変えるということは比較的想像がつきやすいですが、これを野菜に、例えば「ごぼう」に変えてみる。
するとどうだろう。「ごぼうの生姜焼き」とGoogleで検索したら、たくさんレシピ出ます。
これもいけるのであれば、じゃあ今度は味付けの「生姜醤油」を「塩とオリーブオイル」に変えてみようと。
ちょっと洋風になりますね。これもおいしい食べ方です。洋風なのでベーコンなんかを足してみたりすると、すごくおいしいです。
じゃあ今度は「塩とオリーブオイル」で「焼く」というのは固定して、「ごぼう」の部分を同じ根菜のニンジンに変えてみると、これも当然おいしいです。
じゃあ次は「塩とオリーブオイル」の「塩」の部分を「ニンニク」にしてみたらどうだ、「ブロッコリー」でやったらどうだ、と。
ブロッコリーのガーリックオイル焼き、みたいなものができ上がります。これはペペロンチーノのような味がしてすごくおいしいです。
このように料理を分解して少しずつ展開していくと、非常に発想がしやすいことに気がつきました。なるほど、これで発想はいけそうだということで、次は「具現化力」です。これは、どうしたら身につけることができるのでしょうか?
発想することと実際にできるかはまったく別問題なので、これこそ場数なんじゃないかと思うんですが、これも捉え方を変えることによって、具現化力を効率よく身につけることができそうだと気づきました。
だいたいの料理、とくに家庭料理は大枠の調理工程はほとんど共通しています。まずは食材を食べやすく、火が通りやすくするために切りまして、必要に応じ下ごしらえをして。そのあと火を通して、味付けをして、仕上げていく、という行程になっています。
この各工程の中には、中間生成物のようなものが出てきます。
例えば大根の煮物を作ろうとしたら、その前段階では「下茹でされた大根」ができ上がるわけです。炒め物をする場合でも、ニンニクやネギなど香味野菜の香りを移したオイルで炒めましょう、とか。これも中間生成物ですね。それから一番右は白和えの衣ですけれども、豆腐を潰してちょっと味をつけたようなもの、とかですね。
こういった中間生成物を小さくパターン化して覚えていくことによって、効率よく具現化するスキルを身に付けることができるんじゃないかと思い立ったわけです。
こういったものは本当に小さいので覚えやすいですし、シンプルで簡単なので失敗もしません。料理をレシピ通りに、手順1から手順10まで上から舐めて覚えようとすると大変ですが、こういったかたちで料理を捉えていけばすぐに料理ができるようになるんじゃないかと考えました。
先ほどの「料理を3つの要素に分けて、分解して捉える」ということと、「小さくパターン化して捉える」ことで本当に料理ができるのか、カードを作って実験してみました。
食材のカードや、調理法のカード、あるいはマッシュポテトのような半加工品ですとか、南蛮酢などの味の要になるような合わせ調味料のようなものなど。いろんな種類のカードを用意して、実際に料理をしてみました。
このカードの束を持ってキッチンに行って、その時にある食材とこのカードの組み合わせで料理を発想し、レシピを見ないで具現化してみる、ということをやってみました。
これがその時の実際の写真なんですが、思った以上に新しいものを簡単に作ることができました。
これができるってことはレパートリーは実質無限ですし、あるものでパパッとできるようになるんじゃなかろうか、ということで、これをアプリのかたちにしたのが冒頭で紹介しました「美味しい食べ方学習ドリル・たべドリ」というアプリになります。
簡単に中身を紹介したいと思います。毎月旬の食材をいくつかピックアップして、その食材に対して「煮る」「焼く」「炒める」など、調理法ごとに「課題メニュー」と呼んでいるメニューを紹介しています。
その課題メニューは、スマホのフルスクリーンの動画で非常に詳しく作り方を見ることができまして、実際に料理をしていただくことができます。
さらに特徴的なのが、ゲーム的な要素が入っていることです。
ある課題をクリアすると次にトライできる課題がアンロックされたり、学習を進めれば進めるほどスコアアップしていく仕組みになっています。
学習をどんどんと続けていくと、どんな食材をどれぐらい扱えるようになったのか、どういったことを学んできたのかが可視化されていき、成長を実感できるアプリになっています。
ですが、まだまだ理想には遠いなと思っています。
もっともっと学習アプリとしてユニークな売りを強化していきたいと思ってますし、その学びが習慣化するような仕組みをこの中に入れていきたいと考えています。その辺を強化するため、現在絶賛リニューアル中でございます。
今の話を聞いて少しでも興味を持ってくれた方はぜひダウンロードしていただいて、ご意見等をいただければと思います。「実際に使ってみたらちょっとイメージ違ったな」という方も、今後のリニューアル版を楽しみにしていただければと思います。
最後に、このプロジェクトに参加してくれる仲間を募集しております。エンジニアでもデザイナーでも職種は問いませんが、非常に取り組みがいのあるプロジェクトですし、「料理を楽しみにする会社」として非常にユニークな、チャレンジングな取り組みだと思っております。ぜひ、興味を持ってくれた方はお声掛けいただければと思います。
ご静聴ありがとうございました。
(会場拍手)
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