CLOSE

第一部「有識者と企業担当者に聞く、ジョブ型雇用の"理想"と"現実"」(全4記事)

「なんとなく」の採用や人事が通用しなくなる ジョブ型で変わる管理職の役割

ログミーBusinessリニューアル記念として、二部構成で開催されたイベント「これからの時代の組織マネジメント:ジョブ型雇用とZ世代のマネージャー登用」。第一部ではジョブ型雇用の理想と現実についてのセッションが行われ、パナソニック コネクト株式会社 執行役員 ヴァイス・プレジデント CHROの新家伸浩氏、自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授の須田敏子氏の3名が登壇。本記事では、パナソニック コネクトが実践したジョブ型導入のステップについて解説します。

パナソニック コネクトのマネジメント改革

藤井創氏(以下、藤井):ありがとうございます。そうしたら次の話題「マネジメントの実務課題」にいきたいと思います。今までは組織としてのお話でしたが、今度はマネジメントについて。例えばパナソニック コネクトさんは、1,400人のマネージャーに対して30時間の研修をすると聞いております。

マネージャーの役割として求められる能力はどう変わっていくのかというところを含めて、お聞かせいただければなと思います。

新家伸浩氏(以下、新家):今まで、日本のマネージャーって比較的、専門的なスキルは我流でやっているのが実態だったんじゃないかなって思っています。30時間の研修というのは、まずは初年度にいわゆるピープルマネジメントの基礎をやったということでございます。その研修で学んだことを見よう見まねでやっているのが今の段階でして。

これからマネージャー自身も、もっと自律的に、かつ魅力的に振る舞えるようにしていきたいなと思っています。

今、うちのマーケティング部門やデザイン部門と連動しながら、「魅力的なマネージャーっていったいどんな人?」というのを、社内インタビューとかしながら描いていっています。「じゃあ、そうなるにはどういう行動をしたらいいのか」と定義づけたりして、マネージャーをどんどんモダナイズ(現代化)している最中です。

こまめにジョブディスクリプションを書き直すメリット

藤井:ありがとうございます。須田さん、西洋諸国におけるラインマネージャーのピープルマネジメントについておうかがいできますか。

須田敏子氏(以下、須田):そうですね。日本以外の国はラインマネージャーがすべてピープルマネジメントをするのが常識です。具体的にいくつかご紹介すると、新卒採用も含めて、配置もすべてライン管理者のほうで行います。先ほどからお話ししていますように、JD作成ももちろんラインマネージャーの仕事です。

ビジネス戦略が大きく変わったり、組織構造が大きく変わって、グレード構造が変わるという時には、人事と一緒になってJDを作ったりするんですけれども。日々のJDの書き直しは常にラインマネージャーが行っていきます。

例えば、目標設定。目標面談をして新しい目標が設定されると、JDの書き直しとなります。例えば、営業で年間の売上目標が3,000万円だった人が4,000万円になったとすると、JD書き直しとなります。あるいは、育児休業を取っている人がいて、ほかの職場の同僚3人が、その人の仕事を分担してあげたとしたら、当然JD書き直しですね。

JDを書き直したら、今度はマーケットペイを参照します。部門(ごとの)人事担当がいますので、一緒になって「じゃあ、いくら?」ということで書き直して、(マーケットペイの)賃金が上がっていたらその時点で賃金を上げるということになります。

こうなってくると、それこそ目標設定したことに対して報酬がくっついてきますから、納得性は上がるんですね。それに、今日本で問題になっているような、育児休業や短時間勤務とかで「お願い、やってよ」と言われて「やってあげたいけれども(負担が大きい仕事ができない)」という職場の問題も、かなり解消されるので非常にいいんじゃないかなと私は考えております。

「ここまでしかやりません」と線引きする社員は増えないのか?

藤井:ありがとうございます。このあたりもけっこう大切なところだなと思いお聞きしました。先ほど須田さんのスライドの中で、「JDに書いてあるところまでしかやらないじゃなくて、やったことに合わせて書き直す」というお話がありました。新家さん、やはりこういう(仕事の線引きの)問題は起きやすいのでしょうか?

新家:実際は少し(ジョブの内容にも)余裕があるというか、そこまで一人ひとりが「私、それはやりません」とはなっていないです。

というのは、やはり我々の中ではバリューを5つに定めておりまして、その中にはチームワークがあったり。評価する時も、軸はあくまでも実績だけではなくて、そういったバリューの発揮度も合わせて2軸で評価するのを徹底しているので。そういう意味では、みなさんがバリューの発揮も意識しながら行動する。

給料としては「評価してあげてよ」って話はもちろんあるんですけど、一方で助け合うことによってまた給料が上がることもあるので。そういった評価制度の作り方でも少し担保できるかなと思います。

日本の成長の鍵はM&Aと事業再編

藤井:ありがとうございます。小林さんはもともとデジタル庁にいらっしゃったので、そこも含めて、デジタル化による業務の見える化に対して、どういうふうに体制を進めていますか?

小林史明氏(以下、小林):すごく難しい質問ですね。でも、デジタル庁の立ち上げから副大臣をやっていたのですが、たぶん日本に1つとない組織だったと思うんですね。

なぜかというと、官僚のみなさんもすべての省庁から集まってきて、企業から転職で入ってくださった方、自治体職員の方、といろいろな方がいました。普通、企業って1人の経営者から10人、20人って増えますけど、いきなり0人から500人の組織になってスタートするんですよ。

そうすると、使っている言語が全員違うんですよね。下手すると部族同士の争いになることが起こり得るので、それをどうやって職務や評価を整理していくのか。しかも、今まで官僚の人事しかやったことない人たちが、民間の人たちとどうやるのかっていうことでは、やはりジョブディスクリプションをしっかり定義する。

役割の下でどんなパフォーマンスを求められるのかを体感した1、2年だったなと思っています。私はNTTドコモの人事の採用担当を2年やっていたんですけど。あの時は「とにかく新卒採用で良い話をすることが俺の仕事だ」って思っていたんですけど、なんて浅はかだったんだと。いかに人事が戦略的なのかっていうことを、今になって思って反省したのが一番のポイントです。

それでいくと、あえてここでみなさんに将来の予見性も含めて共有すると、これからの日本の成長の鍵の1つは、徹底的にM&Aと事業再編ですね。やはり人口が1億人に減って人手不足ですと。でも全国に300万社を超える会社があります。どう考えたって経営者不足になるんです。そうすると、企業をどんどん統合していく。

そうするとまさにまったく異文化の人たちに社内に入ってきていただいて、より生産性のあるビジネスをやって、パフォーマンスを発揮していただいて、みんなで給料を上げる。

そこで「いや、やはりうちの会社のカルチャーはさ……」ということを言っていても、(異文化の人には)よくわからない。だから、ちゃんとどういう仕事で、どういうパフォーマンスが必要なのかを明確にしていくことが、新しい仲間、新しい組織を引き受けていくのに非常に重要だと思います。

そういう意味でも、みなさんの会社やみなさん自身の成長にとっても、仕事をしっかり明文化していくことは重要なんじゃないかなと思います。

ジョブ型の導入で「今やっている仕事」がなくなることも

新家:ちょっとよろしいですか? M&Aって、会社がある日突然(会社が変わる)っていうことなんですけど。もう日常でも、やはり仕事がどんどん変わってくるとか、この仕事とこの仕事が融合してまた違うものになるとか、よくある話ですよね。

我々の会社もジョブ型を入れて、残念だけどやはりなくなってしまった仕事があった時に、「ちょっと今苦しいんですけど、自分で探してください」と(なります)。今まで待っていれば会社が何かしてくれたんですけども。

小林:配置転換先を探していかないといけないということですね?

新家:はい。会社のカルチャーはすごく大事で、いわゆる会社が持っている温かみはもちろんあるんですけれども、やはりビジネスをやっているので、そのあたりのいわゆる「自分のジョブは何ですか?」「キャリアビジョンは何ですか?」「どういうふうになりたいんですか?」という思いを一人ひとりが持つのはすごく大事です。

それがないと、「私、その仕事はやりません」とか「冷たい会社だな」と思ってしまう。これからはそういうことをしっかりやっていかないと、そういった国の政策にもついていけなくなってしまうと思います。

「なんとなく採用し年功序列で人事を決定」が通用しなくなる

小林:本当にそうだなと思いました。なので我々、政治・行政もすごく悩むんですね。制度や方針を作るとしても、実際にその社会を目指すのって民間の方々なので、その実態に合っているのかなと思うんですが。

でもこの政策に携わってみて本当に思うんですけど、やはり一人ひとりが自分で選択した仕事って、どう考えてもモチベーションが高いじゃないですか。そうなっていったほうがみんな幸せなのは間違いないなと思います。

一方で、たぶん管理職の人たちからすると、けっこうきついと思うんですね。今まではなんとなく採用してなんとなく年功序列で人事を流していけば、そこに人が埋まっていくという一応の流れがあった。

それがある種一人ひとりにカスタマイズしなければいけなくなる。一人ひとりと向き合うのってめちゃくちゃ大変だと思うんです。でも、その分人事の方々もやはり戦略性を求められて、ポジションや価値はさらに高まっている。

一方で、先ほど新家さんがおっしゃっていたように、むしろ視野が広がって、「同業界ではどれくらいの給料を払っているの?」とか、「どんな仕事をしているんだっけ?」となっていく。(すると)管理職の人たちの視野も広がって、けっこう全体的に良いことがあるんじゃないかなと信じています。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!