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第一部「有識者と企業担当者に聞く、ジョブ型雇用の"理想"と"現実"」(全4記事)

なぜ今「ジョブ型」を採用する企業が増えているのか? よくある勘違いと日本企業の課題

ログミーBusinessリニューアル記念として、二部構成で開催されたイベント「これからの時代の組織マネジメント:ジョブ型雇用とZ世代のマネージャー登用」。第一部ではジョブ型雇用の理想と現実についてのセッションが行われ、パナソニック コネクト株式会社 執行役員 ヴァイス・プレジデント CHROの新家伸浩氏、自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授の須田敏子氏の3名が登壇。本記事では、よくあるジョブ型人事にまつわる勘違いと日本企業の課題について語りました。

有識者と企業担当者に聞く、ジョブ型雇用の"理想"と"現実"

藤井創氏(以下、藤井):あらためまして、第一部は「有識者と企業担当者に聞く、ジョブ型雇用の"理想"と"現実"」というところで開始させていただきます。

今回は、その中で第一線でご活躍されている3人の方にご参加いただいております。企業の方、政治・政策の方、そして学術研究の方にご参加いただいておりますので、3人の方からいろんな意見をお聞きできればなと思っております。

さっそくなんですけど、登壇者のご紹介をさせていただきます。時間があまりないので、1分程度でご本人からちょっとご紹介いただければなと思います。最初は須田さんからお願いします。

人材マネジメントの専門家・青山学院大学教授の須田敏子氏

須田敏子氏(以下、須田):須田敏子と申します。青山学院大学やビジネススクールで教員をしております。私はキャリアの前半はみなさま方と同じようにビジネスパーソンでございまして、日本能率協会グループで雑誌の編集等をやっておりました。

その後、イギリスのリーズ大学で修士号、バース大学で博士号を取ってまいりました。そして約20年くらい前、2005年から青学に来てビジネススクールで教えているということです。専門は、人材マネジメント、組織構造、あるいは国際比較をやっております。今日はどうぞよろしくお願い申し上げます。

(会場拍手)

ジョブ型を採用したパナソニック コネクト人事の新家伸浩氏

藤井:ありがとうございます。そうしたら新家さん、次お願いいたします。

新家伸浩氏(以下、新家):座ったまま失礼します。パナソニック コネクトという企業側の代表として、本日来させていただきました。人事を担当している新家と申します。よろしくお願いします。

私は1992年にパナソニックに入ってから人事一筋でやっていました。本当は人事をやりたくて入ったわけじゃないんですけど、なぜかずっと人事をやっています。昨今、我々の会社も事業会社制と社内で呼んでいますけど、ホールディングス体制になりまして。その傘下で人事制度をイチから構築していて、今、ジョブ型の人事ということでやらせていただいております。本日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

岸田政権でジョブ型雇用のガイドラインを作成した衆議院議員の小林史明氏

藤井:はい、ありがとうございます。では、最後に小林さん、お願いいたします。

小林史明氏(以下、小林):はい。衆議院議員の小林史明と言います。よろしくお願いします。

「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」をミッションに掲げて、もともとNTTドコモで5年間サラリーマンをしていました。12年前に規制を変える側に回って、もっと多くの個人が活躍しやすい社会のルールに変えたいということで、この世界に入りました。

直近は、ちょうどこの間の夏まで岸田政権の「新しい資本主義」という成長戦略を作る仕事をやっていました。まさに労働市場改革やジョブ型雇用のガイドラインであったり、「スタートアップ育成5か年計画」とかを作っていました。

より多くのみなさんが自由に活躍できる社会を作ることは、人口が減少しても成長できる国の姿を作ることになると思っています。

なので、今日は今後何がリアルに変わっていくのかとか、数年後、みなさんがキャリアをどう考えたらいいのか。そういった気づきになる機会になったらいいなと思って話をしていきますので、よろしくお願いします。

藤井:はい、ありがとうございます。

(会場拍手)

藤井:今日は登壇者の方から「先生呼びはなしで」と言われていますので、基本的に「さん」という呼び方で呼ばせていただきます。よろしくお願いします。私の紹介も一応しておくと、「ログミー」というメディアでずっと編集をやっている人間です。

もともとは「ログミーTech」というところでやっていたので、テクノロジーに詳しいのですが。テクノロジーと言えばエンジニアというところで、ジョブ型雇用の話も少しあるかなというところで、今回ファシリテーターを務めさせていただきたいと思っております。

よくある「ジョブ型人事」にまつわる勘違い

藤井:じゃあさっそくですが、テーマ1の「ジョブ型雇用の本質と日本企業の課題」というところで、「ジョブ型雇用ってそもそも何なのか?」というところ。あと「日本の従来の雇用システムとどう違うのか?」というところに対して、まずは須田さんからお聞きできればなと思っております。

須田:はい。よろしくお願いいたします。まずこちらのスライドを見ていただければと思います。「ジョブ型人事の本質」ということで、このセッションも「ジョブ型雇用」ですし、「雇用」という言葉がよく使われるんですが。

人事は雇用も含めてさまざまな人事施策、あるいは人事機能といった非常に多様なものなので、ここでは「ジョブ型人事」という言葉を使わせていただきます。たぶん、今日私が呼ばれたのは、2024年に『ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定』を出版したからだと思います。

この本には私が20年ほど前にイギリスで博士を取った時の生の情報がかなり入っております。その意味で、この本でもジョブ型人事という言葉を使っております。ジョブ型人事の本質なんですけれども、これは私が考えるに、ジョブを遂行するための知識・スキル・経験・行動など、人的要件ですね。

これが非常に具体化され、見える化して、それが組織内外で共有化されることだと捉えられております。これまで、日本の人事の世界では長らく「ヒト型・職人基準」と言われてきたのに対して、世界標準のジョブ型は「ジョブ型・職務基準」というようなかたちで言われてきたんですけども。

これはジョブ型の実態を知っている人間としますと、間違いでございます。ジョブ型こそ、人の基準を具体的に表した究極のヒト型だと考えております。

テルモ株式会社の実際のジョブディスクリプションを例に解説

須田:じゃあ、もうジョブディスクリプションの中を見ていただくことが一番簡単だということで、これはテルモさんの実際のジョブディスクリプション、JDの中身になります。まず仕事の内容の中に職責とかいろいろ出ております。

この次が、人的要件ということになります。


先ほどの「ジョブをするために、じゃあどういう職歴、ポジションを積んでいったらいいんでしょうか?」「どういう経験をしたらいいんでしょうか?」ということですね。

あるいは、「専門知識・スキルはどういうものがあったらいいんでしょうか?」ということで、これがすべてのジョブにくっついているわけですね。このほうが、これまで日本でやってきた人基準よりもよほど具体的です。これが共有化されることになります。

こちらは行動ですね。これもコンピテンシーで見ておりまして、このスライドはあまり具体的ではないんですが、実はもっとずっと具体化された内容も作られています。

それでは最初のスライドの真ん中でございます。


人的要件(職務遂行能力)はかつては日本は全般的、抽象的だったんですけれども、ジョブ型人事では、それをジョブに合わせて非常に具体的になっている。もっとも、今は以前とは異なり職務遂行能力も随分具体的になってきています。

さらにこの3つ目なんですけども、ジョブ型社会で標準的なのはジョブディスクリプションですね。人的要件も載ったもので、ここに勤務地とか賃金とか福利厚生を載せて採用するのが普通で、これは日本でも一部起こっております。

というわけで、最後にちょっとお話しさせていただきたいのは、スライドのジョブ型人事のサマリーのところですね。人基準をより具体化・見える化、共有化されているのがジョブ型人事ということになります。

といっても、もちろんフレキシビリティは必要です。日本のこれまでのメンバーシップ型と比較するとかなり厳格ですけれども、やはりフレキシビリティは重要です。

あと、真ん中にある「ジョブディスクリプションに書いていないことはやらない」という問題がよく日本で言われますが。「書いていないことをやらない」のではなく、やったことを書き直すんです。JDを書き直すのが、ライン管理者の主要な仕事になるんですね。

2050年には今の8割しか人手がない「8掛け社会」に

藤井:ありがとうございます。実際にわかっていればもちろんそうだなと思うんですけど、ちょっとかじった知識くらいだと「意外だな」と思うところがあると思います。

ここで、今度は小林さんにおうかがいしたいんですけども。「日本でジョブ型雇用」がまあまあ注目はされているとはいえ、「そこまで進んでいるのかな」というところがちょっと疑問なので、そのあたりを政治の立場からおうかがいできればと思います。

小林:はい。なんで今、日本政府が労働市場改革だと言っているかというと、大きく分けると2つです。「大企業は稼いでいるけど、給料は上がらなかったね。なぜなんだろうか?」ということが1つ。

もう1つは、2024年も2025年も人口が減少していって、2050年、この国は人口約1億人ちょうどくらいになるんですね。なので、今よりも人手が8割になります。この「8掛け社会」でも成長していく経済を作るためにはどうしたらいいか。それはやはり、一人ひとりのパフォーマンスを上げるしかないんです。

その観点で見ていった時に、「じゃあ、今の日本の企業で働いている方々の状況は何なのか?」というと、年功序列型で、なかなか自分の意欲と能力を発揮していない。

働く個人と企業、どちらにとっても「ジョブ型」が必要なわけ

小林:一方で、企業としても事業をトランスフォーメーションしないといけない。場合によってはこの事業部門はもう苦しくなる。一方で新産業が出てきていて、新事業分野を立ち上げる。場合によっては、スタートアップと向き合わなきゃいけない。

こうなった時に、必要な人材がなかなか獲得できない状態を解決しないといけない。それを整理していくと行き着いたのは、やはりジョブ型が一定程度必要だろうということになるわけですね。

なぜなら、自ら給料やキャリアを上げるためには、「じゃあ、その行き先のポジションは何のスキルと何の資格が必要なんですかね?」ということがわからないと、努力のしようがないわけですよね。そうしないと個人のモチベーションも上がりません。

どんなにリスキリングと言われたって、まずポジションが明確じゃないとリスキリングできないということなので、そういう意味でも先ほどあったジョブ型は重要です。これは、個人から見た話です。

企業から見ると、社内だろうが社外だろうが、必要なポジションに人を配置することが必要となってきますね。そうすると、社内でのポジションの規定と社外でのポジションの規定が同じであれば、中、外を問わず人を探せるんです。

ジョブ型と「解雇規制」の問題

小林:一方で、事業の変化が早くて、立ち上げてみたけど5年経ったら「ごめん、このポジションなくなるわ」という時に、よく言われるのは「日本は解雇規制があって難しい」という話。

いやいや、日本が言っている解雇規制というのは、単純に採用の仕方がメンバーシップ型によって採られているだけであって、それは労働環境によるものです。ジョブ型であれば、事前にスキルと能力も設定して、かつ、しっかり1on1をやって能力評価できるわけですね。

その時にポジションがなくなったりスキルが合わなかったとなったら、別のポジションを探したり、社外のポジションを探していくことも、ジョブ型であれば可能になるんです。

それができるならば、社会全体としては人を求める場所に意欲のある人が移り、パフォーマンスを発揮していただける。個人、企業、社会、誰にとってもプラスの作用になるということです。

「(ジョブ型は)どのくらい進んでいるの?」ということなんですが、意外と始まってきています。8月末にジョブ型雇用の指針(ジョブ型人事指針)を出しています。今ググっていただくと出ると思いますが、ジョブ型雇用のガイドラインと呼ばれていますね。

単純に文章を読んでもよくわからないので、20社分の日本企業、特に大企業20社の事例集を見ていただくと、「あっ、こんなに変わっているんだ」というのがけっこうわかってきます。それくらい、今、広がりつつあるかなということですね。

地方のエッセンシャルワーカーはもともとジョブ型

藤井:ありがとうございます。まだ(ジョブ型雇用が)広がっていないのかなっていうイメージも残りつつ、実は市場ではけっこう広がっているんですね。

小林:そうですね。あともう1個は、地方のエッセンシャルワークって、もともとジョブ型なんですよ。

大工さんとかもスキルで給料が決まっているわけですよ。あとは介護士さんとか飲食店のスタッフさんも、どこまでサービスできるかでけっこう時給が変わってきます。

意外と地域のエッセンシャルワーカーはジョブ型になってきて、都市部のホワイトワーカーだけがメンバーシップで働いている感じ。ジョブ型はすごく遠くのものに見られがちなんですけども、実際はそんなことないと思っていただいてもいいんじゃないかなと思います。

藤井:確かに、そう考えると実は身近にあるんだなというのがすごくよくわかりました。ありがとうございます。

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