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AIと創造性(全3記事)

AIを使った作品に著作権は発生する? AIをビジネスで使う前に考えたい、テクノロジーと権利をめぐる課題

国内外のスタートアップや投資家、アーティストが集まる「Tech GALA Japan(テックガラジャパン) -地球の未来を拓くテクノロジーの祭典-」。最先端のテクノロジーをテーマにしたカンファレンスの中から、「AIと創造性」をテーマに、株式会社THE GUILD 代表取締役 サービス・デザイナー 深津貴之氏、小説家の平野啓一郎氏、アートメディア「ARTnews JAPAN」編集長の名古摩耶氏によるトークセッションをお届けします。
本記事では、AIと著作権に関するトピックを起点に「人間にとって創造性とは何か?」を語り合いました。

アメリカの著作権局が発表した、AIと著作権に関する見解

名古摩耶氏(以下、名古):みなさんこんにちは。「AIと創造性」というところで、今日はすてきなお2人とお話をしていけたらと思います。まずは、それぞれご紹介をしていただけたらなと思うので、深津さんからお願いします。

深津貴之氏(以下、深津):株式会社THE GUILD 代表の深津と申します。僕自身はいろんなサービスや新規事業に新しいテクノロジーを入れて成長させる仕事をしています。昔はアーティストになろうと思った時期もあったんですけど、だいぶ人生の経路が変わって、今はテック側で生きています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

名古:よろしくお願いします。アーティストになりたかったって、初めて聞きました(笑)。

深津:僕は昔、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ大学に行って、プロダクトデザインをやっていたんですよ。

名古:よろしくお願いします。

深津:お願いします。

名古:じゃあ平野さん、お願いします。

平野啓一郎氏(以下、平野):小説家の平野啓一郎と申します。AIの専門家ではないんですが、『本心』という小説で、AIによって蘇った、亡くなった母親との共生みたいなことを書いて、その本に対する関心から、テック系のイベントにもお招きいただくことがあります。

小説は、現在の世界に生きているという事実から立ち上がるものなので、テクノロジーの進歩によって社会が激変していくと、人間はどうなっていくのかは考えざるを得ません。そういう意味では必然的に、現代の技術に関心を持つところがありまして、今日もいろいろディスカッションを通じて勉強したいと思っています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

名古:よろしくお願いします。なぜアートメディアの私がここにいるのか、クエスチョンマークの方もいらっしゃるかもしれないので、少し自己紹介をさせていただきます。

世界最古のアートメディアと言われているアメリカのARTnewsの日本版をやっております。アート業界でもAIをめぐる議論が毎日のように起きています。

著作権の話から人間の倫理の話、テクノロジーが人間性をどういうふうに変えていくのか、貶めていくのか、向上させていくのか。あるいはAI技術を使って新しい表現を試みるアーティストも多数登場しています。

今日のテーマは「AIと創造性」なので、「人間のクリエイティビティの本質って何だっけ?」という話と、それにAIがどう影響していくのかをメインに、平野さん、深津さんとお話をうかがっていけたらなと思います。

先ほど控え室でも少し話題になったんですけども、ちょうど数日前に、アメリカの著作権局が「著作権とAI(に関する報告書)」という最新のレポートを発表しました。

そこでは、「人間の創造性の代わりではなくて、それを補助するためにAIツールを使用することは、成果物の著作権保護の可否に影響しない。ただし、人間の関与がどれくらい最終的な成果物に入っているかによって、ケースバイケースで判断していきましょう」と示されていました。

これはあくまで著作権の話ですが、何をもって人間の関与、人間の創造性が担保されるのか。

その話の流れから、「人間にとって『創造性』ってそもそも何なんだっけ?」ということを、まずはお2人にうかがっていきたいなと思います。

創造性とオリジナリティ

名古:平野さんはご著書を通じて、大きくは「人間性って何だ?」という議論を展開されていますが、1つの重要な指針となる概念として「分人主義」を提唱されています。

平野さんにとって「人間らしさ」を考える上で、「創造性」はどういう位置づけになると考えていらっしゃいますか?

平野:そうですね。人間がものを作るということが、基本的には創造性だと思うんですよね。出来上がってきたものを受け止めるレベルと、制作のプロセスをいったん分けたほうがいいと思います。

というのは、どんなアーティストでも小説家でも、やはり人類が築き上げてきた文学なり絵画なりを自分なりに勉強して、そこから影響を受けてものを作るという意味では、「オリジナルなんてものはないんだ」とする言い方もありますよね。

だけど、じゃあ誰が勉強して作っても同じものが出てくるかというと、やはり違うものが出てきて、受け止める側が「これは新しいぞ。今までと違うものだ」と感じた時には、オリジナルなものだと見做されると思うんですね。

オリジナリティの定義も難しくて、「今までいろいろ作られてきたものの上に乗っかっているじゃないか」と言うと、「オリジナリティって何なんだ?」となるけど、やはり「オリジン(起源)になり得る可能性」が非常に重要だと思うんです。つまり、その作品の影響から、またいろんなものが派生してくると。

創作活動を“人間らしい行為”と感じる背景

平野:ですから、美術でも音楽でも「この人が始めたんだ」という技術や作曲方法や技法がありますけど、そうすると必ず「いや、実はその人以前にやっていた人がいるんだ」という、マニアックなリサーチがいっぱい出てきますよね。

その人たちは確かにそういうことをやったのかもしれないけど、美術史とか音楽史でオリジンになり得ていないわけですよね。やはり、その後の大きな流れの起源になり得た影響力のある作品を、社会的にはオリジナリティとして認めているのではないか。

今までのいろいろなものから、どうしてオリジナルな何かが生まれてくるのかは、ある種ブラックボックスみたいなもので、それが神秘化されている理由だと思うんです。

今までは、データベースとしての美術史なり文学史なりを勉強するのは人間でした。そこから何かを引き出すこと自体が、人類全体の大きな英知に根ざしつつ、個人的な経験を表現していくことにもなっていたので、創作物は人間的なものだという感じがしていた。

ところが、AIが登場すると、人類の英知をAIがばーっと学習する。人間が作っているシステムの中に、AIが入ってくるとどうなのかという話になっているんだと思うんですよね。

ちょっとどこまで先取りして話すべきかわからないけど、AIによる創作はこれからすごく活発になっていくと思いますし、それはそれで受け容れられていくんだとは思います。で、全部を人間が作ったのか、人間の関与はどの程度かというグラデーションの中で、みんながジャッジしていくと思います。

キュレーターとなる存在が「流れ」を作る

名古:ちなみに平野さんは、自分の作品がオリジンになり得る可能性、誰かの新しい創作物の起源になるかもしれないということを目指しながら、創作活動をされている自覚はありますか?

平野:まあ、結果論ですね。文学は1人でやっているので、それが影響力を持つことはけっこう難しい。例えば僕はジャズが好きですけど、マイルス・デイヴィスとかがすごく革新的な音楽をやると、マイルス・バンドのメンバーたちが、独立後に自分たちでもやりますよね。

例えばハービー・ハンコックが、ロックやファンクのジャズとの融合、マイルスのところでやったことを、自分のプロジェクトでやっていく。そうするとまた、ハービーのバンドで一緒にやっていた人たちが、フュージョンみたいな音楽をやっていく。……メンバーたちがそれぞれでやり始めるから、ある1つのところで起こった革新性が、スクールになり、流行になっていきやすい。

しかし、文学の場合は1人で小説を書いているので、例えば僕がやった「分人」という概念に基づいて、他の人が小説を書くとなると、かなり直接的に僕の影響になるし、表現者は抵抗があるかもしれない。僕はやってもらいたいのですが(笑)。

それが1つの流れになるというのは、たぶん、編集的な立場の人たちの整理が必要だと思うんですよね。ラテンアメリカ文学ブームが世界的に起こったのも、フランスの出版社が意識的にブランディングして広めていったということがありました。

でも、よくよく見ると、それぞれの作家の仕事はかなりバラバラだと思うんです。ですから、長い目で見て、「僕の影響を受けました」という人が出てきたら、「ありがとうございます」と思いますけれど、自分自身がそれを目指してやっているわけじゃない。

ただ、すでに自分がやりたいことをみんながやっているのであれば、別に僕が小説を書く必要はないわけです。やはり「自分だったらこうするのに」というフラストレーションが創作の原点にあるので、そういう意味では自分がやっていることが、自分が始めたことであるといいなとは思いますね。

創作とは、前例のないものを考えること

名古:ありがとうございます。深津さんはどうですか?

深津:結局、「創作」や「創造」をどう定義するかによるんですけど。いくつかのレイヤーの中でいったん法的に考えると、著作権は財産権の一部で、財産権は人権の一部だと思うんですね。

なので、AIが著作権を持っていないのは、シンプルにAIが人権を持っていないからです。AIが人権を手に入れない限り、ここはほぼ解決しないかなとは思います。

それはそれとして置いておいて、僕なりにテック側から「創作」そのものが何かを定義をすると、まず宇宙空間を想像してもらいたいんですけれども。

宇宙空間って虚無の部分と惑星がある部分がありますよね。虚無の中の空間を探索して、できれば水がある惑星みたいな、価値のある惑星を発見できることを「創造」と言う。

その価値のある惑星を発見した上で、宇宙ステーションとか中継基地を作って、そこからさらに先の世界を探索できるようになることを、いわゆる平野さんがおっしゃっていた「オリジン」と言うのかなと、自分は理解をしています。

名古:ありがとうございます。深津さん個人としては、生きていることが、そもそも創造していることなのかもしれないんですけれど、ご自身の生活あるいは仕事における、創造的な行為とはなんですか?

深津:今のお話そのままなので、探索されていない空間を探索して、何かを発見できるかどうか。それはビジネスモデルかもしれないし、課題に対する解決方法かもしれないし、新しいサービスのユーザーインターフェースかもしれないし。

歴史上で探索されていない、あるいは探索されている数の少ない空間に飛び込むこと。その中で価値のある情報資源や創作資源を発見すること。それが、いわゆる創作かなと考えています。なので、前例のないものを考える仕事は、基本的に創作かなと。

未知の領域に触れることを心がける

名古:日常生活の中で、自分の創造性をメインテインしていくために、心がけていることや実践されていることってありますか? 実際に身体活動が伴う・伴わないかに関わらず。

深津:そうですね。今言ったとおり、創作活動とは未知の空間Xを探索することなので、いつもと違う帰り道を選ぶことでもそうですし。ふらりと映画館に寄ったり、適当にランダムに本をピックアップしたり、ふだんの行動パターンからは発生しない何かを、日常に一定以上のリズムで仕組み的に挟んでいくことを意識しています。

名古:パターンをずっと変えていくんですね。

深津:そうですね。

名古:なるほど。それは自分のパターンを認識していないとできないですものね。

深津:そうですね。

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