ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」などのコピーライティング、日曜劇場『VIVANT』のコミュニケーション統括など、さまざまな広告キャンペーンを手がけてきた元電通コピーライターの梅田悟司氏。コピーライティングの実務家が、なぜ生成AI人材を目指すことになったのか。後半では「本当に使えるプロンプト」を生み出すためのコツや、「もう生成AIを導入するには遅い」と考えている人へ、今からでもチャレンジするには遅くない理由を語ります。
「なんでもできる」ことが生成AIの難しさ
梅田悟司氏:今まで「生成AI人材になっていく過程」についてお話をしてきたのですが、答えはひとつなんですね。実務をわかっているということが、一番の価値なんです。
生成AIは、大げさでもなんでもなく、本当になんでもこなせてしまうんです。実際のChatGPTの入力画面を見てみても「お手伝いできることはありますか?」と聞いているんです。つまり「なんでも聞いてください」ということなんですね。入力フォームには文字を書くわけなんですが、何でも書けてしまうんです。

(その一方で、何をするのかの選択肢の幅が無限に広がっているので)可能性がありすぎてけっこう怯むんです。「え、これ何を聞けばいいの?」という感じで、最初の段階で何していいかわかんなくなってしまう。まさにここの難しさがあるなと感じています。
「なんでもできる」は「結局何にもできない」とよく言いますよね。まさにその間口の広さが生成AIの難しさを物語っているようにも思えます。
実際、よく聞く話なんです。「なんでもお願いできすぎて、使い方を自分で決めることが難しい。何から始めていいか、ちょっと考えあぐねてしまうんです」。このような意見を聞くことは非常に多いですね。
実務家の「勘」をプロンプティングに活かす
ここで、実務家の強さが発揮されるわけです。実務家のみなさんは、日々業務を行ってます。そうすると「勘」が利くんです。まさに土地勘の勘。(何をやらせたいか、どうしたら、できそうか。その勘が立つわけです)。

「あんなことできるかなぁ」「あんなことやらせたらめっちゃ楽だな」という部分と、「いや、もしかしたらこうやったらできるんじゃないの?」という、ニーズと仮説の両方を持ってる。(これはめちゃくちゃ強い)。
「あんなことできるかなぁ」っていうのは、まさに取り組みたい課題なんですね。効率化の種と呼んでもいいんじゃないか、と思います。もう1つ「こうやったらできるんじゃないかなぁ」というのは、この課題を解決するための仮説です。
さらには「こうやったらうまくいくかもしれない」という知恵がある。この(ニーズと仮説の)2つを持ってるってものすごいレアなんですね。
逆に言うとシステム・エンジニアの方々は、方法はわかるけど何が求められてるかはわかんなかったりするんです。でも、実務家の方々は、自分や部署の仕事で「こんなことできたらいいんだけどなぁ」「こうやったらもしかしたらうまくいくかもしれない」をセットで考えられる。その両方を持って試行錯誤できるので、ものすごいレアかつ実務家の方ほど生成AI使ったほうがいいとすら感じるわけです。
「本当に使えるプロンプト」は現場から生まれる
僕は、生成AIのプロンプトについて、1つの仮説を持っています。それは「実務家が考えるプロンプト、最強説」です。

(生成AIニーズの高まりによって)多くの方がプロンプトについて考え始めています。生成AIの専門家や、システムエンジニアの方は、プロンプトエンジニアリングという領域の中で、様々なプロンプトのあり方を考えています。
そこで生まれるのが「本当に使えるプロンプト」はどこから生まれるのか、という疑問です。いや、それって現場発なんじゃないの、と僕は思うのです。なので、先にお話ししたように、実務家が考えている取り組みたい課題と、解決できるかもしれないアイデア。これが大きな武器になると考えています。
このニーズと仮説がセットになったプロンプトが最強だよねと。まさにそこをみなさんと一緒にできたら楽しいし、生産性向上を爆上げするきっかけになると思っています。
生成AIの専門家ではないから実現できること
さらにもう1つ重要なことがあります。それは、出力されたものが良いか悪いかは、実務家の方にしか判定できないんです。ここは非常に重要なポイントです。生成AIとの付き合い方が難しいのは、それっぽい答えを出してくることなんですね。逆にいえば「わかりません」とあんまり言ってくれないんです。
本当に実務レベルで使える出力なのか。そのクオリティコントロールと言いますか、品質の判断できる人は誰かというと、システムエンジニアや生成AIの専門家ではないんです。
もっとも正しいのは、実務家の方が見て「うん、これは僕がやっているレベルを超えてるね」とか、「もうちょっとこのへんだけ修正したら実務で使えるんじゃない?」という判定です。この判定は実務家にしかできない。ここがすごく重要な点だと思います。
だからこそ、実務家の方ほど生成AIを触っていただきたい。そこで一緒に効率化の種をつかんでくれたらうれしいなと考えています。
もし、今が2006年だったら?
プレゼンの終盤に入ってまいります。「生成AI人材の差ってあるの?」という話題です。
もうみなさんも、ニュースとかで毎日のように「生成AIが変わったよ」「進化してるよ」と見聞きすると思います。Xなどの書き込みを見ても「こういう方法があるよ」「ああいうプロンプティングが効くよ」という情報に溢れています。そんな状況に触れると「いや、もうちょっと乗り遅れちゃってるしな」と気遅れしてしまうと思うんです。
「弊社は既に生成AIの波に乗り遅れちゃってるしな」とか「組織の中に生成AIを触れそうな人材もいないしな、ちょっと難しいのかな」と思ってしまいますよね。
ただですね、生成AIが出てきてまだ2年しか経ってないんですよ。まだ2年なんですよ。

近い言葉で言うと「DX」ってありますよね。DXという概念が出てきたのは2004年でして、日本で浸透しはじめたのは、2018年と言われています。
例えばみなさんが今、DXが出てきて2年後の2006年にいたとしましょう。その時に「DXやりますか?」と聞いたら、100人中100人が「DXやります!」と答えるのではないでしょうか。まだ2年なんですよ。
2年間しか経っていない。まだまだ生成AIのムーブメントに乗れるし、ちゃんとキャッチアップできれば、成功する確率、(生産性を爆上げする可能性は)非常に高いと思います。
生成AI人材を目指すには、今日からでも遅くない
先ほど安達さんのお話にもあったように、生成AIの活用はまだ試行錯誤の段階にあります。「これをやって、ものすごく生成AIで効率が上がりました」というものは見えたり見えなかったりしている段階です。
なので、みなさんもぜひ社内で生成AI人材を育てながら、試行錯誤をして見てほしいんです。そうすると、先端事例が作れるはず。「私たちの会社では、これで生産性が爆上がりしました」といった事例ですね。
生成AI人材になるタイミング、生成A人材を育てるタイミングは、遅いことはまったくないです。今日や明日からでも進められるので、ご一緒できたらうれしいなと思います。
試行錯誤のために、まずは楽しんでみる
「あんなことできるかな、こうしたらできるかな」というのは、(ホワイトカラーの仕事という意味では)共通していることも多くあります。ただ、個々の会社ならではの、個別事例も多く存在します。そういった個別事例に取り組みながら試行錯誤する。そして「これだったら実務で使えるレベルでいけそうだ。効率化に貢献できそうだ」というものがつかめたら最高ですよね。

そのために重要なのは、まず触ってみること。これに勝るものはありません。とにかく触ってみて、生成AIとのやり取りを楽しんでみてください。
「うまくいかないなぁ。ぜんぜんダメじゃん」ということではなくて「なるほど、こうやって返してくるんだ。だったら、次はこういうふうに聞いてみようかな」という実験です。そのやり取りをしている間に、生成AIの「傾向と対策」が体感として身についてくる。ここからすべてが始まるなと思います。
触りながら、生成AIの教材を見ながらやっていく。そんな方法が有効だと思います。そこから生成AI人材が育っていく流れが生まれます。
社内に眠る「生成AI人材の種」の見つけ方
生成AI人材を育てていくという目線もあるんですが(実際は試行錯誤していたら)「いつの間にか生成AI人材になっていた」というのが、真実なのではないかと思っています。
僕の場合はまさにそうで、いつの間にか生成AIが使えるようになっていたという口なんですね。完全に結果論です。みなさんも生成AI人材を作ろう、育てようという思想もあるのですが、生成AIをみんなに触ってもらって、みんなの動きを見てみるのがいいのではないでしょうか。
そうすると、けっこう細々と生成AIの成果物を作ってくる人が出てくるんですよね。そういう「生成AI人材の種」を見つけていく。この目線が重要なのではないかなと思います。
業務を深く理解することが、生成AI人材になる第一歩
そして最後です。「生成AI人材は、どのように育てられるのか」という問いに対する仮説です。これは確信していますが「生成AI人材の育成や、生成AIの活用は、実務の延長線上にある」ということです。生成AI人材を育てることは単独で存在しているわけではなく、実務の隣にあるものなんです。

実務をこなしながら、業務の解像度を上げていく。その過程で、生成AIを使ってみる。役割を与えてみる。その結果、生成AI人材が勝手に育っていく。ここの一連の流れなんですよね。
まず業務を類型化してみましょう。先ほどの(安達さんのプレゼンで)トヨタ自動車の生産方式のお話がありました。「自働化(業務理解を深めてから機械に置き換えることで効率化につながる手法)」の話もありました。まずは人がやっている方法を仕組みに落とし込んでみる。(方法論として言語化、形式知化してみる)。
それができたら「これって生成AIでできるよね」という機運は自然と起きるものです。その結果、効率化が進んでいくわけですね。結果的に。そのため、業務を類型化して、効率を上げる流れを作っていくことが、非常に重要であると考えています。
生成AI人材の育成にありがちな誤解
「ITリテラシーの高いメンバーを現場から外して、生成AIに専念させる。そして、生成AI人材として帰ってきてもらう」ではないんです。まったく違うんです。むしろ現場のリーダーとして生成AIの活用を先導する人を見つけていくことが重要です。そういった人たちと共に、現場に生成AIを浸透させていくのが重要なテーマになると思います。
では、組織としてどう育てるのか。トップの意思決定の下で「ミドルリード × ボトムアップ」で効率化を実現していくと説明できるんじゃないかなと思います。
ミドルリードという部分がやっぱり重要なんですね。トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも、足りない。中核になってリードしてくれる人がチームを作って、みんなで進めていくことが重要になると考えています。
何気ない業務課題が、大きな価値を秘めている
そして「おわりに」。本当に最後ですね。復習をしながら今日の話を終わらせたいと思います。
生成AIって、取っ付きづらいと思う人が多い領域だとは思います。その元凶は、なんでもこなせてしまうこと。つまり、使い方を自分で決めなければならないこと。使い方を自分で決めるというのは、予想以上に難しいんですね。
ただみなさんには、その種がすでにあるはずなんです。「あんなことできるかな」という効率化の種。そして「こうやったらできるんじゃないか」という仮説です。これらを持っていること。みなさんにとっては当たり前のように感じているかもしれませんが、そんなことはありません。本当に大きな価値があるのです。ここをぜひ意識していただければと思います。
ニーズと仮説の両方を持っていることは、本当にレアです。ぜひ生成AIを触ってみていただきたいと思います。
実務家が考えるプロンプトって本当に最強のはずなんです。みなさんの現場からプロンプトが生まれて、効率化が進んでいく。そういったものをご一緒できるとうれしいです。
僕もそうやって生成AI人材になっていったんですね。ここでいったん、私のお話は以上となります。ありがとうございました。
生成AIの特性をつかむ方法とは?
おっと、ご質問ありがとうございます。(質問文を読み上げる)「生成AI人材に少しずつ近づいていける気がするのですが、次のレベルに進むためにやっていくことはなんでしょうか。例えば業務の中で毎日1時間は少なくとも生成AIを触ってみよう。やりたいこと、効率化したいことをストックして、それぞれを少しずつ試してみる、などでしょうか」……。

いいですね。とてもすばらしい方法だと思います。あとはですね、おすすめしたいのは、業務だけではなくて人生相談をしてみると、生成AIの特性をつかむことができるようになります。業務使いだけではなく、ふだん使いをしてみるのですね。
例えば「今、こういうことに悩んでるんだけど、どう思う?」とか。その時に重要なのが、プロンプトの書き方として「私の親友として答えてください」「心理学の専門家として答えてください」「人生の先輩として答えてください」と、いろんな人を呼び出して人生相談をすることです。
この作業を繰り返していると、生成AIの特性が見えてくるんですね。出力結果の違いが見えてくるんです。その出力の差を参考にしながら業務で使っていくのがいいと思います。ChatGPTとの会話を楽しむ、遊ぶというところが重要になってくると思います。
まさにそこでChatGPTの特性が見えてくると、次のレベルに進んでいきます。遊びも含めて生成AIにハマっていくと「あ、もしかしたらここの聞き方や、指示の仕方が悪かったのかも」と、フィードバックされるようになります。
ぜひ、生成AIと遊んでみる、戯れてみる、雑談を楽しんでみることを意識していただけると、成長速度は飛躍的に伸びていくはずです。私からの話は以上となります。ご清聴いただき、ありがとうございました。