2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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佐藤:私がおもしろそうだなと思うのは、たぶんそういう流れとかパターンというのも、今後、分析をかけていって、それを解くのは人間じゃないかもしれないですけど、AIなりロボットなりがそのパターン自体を理解してしまって、「世の中はこういうふうなパターンとこういう周期でこう動く」というのを理解できる日がけっこう早くくるんじゃないかなと思っています。
一方で、その仕組みをちゃんと理解したうえで、ちゃんと社会システムを組んでいくような時代がもう少しで来るんじゃないかなとも考えています。
若林:そう。だから、僕が『WIRED』とかやりながら絶えず思うのは、要するに僕らが当たり前だと思ってる仕組みだとかシステムみたいなことっていうのは、わりと恣意的に決められてきたものであるということもある。
佐藤:あまり根拠とかがないですよね。
若林:根拠とかがないし、かつ、一番精度がいいものをそこで選んだ、という証拠もだいたいないんですよね。「まあ、だいたいこんなもんだろう」みたいなことで作られてきたものが実際は多い気はしますね。
ほかにぜんぜん別のオルタナティブな方法もあったんだけど、なぜかそっちが採用されてないってことは多々あって。
そのなかで、制度設計みたいな話でいうと、もうちょっときめ細かくエンジニアリングできる領域というのは、実は非常に多いんだろうと僕は思ってるんです。
実際そういうものに対して、あるデータによって、見えなかった相関みたいなこととかが見えてくる。それによって、「ここをエンジニアリングしたら、もうちょっと制度としてよくなるね」ということは、おそらく出てくるんだろうなという気はしますし、そういうことが進んでくれたほうがいいなっていうのもありますよね。
佐藤:それはよい面で。たぶんいろんな今までの勘違い・誤解が解けて、もう少し効率的に社会や経済が運営できるようになるということですかね。
一方で、データが足りないんだけども、システムの分析力に対する信頼が上がっていって、「じゃあ、ここに任せれば適切な答えが出るんだよね」って思い込んで、データソースが足りないんだけども、分析をかけてしまって、その結果をそのまま実装してしまう。それで問題が起きるというのも、両方で起きるだろうなと。
若林:なるほど。あることに対して十分なデータ量っていうのは、いつになったら確保されるんですか?
佐藤:例えば、インターネットのサービスであれば、自分が完全に運営して、すべてルールまでコントロールできるような自社サービスですよね。ここに関しては、ほぼデータは揃ってるんです。
やっぱり他社のサービスだったり、クローリングで誰でも手に入るレベルのデータだけで答えを導きだそうとすると、かなり間違いが出ますよね。どこまでコントローラブルかというところです。
若林:「データノミクス」っていうある種の知能革命を支える基盤となるのは、やっぱりデータの量じゃないですか。
佐藤:はい。
若林:それはどう増やしていくんでしょう?
佐藤:それこそが人間の価値になってくるんじゃないかなと思っていて。「どこまでのデータを取れば十分だと判断するか」ですよね。あとは「これ以上データ取っても意味ないよね」って範囲も存在すると思うんですよね。データってほとんどゴミなので。なので、その見極めが大切なんです。
永遠にデータを取っていてもしょうがないので、ある程度、割り切りっていうんですかね、そこを判断する人間というのは、マシンラーニングとかが相当進んだとしても必要になってくるだろうなと思います。だから、「ここらへんでもう決着をつけましょう」といえる人。
若林:やっぱりデータのおもしろさって、マシンラーニングが発達するとかディープラーニングが発達するとまた違うのかもしれないですけど、問いの設計というか……例えば、「なにかの課題に対してこのデータセットが有効かもしれない」みたいなことって、実は自明のものとしては与えられていないわけじゃないですか?
この間あった「白血病をWatsonが見つけた」みたいなことに関して言えば、医療診断というものに対して、「膨大な医学論文を食わせりゃ、AIがなにかを見つけてくれるだろう」というのはなんとなくわかるんですけど、必ずしもそうやってデータセットが自明のものとして与えられているわけじゃないですよね。
そうなってくると、例えば、ある課題に対して、あるいはあるデータセットを見て、そこから課題を導き出すというか、問いを導き出すというのは、実は非常に難しい、才能がいる仕事な気がするんですけれども、どうですか?
佐藤:いや、おっしゃるとおりだと思いますね。たぶんあと数年ぐらいでディープラーニングとかもほぼ無料で使えるような基盤が整ってくると、「技術自体はほぼタダで使えるけれども、じゃあそれをなにに活用すればいいんだっけ?」という、社会と技術のつなぎですよね。それを担う人物というのがものすごく価値が高まってきますし、それがたぶん人間の仕事になってくるんじゃないかなと思います。
若林:メタップスグループって今、社内何人いらっしゃるんですか? 海外も含めて。
佐藤:220~230名ぐらいですかね。
若林:そのなかで、今言ったみたいな問いの設計を実際にやれる人間って、佐藤さん以外に誰がいます?
佐藤:やっぱりリーダークラスじゃないと難しいですよね。
若林:それは何人ぐらいいるんですか?
佐藤:10名もいないんじゃないですかね。そういう、課題そのものを見つけてきて、そのアプローチまでちゃんと自分で考えて出してくるというのは。
若林:それは、どういう才能だと思います?
佐藤:芸術というか右脳側ですよね。ロジックでものごとを考えるというよりかは、まあ、ひらめきなんですけれども。「あれとこれがもしかしたら関係してるかもしれない」とという気づき。
なので、けっこう関係ない領域で仕事をしてきた、もしくは、国と国をまたいで仕事をしてきた人間はそういうのが得意な人が多いですね。「あれとあれが似てる」とか。
若林:そういう意味では、2つの領域にまたがって、ものごとを常に対比的に見れるって、やっぱそういうスキルを持った人間が……。でも、それってスキルじゃないもんね。
佐藤:なんて言うんでしょうかね。横断的な知性ですかね。
若林:いろんなデータ解析やる人の課題として、みなさんそこはだいたい悩んでますね。つまり、人材がいない。
問いを与えて、「答えを出せ」というのは、できる人たちがたくさんいるんだけれども、新しい問いをあるデータから見つけ出すことができる人間ってのは意外といないんだよねという悩み。やっぱり似たような悩みはありますか?
佐藤:それはありますね。かつ、組織を運営していくうえでも、今後そこをどう育てていくかというのが本当に肝になってきますし。そこをアウトソーシングしたいという企業も増えてきますから、需要はありますよね。
若林:やっぱりそうか。でも、そこはどうやって育つんですかね。
佐藤:極力関係ないものをいろいろ見させるのが一番いいんじゃないかなと思っています。子供でも、いろんな国で昔生きたことがある人たちってけっこうそういうことに気づきやすいですし。
あと、転職がいいのかはわからないですけども、いろんな業種を見たことがある人たちというのは、共通項をすぐ括れて、どこが重要かってパッとわかりますから。
若林:なるほど。逆に佐藤さんは、それはどうやって身についたと思っていらっしゃいます?
佐藤:身についてるかどうかは別として、私は個人的にはいろんな情報ソースを常に見てますし、あとは気になったらそこに行くというのは、偏見なしに毎回繰り返してますね。飛び込んでみるという。
若林:本とかもすごい読まれるじゃないですか。読書家でいらっしゃると聞いていますけど、やっぱり横断的にあらゆる分野のものを読まれたりします?
佐藤:そうですね。極力自分が今まったくわからない領域ですよね。そこを集中的に読むようにしてます。逆にわかるものは極力触らないように。あと、自分が理解できるコミュニティとか場所にも極力行かないようにしていますね。
若林:最近、佐藤さん的に、そういう意味で興味ある、まったく理解できないコミュニティなり領域ってなんですか?
佐藤:ぜんぜんわからないというものだと、宇宙とかまったくわからないですね。どういう構造になってるかもぜんぜんわからないですし。
あと人間とか生命というのが、その全体なかでどういうふうにデザインされているのか? はたまたデザインされてなくて、完全な偶然だけで成り立ってるのか? まったくここも仮説が思い浮かばないので、ここはまだまだ掘りがいがありそうだなと思っています。
若林:なるほどお。なんだか、つくづく「未来は大変だなぁ」っていう感じですね(笑)。ほら、自分が知らない宇宙の勉強しなきゃいけないし(笑)。楽して生きてたい人にはつらい世の中になるという、しょうもない結論(笑)。
なにかもし、せっかくなので、質問があれば1つ2つは受け付けますが、どうでしょう? なにかあります?
質問者1:「社会は残酷で、格差が当たり前」みたいな話があったんですけれども、インターネットのトレンドとしては、「平等を広める」みたいなことが起こっているじゃないですか。なので、それが将来どうなるのかということをおうかがいしたくて。
具体的には、例えば、ロボアドバイザーとかがお金を稼いでくれるようになったとき、そのアルゴリズムが例えばオープンソースで使われているとか、App Storeみたいなところで買えるってなったときに、お金の価値が下がったりとか、お金での格差はどうなっていくのかなということを、どうお考えでしょう?
佐藤:けっこう繰り返しをしているなと思っています。例えば、今回テクノロジーを使ってフラットに世の中を変えていきたいって人が出てきて、それが本当に成功したとしたら、確かに旧来の社会で力のある人たちから力を奪って、そこそこ平らにはなると思うんです。
でも、今度はそのテクノロジーを使ってサービスをつくってる人たちに資本が集まるので、そういう意味では格差はまだ残ってるんじゃないかなと思います。
典型がGoogleとかFacebookだと思うんですよね。彼らって相当フラットにしたと思うんですけれども、一方で、メディアやほかの業界の資本を吸い上げて移動したので、上から眺めるとプレイヤーが変わっただけ。つまり強い人が変わっただけであって、全体の構造はそこまで変わってないんじゃないかなっていう仮説もあります。
ただ、本当にオープンソースで全部ばら撒いてという、革命者みたいな人たちが増えてきたら、(本当にフラットになることが)あるのかもしれないなと思ってはいます。そこは人間のチャレンジじゃないですかね。
質問者1:その革命が起きたあとの世界って、お金とかどうなるんですかね?
佐藤:難しいですよね。お金をもう1回復活させようという人たちも出てくると思うんですよね。わかりやすいから。
よくわからないKPIがいろいろ増えちゃって、パラメータが増えて、これどれを見て判断すればいいかわからないから、もう1回お金というすごい便利なシンプルな基準に戻ろうという人も出てくると思いますし、「いや、やっぱり嫌だよ」という人も出てくると思います。もう1回発散と収斂というのを繰り返していくのかなと。
なので、お金というものから違うものに力がちょっとずつ移ると思うんですけれども、また50年、100年経つと、またお金じゃない資本なのか、ちょっとわからないですけれども、そこにもう1回戻ろうという動きも出てきますし。また数100年経つとまた発散して、というのを繰り返していくんじゃないかなと思っています。
質問者1:ありがとうございます。
若林:おもしろいですよね。お金ってやっぱり便利は便利じゃないですか。
佐藤:便利ですよね(笑)。
若林:ふわっといろんなのを内包できちゃうみたいなことの、曖昧なよさみたいなものはおそらくあって、それはやっぱりいいものでもあるんだろうなという感じがちょっとするんですよ。
佐藤:いや、すばらしいものだと思うんですよね。ふわっとしてるんだけども、数値化できて、数えられて、交換できて。
しかも、お金が誕生したことによって、血縁主義、つまり王様とか部下とか、そういう人たちから力を奪えたので、ある意味ではお金の発明というのはとんでもない革命だった。
ただ、それが今度、世の中に対してネガティブなインパクトも及ぼし始めてるので。繰り返しですよね。
若林:なるほど。あ、すみません。「Please Close(終了してください)」ってあそこで合図出してる人がいるので、終わりますね。すいません。ありがとうございます。佐藤さん、ありがとうございました。
佐藤:ありがとうございました。
(会場拍手)
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