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エストニア視察フィードバック(全1記事)

Skypeを生んだエストニアの“IT立国”ブランディング 3日間の視察でわかった最新スタートアップ事情

2019年1月29日、WASEDA NEOにて「エストニア・スタートアップ最新動向レポート@東京・日本橋 by ビジネスメディアAMP(アンプ)」が開催されました。Skype発祥の地でもある世界最先端の電子国家エストニアは、電子政府とスタートアップ企業が密に連携することにより急成長を遂げています。創設当初よりエストニアのスタートアップ事情をレポートしていたビジネスメディア・AMPの共同編集長・木村和貴氏は、そのエストニアを丸3日間を訪問し、最新の情報をキャッチアップ。同国タリン大学へ留学経験のある齋藤侑里子氏と、エストニア出身でタリンの公式ツアーガイドを務めるハッラステ・ポール氏を招き、報告を兼ねたトークセッションを行ないました。本記事では、冒頭に行われた木村和貴氏による講演「エストニア視察フィードバック」の模様をお送りします。

AMPが着目したのは、シリコンバレー“以外”のスタートアップ事情

木村和貴氏:これより『エストニア・スタートアップ最新動向レポート』ということで、ビジネスメディア「AMP」にようるイベントを開始したいと思います。

まず、自己紹介からさせてください。私はAMPというビジネスメディアで共同編集長をしております、木村和貴と申します。もともとはインターネット広告代理店などのデジタルマーケティング畑にいた人間です。そのなかでスタートアップなどさまざまな新しいテクノロジーやビジネスモデルに興味をもって、今のメディアを創刊するにいたります。

最初に「ビジネスメディアAMPとはなにか」というところです。知的好奇心を増幅させ、インスピレーションを与えるビジネスメディアというところで、ミレニアル世代が主なターゲットになっています。

ビジネスのインスピレーションを与える情報を出していき、そしてこれからの未来を作っていく先端テクノロジーやビジネスモデル、カルチャーといったものを取り上げて、みなさんに発信することで、自分たちのビジネスでいろんなことを起こしていってほしいという願いの元、つくられたメディアになっております。

AMPでは、実はエストニアの連載記事というのを創刊当時からずっとやっております。

なぜかというと、シリコンバレーの情報っていろんなメディアから入ってくると思うんですが、小国のスタートアップの事情や事例ってなかなか日本に入ってこないなと。我々がグローバルの先端の取り組みであったりシステムみたいなところも取り上げて情報発信することは、みなさんにとって有益なんじゃないかというところで、エストニアの連載を開始しました。

ゲストは、エストニア留学生と来日したエストニア人

エストニアの連載をやっていると、エストニアのことについて聞かれることも増えてきました。しかし、僕自身がその当時はエストニアに行っていなかったので、聞かれても答えられなかったと……。うちは海外に編集のデスクがあったり、ライターがいるので、彼らの情報をずっと拾い上げていたんです。

そこで「実際に行ってみよう!」ということで、エストニア視察に行ってきました。エストニアに行ってきたことで、僕が感じたことであったり、体験したことを、今日はみなさんにお伝えしたいなというところです。

こちら(スライド)が本日のプログラムです。

最初は僕からスタートアップなど視察のレポートというところで、フィードバックさせていただきます。

セッション2では、エストニア移住と教育というところです。Robotex JapanのCEOをやっている齋藤侑里子さんは、筑波大学の4年生の方で、タリン大学エストニアの大学に一時期留学をしていました。そこで経験した話を話してもらえればうれしいなと思っています。

最後のセッション3は、トークセッションです。齋藤侑里子さんと僕と、あともう1人、ハッラステ・ポールさんという日本にいらっしゃるエストニア人の方です。後ほど、詳しい自己紹介をしていただく予定です。この3名でトークセッションを進めていければと思います。

それではさっそく、セッション1のエストニアスタートアップ視察レポートに移りたいと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

大きさは九州と同じくらい、人口はその10分の1

今日ここに来ている方々の中には、すごくエストニアに詳しい方々もいれば、まったく知らない人もいると思います。いろんな方がいると思うので、基本情報からおさらいしていければいいなと思います。さて、エストニアはどこでしょうか? 

ちょっと手を挙げていただけたら。1、2、3のどこかで手を挙げてください。

1だと思う方?

(会場挙手)

2だと思う方?

(会場挙手)

3だと思う方?

(会場挙手)

なるほどなるほど。正解は3ですね!

ゲストの齋藤さんが1で手を挙げていたので、つられて挙げてしまった方もいるんじゃないかなと思います。

(会場笑)

エストニアはバルト三国の1番北に位置していて、北欧エリアにある国です。

続いて、「国土面積はどのくらい?」ということです。日本と比較してというところですが、「1. 本州くらい」「2. 九州くらい」「3. 四国くらい」ということで……。正解は2です。九州くらいの大きさということですね。九州本土の約1.2倍の大きさとなっています。

続きまして、国土面積が九州と同じくらいということだったんですが、人口は九州に比べてどのくらいでしょう?「1.約150パーセント」「2.約50パーセント」「3.約10パーセント」。

正解は3なんですね。約1,300万人の九州に対して、エストニアは約130万人ということです。九州と同じくらいのサイズなんですが、人口は10パーセント、10分の1になっているというような国が、エストニアという国になっています。

ここからは、環境面のおさらいです。人口密度が非常に低いということで、国土の約40パーセントが森林などに覆われています。あとは湖や湿地帯など、まだまだ手付かずの自然がすごく残っている国が、エストニアになります。

続いてエストニアの政治です。ここにざっと並べて出させていただきました。基本的にいろんな国に占領されてきた歴史があります。

主にソ連の占領というのが、1番大きかったです。その後、1991年に独立回復を宣言して国連に加盟したということで、国としての歴史は非常に新しいです。国として新しいというところも、これから話していくエストニアのスタートアップ環境の強みというところに繋がってくることが多いです。

実際に足を運んだエストニアの視察レポート

エストニア経済は、急成長を遂げています。独立してからどんどんどんどん成長していて、平均賃金というのも高まっていっているというところがあります。

そんなエストニアを視察してきたというところで、レポートに移りたいと思います。

丸々3日間、現地を見る時間がありました。「こういったところを周りました!」と、これだけパッと見せられても、「なんじゃそりゃ?」という感じだと思うので、ちょっとカテゴリー別に分けていきます。

まず政府系というところで「e-Estonia Showroom」。政府がやっている、電子政府のショールームというところです。人材では、国を超えた人材サービスのスタートアップ、「jobbatical」と、後ほど説明するe-Residentのビジネスサポートをやっている「LeapIN」。あとは教育というところで、「Mektory」というタリン工科大学にあるスタートアップ支援施設に、「VIVISPOT」という子どもたちの創造的な教育のための施設。そしてエコシステムというところで、「Funderbeam」という投資のプラットフォームのスタートアップでかなり有名なところです。

あとは「LIFT99」という、インキュベーション&コワーキングスペース。最後に「Robotex」というロボットに関する大規模なカンファレンスを見てきましたので、そのレポートについて簡単に説明できればなと思います。

IT立国を目指したエストニアの電子政府事情

まずe-Estoniaのショールームです。こちらはエストニア政府が運営しておりまして、いろんな外国の企業や行政の方々を受け入れて、エストニアでどんな電子政府の取り組みをしているかを伝えているような場所になっています。

エストニアの独立時の背景ということで、少ない人口・厳しい自然環境というところだったんですが、どうやってそこから経済を高めていくかというところで、IT技術の高さがありました。COMECONで情報通信を担当していたということなどもありまして、IT教育とかITスキル・技術が進んでいました。そういったところからのIT立国です。IT技術を使って、国を復刻していこうという話が進みました。

具体的に、電子政府としてどんな取り組みがされているか。1番よく話をされるのが、eIDというものです。これは日本でいうと、マイナンバーみたいなものです。国民一人ひとりにIDを付与していて、すべての行政のシステムをその番号と連動させて行っているというようなシステムになっています。

この裏側を支えているのが、X-Roadという仕組みです。すごく高いサイバーセキュリティの技術といったものがありますので、それを活用してeIDとすべての情報を紐づけて、国民がそこで生活をしています。

非常におもしろいポイントとして「同じ質問は2度しない」というポリシーを行政が持っています。例えばどこかの役所で、名前とか住所とか電話番号とかなにか書いて出したときに、同じことをまた別の場所で書くことは一切ないということですね。1回答えた質問には、国民は2度と答えなくて大丈夫と。システムでデータがつながっているので、それを利用して行政サービスを受けることができるということで、行政サービスを非常に効率的に受けることができるというような技術となっております。

人口を増やすための「仮想エストニア国民」戦略

これに加えて、仮想エストニア国民を増やす「eレジデンシー」というものをやっております。これはエストニア国民ではなくて、国外にいる人にeIDみたいなものを仮想的に作って、発行して、国外にいるけどエストニアの国の行政サービスを利用できるというようなものです。

なぜこういうことをやろうと思ったかというと、そもそもエストニアは人口が少ないので、エストニアを盛り上げようと思ったときに、やっぱり人口を増やさないといけないというのがあります。

しかし、人口を増やす手段と考えたときに、「子どもをたくさん増やそう!」というのは、非現実的な話だったので選択肢にはありませんでした。今度は「移民を増やそう!」という話が出てくるんですが、移民については近くの北欧の諸国に魅力的な国が多いので、移民というところでもあまり勝てないのではないかと。

じゃあどうしようと考えた結果、エストニアに来てもらわなくても、国外からエストニアの行政に参加してもらうという発想でeレジデンシーという、仮想エストニア国民を増やす取り組みを始めました。

これを取得するとどういうことができるか、おそらく後ほど齋藤さんからも詳しく話があると思います。日本からでも、例えば15分くらいで、エストニアの法人登記ができてしまうといったことができます。法人登記や銀行口座の開設といった、さまざまなことがeレジデンシーではできるというところになっています。ただ、できることと、できないことが分かれていまして、eIDほどすべてができるというわけではありません。

エストニアンマフィアを生んだ、Skype発祥の地

続いてエストニアのスタートアップ企業についてです。みなさん、Skypeを使ったことある方も多いかなと思います。実はSkypeはエストニア発のサービスです。そこからSkypeが成功して、そのお金がエストニアの次のスタートアップに循環していくようなことが起きて、「エストニアンマフィア」と呼ばれたりしています。エストニアはそういうスタートアップに、国としても力を入れています。

続いて「Mektory」というタリン工科大学のスタートアップ支援施設についてのレポートです。タリン工科大学では、Mektoryという企業支援を行う施設が併設されています。タリン工科大学自体は、サイバーセキュリティとかサイエンス、エンジニアリングといった部門に非常に優秀な人たちが集まって、専門の学部を作って教育を行っています。そこでさらにそういった学生たちが、いろんな企業と繋がったりとか、国と繋がったりということができるように支援しているのがMectoryになります。

ポイントは、多くの国や企業がスポンサーをしていて、Mectoryがハブになっているということです。あとは大学生だけではなくて、5歳以上のエストニアにいる学生すべてに開かれた施設となっています。小さい子どもたちの教育に力を入れていて、そういったプログラムも開催しています。ビジネスプランコンテストを開催したりとかも、行っているようです。

一番左ですね。(スライドの)写真が、いろんな国から来た人が、自分の来た場所を線で引っ張って名前を書いていくような場所です。シールを貼って名前を書いていくみたいな壁があって、本当に世界中いろんなところから人が集まってきているということがわかるというところですね。

あとは、国とか企業とかがスポンサーをしている部屋というのがあります。日本の部屋もあって、アメリカの部屋とかそういった感じで場所をスポンサードして、自分たちの国の魅力を発信していたり、企業の魅力を発信していたりします。

続いて「LeapIN」ですね。eレジデントのビジネスサポートということです。先ほどeレジデンシーという、仮想エストニア国民の話をしました。それを利用してエストニアでビジネスをしたい人を支援しているのが、このLeapINというサービスです。主にターゲットはスモールビジネスをやっている個人事業主とか、小規模の会社のサポートというのがメインです。2,000くらいの顧客がいるという話、日本からは100くらいいるという話を聞きました。

「求められている人材はどんな人か」ということや、「どういう人が活躍しているか」という話を聞くと、エンジニアの人が多いですね。エンジニアとか、デザイナーであったり、そういうスキルがある、手に職があるというか、そんな人がやってきて、活躍しているということが多いみたいです。

エストニアでノマドワーカーを実践できるビザの発行を検討中

次は「Lift99」というところです。インキュベーション&コワーキングスペースというところで、付近に有名なスタートアップのオフィスもいくつかが集まっている場所にあります。ここではいろんなスタートアップの人たちと交流できたりします。

コワーキングスペースということで、僕が行ったときは13歳の子どもとかもコワーキングスペースでプログラミングをしていたりしていて、非常にスタートアップの交流に加え、子どもたちも来やすい場所というか、そういう意識の高い人がいるんだなと感じました。

「Jobbatical」というのが、国を超えた人材サービスということで、いろんな国と国を超えて求人を出して採用できるというようなものになっています。エストニアの政府と連携していたり、シンガポール政府も顧客にしていたりします。「自国に優秀な人をどうやったら呼び込めるか?」ということを、人材サービスのJobbaticalがサポートしているというようなところになっています。

あとは、デジタルノマドビザというのを、今エストニアが検討しています。新しいビザの形態ですね。ノマドワーカーって聞いたことがあると思います。場所を選ばずに、いろんなところで働くような人たちが、エストニアに行って、エストニアで自分の仕事をオンラインでしていくと。そのために発行されるビザみたいなものを検討しています。

エストニアはEUの加盟国であるので、それによってEUのビザが3ヶ月分くらいついてきたりというのがあります。これが始まると、このビザを使ってヨーロッパに行こうという方が増えてくるので、かなり注目されています。今後どうなるかという話です。

続いて、「Funderbeam」というところは、投資プラットフォームです。世界中の個人投資家たちと、アーリーステージのスタートアップを繋いでいます。そこで投資を行うことで、非常に効率が良い。そういう可能性のあるものになっております。これも世界中の投資家たちが、マーケットを通さずに直接Funderbeamを使って投資できるというところで、世界中の人から注目されているサービスになっています。

あとは、それに結び付く、スタートアップのデータベースみたいなものもFunderbeamが作っています。いろんな人が、「エストニアのスタートアップはどんなものがあるか」「その株主構成はどうなっている」「どういう人がいる」というのを、このデータベースを使ってアクセスできるというものも提供しています。それはエストニア政府と連携して、Funderbeamが行っていたりします。『スタートアップエストニア』というのをやっていて、エストニアのスタートアップのファンディング状況とかが、全部データベース化されているというようなものになっています。

孫泰蔵氏が共感した、エストニアの教育への意識の高さ

続いて、「Robotex」というものです。これはロボット教育のコミュニティがやっているカンファレンスに、ちょうど立ち会うことができました。2001年にエストニアで設立されて、5大陸15ヶ国に展開している世界最大のロボット教育になっています。

Googleなどグローバル企業が登壇してプレゼンテーションを行っていたりだとか、あとは若い人たちを対象としたロボットコンテストなどを行っていたりします。

現地に行って感じたのは、すごく子どもたちが多くて、女の子たちも普通にけっこうたくさんいるんですね。そういった人たちが自分たちのロボットを作って競わせています。プログラミングとかもそうですし。

こういったハードの技術もそうですけど、そういったところへの興味・関心が非常に高いというところと、そこへの教育意識の高さというのが、非常に強いなと感じます。Robotexは、今年Robotex Japanというのが行われることが決定したと。

これは孫泰蔵さんがやっているVIVITAという会社とRobotexが連携して、Robotex Japnというのを設立しました。VIVITAはVIVISPOTというのをやっていて、ちょうどタリンに僕が行っている間にプレオープンしていて、様子も見てきました。

これは子どもたちへの教育を、規制をかけずに自由な発想でいろんなものを生み出していくというようなところを支援するような施設となっています。孫泰蔵さんがエストニアの教育の意識の高さに共感して、「じゃあエストニアでもこういうことをやっていこう」と話が進んでいったそうです。

実は、今日この後に話していただく齋藤さんとは、ここで出会いました。エストニアに着いて、ホテルに向かう路線バスで話しかけられたと思ったら齋藤さんで、そしたらRobotex JapnのCEOだったみたいな……。すごい巡り合わせで、そこで偶然、斎藤さんたちと会って、現地訪問中だった孫泰蔵さんともお話しする機会がありました。

こちらはちょっとおまけで、Taxifyというエストニア版Uberみたいなものです。これを国公認でやっていたりするんですね。現地でもずっと使っていました。

国家レベルでのブランディングができている

まとめです。「エストニアの強みはなにか」というのを、ざっと見てきて感じたのは、産学官の連携がめちゃめちゃとれていると。教育機関と行政とスタートアップが非常に連携していて、国をスタートアップが支えているような、お互い助け合っているような状態が起こっていました。

人口が少なく、内需が期待できないので、常に視点はEUに向いていると。エストニアでスモールスタートさせて、小さなマーケットで一旦試して、そこからEUに展開していくモデルが多いなと感じました。

あとは、アジアの情報はあまり流通していなかったなという印象があったのと、どの自治体企業を巡っても全員が同じ話ができるということです。エストニアについてこう考えていて、エストニアってこういう国だというのを、誰に聞いても同じ答えが返ってくるという点では、そういった意思の統一というがされていることと、国家のブランディングがちゃんと国側もできているというような印象を受けました。

非常に視察もしやすい国だったので、目的をもって現地に足を運べばかなり学びも多いのではないかなというところかなと思います。ということで、以上でエストニア視察レポートを終わりにして、続いてセッション2の「エストニア移住と教育」に移りたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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