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資金調達市場の今後(全5記事)

日米の資金調達の違いとは? 数字で見る、日本の大企業・ベンチャーの課題

2015年12月10日、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。セッション「資金調達の市場の今後」では、モデレーターを務めるWiL・松本真尚氏の進行のもと、スマートニュース・鈴木健氏、メルカリ・小泉文明氏、freee・東後澄人氏が日米の資金調達の違いについて意見を交わしました。

日米の資金調達の違い

松本真尚氏(以下、松本):松本と申します。 もともとIVSさんからいただいたテーマが、「日米の資金調達の違いも含めて」というお話でした。

小泉さんのところも、鈴木さんのところも海外展開されていらっしゃると思うので、まず簡単に日米の違いをご説明させていただいてから、みなさんのお話を聞こうかなと思っております。

リスクマネーの話なんですが、これ1つで見ていただいたらわかると思いますけど、要はベンチャーキャピタルの投資額として52倍の差が出ていると。

エンジェル投資も年間2兆円を超えるという話ですので、リスクマネーの供給量が69倍以上あると。

リスクマネーの供給が69倍あるということは、単純ですけど、69倍挑戦できるということです。そういう意味で言うと、日本とアメリカはまだまだ大きな差があるんじゃないかなと思っています。

こちらが投資額のGDP対比。

見ていただいたらわかりますけど、一番左にアメリカがあって、日本が4つ目ですかね。日本は点線で囲ってますが、0.02パーセントしか投資という部分で日本のお金が流れてないと。

これを考えましても、何度も同じ話になりますが、日本自身はもうちょっとここに対して、政府含め、大企業含め、投資をしていくべきなんじゃないかなと個人的には思っております。

数字で見る日米企業の時価総額

大企業含めてという話があったので1つ、わかりやすいかどうかわかりませんが、数字を見ていただければと思います。これはちょっと数字が古くて、今年(2015年)の6月の数字なので、ピッタリ参考になるかどうかはわかりませんが。

(スライドの)左にあるのが、シリコンバレーで2000年以降に作られたベンチャーの時価総額の合計です。

右が日本のIT系の上場している会社(の時価総額)をすべて合算した数字になります。アメリカはたかだが15年ぐらいですし、日本はもうちょっと前から、上場会社含めて全部合算しているという状況になります。

これをもうちょっと近い数字でないかなと思って探して、2009年以降の(アメリカの)上場の会社と、日本のすべての上場の会社の比較をして、この15兆円vs12兆円というような差が……差というか、限りなく近い数字がこれぐらいになるのかなと思っております。

このへん、ちょっと悲しくなるんですが(笑)。Apple1社で91兆円と。日本はヤフーから楽天から、そうそうたる企業すべてを足して12兆円という状況になってます。

91兆円のところと日本を比較しようと思って探したんですが、日本の時価総額上位10社を足してみました。そうすると、106兆円なんですよね。Apple1社で91兆円と。1対10社の差でも、時価総額としてはこれぐらいの差しかないという状況です。

いわゆるシリコンバレーベンチャーと言われる、99年以降の創業したベンチャーだけを足すとどんな感じなんだというと。こちら166兆円vs106兆円というかたちです。

日本はそれこそトヨタさんからNTTさんからすべて足しても、シリコンバレーのベンチャーには、時価総額という点だけでは敵っていないという状況になってます。

Squareは上場してしまったので、ここから1社引いておかないといけませんが、トヨタさんの時価総額がこの時点では28兆円でした。

左にある未上場のベンチャーが29兆円の時価総額があるというような状況になってますので、ここにたぶんメルカリが入ったり、スマートニュースが入ったりするんでしょうけど、まだまだ日本とアメリカの差というのは大きいのかなと思っています。

日本の大企業・スタートアップの課題

もう1つは、IPOだけじゃなくて、シリコンバレーでよく起きているのはたぶんM&Aだと思います。このM&Aですが、代表的な企業数社を並べてみました。167から始まる真ん中の数字は買収した会社数です。一番右にあるのがディールサイズです。

例えばFacebookは上場もつい最近(2012年)だと思います。ですが、すでに53社のM&Aを繰り返していたりとか。AppleはM&Aをあんまりしないと言いながらも、すでに68社のM&Aを繰り返していると。

そういう意味で言いますと、日本のIT系のベンチャーしかり、大企業も、このへんがもっともっと活性化することによって、資金の流入がもっと増えてくるんじゃないかと思っております。

このへんをちょっと見てみると、この全部この10年にできたサービスがあるんですが、これはすべてシリコンバレーで起きています。

今後10年で存在するであろうというベンチャーも、悲しいかな、日本のベンチャーで数社チャレンジしてる会社はあっても、日本でこのへんの大きな取り組みに挑戦していこうというベンチャーは少ないというのが、先ほどの時価総額のお話の部分にも、ある程度現れてくるんじゃないかなと思っています。

優秀な学生はまず霞ヶ関? 日本におけるベンチャーの位置づけ

ここから、日本のベンチャーの事情の部分、みなさんのご意見を聞きたいなと思うんですけど。僕自身は、やはりリスクマネーがアメリカと比べてまだまだ足りないなと感じています。

スケールも先ほど言ったように、宇宙のビジネスだったり自動運転。日本のベンチャーもいくつか現れてはいますが、前年ながらスケールの違いというのはあるんじゃないかなと思いますし。

大企業の間に経つ壁というのが、さっきのM&Aですね。ベンチャーの製品を大企業が買って、そのお金がさらにまたベンチャーに流れていくというストーリーに日本はまだなっていないんじゃないかなと思いますし。

こちらにいらっしゃるみなさん……鈴木さんは東大でしたっけ? アメリカですと、スタンフォードの優秀な学生がそのままベンチャーに行ってるというのが多いと思いますが、日本は残念ながらまず霞ヶ関にいく方が多いような気がします。

個人的に、日本のベンチャーというのは位置としてはそんなに高いところにはないという状況になっているのかなと思っています。

とはいえ変化はしてきていると思っていて。僕は「日本には世界でも有数なベンチャーサポートがあるな」と思っています。政府は非常にベンチャーを応援しているような気もしますし。

最近CVCが非常に増えてきて、いわゆる大企業のお金をベンチャーに流していこうというような方針・方向には流れてきているのかなと思っています。

M&Aも、見ていただいたらわかると思いますけど、楽天さん、ソフトバンク、NTT等々、活発化してきていると。

ただ、大きなM&Aとなると、日本企業はなかなか入ってこないというちょっと悲しい状況もあるので、日本のベンチャーの市場も、資金流入という部分で言うと、M&Aというのはもっと活発化していくべきなのかなと思っております。

調達額50億超え、日本発・大型ベンチャーの台頭

ごめんなさい、これは数字が古かったので、ここからみなさんに振らないといけないことになるんですけど。

日本も大型ベンチャーが増えてきて、いわゆるラストファイナンスが、下手すると上場するよりも集めていらっしゃる会社が日本にもたくさん増えてきて。この数字はたぶん全部変わって、調達額で言うとたしか東後さんのところが……。

東後澄人氏(以下、東後):累計で52億ですね。

松本:鈴木さんのところは?

鈴木健氏(以下、鈴木):52億ですね。

松本:小泉さんのところは?

小泉文明氏(以下、小泉):42億。あと10億円足りないんですよ。だからWiLからもらおうと思ってます(笑)。

松本:なんですけど、本当に50億円超のベンチャーがどんどん増えてきたというのは、日本にとっても明るい兆しなんじゃないかなと思ってますので。

このへんの数字を頭に入れたうえで、みなさんのお話を今から聞いていけたらいいかなと思っています。

スマートニュースの資金調達の特徴

今アメリカと日本の違いをお話しさせていただきましたけれども、お二人とも、シリコンバレーの市場での資金調達も含め、いろんなご苦労をされてらっしゃると思いますし、当然日米の違いというのは一番ご存知だと思うんですけど。このあたりでお話しいただけたらと思います。鈴木さんからよろしいですか?

鈴木:日米の違いですね。スマートニュースはまだアメリカの機関投資家からの投資というのは受けていないんですけれど、アメリカのエンジェル投資家であるWillam Lohseさんからは投資を受けています。

エンジェル投資と言ってもシリーズB、Cでも乗ってきていただいているので、もはやなにがエンジェル投資なのかわからないですが。

スマートニュースの調達として特徴的なことは、この期に及んでというのも変ですけど、バリュエーションが大きくなっても、いまだに個人投資家の方にも投資いただいているんですね。

やっぱり、応援したいという個人投資家の方がいらっしゃるんですね。エンジェルですから、応援したいという気持ちがすごくあると思うんですよね。

「スマートニュースはまだまだ大きくなるぞ」という期待と、応援をしたいというところで、エンジェルラウンドでないのに、優先株でガンガン1億円とか2億円とか個人の方が入れていただくみたいなことになってます。

一方で、ロンドンベースのAtomicoさんというベンチャーキャピタルがあるんですけれども、こちらにはシリーズBのタイミングでGREEさんと一緒にリードをとっていただきました。

このAtomicoというファンドは、世界中に拠点があり、ファウンダーはSkypeの創業者のニクラス・ゼンストローム。

ある種レジェンド的なアントレプレナーで、僕も大変んリスペクトしているんですけれども、「technology-drivenのプロダクトベンチャーを応援したい」というところで投資いただきました。

日本ですと、Gengoさんなどにも投資されていると思うんですけれども、偶然本格的に日本で大きな投資をやりたいというストーリーのなかで、タイミングがうまく一致しまして、投資を受けました。

やっぱり世界中にネットワークを持っておられるので、そういう観点でのサポートはすごくあるなと感じています。ただ、ヨーロッパの文化を持ったファンドなので、最後ほぼ投資いただくことが決まったあとに、ニクラスの自宅がスウェーデンにあるから、「スウェーデンのストックホルムに来い」と言われたんですよね。「ファウンダーと会いたいから」と言って。

「いや、ちょっと今サンフランシスコなので」と話したら、「じゃあ、ロンドンで会おう」となり、僕と浜本がサンフランシスコからロンドンに飛んで、財務担当の堅田が日本からロンドンに向かい、ちょっとオフィスでお話しした後、おいしいインドカレーを食べて帰ってくるという。

松本:インドなんだ(笑)。

鈴木:そうそう。ロンドンなので。

やはり顔を見て話すということを大事にしておられるようで、「ファウンダーと1回ちゃんと会わないと投資の最終決定はしない」と。もうほぼ決まってるのですが、対面で会ってからということで、去年の8月に投資をしていただいたという感じですね。

日米の(資金調達の違い)というご質問の内容に戻ると、僕らはまだアメリカでそこまで本格的な資金調達活動を行っていないのですが、ソフトに投資家の方と情報交換やコミュニケーションはしています。

なにが違うかというと、やっぱりスケール感や規模はぜんぜん違っていて。「うちは1ショット100ミリオン以上なんだよね」みたいなグロース系のファンドがごろごろしていて、「なるほど。じゃあ、もう少しあとにしようかな」みたいな感じの(笑)。

松本:される質問は違ったりしますか?

鈴木:当然このフェーズなので、数字もしっかり見られているんですけれども、日本に比べると、ビジョンであるとか、会社の目指す方向性はかなり見ておられるという印象はありますね。

松本:なるほど。小泉さんは?

国内外のVCから見たメルカリの評価

小泉:メルカリは過去一度も海外の、まあWiLさんはある意味海外のファンドだとも言えると思うんですけれど、本当に青い目の投資家は受け入れていません。

スマニューさんと同じように、サンフランシスコベース、シリコンバレーベースのベンチャーキャピタルとは意見交換をしているというようなフェーズではありますね。

おかげさまで、これだけ成長してると日本企業でも会ってくれないVCはいないかなというところです。

日本というマーケットは非常にクローズドだと思われがちではあると思うんですけれども、そうは言っても日本のマーケットサイズというのは、それなりに大きいので。

まずきちんと日本で勝っていき、USでチャレンジしているというところに対してはけっこうポジティブな印象で会っていただけるなと。

そのなかで、VCの中でもピュアに事業が好きで見てるVCさんと、ファイナンシャルな期待リターンで見ているPre-IPOで入ってくるような方々と、ぜんぜん質問や感じ方が違うかなと思ってまして。

前者の方々と話しますと、事業に突っ込んだ質問が非常に多いですね。KPIとかその裏側にあるロジックであるとか、かなり細かく聞いてきます。

彼らは世界中のCtoCとかシェアリングエコノミー系のサービスに投資してるので、そこと比較してメルカリはなんのデータが優れてるのか、もしくはこのへんがまだダメだったりとか。けっこうそのへんを積極的に質問をしてくるなという。

もう1つは、アメリカのビジネスがどこまで大きくなるのかという、そこのポテンシャルの話が非常に多いかなと思ってますね。

なので、日本の話はするんですけれども、ほとんどの会話は、アメリカでこれからどうやってマーケットを取っていくのか、そこのマーケットサイズをどう考えてるのか、みたいな話が非常に多いかなと。

逆に、もう1つのPre-IPOで入ってくるような方々というのは、どうしてもファイナンシャルリターンが大事ですので。

アメリカでは今500、600万ぐらいダウンロードがあるんですけれども。そこのトレンドよりは、「まず日本でどうやって大きくするの?」みたいな。

まず確実に日本でどこまでいけるのか、IPOをしたらどれぐらいバリュエーションが望めるのかという話がどちらかというとあって。そこはやっぱりコミュニケーションとしてもぜんぜん違うなというのは感じられますね。

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