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尾原和啓×佐々木俊尚×けんすう(全1記事)

“左脳のネット”から”両脳のネット”へ 日本がリードするウェアラブル文化とは? - 佐々木俊尚×尾原和啓×けんすう

佐々木俊尚氏と尾原和啓氏、nanapi けんすう氏によるTwitter対談を編集して記事化。佐々木氏著『ウェアラブルは何を変えるのか?』と尾原氏著『ITビジネスの原理』の2冊を枕に、ウェアラブルが作り出す2020年のITコミュニケーションと文化について語り合いました。

ウェアラブルがもたらす"日常"のコミュニケーションとは?

尾原和啓(以下、尾原):佐々木さん、よろしくお願いいたします。

佐々木俊尚(以下、佐々木):はい、よろしくお願いします。2020年は東京五輪の年でもあるので、6年後のこの未来は大きな意味がありますね。

尾原:はい、2020年東京五輪という日本が世界中から注目される年に、日本の固有性が世界をリードできるんじゃないかと思って本を書きました。

佐々木:尾原さんの本ですが、ひとつはブログにも書いたように、ネットがハイコンテクスト化していくという視点。そしてもうひとつは、グーグルグラスのようなウェアラブルの普及で、カメラがわれわれの日常を映し出すようになるということ。「リア充」自慢じゃなく、日常が互いに見られるようになるという視点です。

尾原:「リア充」自慢。そのとおりですね。今のソーシャルは不自然な頑張りがあって、ウェアラブルが自然な微差(注:微妙な差のこと)を楽しめるようになるんじゃないか、ってのが本で書いたことです。そしてその微差を感じられる背景にあるのが、ハイコンテクストの共有。

概念的な説明先にすると、人はコミュニケーションのためのコミュニケーションをするところがあって、それをコミュニケーション消費と呼んでいます。コミュニケーションとは人との差異を楽しむものなので、どんどん微妙な差を楽しむようになるだろうと。

佐々木さんの例でいうと、アシッドジャズ好き仲間で「この違いがわかるか」って曲のやりとりをする感じが、「微差を楽しむ」です。

佐々木:ハイコンテクストを共有してる者同士でしかわからないような、小さな違いってことですね。そしてハイコンテクストの世界では、こういう微差が楽しめるコンテンツになるってことでしょうね。非常に身体的な感覚というか、テキストではもはや説明できない差みたいなものですね。わたしはグーグルグラス普及をもう少し別のポイントから見ていて、それはネットの「総透明化」をますます押しすすめるであろうということです。

言い方を変えれば、総透明であるがゆえに、そうした微差も浮かび上がりやすく、コンテンツになりやすいということもあるかもしれません。

古川健介(以下、古川):それは、今もsnap chatとかで起きてる気もします。snap chatでくる動画とかの日常性はすごい。

尾原:ネットの「総透明化」ですか。なるほど……佐々木さんは単語の付け方が直感的でわかりやすいですね。「総透明化」は、私がGoogleでgoogle+を担当しているときに、AKB48のこんな事例がありました。けんすうがいうSnap Chatもそうなんですが、ふとした日常が「駄々漏れ」になってくるんです。特にAKBの場合、人と人の関係性すらも透明になってくると、ひょんな変化の中に意味合いを感じ、そこにはまってしまうと。

佐々木:人間関係におけるひょんな変化の意味合い、というのはスタンプで感情を伝えるような感じですよね。身体化した記号表現というか。

尾原:はい。総透明化していくと、見ることが多層化する。わかりやすいですね。私、LINEの嫁へのメッセージショートカットをスマホのトップ画面においていて、2PUSHで嫁に写真を送れるようにしているんですが、いかんせん2PUSHなので本当にくだらない、けど嫁が喜びそうな写真を送るんです。そうすると、私は常に「嫁が喜ぶという視線」を常に多層的に持ち歩けるんですよ。これは人生が豊かになります。

佐々木:この「送信」という行為がウェアラブルで無意識な方向に進むことで、ますます微差を生みやすくなるという駆動力になるということでしょうね。

尾原:はい、送信っていう「よいしょ」っていうコストがなくなった途端に、より情動的、より右脳的なコミュニケーションがうまれるんじゃないかと。

「くだらないこと」の蓄積が新たなコミュニケーションを生む

久保田氏(『ITビジネスの原理』編集担当):総透明化と言ったときに、コミュニケーションをする相手というか、コミュニティのサイズが気になりますね。嫁と二人のクローズドな間なのか、不特定多数のオープンなネットワークの中でのことなのか。それぞれの良さ、悪さがある気がします。

佐々木:ハイコンテクストでの身体化は、クローズドに進みやすい。LINE的閉鎖世界ですよね。見る、見られるという双方向のありかたを「監視社会」として捉えるんじゃなくて、総透明になった先に互いが見える・見られる場が出現してくるという捉え方の方が正しいのじゃないかと思ったり。

尾原:「監視社会」ではないというのは、本当にそう思います。フーコのいう監獄の誕生のような、自分を監視する規範はより生まれると思いますが、駄々漏れしあうことによる、空気を共有できる安心感や微差を楽しみ合うやりとりも同時に生まれる。

古川:総透明化と同時に匿名世界の拡大もありそう、というのが最近の感覚です! アンサーにおける匿名コミュニケーションをみてると、ソーシャルネイティブな人たちでも、やはり匿名を求めてるのだな、と。今の10代20代のネット上でのやりとりは、めちゃくちゃうまくなってる。でも、ネットコミュニケーションは身体性が弱いとも思う。とにかくネット上でのやりとりは表現がまだまだチープ。このやりとりがもっとリッチになると、また世界が変わりそう!

そもそも文字という大昔から使われてる技術は、表現力が低い。低容量で情報を伝えるのには向いてるけど、感情を伝えるのには、貧弱なテクノロジー。

尾原:一方、コンテクストは共時性の中で共有しているから察しあえる。

佐々木:感情を伝えるのと論理を伝えるのは違うからねえ。前者はやはり非言語。そこにスタンプの凄さがあるわけで。ただハイコンテクスト+身体化というキーワードに、総透明というワードをひとつ加えることで、そこにオープンな可能性も広がってくると思います。けんすうの言うように今後も閉鎖系、開放系の両輪でネットは進むのではないかと。集合的無意識のパーソナライズみたいな……。

尾原:はい、究極は集合無意識のパーソナライズですね。(うーん、言葉が通じすぎて、他の人ついていけるかな?)本来は縮小再生産になりやすいハイコンテクストが、画像や非言語だと多層解釈できるし、直感的に好き嫌いが共感できるから、そこが新たな入り口になりやすいのではと。

佐々木:LINE的なクローズドなつながり系・閉鎖系SNSと、Twitterのような情報系・オープン系SNSは対抗するものではなく、今後の全体のメディア空間の中で補完的に使われていくんじゃないかとも思います。

尾原:はい、基本ハイコンテクストは共有するものが蓄積されていくし、そこのあうんの呼吸が楽しいから縮小再生産になりやすい、ってのが今までの欠点でしたね。でもそれも解決していくと思っています。

佐々木:空間を多層化することでタコツボ化しないで済んで、敷居の低いハイコンテクストを作るって感じ。

尾原:そうです。タコツボ化から開く口をどう作るかが鍵です。感情を伝える方法には二種類あると思っていて、一つはスタンプ等、直感的なノンバーバル。最近、nanapiのアンサーも音声で伝えられるようになってて、「がんばって」とか声で言われるとヤバい。

感情を伝える二番目のやり方は、ずーっと、だらだらつながっていること。一つ一つのメッセージには重みがないけど、その変化の集積の中で感情が伝わっていく。ペットの写真を毎日みていると、今日は機嫌が悪いとか読み取れるようになるような感じ。こっちの進化のほうが重要かと。

佐々木:「一つ一つのメッセージには重みがないけど、その変化の集積の中で感情がつたわっていく」。なるほどねえ、フローの情報だけじゃなく、アーカイブされたストックがあるからこそ伝わる感情。新鮮な視点です。

尾原:ウェアラブルってくだらないことを気軽に一杯コミュニケーションできるから、そういう蓄積が起こると思うんですね。

佐々木:ウェアラブルで大量に画像をやりとりするようになると、ひとつひとつの画像の価値は下がる。でもそれが総体として意味を持つようになると。

尾原:そういった蓄積を起こすビーグルとしてのウェアラブルは、佐々木さんがおっしゃった「対話・対面型」から、「同方向・同化型」に進むという整理はすごくわかりやすかったです。

"胸キュン"をネットで伝えられるようになる?

佐々木:「対話・対面型から、同方向・同化型」。スマホ/タブレットはメディア消費デバイスでしたが、これがウェアラブルになるとサイボーグ的に自分の身体と「ともに」活動するというイメージです。

尾原:「ともに」活動する。わかりやすいイメージですね。コミュニケーションの豊穣化と「ともに」活動することの強化。井口さんのテレパシーワンのコンセプトはそれに近いものだと思います。

同方向・同化によるアンビエントコンピューティングの進化には、TPOというコンテクストからコンシェルジュ的に伝えてくれるアシストもあるけど、そういう微差の集積をわかりやすく楽しめるようなゲーミフィケーション(課題の解決や顧客ロイヤリティの向上に、ゲームデザインの技術やメカニズムを利用する活動全般)的なアシストって、日本っぽいなと思います。

佐々木:たしかにこういうところにゲーミフィケーション的なものを持ち込めるのは日本のお家芸かと思います。映画などで、日常のちょっとした違和感を映像表現するっていう文学的なのがありますよね。あれをIT的に解釈し、我々を取り巻くアンビエントなITな感覚として取り込んでいくっていうのはありかも。

尾原:はい、そういうクリエイティブ技術が再評価されると思います。先日、10分対談で加賀谷さんと話したんですが、 こういう複数メッセージの集積型コミュニケーションにおいては、認知心理学でいう「図と地」の「地」が大事になるのではと。

佐々木:昔新聞記者のころに、上司が「なつかしい昔の歌を聴いて、胸がキュンとなることってあるよな。ああいうキュンを記事にできないかな」って言ってたことがあった。そのキュンを、ネットで具現化することが可能になってきている感じがする。

尾原:簡単にいうと、言った言葉(図)より言わない余白(地)が伝えることが大事になるのではないかと 。

佐々木:そのキュンはコンテンツと表現するんじゃなくて(それはすでにたくさんある)、人と人のコミュニケーションの装置にキュンが組み込めるようにするとか、そういう技術的な可能性です。その「余白」が、いま私が使った「キュン」なんでしょうね。

尾原:戦友である中村陸が私の書評でいってくれたんですが、「図と地」の「地」の豊かな表現の例が、夏目漱石の「月がきれいだね」で君がすきだを伝える、といったような話です。そういうImplicitな(暗喩的な)コミュニケーションが増えるとカッコいいかなと思ってます。まさに「キュン」ですね。それをテクノロジーが加速してくれる。

佐々木:今でもスタンプで、たとえば恋人同士が月夜に「きれいな月」のスタンプを送信することで、「一緒にこの夜空を見てる私たち」みたいな心を送信していますよね。夏目漱石はLINEに受け継がれてるような。

尾原:「キュン」となる共感型のコミュニケーション、コミュニティが 次のネットをリードするんじゃないかなと。微差の話や、図と地の話は加賀谷さんとの10分対談に詳しいです。あとでみてね。(当サイトで近日公開!)

「左脳のネット」から「両脳のネット」へ

佐々木:Implicitって重要なキーワードですよね。1990年代のナレジマネジメントでも、企業の明示知/暗黙知(explict/Implicit)という用語で使われてました。言葉にならないノウハウとか職人の熟練とか。そこを従来型のパッケージになったコンテンツとしてでなく、どう装置として実現するかですよね。LINEのその先に。

尾原:佐々木さんのお話がおもしろいところは、センサーの進化に着目されたところですよね。さらに「きゅん」をひろげていくと、この「きゅん」もセンサーで拾って共有・強化できるかも。

佐々木:たしかに! 身体性が加速すると、人間の身体をネットに取り込むだけでなく、人間の身体もネット化されて、新たなリアル新たなキュンが立ち現れてくるかもしれません。

閲覧者RT:@kagekiyo_ その『表現力の低い』言語から、我々人間が解き放たれることはあり得ません。何故なら、我々は言語でものを考える生き物だからです(美術や音楽等、感覚的な表現を除く)。技術の進歩も結構ですが、言語の使い方を磨くのが肝要かと。

尾原:本当に言語で考えてるのかな? 言語で表現できるものってネットによって簡単にコピーされやすくなるから、付加価値を保ちにくくなると思うんですよね。言語化できないことが付加価値を守るというのはチームラボの猪子ちゃんが言っていて、こちらのTEDxFukuokaの彼のスピーチがやばいよ。あと、この10分対談も参考になるかと チームラボ・猪子氏「言葉でしか良さを説明できないものはウンコ」 “非言語”が生む新しい価値とは?

佐々木:言語だけでなく、言語と非言語の両面で人は生きていると思います。今までのネットは言語に重点が置かれすぎだったので、非言語が注目されるようになるのはまあ必然の流れですよね。あっという間に終了時間に。ここ最近ずっと考えていて、しかしなかなか言語化できず、もやもやとした今後のIT像について、尾原さんと話したことでかなり明瞭にくっきりしてきました。この話は超刺激的なので、今後も語り合いたいですね。

観覧者:非言語のやり取りが軽視され過ぎていると思います。文字の流通量が過剰。

尾原:はい、言語の強さは残りますよ。 ただ、非言語の強さが今まで活きにくかったのが、ここ5年でがーっとのびてくる。私は左脳だけだったネットも右脳も足されて、両脳のネットになる、と言っています。

佐々木:右脳でもなく左脳でもなく「両脳のネット」っていい言葉。なるほどねー。

尾原:あ、もう一時間ですね。本当にありがとうございました。ぜひ、またの機会を。

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