2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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富山浩樹氏(以下、富山):例えば「カテゴリー推し」の事例で言うと、当社ではペットカテゴリーはけっこう核カテゴリーで、長年力を入れているんですよね。最近やった企画ですと、「ニャンズカード」というものを作ったんですよ。プロ野球チップスみたいなカードで、ペットフードを買うと猫たちのカードが当たるよ、というのをやったんですよね。
nyansというベンチャーさんと組んだんですが、その猫を「ニャンフルエンサー」と呼んでいて。北海道にも、インスタとかですごく人気の猫ちゃんたちがいるんですよね。
富永朋信氏(以下、富永):あぁ、もう特定の猫がいるわけですか。
富山:いるんですよ。もうすでにフォロワーを集めている。
富永:なるほど。
富山:そのニャンフルエンサーを元に「ニャンズカード」を作って、それが当たるという企画なんですよ。そうするともう話題になって、ニャンフルエンサーの人が拡散してくれるので。それで猫(好き)たちの中で、「サツドラに買いに行こう」となるわけですね。
富永:そのニャンズカードは、どうやったら手に入るんですか?
富山:これはプロ野球チップスと同じように、商品を買うと付いてるんです。
富永:なるほど。
富山:それこそペットフードって、消費者の方は「どこで買っても同じだ」と思っていて。でも、サツドラではすごく強化カテゴリーにしてるので、(店頭に)来ていただければ、安さや品揃えは自信のある状態にしています。まず、そこがすごく重要です。
でも、今まで「サツドラでペットフードを買おう」というのを想起もしたことないような方々に、どうやって届くのかといった時に、今みたいな施策を打つんです。前提として強化カテゴリーって決まっていて、品揃えや価格とかを準備しているので。
店頭でいうと、よく「計画購買と非計画購買」と言いますが、店頭で買われるほうが(割合が)非常に大きいので、店頭でもニャンズカードを大々的に打ち出していく。だから、そういうのが組み合わさって、小売のマーケティングになっていくのかなと理解しているんですよね。
富永:なるほど。今の話も本当にすばらしくて、まず、一番最初におっしゃった「サツドラらしさ」というのは、北海道に根付くものだということがあって。ニャンズカードにフィーチャーされている猫ちゃんは、北海道で人気があるアイドル猫だということですよね。
富山:そうです。
富永:そこが見事につながっていて、実際に人気があるアイドルなわけだから、そのカードをもらえるということは、十分にサツドラを選ぶ理由になるわけですよね。チェーンストア、ドラッグストアもコンビニもスーパーマーケットもそうですが、「選ぶ理由」というのがキーワードです。
サントリーやコカコーラや日清とかは、どこに行っても同じように買える商品が主体の品揃えになるので、チェーンストア・ナショナルブランドは、「なんでわざわざそれをサツドラに行って買わなきゃいけないのか」という理由作りが必要になるわけですよね。
富山:そうですね。
富永:(サツドラは)まさにそれをやられている。
富永:あと、おもしろいなと思ったのがコミュニケーションですね。たぶん、小売がやる施策をコミュニケーションする手ということで、いろんなメディアがあるじゃないですか。
SNSもけっこうやっていらっしゃると思うんですけれども、ことさら店頭をフィーチャーされたのが印象深くて。やっぱりそれは「小売にとって、店頭こそが一番強いメディアである」という信念の表れだと思います。
それからさっきおっしゃっていたように、まだまだ非計画購買が多いので。そちらに対してコールしていくためには、やっぱり店頭が一番有効なんだという、経験則と理論に則った打ち手だなと思って聞いていました。
富山:僕らもまだまだ勉強中だからトライ中なんですが、ECで言えばCPAやLTVという発想ってすごく当たり前なんですけど、マーケティングの考え・KPIとして、意外と小売ってそこが欠けてるなと思っているんですね。
だからさっきみたいに、この施策が新規顧客を獲るためなのか、継続的に買ってもらうためなのか。新規顧客がその後どうなっていったのかとかが大切。でもそれって、カテゴリーごとに追うとけっこうわかりやすくて、追いやすいです。
我々みたいなSPA以外の業態だと、「このカテゴリーにはこういうお客さんがけっこう来ているけど、このカテゴリーは買っていない」というお客さんって、けっこうたくさんいらっしゃると思うので。例えば、うちに来ていつも食品しか買わないで帰っていくだとか、自分の決めているものだけを買って帰っていくとか。
自分の想起を元に来るお客さんはいるんですけど、このカテゴリーにおいては新規客だ、というのがあると思うので、分析と施策を連動させていくのが(大切)。ID-POSって、出てきてけっこう経っているんですが、まだまだなかなか使われていないなとは思っています。
富永:今の話をもうちょっと詳しく説明をすると、同じドラッグストアに行って買い物をするという行動を取っても、実はいろんな理由があるんですよね。
ペットフードやペットシーツとかを揃えに行く、ペットのための買い物という行動もあれば、自分のふだんの晩御飯を買いに行くという行動もあるし。それから、ドラッグストアは楽しいところなので、なにか楽しいものを探しに行くという行動もある。それぞれの動機によって、買われる商品や組み合わせって違うわけです。
(サツドラは)それに着目されていると思うんですよね。今までAさんという人は、ペット系の買い物にしか来てくれなかったけれども、「サツドラってこんなにおもしろい商品がたくさん並んでいるんだ」ということを知った瞬間に、今度はふだんの晩御飯の買い物もしに来てくれるようになる。
1人のお客さんの、よりたくさんの種類の買い物理由・買い物動機をカバーしていこう、ということだと思いますね。「このお客さんがどんな動機で来たのか」ということを見極めていくための、一種のサインみたいなものが「どんな商品・どんなカテゴリーのものだったのか」ということだと思うんですよね。
そこで、ついつい聞きたくなっちゃうんですが、カテゴリーや商品じゃなくて組み合わせで考えたり、そこから買い物に来る理由や買い物の動機に結びつけて、分析の粒度を商品じゃなくてショッピングミッションにしちゃう、みたいな話はないですかね?
富山:それもあると思います。
富永:それ、やりましょうよ。
富山:はい(笑)。どの施策が仮説に合っていたのかというのが、けっこう難しいですよね。
富永:まず、そのドラッグストアに対して、消費者が持っているショッピングミッションの一覧を作るのが一仕事。次に、それぞれのショッピングミッションがレシート上にどういう特徴で現れるかを紐付けるのも、一大仕事なんですよね。でも一旦それができると、けっこう資産になると思うんですよね。
それからもし余力があったら、同じ作業をコンビニやスーパーマーケットでやっていく。サツドラの強みはこういうことだけど、コンビニの強みはこういうことであって、もしそこを身近なビジネスに持ってくるんだったら、こういうところを強化するんだという、戦略のベースになると思うんですよね。
それからサツドラ以外のドラッグストアについても、余力があったら調べたり。ここから考えると、ショッピングミッションの分布って、小売がどうやっていけばいいかのベースになると思っていて。それで、富山さんみたいな人にぜひやってほしいなと思っています(笑)。
富山:それ、逆に教えていただきたいです(笑)。その要素は、うちはやれていないかもしれないですね。
富永:じゃあ今度、北海道にお邪魔した時に。
富山:はい、ぜひ(笑)。
富山:だからけっこう、バイヤー単位だと独りよがりになっちゃうというか。「そもそもお客さんってそこまで見てないよね」「気づいてないよね」ということになって、せっかく努力してるのに無駄になっちゃうことがけっこうあると思います。
富永:富山さんの会社のバイヤーの人って、富山さんの遠い部下になるわけだから、マーケティングドリブンじゃなかったら怒られるわけですよね?
富山:いえいえ、そんなことはないと思います(笑)。まだまだ慣れていないところが大きいと思いますね。
富永:よく言われる嘆かわしいバイヤーの一例として、食品のメーカーが提案書を持ってきましたと。「うちの○○商品の××ドリンクは、来月テレビCMを1500GRP入れます」「ぜひチラシに載せてください」「ぜひエンドキャップに置いてください」みたいなことを言ってくるメーカーって、たくさんあるわけですよね。
わりとみんな、それにホイホイ乗っちゃうんですよね。でも当たり前ですけど、そのメーカーは全リテールに対して同じ営業をかけているわけです。
富山:そうですね。
富永:そのメーカーの思惑どおりになったら、全リテールでヘビープッシュがかかって、結局その需要を分け合うことになるんですよね。そこは逆張りしたいところじゃないですか。でもなかなか、逆張りするバイヤーってあんまりいないかなと思ったりもしています。その辺、どうですかね。
富山:たぶん、そこはけっこううちもまだまだです。うちのマーケティング担当とバイヤーって、今みたいに(他社と)明らかに被っても、パワー商品だからやったほうがよくて。そこに対して、いかにうちのほうが早くお客さん・消費者に届くかというパターンもありますし。
富永:そういうのもありますよね。
富山:「バイヤーがけっこう嫌がるけど、実はマーケで勝手にやったほうがいいよね」と、こないだも会話していました。SNSで話題にしやすかったり、「うちの中でもまだまだお客さんに知られていないけど、こういうふうに話題にしたら気づいてもらえるかもね」みたいな。
富山:そういうものって、けっこうマーケ側から発見できる時があるんですが、バイヤーからしてみれば「準備してないから、そんなことやられちゃったら困るよ」「欠品しちゃうよ」という話になるんですが。
その時にやったほうがいいものもけっこうあったりするので、そこはもう勝手にどんどんやっちゃったほうがいいよね、と。
富永:やっちゃうというのは?
富山:施策として、マーケ側からですね。
富永:ここはリテールの中で意見が割れるところだと思うんですが、どう割れるかというと、“富山派”と“守旧派”。
コンベンショナルな古いタイプのリテールは「確かに、マーケが提案をしてきたこの商品は話題になって売れるだろう」「でも、これを品揃えしたらすぐに供給が切れて売り切れて、お客さんにご迷惑がかかるだろう。だからこれは次からやりなさい」と思う。これが古いタイプ。
富山さんは「品切れするかもしれないけど、やってみようや。品切れしたらお客さんに謝ろう」「次からもっとたくさん仕入れて、ご迷惑をかけないようにしよう。やってみることが大事なんだよね」という感じで、やってみちゃうと思うんですよね。
富山:はい。時と場合によりますけどね(笑)。
富永:ちなみにやるケース・やらないケースは、どういうケースですか?
富山:大きな欠品はそこまで問題じゃないんだけれども、バイヤーは確実なほうに行きたがりますよね。でも、いろんなトライをしていかないと、今までやったことがない不確かな仮説が響くかどうかわからないから、やってみたほうがいいよねと。
さっき言った大型商品だとか、カテゴリーである程度一緒になって打つキャンペーンとかは、当然連動してしっかり準備をしてやるんですけど。もっとライトなものって、どんどんやって細かく試していったほうがいいことって、いっぱいあると思うんです。そういうのでスタックしちゃうのは、もったいないなと思いますね。
富永:やっぱり、ビジネス全体へのインパクトの大きいものは、緻密に考えていくという話ですね。
富山:はい。
富永:なるほど、わかりました。
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