「土日もつい仕事のことを考えてしまう…」「家事や勉強をして休日が終わってしまい、休んだ気がしない…」こんな悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。今回は、『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』著者でフランス在住のライター髙崎順子氏にインタビューし、フランス式の休み方の秘訣をうかがいました。本記事では、バカンスで2週間休んでも仕事が回るフランス式の働き方をお伝えします。
しっかり休んでも仕事が回るフランスの働き方
——休むことも仕事だと思って遂行するために、フランスでは具体的にどんな工夫がされているんですか?
髙崎順子氏(以下、髙崎):まずは管理職の人たちが、部下にかなり権限委譲します。あとはだいたいバイプレイヤー制で、1つの仕事を必ず2人担当制でやる。 そして繰り返しになりますが、長期休暇は数ヶ月前から段取りします。
——『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』の中では、フランスでは病気で休む時は有給扱いにならないと拝見しました。
髙崎:そうですね。病欠の時は有給とは別に休めるんです。有給は、余暇という生きる喜びのためのものなので、本当に体調も良い状態で、自由自在に使うものなんですね。ただ、やはり減給にならずに休むには診断書が必要だから、気軽には休めないし「(手続きが)面倒くさいから、有給で休んじゃえ」という人もいますね。
あとは、あらかじめ決められている休暇の期間に、マネージャーがいないとできないことをしないようにしたり、決定事項を動かさないようにするんですよ。あとは、7月〜8月は「国として停滞させるから、みんなこの時間に休んでね」となるので、「その時期に新規事業の立ち上げとかローンチイベントをしても仕方ないだろう」という前提があります。
なので、フランスで一番パフォーマンスが上がるのは6月と10月〜11月のバカンスの前後なんです。まず6月に「ここに向けてやろうぜ」とゴール設定をして7月〜8月に「はい、バカンスに行ってきます」となります。
それでバカンスから帰ってきて、1ヶ月でいろんな立ち上げをして10月〜11月に一気に動かす感じですね。そしたらまた、12月の年末年始で1週間の休みがあるという流れです。
従業員の休みを調整するのも管理職の仕事
髙崎:しかも、レストランや個人商店のような人為的に仕事を止められる職種の場合は、「うちはここから2週間休みますんで」と伝えておいて、営業を止めちゃうんです。気持ちとしては「この間は別のお店に行っておいてください」みたいな感じですよね。
ただ、それも会社への影響が少なくなる閑散期に合わせて休むんですよ。例えばパリだったら7月〜8月は人がいないとわかっているので「うちの店もそこで休みます」と。一方、バカンスが最盛期になる南仏では、7月〜8月は絶対に休まず「人が来ない2月に休みます」とか調整するんです。
——なるほど。書籍の中では、こうした従業員の休みを調整するのも管理職の仕事だと書かれていましたね。
髙崎:そうですね。例えばクリスマスから年明けまでの2週間は、クリスマスに休むチームと、年末年始に休むチームみたいに2チームに分けたりします。昔は本当にクリスマスに集中していたんですけど、今は無宗教の人や、キリスト教以外の方も多いので、「うちらはクリスマスはお祝いしないから、休んでいいよ。でも年末年始の休みはいただくよ」みたいに譲り合っている感じですね。
フランスと日本の大きな違いで言うと、日本では休む人は休むけれど、休めない人にしわ寄せがきたりして、どんどんフラストレーションが溜まっていきますよね。フランスでは「自分だけではなくみんなも休もう」という意識が強いので、そこが大きな違いだと思います。
——日本でもシフト制の職場では、自分が入れない日にほかの人に代わりに入ってもらったりしますよね。それをもうちょっと長期間で捉えるという考え方ですね。
髙崎:あとやはり個人の生活や家庭環境の違いも、みなさんが考慮していますね。例えば、フランスでは子どもたちの学校の休みに合わせて親が休みをとる習慣があります。お子さんのいらっしゃらない方や独身の方は、その期間は家庭をお持ちの人に休みを譲って、自分たちはそこを外して休むんですね。
逆に、いわゆるバカンスの最盛期じゃない時に休んだほうが旅費も宿泊費も安いので、お互いにWin-Winというか、うまいことできてますよね(笑)。旅行業界の方たちも、独身者やシニアに向けて「学校休みに合わせる必要がない人のためのお得プラン」などを打ち出しています。
フランスと日本では、雇用労働者の平均労働時間が年間200時間違う
——なるほど。フランスではみんなが休めるように工夫されているんですね。でも、年間で2ヶ月間も停滞させる期間があるとなると、仕事を効率化させることもかなり重要ですよね。フランスと日本では、働き方にも違いがあるのでしょうか。
髙崎:そうですね、フランスではバカンスがあるので効率化はとても重要で、フランス人は徹底的に無駄を省いています。それから、労働時間自体も短いんですよ。
労働時間の国際比較の統計によると、2022年のフランスと日本では、雇用労働者の平均労働時間が年間200時間違うんですよ。つまり、月16時間も違うとなると、1日8時間労働だとした時に、(フランスでは)月に2日、日本に比べて働く時間が短いことになります。
また、日本は平均の有給付与日数は 17.6 日ですが、取得日数の平均は10.9 日です。ちなみにフランスでは5週間の有給取得が義務づけられているので、有給取得率という考え方はありません。でもこれらのデータを見ると、日本との働き方の差が明確ですよね。
フランス人の「メールの返信」の仕方
——フランス人は仕事を効率化させるために徹底的に無駄を省くとのことですが、具体的にどんな工夫をされているのでしょうか?
髙崎:私が観測できている範囲でお伝えすると、例えばうちの夫を見ると、9時から働いて、お昼休みを挟んで13時か14時から再開して、仕事を終えるのは17時半か18時。その間はずっと集中していて、タバコ休憩とかもしません。フランスではタバコ休憩をしている人が悪く見られるというのもありますが、早く仕事を終えたいから、短期集中でやっています。
あと、「できるところまでやる」というのではなく、「今日はここまでやったらOK」というのを決めてから仕事を始めて、今日のぶんが終わったらあとはやらない。「誰が、何を、どれだけ、いつまでにやるか」というのをすごく明確にしています。
あと、フランスの方と日本の方で、メールのやりとりで違うなと思うのが、例えばフランスでは、「~をお願いします」と言ったら、「それはいつまでに答えが必要?」と、絶対に聞かれるんですね。
返事の締め切りを言わない依頼は、非効率だと言って後回しにされます。日本だとけっこう言わない方が多くて、「それはいつまでに返事したらいいですか?」って、私から聞くことが多いですね。
——日本ではメールはなるべく早く返信することが良いとされていますが、フランスではメールの返信にも優先順位をつけているんですね。
髙崎:そうです。例えば取材依頼をするにしても、「この日までに記事を公開したい」とか「もしこの方に断られたら、次に行かなきゃいけない」といった締め切りがありますよね。なのでフランスでは「お忙しいところ恐れ入りますが、今週中にお返事をください」というのを必ずみんな書くんですよ。「なるべく早く返事が欲しいのを察してくれ」、とはならない。
会議に最初から最後まで参加するのはプロジェクトリーダーだけ
髙崎:あと、フランスでは多くの人が、CCメールは見ないと言います。「『私のメールボックスに入れておきたい』という意味でCCで送ってくれてもいいけど、読まないよ」とはっきり言うそうです。CCでも読んでほしい時は、電話で「今送ったら見ておいてね」と言ったり、CCではなく宛先に入れたりします。
メール1つとっても違うので、日本の仕事の仕方をフランスの人々に話すと、「それをやっていると仕事の時間が長くなるよね。日本人はよくやれているね」と言われます。あと、日本でもそうだと思いますが、会議のアジェンダの共有は必ずします。フランスでは「○○の会議」ということだけじゃなくて「この話をする」というところまで事前に送られてきます。
しかも会議中は、人が入れ代わり立ち代わりしながらプレゼンをするんですよ。日本とフランスのプロジェクトを手伝った時の話なのですが、2時間の会議で最初から最後までいるのはプロジェクトリーダーだけでした。
じゃあこれからマーケが来ます、広報が来ます、品質管理が来ます、とメンバーが入れ替わっていって、「あとはよろしく」みたいな感じでみんな会議室から出ていくんですよ。
——最初から最後まで会議に参加して、自分が関わらない話まで聞くのは非効率だという考え方なのでしょうか。
髙崎:「専門外だから、聞いても意味ないでしょ」って感じですね。やっぱりすごく分業されていて、「そこはやらないから」と線引きしています。特に医療分野などでしたら、自分の職域を超えたら命に関わります。なので決められたことしかやらないのはリスクヘッジなんですね。
——自分がやるべき仕事をしっかり見極めるのも、休むための重要なポイントですね。ありがとうございます。