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⑦伊藤綾氏に聞くダイレクトリクルーティング(全2記事)

“社長が欲しい人材”は市場に存在しないことも… ビズリーチ人事本部長が説く、理想と現実のミスマッチ解消法

人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、株式会社ビズリーチ 執行役員 人事本部長 伊藤綾氏にダイレクトリクルーティングをテーマにうかがいます。後編では、事業部と採用チームの連携や、データやファクトに基づいた現状把握の重要性について語りました。

採用を事業部と採用チームで分担

坪谷邦生氏(以下、坪谷):ここから後半は、伊藤さんがビズリーチの人事の責任者になられてからのお困りごとや課題感について、おうかがいできたらうれしいです。

伊藤綾氏(以下、伊藤):そうですね。課題感というか、在り方を常に模索し続けている段階ですので、さらに変化していかなきゃいけないなと思っているのは前提にあるんですけれど。

現在のビズリーチは、事業フェーズや課題の異なる複数の事業が存在しています。それぞれの対応を採用チームに一手に担わせると、非常に高いケイパビリティが求められます。私としては、そこに対して今十分な対応ができているのかということを常に注意しています。

例えば、「この事業部は事業部主導でお願いね。この事業部も事業部主導でお願いね。でも、ここの事業部の第二新卒採用は人事でやりましょう」といった分担する体制を取ったりしています。

柔軟に組み替えられるのがビズリーチの強さであり、良さでもあると思いつつ、今のやり方をもっといいものに変えていかなきゃいけないんだろうなと思います。

坪谷:ダイレクトリクルーティングを利用されているユーザー企業さんでも、事業部と人事が仲間になるというお話がありましたが、ビズリーチさんの社内も同じような感じですか? それとも事業部ごとのフェーズや特性から入っていくんでしょうか?

伊藤:「事業づくりは、仲間づくり」というバリューがあるので、採用も事業部長のミッションの1つとして浸透しています。例えば、スカウトを事業部か人事部かどこから送るのかとか、業務設計レベルでそれぞれ事業部ごとに変えているので一概には言えません。

坪谷:事業ごとの採用プロセスの設計を立てて、その中で「ここは事業部、ここは人事が動くね」というふうにやっていくイメージですか?

伊藤:おっしゃるとおりです。ターゲットと事業を組み合わせながら、ポートフォリオを組み上げていますね。

坪谷:やはり事業部ごとに事業も違いますし、「事業に資する」というのがすべてなのかもしれないですね。事業に資する状況をつくっていくのが人事なんだということはしっくりきました。

採用プロセスの流動性と一貫性を両立するには

伊藤:「採用の在り方をつくりにいく」ところはあるのかなと思っていまして。HRBP(HRビジネスパートナー:戦略人事のプロ)を置いて、採用ファネルを持っていらっしゃる企業さまもあるじゃないですか。

事業部内にそれがあったほうがいいフェーズもありますが、若手の採用ならカルチャーフィットとコンピテンシー前提で採用することも多いので、それこそ会社横断のターゲットとして人事が持つことも考えられます。弊社も、事業部内でHRBPが採用を持つものと、人事で持つものを行ったり来たりしていますね。

坪谷:そこは事業部長との会話の中で、どちらがどう役割を担うかを決めていく感じになるんですか?

伊藤:そうですね。先ほどの課題で挙げさせていただいたのですが、流動性に頼る組織づくりというとおり、そこも流動的な点です。

秋山紘樹氏(以下、秋山):ビズリーチさんは組織の流動性が高いと思うのですが、そのような環境では、誰かキーパーソンがいないと採用基準や要件が少しずつずれていく可能性があるのではないでしょうか? 一貫性を保ちながら採用活動を進めるために、どのような工夫をされていますか?

伊藤:それは人事側で必ず面談同席など候補者の方と接点を持たせていただくようにしています。その部分で、カルチャーフィットの部分は一定担保し続けていると思います。

事業部と人事の意見が分かれた時の意思決定

秋山:なるほど! 少し具体的なケースについてお聞きしたいのですが、例えば事業部が「この人材を採用したい」と考える一方で、人事側からは「その候補者には懸念がある」と判断されるような場合、最終的な意思決定はどのように行われるのでしょうか?

伊藤:その場合は、人事から事業部長に相談して、事業部長が最後にもう一度判断します。最終面接官というよりも、事業としての判断と人事としての判断を同じ場でできるようにします。

昨年、ビズリーチは人事制度の刷新を行いましたが、その中で社員一人ひとりに大事にしてほしい姿勢を、「7つのプロフェッショナリズム(7プロ)」という言葉で表しました。一人ひとりが自律的な成果を創出できるプロフェッショナルであることと、あらゆるステークホルダーと協働することをテーマに挙げています。

例えば、面接をした人事から「この候補者は、中長期的に見て本当にプロフェッショナルになり得るのか?」という点で判断が難しいと言った声が上がったりすると、私がもう一度面接に出たりしています。「7プロ」は昨年から始まったばかりだからこそ、大切にして運用フェーズに載せていくというところです。

秋山:なるほど、丁寧に時間をかけて判断されているんですね。こういった価値基準は、採用担当者自身も理解して体現できていると選考もスムーズになりそうです。「7プロ」について採用チームのみなさんは、どのように理解を深めていらっしゃるのでしょうか?

伊藤:採用担当か否かというよりも、人・組織の側面で組織開発や制度といった会社が大事にしているものへの理解を深める取り組みをしていますね。評価説明会などあらゆるところで、マネジャーや部長向けなどの階層向けにあらためて説明をしています。「プロって何?」というところを言語化して、それを採用要件として戻すような取り組みをしています。

坪谷:まさに「ビズリーチ」という事業に資する人材が、プロフェッショナリズムだったということですね。一貫性を強く感じます。

経営者の理解を得るカギは、データに基づいた現状把握

秋山:とても参考になります。もし「7プロ」のような明確な判断軸がまだ確立されていない企業の場合は、どのようなアプローチがよいのでしょうか?

坪谷:これは「経営者が採用にコミットしていない時にどうしますか?」と似た質問だと思うんですけど、実際に中小企業のコンサルティングをしているとよくある話です。例えば経営者が代わったばかりで、まったくコミットが取れてなかったり、経営層と事業部長で意見が食い違っていたり、いろんなコンフリクトがあると思います。

採用担当者も、経営者のフルコミットがあった上でやりたいんだけど、なかなかそうはいかない現実とか、人材像を揃えようと思ってもうまくいかないとか。そうした状況にいる採用担当者の方にとって、何かヒントになることがありましたら。

伊藤:経営者にご理解いただけない理由の1つに、採用マーケットの現状や、採用活動の中で何が課題になっているのかを経営者がご存じないケースが多くあります。

私が営業の頃に、お客さまから「経営会議に来てください」というリクエストをいただくことがありました。「今の転職市場や採用市場がどうなっているか」を、人事の方々が経営者にインプットするのは大変なこともありますので。そういう部分は、協力会社の知見などを借りていただいてもいいと思います。

私は、優れた採用担当者になるには、ちゃんと市場がわかっていることも大事だと思っているんです。ビズリーチの何が良かったかと言うと、経営会議で「社長が言っている採用要件の人材はマーケットにいないですよ」と実際にビズリーチのデータベースでお示しできるんですよ。

坪谷:確かに! なるほど。

秋山:これは強いですよね。

伊藤:その現状把握がないから、採用要件やカルチャー、自社の強みもわからないといった部分にひもづいてくると思います。

坪谷:ファクトで示せば、経営者とのコミットメントにつながるかもしれない。現実を知らないから、食い違っているだけという可能性は確かにありますね。

自社の採用のやり方・考え方が“時代遅れ”になっていないか?

伊藤:それから、経営者も人事の方も自社の強みを言語化できていなかったり、10年前と市場や世の中が変わっているかもしれない部分に盲目的になっている可能性もありますよね。

坪谷:環境が変わっているのに、10年前の成功体験のままだったり。

伊藤:そうです。今は募集人員数で言うと、新卒採用よりも中途採用のほうが多くなっているんです。これって20年前には絶対考えられなかったじゃないですか。そういうことを踏まえていると、これまでのやり方と大きく変えていく必要があると思います。

秋山:人事部門の中でも特に採用担当者は、社内外の人々と最も多く接点を持つ立場ですよね。こうした特性を活かして、市場環境や自社の現状についての客観的な情報を収集し、必要に応じて外部のパートナーとともに経営層に提案していくことも重要なポイントだと、改めて気づかされました。

坪谷:それは説得力がありますね。社長が「こういう人が欲しい」といくら言っても、「いないんですけど」と言えるのは強いです。

伊藤:私も中小企業の社長さまとお会いしている中で、「採用したい方はこういう方ですね」とお話をお聞きして、最後に「ご年収は?」となったら、「あれ?」という額が出てきたり。

坪谷:(笑)。「今社長がおっしゃった人材層はこのぐらいの方たちで、おっしゃっている年収より200万円高い」ということを、ファクトで言えますよね。

伊藤:そうすると社長さまの意識は、今いる社員に対しても向いたりするんですよ。

坪谷:社長が一貫した経営をするために、武器を渡す感じですね。ファクトをもとに、「考えていたのと世の中は違うぞ」となりそうです。

伊藤:それは大いにあって、簡単に採用できると思ってやってみたけど、「あれ? 反応がないな」とか。

採用を入り口に、「今いる社員をどう活かすか」という観点へ

秋山:私も以前、求める人材像のハードルが高い上司の下で仕事をしていた経験があります。ご要望どおりの条件で検索すると該当者がわずか3人ほどしか出てこないような状況で、「これは……ちょっと……現実的に難しいです……よね」とデータで示すことで、ようやく理解してもらえたことを思い出しました。客観的な事実をもとに対話することで、認識のギャップを埋めることができるんですね。

伊藤:そうです。それがわかると、「今いる社員を育成しますか? 異動させられますか?」ということとセットで会話ができるようになります。採用は会社の入り口ではありますが、会社全体を見なきゃいけない、となっていくと思います。

坪谷:そうですよね。どうやっても採れないなら、今いる人材を育てるしかないといった、採用から広がった話ができますね。

伊藤:はい、中長期の要員計画にひもづきます。これだけ人材獲得競争が厳しく、労働力人口が減っていく中で、今いる社員をどう活かすかという観点を社長さまにご認識いただくことも、大事なテーマかなと思います。

坪谷:確かに。今日のお話を通して、経営者の方々の視界を広げるような取り組みと、その中で採用担当者の方は何をすればいいのかという話なのかなと思いました。

社長の視界をバージョンアップするには、そもそも採用担当者が市場のことをわかっていなきゃいけないし、頼りになるパートナーとの関係性をつくっていないと説得できなかったり。あと、ファクトとしてのデータをしっかり持っておくこともとても大事ですね。

伊藤:まさにそうだと思います。最近では、事業部で要職に就かれていた方がHRBPになることが増えていますが、背景を考えると、すごく納得がいくんですよね。

坪谷:そうですね。そういう人たちは「事業に資する人材」がピンと来るから、あとは市場感とファクトがわかるといいですよね。

伊藤:そうなんですよ。それで要件が定義されて、口説くために何をすればいいかという、言語化ができていくんですよね。

裾野の広いネットワークを育む、「仲間と共に」という意識

伊藤:先ほど「7プロ」のお話をしたんですけれども、私たち人事のミッションは「プロフェッショナルであり、仲間と共に協働できる」人材を採用することです。「キャリア自律」や「スキルの向上」をうたう企業さまは多いと思うんですけど、ビズリーチでは特に「仲間と共に」がキーワードです。

坪谷:コンサルファームが「自律」や「協働」という時って、「自律した後、役割分担して協働する」というコミットのことが多いんですけど「仲間」という言葉だと、そういう雰囲気じゃないですね(笑)。

伊藤:ちょっと青春感が出ますよね。

坪谷:「自律した後に協働する」だと顕在層にしかリーチできないけれども、仲間を集めようと思ってピザパーティーをしていると、どういうかたちかはわからないけど潜在層とつながれるような感じかなと思いましたね。

秋山:「裾野を広げる」という言葉が頭に浮かびました。広い裾野があるからこそ、さまざまな形での関わり方が生まれますね。ある時はビズリーチに入社する形で、またある時はパートナーとして協力する形で。今のお話を聞いていて、こうした多様なつながりを持つネットワークをどう広げていくかが非常に重要だと感じました。

伊藤:そうですね。企業さまにご依頼をいただいて「面接官トレーニング」をすることもあるのですが、最初は「『面接』じゃなくて、『面談』してください」と、お伝えしています。候補者が潜在層であることを忘れて、いきなり自己紹介もしないで「なんで来たの?」「志望動機は?」と聞いてしまうことがよくあります。

まずは企業側が見極めるのではなくて、ファンになっていただくことが前提だということを忘れないでいただきたいなと思います。ダイレクトリクルーティングを根付かせる上では、そうしたマインドもセットで育んでいくことが大切だと思っています。

坪谷:確かに。そうですよね。

秋山・坪谷:ありがとうございました。

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