人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、トイトイ合同会社 代表社員/元ニトリホールディングス 理事 組織開発室 室長 永島寛之氏に採用CXをテーマにうかがいます。本記事では、ニトリのインターンシップの秘訣について掘り下げました。
元ニトリ人事責任者に聞く3つの質問
秋山紘樹氏(以下、秋山):今日は永島さんに、まず1つ目は学生人気ナンバーワンのニトリさんのインターンシップの秘訣をお聞きしたいと思っています。
2つ目は、入社したあとにどう組織に適応するのかというオンボードについて。
そして、3つ目が退社ですね。入社して育成して退社をする。今、永島さんは中央大学で企業アルムナイ研究会も立ち上げられていると思います。そのあたりのつながりや組織をどう見られているのかという観点で、エピソードも含めていろいろとおうかがいできたらなと思っております。
永島寛之氏(以下、永島):承知しました。
秋山:やはりニトリさんのインターンシップは学生の人気ナンバーワンということで、よく取り上げられると思うんですけど。実際の取り組みについて、具体例を含めてお話しいただけますでしょうか。
「インターンシップに全力を傾けよう」と思ったきっかけ
永島:はい。ソニーを退職して、2年ほどニトリの店舗で店長などを担当していたのですが、2014年に急遽採用の責任者を担当することになりました。ニトリらしい配転ではあるのですが、1店舗の店長がいきなり全社の採用の責任者になってしまいました。そして店舗を離れて数日後には、最終面接をやる人になっていました。

(一同笑)
採用活動を1年担当して感じたのは、最終面接の段階で「社会で働く意味」や「なぜニトリがいいのか」ということをしっかり考えている人が少ないということでした。
(採用活動で学生に接していて感じたのは)もっと社会に出ることを考えて話しているのかなと思ったら、そうでもなくて、作られた自己PR(を話しているということ)。
最初の頃は、あまりに候補者のみなさんがしっかりお話をするので「最近の学生は立派だな」と思っていたんですけど、次第にみんなが同じことを言っているということに気づいてしまいました。
その時点で採用フローを変えることはできなかったので、最終面接で「社会で働く意味とは?」という問いを真ん中において対話をするようにしました。(最終面接は)45分しかありませんので、「この人いいな」と思ったら、もう志望動機やガクチカのような話をするのはやめて、対話の時間を過ごしていたのが1年目です。
45分の中でゴールを持ちながら真剣に対話をしようとすると、候補者に全力で向き合うことになるので、けっこう疲れるんですね(笑)。しかも、話しきれないことが多い。本当は志望動機などの似たような話を聞いて、印象で採用の可否を考えているほうが楽なくらいです。
だから、こういう話は「面接よりももっと前工程でやったほうがいいな」と考えたのが、最初にインターンシップに全力を傾けようと思ったきっかけです。
秋山:「働く意味を考える」。確かに。
日米のインターンシップの大きな違い
永島:ソニーでアメリカに出向していた際、アメリカの就業型のインターンシップの面接を担当していました。
アメリカでは、インターンを2〜3社経験して職歴を作らないと、思い通りの就職のスタート地点に立てないという現実があります。そこでのインターンシップは、その企業の採用とはまったく関係ない世界だったんですよ。企業側としては社員にならない人の面接をして半年以上雇用するわけなので、ある意味社会で人を育成するというエコシステムのような活動に位置付けられます。
数名を合格にして、半年ぐらいインターン生として勤務してもらいます。その中で、学生は周囲の社員が社会の中で何を目標にして、どうがんばっているのかを目の当たりにすることで、自身の中で社会で働く意味を真剣に考えることに向き合います。最初は遊び半分でフラフラしている学生もいますが、インターンが終わる頃には、「社会」と「自身」の関係性を考えられるまでになっています。
とはいえ、一括採用方式の日本の多くの企業では、本格的な就業インターンをやる時間もなければ、やはり採用とつなげざるを得ないという現状がありました。だから、ニトリではアメリカのインターンシップの要素を取り込みつつ、インターンを終えた際には、学生が一定の自分の目標や「社会の中で何のために働くのか」という考えを持った状態を目指そうと思って設計しました。
秋山:なるほど! 現在のニトリのインターンシップの原型は、アメリカのインターンシップを参考に作られたんですね。その考え方を運営に反映させていく中で、採用チームやインターンシップに関わるメンバーの意識や行動にも変化があったと思います。
実際に現場でどのような変化があり、それを受けて学生からのフィードバックにも何か違いが出てきたのでしょうか?
先輩が後輩に勧めたくなるインターンシップ
永島:インターンシップ終了後のアンケートを大幅に変更しました。ニトリへの入社意思確認をやめて、「社会で自身が成し遂げたいことが見つかりましたか?」という問いを出すようにしました。
インターンの担当者全員に、「ここは採用の場ではなくて、学生と社会の結節点になる場なので、僕らはそのための舞台に徹しよう」」と口を酸っぱくして言っていました。リクルーターは採用したくてしょうがなくなるのですが、そこは我慢をして徹底的に変えていこうと決心しました。
学生さんからのフィードバックとしては、「やりたいことが見つかりました」とか。「今まで親を見ていて、あんまり働くイメージが湧かないというか、働きたくないぐらいに思っていましたが、今は違います」という声が、けっこう届くようになりました。
このようなインターンシップを始めた裏側には、マーケティング的な視点があって、短期的ではない「関係性の向上」について考えています。
結局、あらためて働く意味を考えてみた人の中で、本気でニトリに興味を持つ人と、ニトリのインターンシップをきっかけとして、ニトリ以外の企業に興味を持つ人がでてきます。インターンシップではニトリを題材にした、「広告・広報コース」というのがあるので、それを受講した結果、「広告会社に行きたいな」と思う人もいる。
それはどちらも大切だと思っています。両方の方が半々くらいなのがちょうど良いと考えています。ニトリのインターンシップをきっかけに、他社や他業種に興味を持つことができた学生は、全力で後輩をニトリのインターンシップに連れてきてくれていることが数値でわかりました。
これはマーケティングでいうところの、“リファラル”とか“LTV”の考え方の応用で、満足度の高い価値提供による企業と学生の良い関係性の構築に成功したと考えています。採用活動は毎年学生が入れ替わりますが、唯一つながっている先輩と後輩の関係性も無視してはいけません。
参加者の半分以上の参加動機が「先輩の勧め」であるインターンシップって、ちょっとすごくないですか?
インターンシップは他社のモノマネではうまくいかない
永島:インターンシップの設計については、正解はないと考えています。他社のモノマネをしてもあまりうまくいきません。僕も「こんなインターンシップがあったら良かったよね」ということを、入社2~3年目の人たちとずっと語り合って作っていきました。年間に1,000人以上の方が参加するのですが、ほぼ毎回何らかの変更をしながら磨いていきました。
少なくとも3〜4年はそのような形で進めたので、ニトリのインターンシップは常にランキングで上位の評価をいただいています。歴代の参加した先輩が後輩に勧め続けてくれるので、広告費もそれほど使っていないはずです。
採用面接はほぼすべての時間を「関係性づくり」に充てるべき
坪谷邦生氏(以下、坪谷):ありがとうございます。今の話をうかがうと、採用マーケティングや採用ブランディングといった考え方にも通じますね。
この『採用入門』のインタビューの2回目に、マーケティングの研究者の田中洋先生にお話を聞きに行ったんですよ。そうしたら、「採用ブランディングや採用マーケティングって結局、評判じゃないかな」とおっしゃっていて。
例えば、マクドナルドみたいなブランディングとは違って、採用活動をしている人は長期でものごとを見られない。だから「先輩が『良いよ』と言っていたかどうかという評判にかかってくるんじゃない?」と教えてもらったんですけど。なんだか今、その実践編の話を聞けた感じがしました。
永島:そうですね。マーケティングというのは、やはり「関係性構築」なんですよね。感情や評判もその1つだと思うんですけど、顧客と商品や企業との間に関係性をどう築いていくかということしかないんだろうなという気がしています。
採用も同じで、関係性がないのにブランドイメージで企業を選んだ人って、すぐ辞めたりするので、入社の意思決定の経緯やストーリーもけっこう大事だなと思うんですよ。
坪谷:今の関係性づくりのお話はオンボーディングともつながると思います。採用後の組織適応のヒントとなりそうです。
永島:そうですね。採用プロセスは、すでにオンボーディングが始まっていると認識した方が良い。それはやはり関係性づくりに尽きます。
「これからの時代は選ぶんじゃなくて、選ばれるようにするんだ」と言う面接官もいますが、どっちが選ぶという問題ではないと思っています。両者がフェアに対話をして関係性を作れるかどうかが大事だと考えています。採用面接においては、そのほとんどすべての時間を関係性づくりに充てるべきです。
「第1志望ですか?」という質問は一番の悪手
永島:そして、採用における企業と個人の関係性づくりというと、今の自社を気に入ってもらうというよりは、10年後、20年後の自社のイメージを気に入ってもらう。そして、「一緒につくりたいな」と思ってもらえる関係性をつくっていくべきだと思っています。面接は、そういう場であるべきなんです。
だから、一次面接で関係性を構築したい相手であることを確認したら、そこからの面接は関係性づくりですよね。私がアドバイスさせていただく企業の中にも、低い内定承諾率や入社率、さらには入社後の早期退職という課題を抱える企業が増えていますが、多くが面接プロセスの脆弱性が見られ、関係性構築の前に内定を出してしまっています。
具体的に関係性というと、組織の価値観を表すミッションやビジョンと、候補者の価値観に一定の共通項があること。さらには、その企業において未来を楽しんでもらえるイメージが持てていること、そしてお互いに未来の姿が共有できている状態なのかなと思っています。
面接官のトレーニングも正しく実施するべきです。選んでもらうために一生懸命に「現在の姿」を伝える面接官の話を聞いたところで、未来を生きていく学生にとっては、そこにあまり成長の可能性を見いだせるものではないんですね。
「未来はこうなっていくから、そこであなたは何をできそう?」というふうに聞けばいいんだけど、その対話がうまくできないのが面接官の今の問題でもあり、採用プロセス全体の問題です。
そもそも関係性をつくる前に「第1志望ですか?」と聞く面接官が多いのですが、それが一番の悪手だと思っていて(笑)。現在の自社を作ってきた大手企業の役員やマネジメントレイヤーの面接官に多いです。
(一同笑)
永島:「第1志望だから来ているんだよね?」みたいな質問をするのは、もうこの時点でチーンという感じです。「結婚するつもりで付き合っているんだよね?」みたいな話になっていくので(笑)、よくそれを聞くなと思います。
自分から「第一志望です」と言ってくる学生もいたりするので、そう言わされているのはかわいそうだなと思いますね。