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『これで採用はうまくいく』著者が語る、今こそ採用担当に届けたい「口説く」力のすべて(全5記事)

仕事に対する“やる気スイッチ4パターン”から考える採用戦略 面接官が候補者を「口説く」ためのコツ

人事図書館が主催したイベント「今こそ採用担当に届けたい『口説く』力のすべて」。ゲストとして登壇したのは、『これで採用はうまくいく ほしい人材を集める・見抜く・口説くための技術』著者の安藤健氏。本記事では、採用候補者との関係構築のコツを語ります。

4パターン別に見る、仕事に対する“やる気スイッチ”

安藤健氏(以下、安藤):(人間にある3側面のうち)「志向」や「価値観」というのは、具体的にはどういう側面があるのかというと、今日は2つ出そうと思うんですが、「モチベーションリソース」と「キャリア観」ですね。

モチベーションリソースとキャリア観をどうしてここで出したかというと、言ってしまえば人間のエンジンとして、短距離走でがんばるためのエンジンがモチベーションリソースで、長距離走を走るために必要なエンジンがキャリア観だと思うんですね。

モチベーションリソースというのは「どこにやる気スイッチがあるのか」ですよね。左の「組織型」から見ていくと、キャリア選択の場面で、例えば「業界ナンバー1の会社で働いている自分」という像を描いた時に、すごくやる気が出るとかワクワクする。

またはそうでなくても、その会社の中で偉くなっていくとか、地位を築いていくことにやる気が出やすい人。または「どこで働くか」が大事な人です。

次の「仕事型」というのは、何をするか。どこの会社というのはなくてもよくて、「自分がおもしろい仕事をしたい」「仕事で得られる経験が大きいほうがいい」とか。

「職場型」は、新卒や総合職採用だと多いんですが、「誰とやるか」が大事な人ですね。だからこういう人にとっては、職場の雰囲気とか、本当の意味での仲間や上司との相性がわからないと、なかなか決め切れないところがあります。

あとは、そうでなくても働く上では生活もあるので、プライベートの充実度やバランスが取れるとか、ワークライフバランスを大切にしている人(生活型)もいます。これはパラメーターのように存在しているので、1つだけということではないです。

南賢将氏(以下、南):「私はもう100パーセント組織型です」みたいな感じではなくて、それぞれが何点ぐらいかグラデーションがあるんですね。

安藤:そうですね。ちなみに南さんは、99パーセント仕事型ですよね。

南:なんで決めつけるんですか(笑)!?

安藤:安藤の見立てです(笑)。

南:でも、職場も好きですよ。

安藤:確かに、5パーセントぐらい?

南:(笑)。縛られたくない。

安藤:僕も仕事型と職場型で、仕事型のほうが割合が多い。

南:どうりで気が合うわけですね。

8タイプで分ける「キャリア観」

安藤:キャリア観というのは、エドガー・シャインの8つのキャリアアンカーです。

南:有名ですよね。

安藤:そうですね。「キャリアを通じて何を実現したいか」という志向を表していますね。「自分の専門能力を高めていきたい」「ゆくゆくは独立的に働いていったり、誰かに縛られたくない」「何か社会にインパクトを残すようなチャレンジに挑戦していきたい」とか、そういうものがそれぞれあって、自分のアンカーが何かを出していくわけです。

南:確かキャリアアンカーは、質問票か何かで回答すると、どのタイプですというのが出るんでしたっけ?

安藤:ありますね。

南:採用担当自身も「自分が何志向なのか?」とか、1個前のやつ(モチベーションリソース)で言うと「自分が何型なのかな」というのは、学生さんに向き合う前に知るのは重要かもしれないですね。

安藤:そうですね。これもすごく地上戦の具体の話なんですが、採用担当者の方が自分のモチベーションリソースやキャリア観を把握しておかないと、自然に話すフォロートークがそっちに寄っちゃうんですよね。

南:どういうことですか?

安藤:例えば僕が採用担当者だとして、仕事型だったら自分のやっている仕事のおもしろさは死ぬほど語れるんですよ。でも、それはめちゃくちゃハードワーク。

南:なるほど。

安藤:生活型の人には逆にマイナスになるし、「じゃあ、人材研究所ってどういうロイヤリティがある会社なの?」というのもわからないし、僕が自然に話すと、たぶんうちの会社のことは出てこないので。

南:なるほどですね。先ほど「パラメーター」とおっしゃったように、自分の中にそれぞれ4つのパターンはある。だけど、特に自分のどれが強いのかを意識しておかないと、そうでない方を口説く時に、知らず知らずのうちにあまり響かない表現をしてしまうことがあるということですかね。

安藤:そうなんですよね。

良かれと思った言葉がマイナスに刺さることも

安藤:一番悲しいのは、良かれと思って言った言葉やワクワクして言った言葉が、マイナスに刺さったりネガティブに刺さるのが一番良くない。具体的な話なんですが、自分のモチベーションリソースやキャリア観を把握するとともに、できれば他のチームメンバーのモチベーションリソースやキャリア観を把握する。

「目の前の学生さんは能力も高いし、非常にうちの会社にマッチしている。ただ、私のモチベーションリソースとちょっと優先順位が違う」となった時には、この人と同じモチベーションリソースを持っているあの子を出して、あの子に語ってもらう。

南:なるほど。これは実務上、みなさんも共感があると思います。この候補者の方にどのリクルーターを当てると一番アトラクトできるのかという人選眼が、すごく鋭敏に働く人っていらっしゃいませんか?

「けっこう自分はそういうの得意ですよ」という方がいるかもしれないですが、そういう方は知らず知らずのうちに、こういもうのを暗黙知で判断しているのかもしれないですね。

安藤:本当にそうだと思います。だから、採用担当者自身の性格や志向・価値観もあって、ステレオタイプやバイアスもかかっている。その1人だけで、あらゆるタイプの候補者を口説くというのは、やはり現実的には難しいかもしれないですね。なので、チーム戦でやる。

南:そうですよね。前提の価値観も多様化している上では、やはり1人では対応できないというのはありそうですよね。

安藤:そうですね。モチベーションリソースとキャリア観だけで、めちゃくちゃ話が……。

南:この2枚で、1時間話せそうということがわかりました。

安藤:「(参考)」としか資料には書いてないですが。

候補者から見れば、人事や面接官は“得体が知れない人”

安藤:「相手のことを知りましょう」「モチベーションリソースやキャリア観を把握しようね」というお話なんですが、いきなり「あなたのモチベーションリソースは何?」「キャリア観をもっと教えてよ」という深い話をすると、どうですかね?

南:ちょっとびっくりします。

安藤:身ぐるみはがされそうな気分になって、ちょっとびっくりしますよね。

南:面接で、はじめましてで、「第1問。あなたのモチベーションリソースを教えてください」「それってどういうことですか?」みたいな。

安藤:そうそう。しかも、そこで出てくる言葉が完全に鎧を被った言葉だったら、あんまり意味がないわけですよね。その人のまがまがしたところも含めて聞かないと意味がないが、やはりそれは難しい。なぜかというと、採用って構造的にパワーバランスに絶対に差があるので。

医者と患者、弁護士と被疑者みたいに、採用担当者と採用される側みたいな感じで、情報の非対称性もあるし、パワーバランスが絶対的に存在するんです。そうなった時に、いかに慣れていても候補者からすると、初めのうちは人事や面接官は得体が知れない。

たぶんここには、採用を何年もやっているという方もいらっしゃるかと思うんですが、就活や転職活動を何年もやっている人はいないと思いたいじゃないですか。

南:(笑)。「私、就活のプロです」みたいな。

安藤:そうそう。「この道10年の就活生」とか、絶対に嫌じゃないですか。

南:「10浪ですか?」みたいな(笑)。

安藤:そう(笑)。なので、経験に絶対差があるんですよね。それで言うと、僕らは一定緊張して然るべきだし、本音を引き出すためには、まずはすごく厚い皮を被っているということを認識して相対しないといけない。

南:これはめちゃくちゃ大事ですよね。しかも採用って、会社としては組織でやっているのに対して、候補者さんは生身の1人の人間として来てくれているわけなので。

候補者体験の話をするのは今日のメインではないかもしれないですが、構造的にこちらがパワーが強いというのは意識していないと、ちょっとしたことが不誠実な対応につながる。これは気をつけたいところですよね。

安藤:そうですね。

相手の好意が上昇する「自己開示」のすすめ

安藤:じゃあ、得体の知れないと思われるみなさんはどうすればいいかということなんですが、ここはシンプルに「だから自分のことを先に伝えましょう」です。相手の深い部分を知りたければ、まずは自分から同じ深さまで降りていく。これはすなわち、「自己開示」というやつなんですね。

信頼関係構築に自己開示がめちゃくちゃ大事だという研究論文は、すごくちっちゃいニッチなテーマなんですが、実はいっぱいあるんですよ。

南:研究の領域があるんですね。

安藤:あるんですよ。「自己開示の方法」「信頼関係の構築の方法」みたいな、けっこう研究が進んでいておもしろいんです。研究の分野で、どうして自己開示が関係構築におすすめなのかというと、2つの効果が働いています。

「自己開示好意効果」というやつなんですが、自分が自己開示をすると、あなたに対しての好意が上昇します。例えば僕が南さんに、「ちなみに僕、親知らずを抜歯して……」みたいな話をすると、南さんが僕のことを好きになるということなんですね。

南:「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな(笑)。

安藤:そうそう(笑)。ちょっと端折りすぎましたが。

南:でも、すごくいい自己紹介だなと思いましたよ。

安藤:本当ですか(笑)。自己開示も返報性があるので、「安藤さんがここまで自己開示してくれたら、僕も親知らずの話をしよう」ってなりますよね。

南:そうですね。けっこう(相手の深い部分まで)降りていった感じはありますね。「親知らずを抜いたんですよ。なんなら両方」みたいな。今、冒頭の話を聞いて、けっこうな降りていき方だなと思い出しました。

安藤:卑近な例で本当に恐縮なんですが、南さんが「私が抜いた時はね」という話をするわけですね。そうしたらなんと、なぜか南さんは僕のことをもっと好きになっちゃうという。

南:あはは(笑)。でも、なんか想像するとあり得るかもしれないですね。

相手を深く知るためには、まずは自己開示から

安藤:これはなぜでしょうね? ということなんですが、「認知的不協和理論」というものが入っています。自分が自己開示をして、僕が「親知らずを抜いたんです」と言って、南さんが僕のことを好きになるというのは、南さんの心の中では「本来はこの人とはこういう関係性なのに、親知らずの話なんかをするんだ」と思うわけですね。

「(普通だったら)開示しないことを開示してくれたから、その代わりに好意をお返ししよう」というのが、自己開示の返報性、好意の返報性というやつです。

不思議なのが、南さんが「私が親知らずを抜いた時はね」という話をすると(相手への好意が)勝手に上がってしまうのは、ちょっと難しい言い方なんですが、南さんが取っている「行動」と「認知」が最初はずれているんですね。

行動というのは、「私が親知らずを抜いた時は」という話をしたことです。それと、「私のことがどれくらい好きか」という認知がずれている。人間はそれを是正したいと思う。これが「認知的不協和を是正する」という、認知的不協和理論なんです。

南:なるほど。

安藤:「私は仕事上の関係性の安藤さんに、本来は開示しないようなことまで開示した。それは、私はきっとこの人に好意を持っているからだ」と誤解する。確かに認知的不協和なんですが、みなさんが最初に自己開示することで、勝手にここまで進む。だからいいということなんですね。

南:あえて、ずらしにいくという。

安藤:そうです、ここまで引き出せたらいいんです。これはもう雪だるま式に起きるので、すごくシンプルに言うと、あなたが深い話をしたら、その分だけあっちも深い話をしてくれるし、勝手に好きになってくれる。こういう心理効果があって、自己開示がおすすめなんですよと言われている。

南:原理原則があるということなんですね。

安藤:そうですね。

関係を深めるためにおすすめな「玉ねぎモデル」とは?

安藤:ですが、ここまで聞いて、「いや。初めて会った人に、いきなり深い話をしても引かれるんじゃないか?」と思うのが普通ですよね。しかも、あっち(採用候補者)は怖いと思っている。

だから順番がありまして、これは「玉ねぎモデル」と、ちゃんと言われています。「オニオンモデル」と言うんですが、玉ねぎの皮を1枚1枚むく……まぁ、そんな趣味の人はいないと思うんですが(笑)。

:(笑)。

安藤:玉ねぎはみなさん知っていると思うので、むいたことはなくても、こうむけるというのはわかりますよね。(玉ねぎを)むくように伝えていくのが自然で、最初は表面的な話題で、名前、自己紹介、趣味、好きな食べ物、居住地とかがありますよね。(その次が)個人的な話題で、好きな音楽や映画、日常の出来事とか。

もう少し内層に入ると、自分の感情や価値観に触れるような話題です。例えば将来の夢とか、将来なりたかった夢、職業、目標、最近あったムカついた出来事、すごくうれしかった出来事、悲しかった出来事とかです。

南:喜怒哀楽に触れるようなことですね。

安藤:そうです。本当に最後の最後は、非常に個人的で深い話題。自分自身の抱えていたトラウマや悩みとか、弱みや秘密。この順番で自己開示していくことで、関係が深まっていくことが、「玉ねぎモデル」と言われます。

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