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~心理学の知見からひもとく~ 組織の自律性を高める「感謝」の機能(全4記事)

「やって当たり前」の仕事で、社員のやる気を引き出すには? 心理学の専門家が説く、チームの士気を高める「感謝」習慣

組織として成果を出し続けるためには、自律的なモチベーションをもって行動する社員を増やすことが必要不可欠です。しかし、自律的な組織に変化させることの難易度は非常に高く、どのように取り組んでいくべきかお悩みの経営・人事の方も多いのではないでしょうか。チームの効果的なマネジメントの専門家である池田浩氏は、自律的なチームを生み出すためには「感謝」感情が重要であると説きます。なぜ感謝し合えるチームが強いのか? そして感謝を習慣化し、組織全体に浸透させていくためにどのような取り組みをしていくべきなのか? 本記事では、感謝の施策を導入する際のポイントを解説しています。

「感謝特性」が上がるほど、仕事に対する意欲も向上

斉藤知明氏(以下、斉藤):このあとはQ&Aに入っていきます。最大11時15分まで延長可能だよ、と池田先生もおっしゃっていましたので、どんどんQ&Aをしていければなと思います。「感謝特性ってどうやって計測するのですか?」という質問ですね。僕もこれ、気になりました。

池田浩氏(以下、池田):これは6項目ほどの質問項目がありまして、その得点の高さですね。「日頃どれくらいありがたいと思うことがあるか」といった項目なんですが、それが心理学の中では一般的に使われているスケールになります。

斉藤:ちょっと待ってくださいね(笑)。チャットにすごく「ありがとうございました」と来ています。うれしいですね(笑)。ふだんよりたくさん集まっている気がしますね。

池田:ちょっとついて行けてないところもあるんですが、チャットを見ていると、非常にありがたいコメントをたくさんいただいています。

斉藤:そうなんですよね。「斉藤さんがきちんと(コメントを)拾ってくれること」。池田先生もですが、実はこれは意識しています(笑)。ありがとうございます。感謝特性は、さっきのスライドでも感謝カードを渡した枚数と受け取った枚数があったじゃないですか。数値を見ていると、これよりも初期から相関性の高い指標になっているなと思ったんですよ。

池田:そうですね。実はこれ、日頃からありがたいと思うことが多い人と言いますか、そういう感度が高い人ほど、もともとモチベーションも高いんじゃないかなと思うんですね。

斉藤:そっか。つまりこれは、感謝カードを渡した枚数・受け取った枚数じゃなくて、アンケートのようなものを指標にしているんですか。

池田:はい。制度を導入する前に、いろんな別の目的でアンケートを実施していまして、そこの中で事前に、感謝をどれくらい感じていらっしゃるのかということを測定したデータを紐付けした結果になります。

斉藤:ああ、なるほど。つまり、感謝特性の向上度合いと、仕事への意欲の向上度合いの相関係数みたいなところですかね。

池田:そうですね。

斉藤:感謝特性をアンケート的に取ったもので、(感謝特性が)上がっている人ほど、仕事への意欲の向上も顕著に見られる。

池田:そうですね。

斉藤:なるほど。確かにいいですね。さっそく、感謝ミーティングを真似してやってみたいですね。

池田:そうですね(笑)。

斉藤:(視聴者コメントで)「ありがとうございます。感謝特性そういうことですね」。これも難しいなと思った質問なんですが、チャットでいただいたご質問です。「自ら感謝をしようと意識をすると、心から感謝ができないように感じてしまいます」。

これ、僕も感じる時があるんです。「感謝しなきゃ」ということが先導していると、心からの感謝になっていないのかな? と思うことがあるんですが、どのように向き合っていったり(するのがいいのか)、むしろ考えすぎですという話なのか、池田先生はどう思われますか?

感謝を表現する際には「エピソード」も一緒に伝える

池田:そうですね。「感謝しなきゃ」というよりは、一日を振り返ってみた時に、「ありがたいと思ったことってどんなことがあったかな」という振り返りぐらいでもいいんじゃないかなと思うんですよね。

そうすると、あまりその時には意識しなかったんだけれども、「あの時、こうしてくれたことて非常に助かったな」「この言葉が非常にうれしかったな」ということを振り返る。まずは、そういったところからでいいんじゃないかなと思うんですよね。

それともう1つ。どのコメントかは忘れたんですが、モチベーションが下がるものとして、「ネガティブなもの」や「重箱の隅を突かれる」という話があったと思うんです。恐らくこの問題は、私たちのポジティブな感情、ネガティブな感情にけっこう影響しています。

私たちは、嫌なムードやネガティブな感情が職場にあると、どうしても後ろ向きなところに目が行きがちになると思うんです。ところが、ポジティブなムードや感謝的なポジティブ感情が職場の中に広がっていくと、ネガティブなところじゃなくて、前向きなところに目が行くところはあるんじゃないかなと思います。

もしそういうムードを職場の中に作り上げることができれば、もっと建設的で前向きなことが広がっていくんじゃないかなと思います。もう1点、「単に『ありがとう』と言われるだけだと、そんなにうれしくない」といったコメントも途中であったんですが、これにはコツがいると思うんですよ。

単に「ありがとう」という、あまり気持ちがこもっていないような言い方ではなくて、どんなところで、どういう気持ちでありがたかったのか、少しエピソードを乗せてあげるほうが相手もうれしいですし、伝えるほうも感謝の出来事を噛みしめることになると思うんですよね。

「Youメッセージ」と「Iメッセージ」の違い

池田:単に気持ちだけ・言葉だけを伝えるだけだと、伝えているほうもそんなに効果が現れないと思いますので、どんなところでそういう気持ちになったのか、噛み締めながらエピソードを伝えてあげると、単に伝えること自体がすごく有意義なものになるんではないかなと思います。

斉藤:だから、日記もいいんですね。

池田:そうですね。

斉藤:日記ってまさにエピソードじゃないですか。

池田:そうですね。

斉藤:「Uniposをこうやって使ってね」というご案内をする時に、よく「Youメッセージ」と「Iメッセージ」の話をするんですよ。池田先生はご存知だと思うんですが。

結局、どんなことが私にとって役に立ったのか(を伝えることが大切です)。「あなたのした行動がすごいね」というのがYouメッセージ、「あなたのしたことで私はこう役立ちました」というのがIメッセージだとした時に、「相手に伝わりやすい、受け取った側にとって(Iメッセージの方が)伝わりやすいメッセージですよ」と言うんです。

今の池田先生の話を聞いていると、自分にとって何が良かったのかを言語化することで、あらためて「あの行動は本当にありがたかったな。最初は言葉にしてみようと思って始めたけど、私にとってもありがたかったわ」と思える効能もあるんだなと思い至りました。

チャットでいただいた(コメントのとおり)、「『感謝しなきゃ』じゃなく、感謝の気持ちが芽生えた時に伝えなきゃ」という、行ったり来たりですよね。

池田:そうですね。

斉藤:これができると、すごいんだなと思いました。(視聴者コメントで)「まずは家庭から」という声がありますね。

池田:そうですね。

斉藤:そのとおりですね。すいません(笑)。

池田:当たり前と思っている仕事ほど、そういう気持ちを(感謝の言葉で)掛けてあげるようにしたいですよね。

斉藤:家庭ほど、当たり前だと思っちゃうことはないです。

「やって当たり前の仕事」ほど、感謝を伝えることが大切

池田:特に企業の中でも、管理部門では「やって当たり前の仕事」って、けっこう多いと思います。そういう仕事はミスが起きれば咎められるんですが、ミスなくやることが当然だというふうに見なされているところもありますので。やはり、そういう仕事ほど(感謝の)気持ちをしっかり伝えてあげることが、モチベーションアップにもつながります。

斉藤:ありがとうございます。続いての質問に行かせてください。かい摘みながらなんですが、施策を導入する時に左脳的に訴えるエビデンス、理論的に理解していただけるものって、まさにこういう指標も活用できるものだと思うんです。

池田さんの著書、みなさんご存知ですか? 『モチベーションに火をつける働き方の心理学』という本です。こういうものもあると思うんですが、「導入する時に、エビデンスとして使えるものや伝え方ってあったりするんですか?」というご質問です。

池田:ありがとうございます。感謝の研究自体は心理学で始まっているんですが、多くが大学生を使った研究なんですよね。それで、組織の中での感謝の研究というのは、実は欧米でも少ないというのが現状でして。

社会心理学の中でも、大学生を使った研究があると知っていましたので、それを企業の中でやってみたらどうなんだろうか? ということでいろんな調査をしてみたので、もし(感謝習慣を導入するための)エビデンスということであれば、手前味噌になるんですが、こちらの著書を見ていただけるとありがたいなと思います。

企業も施策としてやっているのは当たり前なんですが、それがどんな効果を持つのかという調査を実際に入れた企業って、なかなかないと思うんです。満足度調査とかはあると思うんですが、実際にモチベーションやいろんな指標にどう効果があったのかとか。

それが半年後〜1年後にどう変化したか、というところまで追いかけた研究は、調査でもなかなかないかなと思います。そういう意味では、協力してくださった企業のみなさまにもすごくありがたいなと思っているんです。 

感謝習慣を根付かせるために、必要な「振り返り」の時間

池田:確かに、いろんな本がありますもんね。私の研究室にも何冊か感謝に関する本があるんですが、最近いくつか研究紹介をした中で、ロバート・エモンズという研究者。英語でEmmonsという名前が出ていたと思うんですが、その方の本も訳本がいくつか出ています。感謝をする習慣のような(内容の)薄めの本(『ありがとうの小さな練習帳』)とか。

昨年も1冊、新しい訳本(『「感謝」の心理学』)が出ました。ロバート・エモンズとマクラフ(Mccullough)という研究者が、先ほどの感謝特性を測定する尺度を開発したんですが、この2人がかなり中心的な研究者かなと思います。

斉藤:まだ(時間的に)いけますね。続いての質問にも行かせてください。この、3つのフェーズにおける最後のフェーズのところにも質問がきています。「開始してその経過を測定、ないし効果や変化を振り返ることに対して、何かいい適した方法(はありますか?)」。KPI値って、適するシーンと適さないシーンあるんじゃないかと感じていまして。どう思われますか?

池田:そうですね。このへんは実際に私がやっているわけではないんですが、職場の中でそれを振り返るような研修やワークショップをやって、お互いの効果を実感したことを共有し合うのもいいんじゃないかなと思うんです。「確かにそうだよね」ということを共有できて腹落ちすると、恐らくそれが根付いていくんじゃないかなと思いますので。

やりっぱなしはよくないと思うんですね。やはり、節目とか一定程度経過した時に、その効果を数値的にアンケート取ることももちろん重要なんですが、実際に実体験としてどうだったのかということをお互いに共有するような、そういう機会だけでも十分ではないかなと思います。

感謝の取り組みに「疑心暗鬼」な人の背中をどう押すか

斉藤:実際にUniposをご導入いただいて1年くらい経った企業さんと一緒に、継続的に長く活用していけるようにミーティングをやるんですが、その時にも「1年経って、組織の雰囲気が変わって気付いたことはありますか?」という問いかけを、6人くらいに集まっていただいてします。

「最近、ギスギスした雰囲気が減ったよね」「若手同士で話すのが増えているよね」「部署を超えたコミュニケーションが取りやすいと言っている人、増えているよね」という声がエピソードとして出てくると、効果実感につながるという感覚を持っていただける。

一人ひとりが感じていることって些細なことかもしれないんですが、組織における日々の変化は全部が全部きれいに見えているわけではないので。言語化して共有して分かち合うと、実際の効能の実感や変化の実感になっていくのかなと思いました。コメントを見ていると、スリー・グッド・シングスをやっている方は多いですね。

池田:確かに、アンケートに「いろんな効果を感じています」と書いてくださる方もいらっしゃるんですが、それはそれで非常に大事なお言葉です。実際にそういう実感があるということを職場全体に共有できれば、さらにいいんじゃないかなと思うんですよね。

斉藤:「こういう声が上がったよ」というのを共有するだけでも、「あ、そうなんだ」と思いますもんね。

池田:感謝カードを導入した企業さんでも、やってらっしゃる方はすごく効果を実感してくださっているんですが、なかなかやってくださらない方といいますか、最後まで疑心暗鬼の方もいらっしゃるわけです。その方のどう背中を押すかは、大きな課題かなと思っています(笑)。

斉藤:(笑)。

池田:そういう効果が発揮できるので、それはそれで研究としてはありがたいんですけれども。ただ、実際に施策として導入する上では、なるべく全体的にみなさんに共有していただきたいところだと思いますので、最後まで隅々に行き渡るように導入していくかは、どの企業さんでもなかなか悩ましい問題かなと感じます。

ベテラン社員ほど、施策の効果は出にくい

斉藤:チャットでたくさんいただいている話だと、スリー・グッド・シングスをすごいやってらっしゃるなと思ったんですが、これって実際に池田先生の中でもいい効能のものなんですかね?

池田:そうですね。スリー・グッド・シングスは、ポジティブ心理学の研究の介入の1つなんですが、そういう効果があります。

モチベーション研究で、クレームを処理するコールセンターを対象とした研究があるんです。クレームを処理する仕事ですので、日々いろんなお客さまからキツいことを言われたりするような仕事で、離職率も非常に高い、モチベーションの低い職場だったんです。

じゃあ、そのコールセンターのみなさまを、どう(会社に)定着させてモチベーションを上げていくのか、4~5年くらい共同研究させていただいたんです。なかなかお客さまから感謝される言葉をいただけることはないんですが、お客さまの大きな問題解決には役立っていて。

自分の対応によってお客さまがうまく問題解決できたり、役立ったという感覚を持っている人ほど、長年定着していらっしゃるんですね。ただ、この感覚を持つまでにはけっこう時間がかかるんです。

日々お客さまからクレームをいただくような仕事ですので、仕事が終わったあとって、うれしい気持ちとかやり遂げた気持ちというよりは、なんか嫌な気持ちが残ることが多いんですよね。じゃあ、どう前向きにしていくのかといった時に、スリー・グッド・シングスを少し応用しました。

嫌なことが頭の中に残ることを逆手に取って、今日一日の中で「自分が人に役立った」とか「お客さまに(とって)いい行動をした」といった、うまくできたことを一式に振り返ってもらう介入をしたほど、いい効果が得られたという研究なんです。ただこれは、経験年数にも違いが出ていまして、ベテランの方はそんなに効果がなかったですね。

斉藤:へえ!

池田:なぜかと言いますと、恐らくベテランの方ほど、自分のモチベーションをコントロールする習慣をすでにお持ちだったと思うんですね。

斉藤:なるほど!

若手社員ほど、モチベーション向上の効果が見られた

池田:とりわけ効果があったのは、経験年数が浅い方。自分ができた取り組みを振り返るほど、前向きになるような効果が得られたということです。

仕事をバリバリやってらっしゃる方は、恐らく自分なりにいろんなモチベーションをコントロールする術や習慣をお持ちだと思うんですが、(術や習慣を)まだ十分お持ちでない方ほど、そういう取り組みがよかったのかなという結論を得ています。

斉藤:逆に言うと、そういう場を作ることで、時間を掛けて獲得しないといけないものを獲得できちゃうとも捉えられますよね。

池田:そういう習慣を持つ、ということですね。

斉藤:むちゃくちゃいいじゃないですか。今までは言語化されていなかったけれども、いわゆるマイナス面ばかりが目立ってしんどい仕事において、自分の心の平静を保ちながらも前向きに取り組んでいくために重要なことは、自分の仕事の良い面や、どんないいことができたかを捉え直すこと。

池田:そうですね。

斉藤:そういう場を設けることで、全員がではないですが、多くの人がその手段を獲得できたということですよね

池田:そうですね。

斉藤:なるほど。

何歳になっても「感謝」の気持ちを忘れずに

池田:自分で前向きと振り返りをできるようになれば、それはそれでいいですし。また、リーダーの方が労いの言葉を掛けてあげることも非常に大事だと思うんですよね。「あなたの対応によって、お客さんのこの問題もうまく解決できた。本当によくやってくれた」と(上司が)言ってくれると、自分がやった仕事が意味を見い出せることがあるなと思います。

特にクレームを処理する仕事とか、やって当たり前の仕事。ミスがなくて当たり前の仕事ほど、なにも言葉を掛けずに毎日が過ぎてしまっているところがあると思います。そういう仕事だからこそ、(感謝)習慣や言葉が大事かなと考えています。

斉藤:ありがとうございます。もう時間が過ぎちゃいましたね(笑)。

池田:(笑)。

斉藤:興味が尽きなかったんですが、時間が過ぎちゃいました。池田先生、本日は長い時間ありがとうございました。最後に、一言まとめをいただいてよろしいでしょうか。

池田:そうですね。私たちは、人と関わりの中で日常生活を生きていますので、(他人に)支えられていることがあると思います。些細なことでも「ありがたいな」と思う気持ちを、何歳になっても忘れずに過ごしていければなと思います。

みなさんも日常生活の中で「ありがたい」と思うことを意識化してみると、気持ちの持ちようや行動が変わってくると思いますので、ぜひ意識していただければなと思います。今日はありがとうございました。

斉藤:池田先生、あらためて本日はお時間をいただきありがとうございました。

池田:ありがとうございました。

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