2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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池田浩氏:(感謝には)さまざまな効果があるわけですが、例えば感謝と心拍数の関係性を明らかにしたMcCratyたちの研究です。フラストレーションが非常に激しい波を打っているわけですが、感謝の気持ちを感じると、非常に穏やかな気持ちになるということがおわかりになると思います。
また、感謝と脳のアルファ波の関係性を見た時にも、非常に薄いアルファ波がたくさん表示されていることがわかりますが、非常にリラックスした気持ちになるということもわかってきています。それ以外にも、心理学の中ではさまざまな実証的な研究がありまして、主には実験的な研究、介入的な研究が非常に多くあります。
代表的なものとして、(スライド)一番上のEmmonsたちの「感謝日記」。毎晩寝る前に「ありがたいと思ったこと」を振り返ってもらって、それを日記に書く。それを10週間繰り返すと、いずれ私たちのWell-Beingや幸福感に効果があることが明らかになっています。
その他にもSeligmanの研究を紹介したいと思います。これは、私たちが以前ありがたい、いいことをしてもらったにも関わらず、明確に感謝の気持ちを伝えていなかった人たちに手紙を書いてもらって、それを実際に本人の前に行って手紙を読んでもらうという実験をするんですね。
そうすると、このような効果が見られました。統制条件というのは、普通の手紙を書いてもらう条件なんですが、実際に感謝の手紙を書いてその人の前で読んだ人たちは、やった直後の幸福感が非常に高まります。そして1週間、1ヶ月後まで統制条件と優位な幸福感に差があり、幸福感が1ヶ月間も持続することがわかっています。
結婚式で新婦が親に対して感謝の手紙を書くこともありますし、私たちは節目節目でお世話になった人に対して感謝の気持ちを伝えることがあるかと思います。単に自分の中で(感謝を)思っておくだけではなく、ちゃんと意識して言語化し、相手に伝えることによって、非常にポジティブな効果があることが明らかになっています。
では、感謝をすることが、組織の中でどんな影響やインパクトを持っているのか。実際に、企業の中で行った調査の結果を少し紹介していきたいと思います。これは私の研究室の学生が就職した会社で、非常におもしろい取り組みとして、毎朝「感謝ミーティング」というものをやられています。
朝9時にみなさんに集まっていただいて、一人ひとり、前日に起こった「ありがたいと思ったこと」をみんなの前で表明して、共有するミーティングをされています。私も何度も感謝ミーティングに参加させていただいたんですが、些細なことから仕事上のことなど、みなさんが非常にいろんな感謝すべきことを言ってくださって、聞いているほうも温かい気持ちになります。
みなさん忙しいので、朝礼に少し参加して自分の感謝の気持ちを伝えたら、また仕事に戻る方が多いわけですけれども。実際にいろんな方に聞いてみたところ、この朝礼に参加するのとしないのでは、仕事の中で取り組み方や気持ちがぜんぜん違うということです。もちろん強制ではないんですが、かなり多くの方が自発的に参加してくださっていることがわかります。
実際に調査の中で、どれぐらいの人がどれぐらいの頻度で朝礼に参加しているのかを尋ねたところ、(スライドの)この表にあるような頻度でみなさんが参加していることがわかりました。
では、こうした感謝の朝礼に参加して、前日に起こったことをあえて表明した人たちが、実際に感謝の気持ちをどれくらい感じていらっしゃるのかも明らかにしました。グラフの左側にある「感謝特性」という指標なんですが、私たちが日頃いろんな出来事の中で「ありがたい」と思う出来事がどれくらいあるのか、そういった感情をどれくらいの頻度で感じるのかを表す指標になります。
同じような出来事があったとしても、何も感じずに過ごすこともあれば、些細なことでも「ありがたいな」と思う方もいらっしゃると思うんですが、感謝すべき出来事に対する感度の違いというふうに考えていただければと思います。
指標自体は5点満点なんですが、(感謝の)朝礼に参加している頻度ごとに得点を分布してみると、こうした分布になりました。週に2~3回、半分くらい参加している方々は4.14と同じぐらいの値を示しているわけですが、ほぼ毎日参加している人ほど急激に(感謝特性が)高まっていることがわかります。
ただ、4点台と言ってもかなり高い値でして、参考程度に一般の社会人はどれくらいの平均値をもっているのかを調べたところ、一般の方々がだいたい2.84と、3点未満が一般的になります。(感謝ミーティングを実施する)企業で働いていらっしゃるみなさんは、感謝をすることが根付いて、定着していることがわかる結果かと思います。
感謝をする得点、感度が高いわけですが、それが組織で働く行動にどう影響しているのかも調べてみました。すると、感謝を感じる感度が高い人がご自身の仕事の業績が高いかというと、これは直接的なつながりはないことが明らかになっています。
つまり、感謝をしても自分の業績が上がるわけではないんですが、注目すべきは下の矢印です。専門的な用語で恐縮なんですが、感謝をしていらっしゃる方ほど、「視点取得」と言われる、他者の視点から物事を考えるようになる機能を持つようになります。
つまりこれは、私たちが仕事をしていく中で「あの人だったらどう考えるんだろう」「こういう人から見たらどう思うんだろうか」というふうに、自分の視点だけではなく、他の人の立場や視点から物事を考えること。それが結果として、同僚や職場に対する自発的な協力行動、または将来に役立ちそうな、先取りした行動をやることが明らかになっています。
こうした感謝感情を感じること自体が、実は心理学の中でも「ポジティブ心理学」という領域の中で、すでに明らかにされているようなことを示唆する知見なんですね。
(スライドの)下のほうに「拡張・形成理論」とあるんですが、うれしい気持ちやハッピーな気持ちになったり、ポジティブな感情を抱くほど、私たちは視野が広がり、いろんな行動のレパートリーが増えるという理論です。
確かに私たちは、うれしい気持ちやハッピーな気持ちになった時ほど、人のことに目が行ったり、優しくしたり、協力したり、手を差し伸べることがあるというのは、まさにそういう理論に裏付けられているところかと思います。
この他に、インタビューでも非常におもしろい知見が得られました。「日頃感謝していることで、どんな出来事や変化がありましたか?」と尋ねたところ、「日頃の出来事のうちで、感謝すべき出来事を意識するようになった」ということがありました。
私たちは日頃、いろんな出来事で人から助けてもらうことがあると思うんですね。あまり気に留めず、日常生活を過ごしていることが多いかと思うんですが、感謝をする習慣を持っている人ほど、些細なことにも「ありがたいな」という気持ちを感じるようになるということがわかるかと思います。
2つ目が、「ネガティブな出来事を学習すべき体験として捉え直す」ということも、非常に印象に残ったインタビューの結果です。これは、この企業のコールセンターで働いている方のインタビューの結果なんですが、よくコールセンターではお客さまから厳しい言葉を掛けられることがあるそうです。
一般的に「クレーム」という言い方をすることが多いかと思うんですが、この企業ではクレームと呼ばずに「チャンス」という言葉を使っていらっしゃるんですね。
なぜかと尋ねたところ、「お客さまはどう思っているかは実際にはわからないんですが、これだけ物が溢れている世の中ですので、わざわざ自分たちの企業で買わなくてもいい。嫌なことがあれば別の企業で購入すればいいものの、あえて厳しいことを言ってくださるということは、自分たちの会社に変わってほしいという思いがあるんじゃないか」と。
感謝の習慣を持っていることによって、厳しいことや日頃の出来事を常に見つめ直し、改善する。そういったことを活かしていらっしゃるそうです。
3つ目は、お二人の方から同じようなことをお聞きしたんですが、1人は新入社員の方、もう1人はSEですね。お二人とも私は初対面なんですけれども、あまり積極的に交流するような性格ではなかったらしいんです。
ただ、SEの方の話としては、黙々とするような仕事ではあるんですが、ある時コールセンターのオペレーターのみなさんが、「○○さんの作ってくれたシステムによって、非常に仕事がやりやすくなった。ありがとう」という言葉を掛けてくださった。それが非常にうれしかったようで、さらにみんなが仕事がやりやすいようにもっといいシステムを作ろうということで、一生懸命がんばってくださっていました。
また新入社員の方も、今まで自分は誰かから感謝されることはなかったらしいんですが、ある時、ふとしたことで(感謝の)言葉を掛けてもらったことで、会社に対する帰属意識やアイデンティティを非常に持つようになったとおっしゃってました。
感謝ミーティングにはいろんな効果があったんですが、一方で、実際に施策として感謝カードを導入した時にどうなのかをご紹介していきたいと思います。
サンクスカードや感謝カードにつきましては、みなさんもご存じの方が多いかと思うんですが、多くの場合サンクスカードの目的は、感謝「される側」に焦点を充てたことが多いと思います。
カードを通して、コミュニケーションを活性化するという目的があると思うんです。確かに、感謝されることによって仕事に意義を感じたり、存在意義を認識する機会になるかと思います。
ただ、ややもすれば「せっかくいいことをしたのに感謝をされない」と不満を抱くことがあるかと思うんですね。(感謝カードの)導入の仕方について、「強制感」や「やらされ感」を感じることもよくある話かなと思います。
先ほどの感謝ミーティングの知見を元にしながら、実際に感謝カードを企業の中で導入したら、どんな効果があるのかという調査をやってみました。これは、ある技術者チームですね。理系の方々が商品開発を行っていらっしゃるチームの中で、こういう感謝カードを導入してみました。
導入して4ヶ月後と1年後、2回に渡ってどのような変化があったのかを、実際に調査で明らかにしてみました。やはり、いろんな反対等々もありました。4ヵ月後は、実際に渡している数はそこそこ多かったんですが、1年経過してみると、渡している回数がかなり減っているのがおわかりになるかと思います。
最初のほうは、部門長の方も積極的にどんどんカードを渡していらっしゃったんですが、だんだんとお互いに渡す頻度が少なくなっている。どの企業でも同じようなことが言えるんではないかなと思うんですが、注目すべきは4ヶ月後と1年後でどんな効果の違いが現れたかです。
こちらの数字をご覧いただきたいんですが、感謝カードを渡した枚数の多さ、あるいは受け取った枚数の多さが左側です。
(スライドの)上は結果変数なんですが、仕事のモチベーションが向上したかどうか。同僚や上司とのコミュニケーションが深まったかどうか。新しいアイデアを発想したかどうか。チームの中での一体感が向上したか、連携はどうか。そういったところに、感謝のカードを渡したり・もらったりすることで、効果が見られたかを示す結果です。
特に注目していただきたい数字は、すでに太文字にしております。「1回目」が4ヶ月後の効果、2回目が1年後の効果を表しています。4ヶ月後は、カードを渡した枚数が多くても、受け取った枚数が多くても、職場の中にあまり変化が見られないことがわかります。むしろ、1年後にはたくさんの効果が見られています。
モチベーションが高まった、あるいはコミュニケーションが上昇した、または一体感が向上したり、チームの中の連携が高まったという効果が得られております。また、4ヶ月後では効果が見られないんですが、1年後にようやく効果が現れてくるというところが1つ目のポイントかと思います。
もう1つは、(感謝)カードを受け取った枚数の多さと、関連性はほとんど見られなかった。0に近い値です。むしろカードを渡した人ほど、モチベーションやコミュニケーション、あるいは一体感が高まったという効果を示しているところも、非常に注目すべき結果かと思います。
このようなことから、感謝をすることが組織力にどんな効果を持つのかを整理してみますと、生理的な効果や心理的な効果として、幸福感、ストレス抑制といった意味では、メンタルヘルスに影響を与えることがわかるかと思います。
これ以外にも、多くの企業で導入されているとおり、人間関係が良好になる効果もありますし、日常の些細な経験でも、感謝をありがたい経験としてしっかり意識化できることや、効果的な職務行動につながる。ひいてはそれが、組織力の向上につながるということもわかるかと思います。
ただ、施策として実施するためにはいろんな障壁があるんじゃないか。とりわけ、みなさまが「強制感」や「やらされ感」を感じてしまうと、せっかくいい施策であったとしてもうまくいかないかと思います。
私の経験の中で、大きく3つのフェーズでポイントを押さえていく必要があるのではないか(ということがわかりました)。まず1つ目は、導入する前に「なぜ感謝をすることがいいのか」という意義を、エビデンスに基づきながらしっかりと伝達していただくこと。準備状態を醸成する必要があるのではないかと思います。
またそれをやっている途中も、なかなか自分たちの(感謝を)実感しづらいところがあるかと思うんですが、お互いに感謝を伝え合うような会社の雰囲気を作る。もちろんこれは、(施策を行うのは)管理職の方々が中心になるわけですが、感謝を伝えた時にどんな気持ちになったのかを(社員)一人ひとりに振り返っていただいて、効果を肌感覚で実感していただくのも必要かと思います。
導入して一定程度時間が経過した時には、職場全体でやりとりをしてみてどんな気持ちになったのか、効果をしっかり振り返っていただくことが必要なのではないかと思います。なにより、部署のみなさまだけで実践するのではなくて、当然ながらうまくいっている企業では、経営層や管理者のみなさまが積極的に支援することが必要不可欠です。
そういったことも併せて、下支えしながら施策を導入していく必要があるのではないかと思います。私の話は以上です。みなさま、ご清聴いただきありがとうございました。
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