2024.12.19
74歳の事務員がたった1人で請求業務を担当…… 作業時間を105時間→10時間まで削減させた、介護DX成功の舞台裏
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関根諒介氏(以下、関根):経営者が(相談事や本音を)語りづらいのはなぜかというと、弱さを見せられないからメンタルヘルスケアを利用しないという人が意外といます。「心の悩みを意識した経験はありますか?」に対して、6割が経験がありました。そのうち「利用しない」と答えたのが7割。
なんでそんなに使わないのかという話なんですが、自分自身がメンタルヘルスケアを受けていること自体を誰かに認識されると、「あの人ヤバいんじゃない?」とか、弱い自分を晒すかたちになっちゃうので、「利用できません」と言うんですよね。
原田岳氏(以下、原田):なるほど。僕はまったくないんですが、その感覚はありますか?
関根:僕自身はそういう偏見はまったくないですし、海外ではサービスとして当たり前のように使われているじゃないですか。有名企業のCEOや役員にはプロコーチがついていたりとか、カウンセリングもオンラインで(普及して)市場はどんどん大きくなってますが、日本はまだまだ市場はこれからですね。
原田:そうなんですね。
関根:文化差異もあると思いますね。もしかしたら、日本人には「恥」の文化もあるのかもしれないですが。
原田:確かにそうですね。
関根:あと、経営者は日常的にハードシングスを多く経験するというのもあって、一般人に比べるとうつの罹患率が高いと統計上出ています。
そういう状況を改善するためにも、「うまくいっていないな」「このままで大丈夫かな」とネガティブな気持ちになった時に、対話を通じて意味を変えていくとか、なるべくポジティブに捉えられるようにすることはすごく重要なんだろうなと思っているんですが、まだまだ課題は根深いです。
原田:この構造を変えるのは難しいんですかね?
関根:そうですね。そこらへんはみんなと議論できればいいんですが、「強いリーダーシップに囚われない」という話もありますし、周りもそうだと思うんです。「社長イコール神」みたいになっちゃうじゃないですか。
原田:確かに(笑)。
関根:僕も銀行で見ていましたけど、特に中小企業なんかは「社長!」という感じなんです。実際、すごいですよ。でも、従業員がそういうマインドでいる限りは上意下達じゃないですが、構造上ピラミッドになるわけじゃないですか。
となると、やはり「長」として強く振る舞うことになっちゃうわけです。フラットな組織体系や文化にできるのであれば、もう少し構造も変わってくるかなと思います。
原田:いやぁ、人間そんなに強くないですよ(笑)。
関根:経営者もやっぱり人なので、まずは我々自身もそれを認識しなきゃいけないと思います。
関根:ここまでは「語れない経営者」みたいなことや、倒産社長の再起における課題の話もしましたが、今イキイキ生きている倒産社長はどう再起したのか、なぜ今は明るくやれているのかをお話していきます。
原田:今までの文脈からすると気になりますね。
関根:倒産社長はみなさん一回は落ち込みますし、職を失ったり、従業員との別れや、個人として自己破産されることもあるわけです。そういった苦しいイベントから再起されるきっかけは主に3つだと思っています。
1個目は、今お伝えした「大切な人との対話」です。2つ目は、アクセラレーションプログラムとかもそうですが「学び直し」。3つ目が、例えば再起業でもいいんですが、一般の会社に就職をされてご活躍をされる過程での「自己効力感の回復」や、職場の同僚の方々とのコミュニケーションを通じた「社会性の再獲得」。
結果論としてこうなっている部分もあるんですが、再起のフェーズにおいて、これらのことをいかに意識的にデザインしていくのかが重要だなと思いました。
原田:なるほど。確かに「大切な人との対話」は、先ほどの流れでもありました。
原田:「学び直し」というのは、具体的にはどういったことになるんですかね?
関根:2つあると思っていて。1つは、対話を通じて過去の自分の経営のことを振り返る「内省」ですね。なぜうまくいかなかったのか、うまくいったのはどういう時だったのか、うまくいかなかったことを要素分解した時にどういうことがあったのか、今だったらどうしたいか。
当時の自分の行為と他者との関係性であったり、そこに付随する感情はどんなものだったのかを俯瞰的に振り返ることが、一言で言うと内省なんです。過去を起点として、「今後どうしていきたいか」という未来の視点として自分の失敗経験を武器にするプロセスです。
2つ目は、具体的には私がお話を聞いた中であったのは、MBAに学び直しに行かれた方がいらっしゃって、今後自分が新たにチャレンジをしていく上で必要となる新しい知識を獲得されようとした。自分の実体験に加えて、新しい知識で補完し、次の挑戦の武器をアップデートしていくという行為ですね。
原田:このイベントやセミナーをやるのもそうですし、プログラムをやるのもそうですが、「なぜ失敗したのか」を学べる場所や再確認できる場所ってほんまにないですよね。
関根:そうですね。理想を言うと、当時一緒に共闘した従業員・メンバー同士で振り返りをし、多面的に当時の事象を見つめ直す場があると良いのですが、倒産しちゃうと当時の関係性が崩れてしまっていたり、感情的にも取り組みづらいという側面はあるのかもしれません。
原田:そうですよね。そういう機会が増えていけばいいですけどね。
原田:あとは一回起業したら、いい意味でのハラハラ感とか、「社会がより良くなるような貢献をしていきたい」という思いが再起のプロセスの根底にあるのだろうなぁとは思ったりしました。
関根:そうですね。自分自身のビジョン・パーパスをあらためて描かれているんだと思うんですが、そういった高次の欲求が湧いてくると、結局再起業される方は多いんですよね。
原田:そうですよね。
関根:私がお会いした方のほとんどは、再起業されていたり事業会社の役員をされている方だったりします。そういう方々の話を聞くと、この3点はすごく大事なポイントなのかなと思っています。
原田:失敗した経験はすごく希少性が高いから、価値があるというか。
関根:貴重な体験ですよね。巷では成功本があったりしますが、特に新しい事業ほどやってみないとわからないことはあるじゃないですか。「こうすれば成功する」と言われることをなぞっても、うまくいかないことは山のようにあると思っていて。失敗から得られた自分ならではの知見はかけがえのないものです。
ただし、それを過去の事象として放置しているだけでは自分の武器にはならないと思っています。誰かとの対話であったり、学び直しを通じて、自分の武器に昇華していくプロセスはすごく重要なのかなと思っています。
原田:ありがとうございます。
原田:それでは、次のページに行きたいと思います。「レジリエンスを促す方法」。
関根:ここまでは倒産社長の課題、メンタル毀損の話や、経営者が語りづらいという文化的な側面ある中で、いかにしてレジリエンスを実現していくべきか。そのための方法論をいくつか挙げました。
今お話ししたとおり、メンタルが落ちちゃったら上げていかないといけないので、そこをどうやっていったらいいかなという話です。
原田:落ちた時にどういった対処をすればいいか、というところですね。
関根:そうです。気持ちが落ちている時に、周りから「こうしたほうがいい」「こういうのはどうですか?」と言われても、話を聞く余裕がなかったとおっしゃる社長さんは多いんですよ。
原田:確かにそうですね(笑)。
関根:「うるさい。じゃあお前がやってみろ」とか、相手のアドバイスを拒絶してしまうこともあるようです。
原田:周りが見えなくなっちゃいますもんね。
関根:そういう状況にまでメンタルが落ちてしまう前に対処できるのがベストですが、「落ちたら戻す」というところを意図的にデザインしていかなきゃいけないのかなと思います。
原田:そうですよね。ちなみにレジリエンスというのは、実際に倒産まで至らずとも、事業がちょっとうまくいっていない人も対象にはなっていますよね。
関根:はい。経営していれば、気持ちが上がる日もあれば下がる日もあるわけなので、下がったらそれをいかに戻すかという話です。
原田:じゃあ、Tipsをお聞きしていきましょう。
関根:ずっと言ってるんですが、結局「対話」と「語り」であると思っていて。「語り」と呼ばれるものは、意図的にデザインできるものなんですよね。挫折・失敗の意味自体をイノベーションできると言っているのは、それらを決してマイナスに捉えずに、ポジティブに自分の武器として捉え直しができるということです。
失敗を自分の中で知識化するとか、「(挫折や失敗を)経験として蓄えることで次に行ける」とふだんの事業活動から思えていれば、日々の失敗に対して「ありがとう」と言えるようになるので。だから語りをデザインしましょうという話です。
先ほどお話ししたお二人の(倒産社長の)インタビューも、実は口頭だけでお話しをしたのではなく、いくつのツールを活用して、過去の語りを通じた一連の体験に対する新しい解釈や学び直しの促進を図っていたりします。
例えば、先ほどのW型の精神的波形の話でもお見せした「Experience Map」は、当時の出来事があった時に自分がどういう気持ちだったのか、どんな感情だったのかを可視化します。それを俯瞰的に振り返ることで、自分の過去の行動や感情、場合によっては問題の所在を把握ができる。
おもしろいのが、「この時は人生のどん底だと思っていたのに、今思うと実はこっちのほうがひどかった」「この時は悪いと思っていたのに、振り返れば意外と大したことなかった」とか、書いていただくと新しい気づきが出てくる。
そういうふうに、自分にとっては苦しく感じていた倒産の一連の体験を一歩引いて客観的に眺めることで、事象に対するネガティブな感情をポジティブに転換していく効果があったように思います。
原田:なるほど。
関根:次のツールは「Cultural Model」と言うんですが、当事者が相関図の真ん中にいます。例えば経営者の方であれば、財務部長、営業部長、奥さん、子ども、金融機関、弁護士とか、いろんなステークホルダーが社内外にいるわけですね。
当時どういうコミュニケーションをしていたか、どういうイベントがあったかとか、「その時にどう思っていたんですか?」「この人に対してどういう感情だったんですか?」というのをまずは経営者自身に書き出してもらいます。
逆に、「その時、社長以外のみなさんは、社長に対してどういう気持ちだったと思います?」ということも、あえて書いてもらう。双方向の感情を書いて当事者間の影響を可視化することで、俯瞰的に当時を理解する。
先ほどのExperience Mapは経営者自らが主観的に経験した一人称的なイベントとその時の感情を可視化するんですが、Cultural Modelでは人との関係性の中からより多元的に事象を捉え、自身の内省を促していく手段につなげていく方法論ですね。
関根:これは社長さんが真ん中にいますが、周りを見ていただくと、左上から営業担当役員、財務、社長の配偶者、お子さん、知人友人とかいらっしゃるわけですよね。黄色になっているのが、当時のコミュニケーションとしてどんなものがあったか。
例えば、一番左上には営業担当役員に向けて「売上未達に対する不信」「叱責」とか書いてありますよね。「その当時、なんでそんなことをしたんですか?」と聞くと、「やや不安」な気持ちが緑の丸に書いてあるんですが、「事業に対する不安からそういう行動を取ってしまいました」と。
一方で「営業担当役員は社長に対してどう思っていたと思いますか?」というのは、ピンクの枠です。「経営者に対する不信感」「売上を取ることに専心」「『このまま会社がなくなったらどうなるんだろう』という不安」「ある意味自己保身的な気持ち」などと書かれていますよね。
(図を書いた経営者は)「必要以上に怒っちゃった。みんなの前で相手の自尊心を貶めるようなコミュニケーションを取ったのが良くなかった」と。「もし社長が当時に戻れるんだったらどうしたいですか?」「今後はどうしたいですか?」と聞くと、「個室で相手の気持ちを汲み取りながら話を聞くとかしたい」とかおっしゃるわけです。
そうすることで、「過去の自分は、こういう気持ちの時にこういうコミュニケーションを取ってしまいがちだよね」と気付いて、今後の自身の戒めとしていく。こういうことが学びの例としてあったりします。
原田:これ、めちゃくちゃいいですね。
原田:僕も経験上あるんですが、営業の方とか部下との関係性が悪くなって、向こうが自己保身に走ってしまうと、絶対的にパフォーマンスが下がったり主体性がなくなっていくんですよね。
関根:そうですよね。
原田:PDCAや改善も回らなければ、ますます成績も上がらなくなるという負のサイクルに陥っちゃうんですよね。
関根:そうなんですよね。自分自身ではどうにもならないこともあると思うんです。「従業員の誰々さんから、こういう矢印が向くようにしたらよかったんじゃないですか」「自分からではなく、この人を頼ればよかった」「こっちにいればよかったんじゃないか」と、ホリスティックに全体を見ることで、新しいアイデアや反省が出てきますね。
原田:これで、自分のダメだったところや改善できそうなところもわかりそうですね。
関根:他者に改善してもらうべきポイントもあったはずだと思うんです。そうすると、相手の特徴や個性に応じたコミニュケーションに気付けたりする。
原田:これ、今事業をやられている方でもぜんぜんいいですよね。
関根:はい。実はCultural Modelって、もともとはプロダクト開発やデザインの現場で使われているツールで、ユーザーの置かれている環境を多面的に理解するためのものなんですが、それが個人体験の内省ツールとしても活用ができるというのが今回の発見ですね。
原田:なるほど。
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