2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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原田岳氏(以下、原田):では、ここからは本の中にも入ってきていますが、ようやく本題に行きたいなと思います。「倒産社長の課題」というところで、「倒産社長のウェルビーイング実現には段階的なアプローチが必要」。これはどういうことですか?
関根諒介氏(以下、関根):(倒産社長に)いろいろとお話を聞いてきた中でわかったことが、経営をされている時や、経営が苦しくなって倒産に至ったタイミング、そこから再起されるとかいろんなイベントがあるわけです。
僕自身がやりたいのは、倒産社長がイキイキと生きる、生活できる、活躍するとか、そういったウェルビーイング状態を達成するための支援をしたいと思っているんです。
このあと「ウェルビーイングとは何か」も話すんですが、ウェルビーイングを最初からやろうと思っても、正直なかなか難しい部分もあって、フェーズに合わせた支援がすごく必要だと思っているんです。
(スライドを指しながら)これはエクスペリエンスマップと呼んでいるんですが、横軸が時間軸で、縦軸が感情の大小で、上に行けば行くほどハッピーで、下に行けば行くほどネガティブという意味です。
ここには「倒産」「裁判終了」「就職」という3つのイベントを置いてます。当時経営者時代に倒産の前後でどのような事象があったかを書き出してもらって、それを見ながら話をしてもらったんです。そうすると、いろんな社長がこういうW型の精神的波形を示すことが多かったんです。
関根:経営がうまくいっている時は上のほうにいらっしゃるわけですが、例えば資金繰りがどんどんきつくなってきて督促を受ける話になると、メンタル的に落ちてくるわけですね。
ここでは「倒産の申し立てをするタイミングが一番つらかった」ということなんですが、倒産してしまうとその後の取り立てや金融機関とのコミュニケーションが止まるので、ある意味粛々と裁判を進めていく。そうすると、気持ちが少しずつゆるやかに戻っていくらしいんですよ。
裁判が終了したタイミングで「じゃあ今後は何をしようか?」という話になるんですが、今までは「こういう事業をがんばろう」と思ってやってきたわけだけども、経済的にも社会的にもゼロの状態になった時にいろいろ考え始めて、「今後自分はどう生きていきたいのか」と悩まれたりすることがあるようです。
「自分の価値とは何か」「自分が本当にやりたいことは何か」と、ある意味内省していくと、場合によってはどんどん鬱々としていくことがあるようです。1人でそうやって考えちゃうと、やっぱり気持ちが落ちていってしまう。
ただ、一定期間が経過すると「就職」に至ります。就職すると収入を得たり、仕事を通じて自己効力感を回復したり、気持ちが戻ってくる。(倒産社長のメンタル推移は)こういうW型が多かったというのが研究でわかってきたんです。
関根:臨床心理学的な話で言うと、「レジリエンス」と呼ばれるものと「ウェルビーイング」という期間に分けられると思っています。精神的にネガティブな状態では、マイナスからゼロに戻すためのレジリエンスのアプローチが必要です。
ウェルビーイングというのは、0を10、10を100にしていくとか、より良く生きるという概念なので、「気持ちがフラットになったあとにどうしていくか」という話なんです。なので、レジリエンス期間とはぜんぜん支援のあり方が違うなと思いました。
別に倒産社長だけの話ではなくて、経営者全般に当てはまる話だと思っていて。起業されてから、いろいろなハードシングスがあるわけじゃないですか。
原田:そうですね。
関根:「今、自分がどこにいるのか」という時に、レジリエンスのタイミングにおいては、他者との関わり合いや話すことであったりとか、そういう対話が必要なんじゃないかなということで、いろいろと大学院研究を進めていきました。
原田:質問いいですか? いろんな経営者さんにお話を聞いたと思うんですが、このレジリエンスの領域の時って、相談できるとか対応できる相手の数は少ないんですかね。
関根:なかなか難しいと聞いています。「社長は孤独」とかって聞きますよね。
原田:よく言いますよね。
関根:「それは誰かに相談できなかったんですか?」みたいな話をすると、(相談できない原因の)1つは強いリーダーシップ。
原田:強すぎるリーダーシップ。
関根:そう。経営について自己責任として過度に一人で背負ってしまう感じというか、弱い自分をさらせない、弱音を従業員、役員、そして家族にも話せないというのはよく聞きました。
関根:あとは、利害関係がある人にはなかなか言いづらい。取引先や金融機関に対して、「今、事業がうまくいってないんです」と言うことで、取引や支援が打ち切られちゃうのも怖いですよね。だから、「実は腹を割って相談できる人が周りにいなかった」という話はあったりしました。
原田:なるほど。ちなみに原体験でおっしゃっていた、ご実家を売られた方も(関根さんなどに)相談はされていなかったんですか。
関根:なかったですね。今みたいな話もあると思うんですが、こちら側も銀行としてどう切り込んでいいか分からなかった部分もあったかもしれません。
原田:確かにわからないですね。
関根:経営に関する実績資料を社長から出してもらってお話をうかがったりするんですが、相手方の雰囲気を見ても、相談と言うよりかは淡々と報告という感じでした。相手が腹を割って話せるような配慮というか、心理的安全性が担保されているような雰囲気作りとか……そういうことができなかった自分自身に対する反省もあるんですけれども。
原田:そうか、なるほどな。ちなみに、一回倒産したレジリエンスのタイミングで心理的なメンタル面のサポートをしてくれるところって、今はあったりするんですか?
関根:過去の挫折に関する研究を調べてみると、結局誰がその挫折体験者が精神的に回復するようサポートしてくれるのかというと「ピア」、いわゆる友人・知人、家族など、身近な方々だと言われてます。
でも、「具体的に何をしたら回復したんですか?」という方法論に関してははっきりとは明らかにはなっていなくて、結局人それぞれという感じになっちゃうわけですよ。
関根:また、もちろん心理カウンセリングを提供されている診療場もありますが、なかなか利用は進まないみたいですね。
原田:世代間ギャップもすごくありますね。僕らは若手起業家さんやアンダー30の起業家さんと関わることが比較的多いんですが、そういった方々は仲間内やコミュニティとかで、「話し合える関係性をなんとかして作らなきゃいけない」という感覚はけっこうあるんですよね。
それがあることによって、「みんなで成り上がっていこうぜ」「みんなで社会を変えていこうぜ」という感覚があるので、やっぱりそれは必要だったりするんです。
ただ一方で、関根さんがお話を聞かれた方は、どちらかと言うと昭和までの世代の方々が中心だと思います。その世代がいいか・悪いかはまた別にして、「男らしさ」や「リーダーシップ」って、今とのギャップがすごくあったりするんだろうなとは思いますね。
関根:そうですね。アントレプレナーとして求められることや、「リーダーシップとしてこうあるべき」みたいなものが変わってきているのかもしれないですね。
最近は「シェアド・リーダーシップ」など、マネージャーだけではなくメンバー全員が分散的にリーダーシップを発揮できるような組織開発も注目されていますが、絶対的な権力者としての「I」型のマネジメントじゃなくて、よりフラットで相互扶助的な「We」型のマネジメントは、1つのヒントにはなるのかもしれないですね。
原田:倒産した方や落ちている方に対する精神的なサポートは、まだまだやっぱり課題があるんですね。
関根:そうですね。
関根:今日参加いただいている方も、こういった再チャレンジにいろいろ挑まれていかれるのかなと思うんですが、やっぱり同じようなことがあるんだろうなと思っていまして。やっぱり、いい時もあれば悪い時もあります。
そういうプロセスにおいて、いかにメンタルが落ちないように保てるかとか、メンタルが落ちたらちゃんとレジリエンスとして立て直せるかがすごく重要だと思うんです。ヒントとしては「対話」であったりとか、頼れる存在がいるかは非常に重要なポイントなのかなと思っております。
原田:ここからは実際の事例とか、あとは「どうやって解決していくのか」という話になるんですね。
関根:そうですね。今お伝えはしましたが、すごくシンプルに言うと「対話をしたほうがいいですよ」と思っていて。自分が失敗してしまったこととか、うまくいかなかったことを相手に聞いてもらう。自分自身が相手との対話の中から内省をする。
自分が体験した出来事を捉え直しすることは、特に再起業を進めるにあたってのプロセスで必要になってくると思います。もちろん、あらためて経営されてからもあると思うんですが、これが大事だと思っています。
関根:経営をする上で、さまざまなハードシングスが起こることがあります。あくまでも倒産前後の話ですが、いろんなつらいことや苦しいことがあっても、私がお話を聞いた過去の経営者の方々は「心を許して腹を割って相談できる方がいなかった」という話は少なくはなかった。先ほどお伝えしたとおりで、それが一番の課題だったんですよね。
他者との対話や相談ができないと、ご自身の置かれている状況であったり、経営上の意思決定をメタ的に俯瞰的に認知したり評価することはなかなか難しいと思います。
これは別に経営者だけじゃなくて、我々一般人もそうだと思うんですが、みんなそれぞれにさまざまなバイアスがあるわけなんですよね。そこを他者との対話の中で組み替えていく・捉え直すプロセスが、経営者ではなかなか得られないという声もありました。心から相談できる人をちゃんと身近に置けるのかは課題ですよね。
原田:相談できる人を探すのって、この(倒産前後の)タイミングでは無理じゃないですか。今現在でどう見つけておくか。
関根:それもありますよね。あとは、仮に今事業を起業して新しいことをされるのであれば、「頼れる人がいるか」ということは自問して欲しいなと思います。
もしパッと思いつかないのであれば、今回のアクセラレーションプログラムのメンターさんであったり、talikiさんだとか、そういうところとしっかりコネクションを持って、お話ができる関係性を持っておくといいですよね。
原田:確かにそうですよね。
原田:ふと思ったのが、それこそ銀行さんとかも3年に1回異動があるじゃないですか。
関根:そうですね。
原田:「この人だったら頼れたけど、異動しちゃったしな」というのが、めっちゃあるなと思っていて。
関根:あるんじゃないですか。ラポール(信頼関係)形成できていないですからね。担当が変わってすぐとか、相性が微妙とか、経営者が腹を割って本音が言えるような雰囲気がなかったりしますと難しいですよね。
原田:そうですね。僕らはファンドもやっているんですが、VCとか投資家もIPOやM&Aを前提としちゃうので、事業の成長とかを求めちゃうんですよね。
関根:やっぱり「前回出した計画と比べて達成率はどうなんでしたっけ?」「KPIはうまくいっているんでしたっけ?」と聞かれたりする関係性で、「事業がうまくいってない」「難しい」とか、弱音を言えないのはあるんじゃないですか。
原田:無理なんです。相談できないです。
関根:投資を受けるということは、両者間にそうした権力構造というか、影響力があるんですよ。企業にとっては金融機関も同じような関係性ですよね。事業の進捗が不調なんて言おうもんなら、詰問されるわけじゃないですか。それだと腹を割って自己開示しづらい。
原田:そうですよね。
関根:じゃあどうしたらいいのか? というのは、みんなで考えていきましょう。
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