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『倒産した時の話をしようか』著者登壇! 再チャレンジに向けたレジリエンスのヒント(全4記事)

日本人にとって「倒産」は「死」と同レベルにネガティブな言葉 実際の経験者に会ってわかった、“倒産社長”のリアルな姿

『倒産した時の話をしようか』の著者であり、起業家のレジリエンス・ナラティヴのデザインを研究する関根諒介氏が、「再チャレンジ起業家が立ち上がるためには」というテーマでイベントに登壇。一度倒産を経験した起業家が困難に立ち向かいつつ、ポジティブに新たな挑戦をするためには何が必要か、株式会社taliki CCO原田岳氏との対談を通じて探ります。本記事では、世間ではネガティブなイメージを持たれがちな「倒産」について、実際に倒産経験のある経営者たちのエピソードを紹介します。

会社に所属しながら、美大の大学院を卒業して起業

原田岳氏(以下、原田):さっそくトークセッションにまいりたいと思います。みなさんのチャットや感想もドシドシお待ちしておりますので、よろしくお願いします。じゃあ最初は、今回のゲストの関根さんから自己紹介をお願いしようかなと思っております。お願いします。

関根諒介氏(以下、関根):はじめまして、関根と申します。よろしくお願いします。簡単に自己紹介をさせていただきます。今はfreee株式会社という統合型クラウドERPを開発するスタートアップ企業にいます。もともとは金融畑のキャリアでして、クレジットカード会社、銀行を経て、2016年にfreeeにジョインして今に至ります。

直近2年間は、武蔵野美術大学という美大の大学院に通っておりまして、アメリカのIDEOというデザインファームでもよく知られているデザイン思考や、アート思考等のソーシャルイノベーションやサービスデザインの方法論について学んでいました。

原田:(そういう研究科目が)美大にあるんですね。

関根:そうそう、そういうのがあって。美大と言うと、「油絵をやっているんですか?」「デザインできるんですか?」みたいな話になるんですが、私自身は全くそうしたデザイン・アートのバックグラウンドはなかったんですけどね。

原田:へえ、すごい。

関根:そこの大学院に2年間通っていました。2022年の3月に卒業していまして、5月にソトマメ株式会社という法人を作りました。

原田:freeeさんに所属しながら、この会社もやられているということですね。

関根:そうですね。副業として細々とではありますが。

大学院での研究テーマは「倒産社長のウェルビーイング」

原田:ちなみに、この会社では何をやられているんですか?

関根:この後もお話しするんですが、いわゆる「語り」に関する事業コンセプトでやっていこうと思ってまして。ざっくり言うと、他者と対話をすることを通じての価値創造であったり、事業構想を促すような支援をしていきたいなと。

他者との対話を通じて、自身が体験した事象に対する意味づけが変容していく。そうした一連の体験や効果を示す概念として「ナラティヴ」というものがあるんです。

1人きりで何かを考えるのって、やはり限界があると思っています。対話を通じて、多様な価値観や意見が相互的・有機的に絡み合って、新しい意味を共創するようなナラティヴ・デザインを提供したいなと思っていまして、ちょこちょこと準備を進めている感じです。だから本当にひよっこというか、そんな状況でございます。

原田:楽しみです。ありがとうございます。じゃあ自己紹介はここまでにして、自己紹介の延長線上にはなってくるんですが、ここから関根さんにバトンタッチしていければなと思います。

関根:今回は、『倒産した時の話をしようか』という本の著者としてお呼ばれしているところもあるんですが、そもそもなぜそんな本を出したのか、簡単に経緯をお伝えできたらなと思います。

今お伝えした通り大学院に通ってたんですが、大学院では「倒産社長のウェルビーイング」というテーマで研究をしてきました。

銀行員時代に見た、人が目の前で泣き崩れる光景

関根:なんでそんなことをやっていたのかと言うと、私自身がもともと銀行員でございまして、いわゆる中堅企業、中小企業、個人事業主の方々に対して、財務面の支援をさせていただいていたことがあるんです。実際、私が銀行員時代にお付き合いのあった企業が倒産してしまったことがありました。

当時、銀行から融資をしていまして、担保も取っていたんですね。担保というのは、その時の社長さんのご自宅だったんですよ。

それで、企業が倒産してしまうので、我々どもが貸したお金を回収しないといけないわけなんですが、会社の手元にある現預金や資産では足りないので、「ご自宅を売却してください」という話になるわけです。社長含め、ご家族が長く住まわれていたご自宅の売却をしないといけないんです。

原田:そうですよね。

関根:その不動産の売買の時に、とある控室で目の前に社長さんと奥さまがいらっしゃって。まさに「売買契約書にサインをしてください」というタイミングの時に、目の前で奥さまが突然大声を上げて泣き崩れちゃったんですよ。僕はその目の前にいたわけですけど、なんの一言も声を掛けられなかったんですよね。

原体験にあるのは、自分に対する「絶望感」

関根:そもそも銀行員として企業に対して何の役にも立てなかったし、目の前で絶望して苦しまれている方がいるにも関わらず、「一言も声すら掛けられない自分はなんなんだろう」みたいな感じになるわけですよ。

そんな自分に対する絶望感や不甲斐なさ、申し訳なさみたいな気持ちが当時はすごく強くありました。というのが、僕の原体験です。

原田:なるほど。確かに、それは想像できないほどショッキング。

関根:そうですね。もちろん(倒産した本人たちは)泣き崩れてしまうぐらいショックなわけです。年商数十億円という会社だったので、会社を立ち上げられてからめちゃめちゃ成長されたんですね。

原田:そうなんですね。

関根:全国展開していまして、名前を言うと「あ、知ってる」と言われるような会社だったにも関わらず、1つのきっかけで事業がうまくいかなくなっちゃったんです。ある意味、創業されてからの成功も味わわれていて、そこからの転落もあるわけですよね。それだけ気持ちが落ち込んじゃうと、ショックを受けるのは当然だと思います。

原田:なるほど。そういう原体験があるんですね。

関根:話を戻して、大学院に入ったけれども、あらためて何を研究テーマにしようかと考えた時に、その出来事が僕自身の原体験として非常に大きなインパクトがあったので。

「じゃあ、その時に戻れるんだったら自分は何ができるだろうか?」「これから事業を畳まれる方々が、どうしたらその後の人生を豊かに生きられるだろうか?」というリサーチクエスチョンから研究が始まったんですね。

「倒産」という言葉に対して、どんなイメージを抱く?

関根:それで研究を始めたんですが、世の中が「倒産」に対して抱いている印象について調べてみたんですよ。

原田:せっかくなので(参加者に)印象を聞いてみますか? もしよかったら、「倒産」という言葉にどういった印象を受けるのか、みなさんチャットにご記入いただいてもいいですか。

関根:そうですね。ぜひおうかがいしたいです。

原田:「倒産」という言葉にどのような印象を受けるのか、運営の方々もぜひ。正直、僕は今(倒産というテーマに)関わっているので、ある程度理解が深まっているんですが、その前の印象としては「なにもかも全部なくなってしまうんじゃないかな」という、あまりにも倒産に対して無知な自分がいました。

関根:そうですよね。だから、「何もなくなっちゃうんじゃないか」というのはありますよね。

原田:そうですね。

関根:僕自身もこういう語りをしていると、やっぱりあれ(社長の自宅売却の話)を聞いたら怖いと思うんです。

原田:(視聴者コメントで)「『人生終わった』となりそうですね。」

関根:そう思われることもありますよね。

原田:(視聴者コメントで)「悲劇のスタート」。

関根:事実として、そういう一部分もあると思います。

原田:(視聴者コメントで)「リセットする」。なるほど。

関根:「リセットする」。これは比較的前向きと言えば前向きだと思っていて。いわゆる「破産」と呼ばれるものは、法に守られていると言えば守られているわけですよね。「いったんここで会社を閉じる」という選択もできるし、それは権利として与えられているものなので、ポジティブに捉えられる側面もありますよね。

原田:そうですね。

日本人にとって、倒産は「死」と同レベルのネガティブな言葉

関根:世の中の「倒産」に対するイメージですけど、じゃあ実際どうなのか、ある先行研究で日本の言葉をいろいろ調べて、いわゆる「日本語のネガティブランキング」みたいなものを調査したんですね。

数百の大学生にアンケートをとって、「この言葉に対してどういうふうに印象を受けますか?」というのを調べたところ、(スライドを指しながら)これがそのランキングで上から6つのネガティブワードです。

上から読み上げると、「焼死」「通夜」「殺人」「自殺」「死去」「倒産」なんです。「倒産」は6番目なんですが、ランキングを見てみると、基本的に上にあるものは「死」に関わる言葉しかないんですよ。

だから「倒産」というのが、日本人にとって「死」とほぼイコールに捉えられるぐらいネガティブな言葉だったんです。僕はこれがショックで。

原田:ショックですね。僕も今、けっこうショックでした。

関根:「そんなに?」「いや、倒産って死なの?」って思ったんです。その時に思ったことがあって。倒産したら、人生って終わりなんでしたっけ? 社長さんは本当に人生が終わりなんですか? いや、そんなわけないだろうと思ったんですね。

じゃあ、世の中の倒産社長にお会いして、その後の人生をどのように歩まれているのかを聞きたいと思いました。

倒産を経験した経営者は、想像以上に前向きだった

原田:ちなみに、ここで1個質問してもいいですか?

関根:どうぞ。

原田:さっきの6つの中に、なんで「倒産」というのが入っていると思いますか?

関根:僕の仮説としてあるのは、マスメディアとかの一方的な表象だと思っていて。例えばみなさんも『半沢直樹』をご存じだと思います。あれは銀行員のドラマですけど、(主人公の)半沢直樹のお父さんはネジ工場の社長なんですね。

(半沢直樹の実家の)ネジ工場の業績が悪くなるじゃないですか。銀行員が工場に貸していた融資の取り立てをして、最終的にどうなったかと言うと、父親がネジ工場で首を吊って死んじゃうんですよね。

ああいうものがあまりにも過度に喧伝されてしまうがために、世の中の「倒産」というものの意味や、表象自体がネガティブになるんじゃないかなと思ったんですね。だから1つの側面として、「死」と結び付いちゃうところがあるかもしれないですね。

原田:なるほど。すごく腑に落ちました。

関根:幸いなことに、数十名の倒産社長とお話することができまして。実際にお話をしてみて思ったのが、倒産社長は自分が想像していた以上に明るくて前向きで、エネルギッシュな方々だったんです。

原田:おもしろいですね。

関根:1時間ぐらいオンラインミーティングとかをさせていただくんですが、相手方が演者で僕がオーディエンスみたいな感じで、良くも悪くもさまざまな体験を力強く、悲観的というよりはポジティブに語られるんですよね。本当に自分自身は、そのお話に魅了されてしまったんです。

過去の挫折体験を「財産」と捉える経営者たち

関根:どういう話があったかと言うと、例えば居酒屋経営をされていたHさんは、「倒産は終わりじゃないんですよ。1個の事業は終わるんだけれども、今新しいスタートラインに立っていると言えるわけです」というふうに、倒産を肯定的に捉えていらっしゃるんですよ。

原田:(視聴者コメントで)「ゼロに戻る」とおっしゃっていますね。

関根:そうです。「ゼロに戻る」とかもそうなんですよ。マイナスの側面もありますけれども、必ずしもそうではないということですね。

原田:なるほど。

関根:例えばアパレル経営の社長さんは、「まず、『今日話してみて良かったな』『振り返ってみて良かったな』と思いました。『すごく財産だな』と思えるようになった」とおっしゃるんです。過去の出来事を振り返ると、周りにいた方々に対する感謝の気持ちが想起されてきたようなんです。

「『人生なんとかなるよ』って本気で思った。いろいろあったけれども、自分の人生はおもしろいな。これから何かあってもなんとかなるでしょう」というふうに、過去の挫折体験自体を肯定的に捉え直すだけではなくて、将来の見立てに対してもポジティブに語られる方々が、かえって多くいらっしゃったんですね。

私自身もインタビューを通じて勇気をもらえたというか、がんばろうって思えるようなお話ばかりでした。

ウォルト・ディズニーでさえ倒産を経験している

関根:やはり世の中で語られている倒産のイメージがネガティブなので、そのオルタナティブとして、今を前向きに生きていらっしゃる倒産社長の皆様を世の中に届けることで、倒産の意味自体をポジティブに転換できるんじゃないかと思って本を出しました。

原田:なるほど。

関根:本(『倒産した時の話をしようか』)では、過去の起業体験から成功、それから転落、倒産、現在に至るまでの一連のストーリーをお届けしています。倒産研究というビジネス本としての要素もあるんですが、起業家の再起に向けたヒューマンドラマというか、私小説のような類だとも個人的には捉えています。

原田:なるほど。運営のみなさん、Amazonの(書籍の)リンクをチャットに送っておいてください。

関根:(笑)。そういう経緯があって。僕自身は「倒産」の意味を変えたいし、あえて「倒産社長」という言葉を使っているのは、ネガティブな意味じゃなくて褒め言葉として。倒産社長と聞いたら、「え? すごいですね」「かっこいいですね」「アグレッシブですね」とか、そういうイメージを持たれる言葉にしていきたいんですね。

「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」と言いますが、「シリアルバンクラフト」があってもいいわけです。そういう意味で、あえてここでは「倒産社長」という言葉を使っています。

原田:なるほど。確かに、海外ではけっこうそんなイメージがあるとよくお話を聞きますね。

関根:そうですね。トランプ大統領もそうですし、ウォルト・ディズニーもそうですし、何度か倒産している起業家は多いですよね。

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