レオス・キャピタルワークス株式会社のYouTubeチャンネル『お金のまなびば!』は、ふだんは語りにくいお金や投資、経済の話について、同社代表取締役社長の藤野英人氏や、ひふみシリーズのメンバーと一緒に学んでいくチャンネルです。今回はトランプ新政権による日本の株式市場への影響とビジネスチャンスになるポイントを解説します。
第二次トランプ政権で、アメリカ史に残る政策が行われる可能性
三宅一弘氏(以下、三宅):過去もアメリカの政権で歴史に残るような政策を遂行する時は、大統領も上院も下院も同じ色(政党)の時にならないとできないんですよ。
ナレーター:アメリカでの大規模な政策。近年で言うと2017年、トランプ政権での大規模減税や、2021年、バイデン政権でのコロナウイルスに対する救済措置など、上院・下院の政党が揃った時に行われています。
三宅:今回トランプ大統領、上院・下院も共和党ということで、共和党の統一政府のもとで大規模減税、そして独禁法の緩和なんかも含めた、大規模な多分野における規制緩和。そして関税においてはベースライン関税、一律関税なんかも断行しようということで、アメリカ経済のみならず、世界にも波紋が及んでいくんじゃないかなと思います。
国によって明暗が分かれるトランプ氏の再選、突破の鍵は?
赤池実咲氏(以下、赤池):藤野さんは以前、トランプ大統領再選で「国によって明暗が分かれる」と言ってましたけれども、あらためてどう考えているんでしょうか。
藤野英人氏(以下、藤野):トランプさんは個別交渉、ディール(取引)の人なんですよね。そうするとトランプさんとディールがうまくいくところは非常に好調になるけれども、うまくいかないところは難しくなると思います。
なのでトランプ大統領とうまくディールを結べるかどうかは非常に重要で、昔の安倍(晋三)政権はうまくやったんですよね。まだ就任前の状態のトランプさんの所に会いに行ってゴルフ外交をして、人的な関係によってなんとかうまくいったところがあります。
今回非常にアンラッキーなことに、安倍さんが凶弾に撃たれて亡くなってしまって、トランプさんとうまくコミュニケーションできる人がいなくなりました。実際今、あらゆる外交手段を使って「なんとか就任前に会いたい」ということになったけれども、就任前は誰とも会いませんということで、日本の石破(茂)さんも断られてしまった。
就任以降どれだけ先に、誰が会えるのかというような「トランプ詣で」というのが、これから外交上の非常に大きなポイントになるかなと思います。
対トランプ氏への「交渉力」が肝心
藤野:そういう面で見ると、カナダのトルドー首相や、フランス(エマニュエル・マクロン大統領)だったり、トランプさんと前から関係性を持っていた人たちが一歩リードするのかな、というところですよね。
トランプさんと長くコミュニケーションできて今も生き残ってる人って実はそんなにたくさんいないので、そことそうでないところの明暗は分かれるんじゃないかなと思いますね。
韓国の大統領が、トランプさんが大統領になった瞬間にゴルフの練習を始めた(笑)。これが僕は尊敬すべきことだと思うんですよ。こうあるべきだと思うんです。強くてお金を持ってる人に対してセールスできるってことが、商売人にとって大事なので。そこで「いや、僕はそんな卑屈なことはしない」みたいな態度じゃダメなんですね。
そこはちゃんと抱きついて、それでそこに向かって、ちゃんとディールを成立してビジネスをしないと、結果的に売上なり利益なりを国に持って帰ることはできないので。トランプさんに対する好き嫌いは置いといて、トランプさんになったことで僕らはどう振る舞うのか、投資やビジネスと(好き嫌いを)分けて考える必要があるかなと思うんですよね。
三宅:あと加えて、1期目のトランプさんも怖かったですけれども、やはりその後1期目の反省もして、今回第2期。2.0で人選も閣僚も含めて練って練って、スタートダッシュでここ1~2年で一気に彼自身の政策を推し進めるかたちですから、私は8年前よりももっと怖くなるんじゃないのかなと思うんです。
藤野:すごいですね(笑)。
三宅:本気度もすごく上がってると思いますし、怖さもやはりすごく上がってると考えたほうがいいと思いますね。
藤野:そうですね。だからより心して臨まなければいけないと思います。
米国の企業・投資ファンドを中心に、日本企業の買収が頻発
三宅:アメリカの企業、トランプさんが進めようと思ってるような規制緩和の上に乗っかっている人からすると、百人力、千人力の後押しと言いますか、支援者が現れたかたちじゃないですか。
イーロン・マスクもそうだと思いますし、特に大手テクノロジー会社、金融機関、エネルギーとか製薬会社はもっと規模も大きくできる。現在のバイデンさんの時のビッグ・テック、例えばGoogleも分割しようとか、かなり独禁法を強化して規制強化でというようなかたちからすると、180度違ってくるということです。
今伸び盛りの人工知能も、規制緩和でもっと企業に対して成長の扉を開くようなかたちですから、上に乗っかっている人たちにはすごく良いと思いますね。
藤野:特にもう1つあるのは金融機関ですね。金融機関のM&Aとか、金融機関が自由に行動することに関しては、民主党政権は非常に抑制的だったんですが、トランプは逆なんですよね。金融機関がもっと自由自在に行動して、それでM&Aとかして儲けてもいいっていうことなので。
実際に「ひふみ」でもたくさん持ってますけれども、トランプさんが大統領になってからゴールドマン・サックス※の株が大きく上昇したんですよ。投資銀行にとってみると、これはビジネスチャンスだってことなんです。
※個別銘柄を推奨するものではありません。けっこう日本に影響が出てくると思うのは、これから5年間から10年間ぐらい、日本は海外の投資銀行の人たちにとっては大チャンスであるということです。
日本の企業って割安な会社が多くて、まだ力を十分に発揮していない会社が多いということなので、そこに投資家が入り込んで投資することによって、株価を上げる余地がある。企業体制を変える余地があるということを言っているんですね。
ということは、これからトランプ政権の中で米国企業と米国の投資ファンドを中心とする(日本企業の)買収がけっこう起きるということなんです。これはこれからのすごく大きなテーマになりますよね。
買収を仕掛けられたセブン&アイ・ホールディングスの事例から予測できること
藤野:セブン&アイ・ホールディングス※がトランプ政権の前からカナダの会社に買収を仕掛けられていて、今セブン&アイ自身が自分たちでマネジメント・バイアウトするかもしれないとかいう話をしているんですけど。
※個別銘柄を推奨するものではありません。セブン&アイ・ホールディングスって、日本の中で言うと非常に大手の会社なんですが、アメリカからするととか、世界からすると中堅企業なんですよね。そうするとセブン&アイの中で起きてるようなことを、これからけっこうできるかもしれないとなると、大手も含めた再編が起きる。
それはマーケットにとって大きなテーマになってくるので、これは僕ら投資家からすると、将来買われるかもしれない会社に先回りして投資をするとか。
逆に僕らも彼らと一緒に「こうするといいよ」とか「こうやって変革しようよ」っていうところを、「ひふみ」としてもアクションを起こしていくような可能性は出てくるんじゃないかなと思いますよね。
だからそういう面で見れば、トランプさんだと怖いよっていうところもあるかもしれないけれども、起きることによる変化に対して僕らがどう乗っていって、その中で僕らがどういうビジネスを展開していくのかは、すごく大事なことだと思いますね。
ドイツの上場会社は日本の10分の1
三宅:これはPBRの引き上げにもなる非常に大きなテーマだと思うんですけれども、例えば日本の上場企業はだいたい4,000社あるんですよ。それで今、GDPで見ると日本とドイツって実は同じぐらいなんですよ。
ドイツの上場会社は実は400社ぐらいで、(日本の)10分の1なんですよ。だから欧米全般には業界の社数が少なくて、相対的にマージンが高い。そして全体として収益力も高くなるところが過去10年、20年、再編を通じて進んできたんですけれども、日本はそれが遅れていたんです。
それが藤野さんの言われているみたいに、海外やアメリカの企業の力も借りながら、日本で本当に再編が本格化するということは、日本の株にとっては起爆剤になる可能性があると思います。
赤池:実は日本の株式市場にとってもマイナスなだけではなくて、けっこうプラスな面が大きいと。
三宅:そうですね。特にミクロの面で、2025年はかなりプラスの面もあるんじゃないかなと思います。
藤野:そう。「これから僕はのし上がりたいんだ」「お金持ちになりたいんだ」とか「もっともっと出世したいんだ」っていう人にとっては、チャンスだと思うんですよね。
政権交代の大きな要因となったインフレと移民問題
藤野:なぜ今回アメリカで政権交代があったのかというと、端的に言うとインフレと移民の問題が大きかったということだと思います。私は先々週まで2週間ぐらい海外をぐるぐる周っていて、ヨーロッパ等々に行ってきたんですけれども。
やはり久しぶりにヨーロッパをいろいろ周ってすごく思ったのは、めちゃくちゃ移民が増えてるんですよね。それもアフリカから来たような移民の人がすごく多いですよね。
中東・アフリカから来た人が多くていろんな人がいるので、移民イコール悪ではないんだけれども、ちょっと怖そうな感じの人も増えてきたというところがあります。なので移民問題は、ヨーロッパもアメリカも大きなテーマになってきている。
「移民がいるから自分たちの生活が脅かされたんだ」とか「すごく治安が悪くなった」っていうところで、移民排斥を謳っている政党が今ヨーロッパ中で伸びてるんですよね。ある面で見るとトランプも、そのムーブメントを活かして今回首相になったというところなので。
今「アンチ○○」というのが大きなテーマになってきてますね。アンチ移民、アンチ良い子ちゃんって言うんですかね。要はダイバーシティ、「男性も女性もシニアもみんな平等でいくんだ」みたいな、学級委員長みたいな人たちの発言権が強かったんですよ。
ところが「うるせえ、もう好きなようにさせろ」という雰囲気がすごく出てきて、もうそういうお説教臭いのはたくさんなんだと。反ESGとか反気候変動とか、反脱CO2が今ちょっとトレンドになってきてるんですよ。
それは昔からするとイケてない親父思考、男女差別、差別主義者、レイシストだったりするんだけど、今は時代の流れからするとそのような反撃ムードなんですね。
トランプ政権で逆風になる可能性の高い業界
藤野:僕はこれがずっと続くとは思わないんだけれども、ただ今までちょっときれいごとすぎるような社会が「息が詰まるぜ」と。だから「もうちょっと自由自在に本音を言わせろ」みたいに世界的になってきたところがあります。ESG、気候変動とか脱CO2に関しては、逆風が吹く可能性が高いですね。
三宅:そうですね。今後の4年間は、本当にそっちのほうにぐんと進むんじゃないですかね。
藤野:ESGとか気候変動とか脱CO2をがんばっている人たちはいっぱいいるし、そういう人が今たくさん聞いてると思うんですよ。そういう人たちは希望を失わないでほしい。必ずまた変化しますから、ESGや気候変動で戦うんだという人は、ぜひ戦いの手を止めないでいただきたいなと思います。
それが良いことなのか悪いことなのかということもすごく大事なんだけれども、それ以上に大事なことは、今起きていることをきちんと冷静に受け止めて、その中で僕らはどういう行動をとるべきなのかということが、これからそれぞれの立場の人に問われていると思いますね。
個人投資家の注目ポイントは「IT関連」
ナレーター:世の中の動きをとらえることが大切になる時代、我々は投資に対してどのように向き合えばよいのでしょうか。
赤池:これだけ政治が不安定だったり見えないことが多い中で、私たちみたいな個人投資家はどんなところに注目して、どういう行動をとっていけばいいんでしょうか。
三宅:先ほどトランプ2.0の中で規制緩和が進んで、世界的にはイノベーションが進んでいくと申し上げました。1期目のトランプさんの時も、イノベーションが中核的に起こる情報技術を中心とした広義ITのところは、やはり株価も非常に強くなった。
今回もAIをはじめ、半導体を含めた情報技術のところはやはりイノベーションが進んでいく。規制緩和が進んでいく流れの中では中核的になっていくんじゃないかなということで、私はセクターで見ると世界の情報技術、IT関連のところがやはり注目の的じゃないかなと思います。
赤池:その中で個人投資家の行動としては、藤野さんは何をすればいいと思いますか。
藤野:トランプさんの一言によって株が上がったり下がったりということになると思います。ボラティリティ、変動が激しくなると思うんですね。
こういう時にすごくやっちゃいがちなのが、わーっと上がった時に一緒についていって買おうとするとか、下がった時に怖くなって売っちゃうみたいなことがあると思うんです。
けれども、実はこういう時こそ「長期・分散・つみたての原則」が重要かなと思います。なにかマーケットタイムを見て「怖いな」と思って売ったり、「いけそうだ」と思って買って、それを繰り返してもなかなか投資的にはうまくいかないので。
やはり予測ができない、予測がしにくいことであればこそ、「長期・分散・つみたて」をしていくことが、結果的にみなさんの長期的なリターンを上げていくんじゃないかなと思います。