月は火星移住への足がかりにはならない
ジェム・プレール氏(以下、プレール):なるほど。今度は火星についてうかがいたいと思います。きっと今日いらした皆さんも気になる話題かと思いますが、まず、どうやって火星まで行けばよいのでしょうか?
そこまで到達するのに必要となる、あるいは改善する必要のある技術を2、3点ほどあげていただけますか。さらに、その足がかり的なミッションとしてどんなものが有効だとお考えですか? 例えば、月は火星までのステップとして、必要になってくるのでしょうか?
イーロン・マスク氏(以下、イーロン):月が必ずしも必要なステップとは思いませんが、火星に行けるようなロケットや宇宙船があるのなら、月に寄るのもありだとは思います。どのみち、途中にあるわけですし。
イギリス海峡を通過するようなものですよ。太平洋を渡れる船があるのであれば、イギリス海峡も通るでしょう?
(会場笑)
プレール:ですが補給地点としてはお考えでないと。
イーロン:考えていませんね、特に必要ないと思いますので。ただ最終的には、月に基地を設けることになるでしょうね。あってもいいかな、と思いますし。
重要となってくる技術ですが、今までにない、物理学の可能性を広げるような根本的に新しい発明があるにこしたことはありません。ですが、今日の物理学で、すでに基礎となる要素は出揃っていると私は思っています。
例えば圧縮メタロックスロケットでの、軌道上の燃料補給。つまり宇宙船を軌道に乗せて、その燃料を補給するためにたくさん補給機を打ち上げるわけですが、他にも火星移住隊もありますね。これは地球と火星が26ヶ月に一度重なるときに組み立てられ、最適中継地点から出発するものです。
今あるもの以上に何か必要になることはない、と私は考えています。基本となる構成要素はすでにある。ですが質量的な効率性は重要になってきます。例えば再利用可能で、もっと質の高い熱シールドなどですね。
火星への有人飛行の前にロボットを送り込みたい
プレール:放射能の影響についてはどうお考えですか。
イーロン:そうですね、放射能の影響を抑えられるものもあったらいいとは思います。ですが放射能の影響については、誇張されすぎていると思っていまして。月や遠い宇宙空間に2週間ほど行ったとしても……例えばバズ・オルドリンはまだ元気ですしね。
プレール:他に行かれた方々もたくさん今日いらしています(笑)。
イーロン:そうでしたか。つまりみなさんまだご健在で、特に問題もなさそうですよね。宇宙ステーションに1年以上行っている方もいらっしゃいますし、彼らも元気そうですよね。飛行の途中で、放射能を抑えるためにできることもあるとは思いますけれども。水をうまく使って、太陽の方向に設置しておく、などですね。
ですが、あくまで必要な要素はもう出揃っていると思っています。効率性の高い推進剤補給所を火星に建設する必要はあると思いますし、いろいろとまだ努力と技術的な作業も必要ですが、もう材料は揃っているわけです。
プレール:火星へは有人ミッションの前に、準備段階としてロボットによるミッションが先になるとお考えですか?
イーロン:そうですね。火星にはすでに火星探査車もありますし、ますます火星にロボットは送られることになるでしょうね。あと推進剤補給所も機能させないといけませんし。これは自動の補給所となる予定です。
それと、火星での発電をどうするか、という問題もあります。もし原子炉を使うとしたら、核燃料を火星まで運ぶことになるうえ、原子炉自体もかなりの重さですから。あるいは軽量の太陽熱発電システムを導入するか。
例えば、大きな膨張式の太陽電池のようなものですね。火星での発電はなかなかおもしろい問題だと思っています。あといかに効率的にメタンや酸素を火星上で生成するか。火星の大気は二酸化炭素で、土壌には水分も埋まっているんです。
火星への片道飛行は受け入れられるか
プレール:これまでの数日間議論してきたことと関連して、質問させてください。火星への片道飛行は、選択肢として考えていくべきなのでしょうか? 火星入植の方法として、ベストなのはどのようなものでしょうか? 片道飛行は社会から受け入れられるでしょうか、行きたいという人は出てくるのでしょうか。
イーロン:片道でも火星に行きたい、という方はたくさんいらっしゃると思いますよ。
プレール:行ってもいいという聴衆の方、挙手していただけますか。ある程度はいるようですね。多くはないですが、ミッションを何回か実行できるくらいの人数はいらっしゃるようです。
(会場笑)
イーロン:十分ですよ。要は片道ミッションのあとは死んでしまうのか、その後もあるのか、という点が大事ですよね。この差は大きいですから(笑)。
プレール:別の選択肢を待つと。
イーロン:これは議論の余地のある問題ですよ。宇宙船は持って帰ってきたいですからね。費用も高額で、製造するのも手間がかかる。ですから、火星に放置しておくわけにはいきません(笑)。 なので、火星へ片道でも行きたいか、行きっぱなしでよいかという問題は……来たければ一緒に来ていいけれど、宇宙船は返してね、といったところでしょうか(笑)。
火星に宇宙船がたくさん溜まっていくのもおかしな話ですし。送り返そうか、いや絶対に送り返すべきだ、といった話にもなると思いますよ。ある程度の規模の入植地を作るならなおさらですね。
火星に文明を築くのが目標
プレール:アポロ計画を踏まえてお聞きします。あと10~15年で人を火星に送るようになったとして、突然計画が終了、半世紀ほど放置されるのではないか、といった不安はありませんか。
イーロン:ええ、ですからやはり単に火星へ行くだけではなく、自律した文明を築くことを目標にするべきだと思うのです。行くだけでも素晴らしいことですし、かっこいいことですよ。今までになく高度の高いところまで到達して、いい写真もとれるでしょうし。
ですが、それだけでは人類の未来を根本的に変えるようなことにはならない。なぜ火星に自律した文明を築くのが重要なのか、根拠をお話したほうがいいかもしれませんね。
なぜ文明を作ることが大切なのか、理解している方もいらっしゃるとは思います。ですがまだまだ少数です。だから反論が出てくる。そもそも地球はたくさん問題を抱えているのだから、まずこちらに集中すべきだ、とかいった類のものですね。この指摘は正しい。最優先されるべきなのは、あくまで地球が抱えている問題です。
ですが、火星に入植地を作り人類を複数の惑星に分散させるためにも、多少のリソースを割り当てるべきだと私は思っています。多少、というのはリソース全体から見た1パーセント以下でも、ということです。
医療ほど大切な話だとは言いませんが、例えば化粧品よりは重要度は高い。化粧品が嫌いだというわけではないですよ。そうではないのですが、ただ、口紅か火星の入植か、と考えてみると、ねえ?
(会場笑)
複数の惑星へ分散して暮らさなければ、人類はもう繁栄できない
イーロン:人によっていろいろお考えがあるとは思います。ですが必要だとは思うのです。人類の未来はいずれ、ひとつの惑星にとどまるのか、複数の惑星へと分散するのか、という2つの議論にぶつかることになると思っていまして。