2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ジェム・プレール氏(以下、プレール):なるほど。今度は火星についてうかがいたいと思います。きっと今日いらした皆さんも気になる話題かと思いますが、まず、どうやって火星まで行けばよいのでしょうか?
そこまで到達するのに必要となる、あるいは改善する必要のある技術を2、3点ほどあげていただけますか。さらに、その足がかり的なミッションとしてどんなものが有効だとお考えですか? 例えば、月は火星までのステップとして、必要になってくるのでしょうか?
イーロン・マスク氏(以下、イーロン):月が必ずしも必要なステップとは思いませんが、火星に行けるようなロケットや宇宙船があるのなら、月に寄るのもありだとは思います。どのみち、途中にあるわけですし。
イギリス海峡を通過するようなものですよ。太平洋を渡れる船があるのであれば、イギリス海峡も通るでしょう?
(会場笑)
プレール:ですが補給地点としてはお考えでないと。
イーロン:考えていませんね、特に必要ないと思いますので。ただ最終的には、月に基地を設けることになるでしょうね。あってもいいかな、と思いますし。
重要となってくる技術ですが、今までにない、物理学の可能性を広げるような根本的に新しい発明があるにこしたことはありません。ですが、今日の物理学で、すでに基礎となる要素は出揃っていると私は思っています。
例えば圧縮メタロックスロケットでの、軌道上の燃料補給。つまり宇宙船を軌道に乗せて、その燃料を補給するためにたくさん補給機を打ち上げるわけですが、他にも火星移住隊もありますね。これは地球と火星が26ヶ月に一度重なるときに組み立てられ、最適中継地点から出発するものです。
今あるもの以上に何か必要になることはない、と私は考えています。基本となる構成要素はすでにある。ですが質量的な効率性は重要になってきます。例えば再利用可能で、もっと質の高い熱シールドなどですね。
プレール:放射能の影響についてはどうお考えですか。
イーロン:そうですね、放射能の影響を抑えられるものもあったらいいとは思います。ですが放射能の影響については、誇張されすぎていると思っていまして。月や遠い宇宙空間に2週間ほど行ったとしても……例えばバズ・オルドリンはまだ元気ですしね。
プレール:他に行かれた方々もたくさん今日いらしています(笑)。
イーロン:そうでしたか。つまりみなさんまだご健在で、特に問題もなさそうですよね。宇宙ステーションに1年以上行っている方もいらっしゃいますし、彼らも元気そうですよね。飛行の途中で、放射能を抑えるためにできることもあるとは思いますけれども。水をうまく使って、太陽の方向に設置しておく、などですね。
ですが、あくまで必要な要素はもう出揃っていると思っています。効率性の高い推進剤補給所を火星に建設する必要はあると思いますし、いろいろとまだ努力と技術的な作業も必要ですが、もう材料は揃っているわけです。
プレール:火星へは有人ミッションの前に、準備段階としてロボットによるミッションが先になるとお考えですか?
イーロン:そうですね。火星にはすでに火星探査車もありますし、ますます火星にロボットは送られることになるでしょうね。あと推進剤補給所も機能させないといけませんし。これは自動の補給所となる予定です。
それと、火星での発電をどうするか、という問題もあります。もし原子炉を使うとしたら、核燃料を火星まで運ぶことになるうえ、原子炉自体もかなりの重さですから。あるいは軽量の太陽熱発電システムを導入するか。
例えば、大きな膨張式の太陽電池のようなものですね。火星での発電はなかなかおもしろい問題だと思っています。あといかに効率的にメタンや酸素を火星上で生成するか。火星の大気は二酸化炭素で、土壌には水分も埋まっているんです。
プレール:これまでの数日間議論してきたことと関連して、質問させてください。火星への片道飛行は、選択肢として考えていくべきなのでしょうか? 火星入植の方法として、ベストなのはどのようなものでしょうか? 片道飛行は社会から受け入れられるでしょうか、行きたいという人は出てくるのでしょうか。
イーロン:片道でも火星に行きたい、という方はたくさんいらっしゃると思いますよ。
プレール:行ってもいいという聴衆の方、挙手していただけますか。ある程度はいるようですね。多くはないですが、ミッションを何回か実行できるくらいの人数はいらっしゃるようです。
(会場笑)
イーロン:十分ですよ。要は片道ミッションのあとは死んでしまうのか、その後もあるのか、という点が大事ですよね。この差は大きいですから(笑)。
プレール:別の選択肢を待つと。
イーロン:これは議論の余地のある問題ですよ。宇宙船は持って帰ってきたいですからね。費用も高額で、製造するのも手間がかかる。ですから、火星に放置しておくわけにはいきません(笑)。 なので、火星へ片道でも行きたいか、行きっぱなしでよいかという問題は……来たければ一緒に来ていいけれど、宇宙船は返してね、といったところでしょうか(笑)。
火星に宇宙船がたくさん溜まっていくのもおかしな話ですし。送り返そうか、いや絶対に送り返すべきだ、といった話にもなると思いますよ。ある程度の規模の入植地を作るならなおさらですね。
プレール:アポロ計画を踏まえてお聞きします。あと10~15年で人を火星に送るようになったとして、突然計画が終了、半世紀ほど放置されるのではないか、といった不安はありませんか。
イーロン:ええ、ですからやはり単に火星へ行くだけではなく、自律した文明を築くことを目標にするべきだと思うのです。行くだけでも素晴らしいことですし、かっこいいことですよ。今までになく高度の高いところまで到達して、いい写真もとれるでしょうし。
ですが、それだけでは人類の未来を根本的に変えるようなことにはならない。なぜ火星に自律した文明を築くのが重要なのか、根拠をお話したほうがいいかもしれませんね。
なぜ文明を作ることが大切なのか、理解している方もいらっしゃるとは思います。ですがまだまだ少数です。だから反論が出てくる。そもそも地球はたくさん問題を抱えているのだから、まずこちらに集中すべきだ、とかいった類のものですね。この指摘は正しい。最優先されるべきなのは、あくまで地球が抱えている問題です。
ですが、火星に入植地を作り人類を複数の惑星に分散させるためにも、多少のリソースを割り当てるべきだと私は思っています。多少、というのはリソース全体から見た1パーセント以下でも、ということです。
医療ほど大切な話だとは言いませんが、例えば化粧品よりは重要度は高い。化粧品が嫌いだというわけではないですよ。そうではないのですが、ただ、口紅か火星の入植か、と考えてみると、ねえ?
(会場笑)
イーロン:人によっていろいろお考えがあるとは思います。ですが必要だとは思うのです。人類の未来はいずれ、ひとつの惑星にとどまるのか、複数の惑星へと分散するのか、という2つの議論にぶつかることになると思っていまして。
複数の惑星で生活することを選択すれば、人類はこの先も繁栄が続くはず。こちらのほうが、ひとつの星にとどまるよりも文明をより長く維持できますから。「惑星重複性」とでも言いますか、生活圏のバックアップをとっておくようなものかもしれませんね。
カゴいっぱいの卵があるとすると、まずこのカゴを守るためにできることは全てやるべきです。ですが、なかなか軽減できそうにないリスクもあって、なかには軽減が不可能なものもある、という状況なわけです。ですので、火星入植はやるべきだと思っています。
すると次の問題は、今やるべきか、将来のどこかのタイミングまで待つか、ということですね。私は今やるべきだと思います。達成できるだけの技術は今あるわけですけれども、これは地球の45億年の歴史の中で、初めてのことですからね。相当長い時間がかかったわけです。この技術がずっとあればいいとは思っていますが、そうとも限りませんし。
過去様々な文明で築きあげられた技術を振り返ってみれば、わかることです。たとえば古代エジプト。あれだけ大きなピラミッドを作る技術があったにもかかわらず、時とともにその技術は忘れられ、私たちは象形文字も読めなくなってしまいましたよね。
他にもローマ文明。水道橋のほか道路など、素晴らしいものをたくさん作っていたのに、その技術も忘れられてしまったわけです。屋内トイレを作る技術もあったのに、これも失われた。このように、技術とは明らかに周期を持つもの。
将来的に進歩し続けるような、右肩上がりの波なら良いですけれども、そうなるとも限りません。何か良くないことが起こるかもしれませんし。そんなわけで、皆でリソースを1パーセントだけ使って、生活の保険をかけておくのはけして悪い考えではないはずだと思っています。
プレール:ありがとうございます。火星についてはまたのちほど、お話いただくことになると思います。あと少ししたら聴衆の皆さんから、質問を受け付けようと思っておりますので、その前に数点、ご意見をうかがいたいので質問させてください。
イーロンさんのテスラやソーラーシティとの関わりについてですが、電池生産の工場を作られることを発表されましたよね。このことについてご説明いただけますか。この取り組みは需要に応えるためなのでしょうか、もしくはコストの軽減や、効率性アップか、あるいはこの全てのためなのか。
イーロン:ギガファクトリーについてですね。あれは我々が考えついた中で一番まともな解決法だった、というのが正直なところです。結果的にいい形にはなりましたが。
電気自動車を作るのならばそのための電池も必要になります。昨年のリチウムイオン電池生産量は合計で約30GWhでした。年に50万台の電気自動車を作りたいとすると、これでは全く足りません。
毎年1億の電気自動車が生産されていて、世界では20億のガソリンやディーゼル車が利用されているので、単純計算するとギガファクトリーひとつどころか、200くらいは必要なわけです。新たな電気自動車を製造するだけにね。つまり現在のペースでは、20年かけてようやくガソリン車やディーゼル車を電気自動車と置き換えられる、ということです。
カリフォルニアのフリーモントにある我々の工場をフル稼働させて、年間50万台の電気自動車を生産するならば、電池も年間50万必要になるわけです。他にも携帯電話やノートパソコンなどを生産しないといけませんから、世界の他の工場もすべて電池のために使うわけにはいきません。それで大きな工場を作ることになった、というわけです。
あとパナソニックとも協力体制をとっていて、セル形成を担当して頂いています。いろいろと分担していましてね。電極やカソード、セパレータ、電解質、筐体といろいろありますから。前駆体に関しては鉱山からの原料が他の様々な企業に行って、加工されたあとパナソニックが電極とカソードの材料を分け、セルに入れていきます。
その後テスラに渡ってからは、テスラでモジュールの製造ですね。電子工学的な部分やパッケージング、導体、安全装置ですとか冷却ループ、といった部分を扱うことになります。そのあとモジュールは衝撃対応のパッケージに入れられ、車に設置される、といった流れです。また、テスラは当然、全体を監督するような立場でもあります。ギガファクトリーを作る以外に方法がなかったので、作ることになったというわけです。
プレール:これについてうかがったのは、テスラが好きだから、ということはもちろん、私どもは航空機学科ですし、電気航空機の可能性についてもぜひお聞きしたいからなのです。
イーロン:電気航空機はいいコンセプトですよね。ロケット以外はなんでも電化していきますね、皮肉なことに。
(会場笑)
プレール:エネルギー密度に関して見ると、実現可能な輸送機を作るには数十から数百倍程度の改善が必要なようですが。
イーロン: 10から100倍、と言いますと?
プレール:リチウムイオン電池についてです。
イーロン:いえ、それはないですね。あくまで私の意見ですが、障害のほとんどないセルについては、皆さん電池のブレイクスルーについてお話される際に触れないことが多いのですが、電池にとって重要なパラメータはいくつもあるわけです。
1週間にたいていひとつは何か大きなブレイクスルーが達成できた、などと言われますけれども、全くのデタラメであることがあまりに多い。きちんと機能する、大きな障害のないセルについて言えば、現在のところ300Wh/kgほどですね。
それに対し、良い航空機を作るには400Wh/kgほどあれば十分。航空機のセルの割合が高ければ、ですけれども。ロケットほど高い必要はありませんが、400Wh/kgで70パーセントくらいであれば、十分な距離に対応できますよ。
70パーセント台中盤から後半に持っていければ大陸横断くらい、つまり大陸から大陸へではなく、西海岸から東海岸へ、ですけれども、これならば可能なレベルです。
ですので、燃費のよい航空機が必要になりますが、私の計算では必要な数値はこのくらいのはず。400Wh/kgで、70パーセント台中盤から後半。不可能な値ではないはずですよ。航空機は尾翼やら方向舵やら昇降舵やら、不必要なものが多くて。電気扇をジンバルで支えればよいと思うのですが、ロケットでは普通モータをジンバルで支えるのに、航空機ではこの方法はなぜだか取られない。やるべきですよ。
プレール:お話なさったことについて、何かビジネスの形で関わっていく予定はありますか? このエリアの発展はぜひ見てみたいですからね。何か具体的な計画は?
イーロン:超音速の電気航空機で、垂直離陸や着陸ができるようなものの設計をいろいろ考えてはいます。ぜひやってみたいですけれども、頭が爆発しそうな気がして、疲れてしまうのではないかと。電気自動車やロケットで、今のところいっぱいでして。
プレール:なるほど。それも大事な分野ですからね(笑)。
プレール:もうひとつお聞かせください。MITの学生についてです。これまでに何十人とわが校の学生を採用なさっていますが、皆うまくやっていますか。
イーロン:とてもよくやってくれていますよ。もっとMITの人を採用したいと思っていますし。
プレール:それは安心しました。きっと今日聞きに来た皆さんも安心されたと思いますよ。
(会場拍手)
イーロン:ぜひスペースXやテスラに応募なさってください。何か採用過程に問題があれば、Twitter上で教えて下さい(笑)。あまり効率のいいやり方とは言えませんが、それもひとつの方法ですし。
うちの採用の過程がきちんとしているかはわからなくて、もちろん問題ないとは思いますけれど、確信は持てないのでね。優秀なエンジニアをたくさん採用したいですね。そうすればこういった問題も解決できますし。
プレール:どこかで聞いた話で、もし間違いであればご指摘いただきたいのですが、イーロンさんは雇用にあたって一番よく起こる間違いは、応募してきた人の人格よりも才能を重視してしまうことだ、と述べられたそうですね。つまり人格が優れていることのほうが大切だと。
イーロン:おっしゃるとおりです。かつて私がよく起こした間違いはまさにそこですね。知的能力ばかりを重視してしまって、その人物が周りにどのような影響を与えるか考えなかったわけです。企業への貢献において鍵となるのは、人柄であり、周囲の人たちに与えられる影響です。
スポーツのチームに例えてみるといいですよ。チームで一番いいメンバーは、必ずしもゴールの数で決まるわけではありませんよね。ゴールのアシスト数がトップの人が、チームのキーマンかもしれない。誰かひとりがいつもボールを欲しがって、その人がただゴールに向かって蹴っているだけでは、チームにとっても不利益になりかねません。
人格を重視すること、その人が善い人物なのか、一緒に働きたいと周りの人が思うか。こういったことに焦点をあてるのは極めて大切なことです。
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