ストラクチャーとクリエイションの間をどう繋ぐか

荒木英士(以下、荒木):よろしくお願いします。GREEの荒木です。今はゲーム事業の責任者をしていますが、冒頭に、ご紹介いただいた僕らのトップページ、恥ずかしいですが明石家さんまがいます。これはクリエイティブセッションで明石家さんまがトップにいるカンパニーでいいのか、と思ったのですが(笑)。どういうふうにプロダクトマネジメントの観点でクリエイティブの人たち、あるいはクリエイティブの考え方を生かしているかということについて、話をしたいと思います。

特に僕が課題意識を持っているのは、クリエイティブってついついアートっぽいイメージがあります。経営者からすると「俺、クリエイティブわかんないから」みたいな感じで。ビジネス上の要件はあるけれども、クリエイティブは思いつきとかアイディアとか、そういう印象を持たれている方が多いという印象があります。うまくそこをブリッジするやり方はないか、と自分の体験からお話できればと思っています。

よく右脳左脳みたいな話があります。左脳的な論理的な理知的な部分と、右脳的な感情やセンスの部分があって、これが相反しているという話があります。ちなみに、最近の心理学の博士によると、これは違うらしいです。アートとサイエンスという比喩もあります。アートのなんだかよくわからない部分と、科学的、数式で説明できる部分をどうやって融合するんだという話が常にあると思います。これについてひとつ事例をもとにお話したいと思います。

「何これ?」「キモい」から生まれたクリノッペ

事例は少し古いのですが、2007年くらいに立ち上げた、おそらく世界最初のモバイルソーシャルゲームのひとつである「踊り子クリノッペ」というものです。

これはペットゲームです。キャラクターなのですが、キャラクターってクリエイティブの極地、センスみたいな感じがしますが、それがどう生まれたかについて、経営やプロダクトマネジメント観点から、キャラクターのようなクリエイティブなところまでこう繋げるのかというお話ができればと思っています。

まずこれをつくるときに、完全にビジネス要件から始まっています。当時GREEはSNSをやっていたんですが、まだソーシャルゲームとかもなくて。ただSNSです、と言ってもなかなか人が集まってもらいにくい。しかも女性ユーザーをもうちょっと集めたいと思っていました。

SNSの集客に貢献できるコンテンツで、女性に人気のもので、単発ではなく継続的に利用してもらえて、しかも当時アイテム課金というビジネスモデルを始めたところだったので、アイテム課金が成り立つものって何だろう、という完全にビジネス要件のところから始まっています。これをプロダクトのアイディアに落とし込んでいくと、じゃあペットがいいんじゃないかと。

これはいろんな白書とか統計を見ながらペット人口が多いよね、という話になりました。当時フィーチャーフォンの技術的な制約が大きかったですから、シンプルな形状で、だいたい身体が3パーツ4パーツくらいで構成されていて、動かせるようなものにしようとか。

完全に技術的制約ですね。あとは継続的な利用を実現する為に育成要素を入れよう。あるいは育成コレクションみたいなものをやるために踊りを覚えていくようにしようとか、アイテム課金ってまさにアバターなんですが、いろんな衣装に着せ替えできるようにしようとか。ここまでも、かなりビジネス要件から論理的に落とし込めるところかなと思っています。ここから、これを満たすペットは何かを考えたときに出てきたのがこれ。

明らかに飛躍がありますよね。このプロダクト要件までは、論理的に考えれば結構できると思うんですよ。ただ、そこからなぜ、このよくわからない顔のない生き物が出てくるのか。これがたぶん皆さん知りたいところなんじゃないかなと思っていて、僕もさっきPartyさんのプレゼンを聞きながら、Lady Gagaのプロモをやりたいというのはわかるのですが、なぜそこからダッチワイフにいくのか? そこにはかなり飛躍があると思います。

そこをどう繋げるか、そこをどうマネジメントするかって皆さん興味があるところだと思います。その話は後にして、これが出てきた当時、外部のキャラクターデザイナーの方、何人かとお話をしてコンペみたいな形でやったんですけれども、これが出てきて大いにビビりました。

僕は当時、イヌとかネコとかクマとかそういう系が出てくると思っていたんです。なので「なんでこんなんなんですか?」と思いました。あまりに不安だったので、渋谷に行って街頭インタビューしてみたんですね。当時3、4案あったんですが、「これどう思う?」と女子高生とかに聞きました。

そうすると案の定、「何これ?」とか「キモい」とか「この突起物は一体なんだ」とか話をすごいされてですね。当時の投票結果でダントツのビリだったんです。ただ、結果としてこれを採用しました。

あまのじゃくだったから、これにしたというわけではなく、ここには理由があるんです。あっさり「まぁこれじゃない?」と選ばれるものよりも、このキャラクターには当時ものすごく反応にひっかかりがあったんです。これ何? よく見たらちょっとキモいんだけど、とかよく見たらちょっとかわいいんだけどとか、すごくいぶかしげな引っかかりがあったんです。

単に広告のバナーとかでぱっと見てクリックしてもらいたいものは、たぶんそのあっさり選ばれるものでいいんですよ。ただ、継続的に親しんでもらう、世界に入ってもらって一緒に時間を過ごしてもらうものって、やはり引っ掛かりがあるものがいいんじゃないかと。

あとは、とにかく少数でいいからコアなファンをつくることが大事だと。そのコアなファンがいれば、その人たちが周りに広めてじわじわいく。何となくマスにさらっと受け流されるものはさらっと流れていくので、そういうものを選んではいけないな、と思って採用しました。キャラクター自体はこのような形で実際ゲームとして立ち上げました。

これは大成功して累計で数百万人以上が遊んでくれて、テレビアニメとかキャラクター製品にも最近なりました。たぶんゲーム自体も、累計で数百億円売上を上げています。

キャラクターに色んな設定があるのですが、これも単なる思いつきでこういう設定とか絵が出てきたわけではないのです。例えば身長3、4センチという設定なのですが、これは携帯のペットなので、携帯のなかに入っているリアリティが必要だよね、というところから。あとは目鼻がなくて口のみなんですが、これはなんで育成して、なんで踊るんでしたっけ? と言ったときに、感情表現できないから、このキャラクターは踊って自分の感情表現をするんだという設定があったり。

あとは形状や色も、当時フィーチャーフォンは画面も小さいですし、着せ替えをするという要件があったので、着せ替えするとなったときに、ちょっとしか変わらないと着せ替えした喜びがないので、できるだけ体自体はシンプルなキャンバスであってほしい、着せ替えによってカスタマイズされるようにしてほしいということがありました。

あとは育てる、いじるという楽しさやかわいさがあるので、知能レベルや動作も選定されています。これも完全にプロダクト要件でワンクリック、今でいう「いいね!」ですね。ワンクリックするだけでコミュニケーションできるようにしよう、というのがプロダクト要件に入っていたので、じゃあ何でワンクリックするんだ? という話がでて、とりあえず突っつけばいいんじゃないか、というアイディアから突っつきが生まれました。

つまり、ここでのコミュニケーションが正当化されています、単なるキャラクターではあるものの、それがなぜこんなキャラクターなのか、なぜこんな機能なのかというところに対する説得力とか納得感が大事なのではと思い、一個一個要件をつくっていったというところがあります。僕自身は絵を描く人ではないですが、クリエイティブなものづくりには何かしらプロセスがあるんじゃないか、ということをこの体験から学びました。

一番最初は、プロダクトビジョンとかビジネスゴールが必要です。これがないと単なる思いつきになってしまうので、まずここから始めます。僕が意識しているのは、ビジョンを表現するために必要な構造、先ほどのプロダクト要件みたいなところですね。このゴールを達成するには、こういう要件が達成されなければいけない。これは例えばゲームであれば、こういう風にユーザーが遊んで、こういう風にぐるぐる回るから、ここでみんなが継続的に遊んでくれて、お金を払ってくれてという設計ですね。

この設計までは、頭がいい人がやれば皆さんできるんです。ですが、この設計からいかにファンシーなものに落とし込んでいくか、これをクリエイションとかパッケージ化するとか呼んでますけれども、設計をいかに具体化して手触りのある、親しみのある、命を感じられるかというところに関しては、できない人が多い。

あるいは、ストラクチャーが得意な人とクリエーションが得意な人ってわかれているので、そこをうまく繋ぐ方法論とかコミュニケーションがないと成り立たないと思います。プロダクトをつくるときに、上から下まで繋いでいく。特にストラクチャーとクリエイションの間に断絶が起きがちなので、それが起きないように細かいところに気を使うように意識しています。

経営観点からすると、全部できる人を見つけてくるのは難しいと思うのですが、このプロセスをきちんと繋ぐことができる人に、きちんと活躍の機会を与えて、例えば一番最後のクリエイションというところは、Partyさんみたいなクリエイティブを専門にやられている方と一緒にやればいいかもしれないし、そういうコラボレーションの形態がつくれればいいんじゃないかなと思っています。以上です。

"免罪符"をつくっておく

:よければ今ちょうどいいお題を頂いたので、最後のスライドを題材に、Partyさんとか皆さんどういう風にお考えか、意見を伺えればと思います。

中村:私たちが課題を設定して、それを解決する。それはある意味、クリエーションをするために帰納法的に、「突拍子もないことを言っているようだが、これが正しいんだよ!」と言うための、ある意味免罪符というか。左脳の部分だったら共感できるし埋められるんだけど、右脳の部分はこれが正しい、と言ったときに全員が正しいと言ってくれるかはわからない、そのための伏線を用意するということに、ある意味似ていると思います。

そうしないと、すべての人が突拍子もないことを言ったときに、納得してくれるかわからない。同時に、これまでのストラクチャーのようなものをブリーフィングとして与えられるときに、ぶっ飛んだことを言える、考えられるための特訓をすると言うんですかね。日々特訓、日々新しいテーマがあって、ブレインストーミングなんです。たぶん無からは絶対にできないと思うんです。

例えば、世の中に誰もまったく見たことのない表現はいいと思えないはずなんです。お金を出す人も、誰も太鼓判を押せないはずなんです。地球の男子校に天空からエイリアンの女の子が降ってくるのか、金星に冥王星の女の子が降ってくるのかって全然違う話で、後者は想像できない。みんなが知っているもののなかから、「これはアリだ!」というものを何とかひねり出すために、日々好きなもの、右脳で好きなもの、いつかこれやってみたいという、そういう「これやってみたいアンカー」みたいなものをずっと持っていて、なんか来たときに、もしかしたらこれが刺さるんじゃないか、というものをずっと持っておく訓練なのかなと僕は思います。

伊藤:うちの中村、クライアントさんに「うんこ、うんこ」とか言うんですよね (笑)。クライアントさんがうんこなのではなくて、うんこがゴールキーパーになるトイレとか、わけのわからないものをつくるんです。そう言える勇気、勇気というか、アホなふりをできる特訓というんですかね? クリエイションの場合、お子様の知育の問題がありましたが、そういう想像力とか勇気をそいではいけない。だから、ああいうものがあるんじゃないですか。

大人なっても「うんこ、うんこ」って大人の前で言える人になるというのは、常識で言えば潰されてしまうのですが、クリエーションにおいては、肯定したほうがいいですね。だから彼がうんこって言っても、「相手の社長の前でうんことか言うな」とか言いません(笑)。それは大事だと思います。

中村:ミルクを飲んで、さっきのゾウさんのやつ、これで消えちゃうんだ、ということをオッケーとできるかということに対して、それを提案する側と、デザインをする側と、オッケーを言う側のコンセンサスをいかに取るかということだと思います。「これ消しゴムじゃなくていいの?」という話は、そのときはあまりされない、ということですかね?

池谷:僕は消しゴム推進派でして(笑)。そういったこだわりがすごくいいなと思います。なんかいいかも、みたいな雰囲気になると思うんですよ。ミルクで消しゴムって。でもこれがうんこ食わして消えるとかだと、たぶん足切り割ると思うんですよね(笑)。

さっき荒木さんが言った引っかかりって結構重要だと思います。それがないと、情報も氾濫しているし、子供も色んなものを見ているし、引っかかりがないと面白くないですよね。我々としては足切り割らないかどうか。ただその上で最大限尖るというか、引っかけるというのは意識していますね。

A/Bテストの結果をどう考えるか?

伊藤:キャラクターも突起物削っちゃったら全然ダメですもんね(笑)。あの突起物がいいと思います。

荒木:ちなみに当時GREE社内でも、イヌとかネコがいいんじゃね? っていう話がありまして。あれを通すのに5、6時間議論しました。結果的に、無理くり正当化して通しました。そういう話は常に起きていて、その中でどれだけ突っ張れるかというのが、リスキーなんですけど大事だと思っています。

伊藤:社内で突起物推進派と反対派が出ますよね? そこをどうやって突起物を取らない、にしていったんですか?

荒木:それはもう僕の思い込みによって「これがいいんだ!」という形で。

池谷:その後も街頭インタビューってやってるんですか? あれは結局、意味がなかったと思っていて。あえてやるんだけど、一番ダメなやつを今でもGREEでやっているとかありますか?

荒木:今でもグループインタビューとかやっています、時々。僕はあのインタビューはすごく意味があったと思います。引っかかっている、ということがわかったからです。それはやる意味があったと思います。ただ、多数決で決める必要はないので、判断材料にはいいと思いました。

池谷:荒木さんが実際に女子高生に聞いたんですか?

荒木:そうです。

池谷:やっぱそうですよね。なかなか他にやらせても、ああいう引っかかったということは書かなそうじゃないですか? 「よかった」みたいな。

光本:私たちがクリエイティブをつくっていくときに、最近何でも数値として出てしまうと思うんです。もちろん仮説とかゴールを決めて、デザインとかクリエイティブなものをつくっていくんですが。

最近よくやるのがA/Bテストです。毎日色んなA/Bテストを回しています。例えば新規会員登録のA/Bテストをした時に、全然自分たちの意図に反するようなほうが結果がよかったりして、ついつい数字だけ見ちゃうと、そっちを本番にしてしまいそうになるんですが、中長期的観点で考えたときに、これって自分たちのブランドとしていいんだっけ? とか、自分たちが表現したいことなんだっけ? といつも葛藤しているような感じですよね。クリエイティブって答えがないので、いつも難しいなと思いながらものづくりをしています。

中村:総合的に話すと、感性の部分は最終的には当たるか当たらないかの博打のようにも思います。皆さんの話を聞いていると。面白いなと思いました。

:去年のIVS京都で学生向けのカンファレンスをやったときに、nanapiの古川さんという方が話をして、A/Bテストをすごくやったらしいんです。検索とかすごく引っかけやすいようにするんだけど、そればっかりやっていると誰でもできる同じようなサイトになってしまって、引っかかりがなくなってしまう。そこでいびつを、というか引っかかりをあえてつくると仰っていました。A/Bテストで出るものばかりをやってしまうと、ある意味、誰でもつくれるものになってしまう。

荒木:僕はそこが使いどころかな、と思っています。A/Bテストって5%、10%の積み重ねじゃないですか? ですが10倍にならないと思うんです。10倍上げたければクリエイティブにやるしかない。5%、10%を伸ばし続けたいのであればA/Bテストをやり続ければいい。どっちがいい、悪い、というよりは使いどころが違うと思います。

UIにブランド効果はあるか?

伊藤:Stores.jpのお話をお伺いしたいのですが、私Stores.jpが出てきたとき、驚いたんです。「うわ! かっこいいな! 日本で遂に来た!」と思って。蓋を開けてみたら、やっぱりぐーっとお店を獲得したわけじゃないですか?

聞いてみたいのは、UIがとてもデザインが洗練されていると思うのですが、先ほどUI=ブランディングと書いてありましたが、お店を獲得するのにUIがかっこいいということがどれくらい寄与しているのか、というところ。経営者として実感でどれくらい寄与しているとお考えですか?

光本:数字として計れるものじゃないと思っているので感覚的な答えになってしまうかもしれません。私たちは、クリエイティブや自分たちが表現しているものが成長に繋がっていると思っています。いろんな競合さんがいらっしゃるなかで自分たちのサービスを展開しているのですが、私たちを選んで下さった利用者の方に話を聞くと、Stores.jpってなんか格好よかったからとか、おしゃれだったからとか色々あるんですが、すごく抽象的に「なんかおしゃれだったから」って言っていただけることがすごく多いんです。数値的に計れるものではないですが、自分たちがつくるUIや世界観や体験が、結果的にビジネスに寄与しているんじゃないかと信じてやっています。

伊藤:質問の意図としてはストラクチャーのある種の「一番最初にやった先行者優位の法則」と、そのストラクチャーに対してクリエーションを付加すると価値がどれくらい倍増するかっていうところです。ストラクチャーを発明したり、最初にやっちゃえば十分なんじゃないかと思っている方多いんじゃないかと思うんです。我々も付き合っていて思う部分もややあるんですよ。Stores.jpを見ると、明らかにそうじゃない。UIをすごく良くデザインして、そこにブランディングに命を賭けているという今日のお話を伺って、どれくらいそれが機能して顧客獲得につながったかというのはとても興味深い部分です。

荒木:それは産業のフレーズかな、と思っています。一番最初のプレイヤーというのは、機能自体、提供しているバリュー自体が新しいので、見た目がいいか悪いかというのは、相対的な重要度は低いと思うんです。例えば、Amazonが最初に出てきたときに、オンラインで本何でも買えるというのが相当新しかったので、それが多少使いにくくても、おしゃれじゃなくてもイケる、みたいなところがあったと思います。それこそStores.jpさんなんか、Eコマースなんてたくさんあるわけです。既にあるECのなかで、どう差別化するかとか、どう選んでもらうかというところでは、やはりブランドが大事になってくると思います。

中村:Stores.jpはすごく面白いと思います。職業上、どうしてもコミュニケーションを考えてしまいます。オンラインストアという言葉自体がめんどくさそうなものというか、僕はまだやらなくてもいいものと実は考えていました。みんなが毎日やっているFacebookとかTwitterとかで、目の前にあるコップとかりんごとかを、1分後にこれ売れます、とかいうのがあれば、今ある爆発にもう一爆発くらい上げられるんじゃないかなと勝手に思っちゃったりしました。