孫正義が語る、現役時代最後の大ぼら

孫正義氏:この新30年ビジョン作るために1年間かけて、そしてソフトバンクグループ全社員2万人が真剣に議論して、全員が自分の意見を出しました。そして多くのTwitterのユーザーからも、いろんな叡智をいただきました。

それを今回まとめて、私が代表して次の30年ビジョンというかたちで話をさせていただきます。この30年ビジョン。どんな会社にしたいか。どういう想いで事業を行っていきたいのか。

これが30年ビジョンの中に入っております。3つのパートにわかれています。1つ目のパートは我々の理念であります。何のために、どんなことのために、この事業を行っているのか。

この理念が1番目です。2番目がビジョンです。この30年先、どういうような人々のライフスタイルになるのか。そこに対して我々はどう取り組んでいきたいのか。

そのビジョン。3つめのパートが、戦略です。我々がなしたいことをどのようにして行っていくのか、という戦略です。その3つのパートに分かれて今日は話をさせていただきます。

先ほどもちょっと申し上げましたが、今までの僕の人生の中でおそらく今日が一番大切なスピーチになると思いますし、また30年に1回の大ぼらというのは毎回言えるものではありませんので、私の現役時代の最後の大ぼらである。という風にご理解いただきたいと思います。30年に1回の大ぼらだと。

ですからちょっと時間は90分を越えるかもしれませんが、ぜひ我慢して聞いていただきたいと思います。それではさっそく第1のパート、理念でございます。我々の理念、何のためにこの会社を経営するのかということであります。何を成したいのかということでございます。

一言で我々が成したい事をあらわせ、ということであれば、この一行であります。「情報革命で人々を幸せにしたい」。結局先ほどのビデオにもありましたように、全社員からこの30年何をどうしていきたいのかというプレゼンをしてもらいましたけども、本当に私がうれしかったのが、全てのプレゼンの中に、想いとしてですね、人々の幸せに貢献したい、このことが中心に据えられておりました。

もちろん上場会社ですし、一般の企業でございますので利益もあげなきゃいけない、新しい製品も出さなきゃいけない、料金競争もしなきゃいけない、というのは今日現在の現実ではあります。しかしその現実のためだけに人生を過ごしたのでは、なんのための人生だ、ということだと思います。

人間の最大の悲しみは、孤独

私たちはたったひとつ、何を成したいのか。情報革命で人々を幸せにしたい。この1点であります。そこで私はTwitterで多くの皆さんに意見を聞いてみました。幸せってなんだろう? 悲しみってなんだろう? ということであります。

まず皆さんにとって悲しみってなんでしょうか? ということをTwitterで聞いてみました。人生で最も悲しいことは何でしょうか。ということを一言、私がTwitterでつぶやいた。

たったの1日2日で2500を越える意見が寄せられました。すごいですね、Twitterの力というのは。正に人類のさまざまな叡智を集めるというのに非常に適したものだと思いました。

その声は、実質1日で集まった声は、2500も集まったわけですけども、21%の人々が身近な人の死だ、という答えでありました。自分の家族、自分の愛する人、そういう身近な人の死が自分の人生にとって一番悲しいことだ、という答えでした。14%の人が孤独だと言いました。

11%の人が絶望だと答えました。もちろん人それぞれの表現の仕方の違いはありますが、こういうようなものでした。何にも感じなくなること、裏切りだとか、その他にもいっぱいありました。その一番多くの人が答えた身近な人の死ということですけども、これについてちょっと調べてみました。

世界の死亡要因のランキングですけども、2008年度で心臓病が一番多く930万人。2番目がガン。3番目が脳卒中。こういうようなものでありました。

これがずっと以前は、100年前200年前はもっと違う原因で人々は死んでおりました。私たちは情報革命の力で、この一番多くの人が言っている身近な人の死というものを、少しでも長らえることができないか、生命を長らえることができないか。

そういうようなことを思っております。悲惨な死というものがいっぱいありますけども、そういうものが少しでも少なくなればいいなあ、というふうに思います。

2番目は孤独ということであります。一人暮らしの高齢者の方々が、今現在470万人おりますけども、いまから30年後にはこれが約倍増の800万人になるんではないかというふうに予想されております。独居老人ですと、死んでいくときも誰にも知られないままひっそりと死んでしまうというようなことも、これから増えてくるんではないかと。

孤独死というのがですね、今東京都内だけで年間5000人。誰も知らないままに1人で住んでいて1人で死んでしまったという状況でございます。年間全国だと5万人もの人々がこういう状況だということであります。

というように死というものは大変悲しいもので、少しでも死因を減らすことができればなというふうに願っているわけです。

2番目が孤独、あるいは絶望ということでしたけども、先ほどの2番目が孤独ということでした。絶望というものをどうやって量ったらいいのか。量り方は難しいんですけども、例えば絶望して自殺をしたと。

自殺をしたという人は、日本は大変世界の中でも最も多い国の一つだと言われております。この自殺の一番大きな、約50%の理由は健康問題だそうです。25%が経済的な問題だということであります。

こういうようなことが少しでも減らせるといいなというふうに心から願っております。ということで、悲しみというのは先ほど申し上げたとおり、死だとか孤独だとか絶望だとかいろんなものがあります。でも結局、死もですね、孤独も別の言い方をすると、孤独だということも言えるのではないかというふうに思いますね。

やはり身近な人、愛する人が死んでいなくなって自分が孤独感に責められるということ。絶望というのもある意味孤独と表現できるかもしれません。

そういう意味では、人生最大の悲しみ、一言で表すとすればこの言葉(孤独)かもしれません。私たちはこの悲しみを少しでも減らしたい。

喜びを大きくしたい

そしてその逆、喜びを大きくしたい。一人でも多くの人に満面の笑みを浮かべてほしいというのが我々思いであります。喜びを大きくしたい。人生で最も幸せを感じることってなんだろうということを同じようにTwitterで問いかけてみました。

一瞬で多くの答えが集まったわけですけども、分析してみるとこういうことです。日々の生活で生きていること。生きているだけで幸せだ。ちょっとした木漏れ日の中で小鳥のさえずりを聞いた。病気をした後に治って、生きていると、ただそれを実感するだけで幸せだ。自己実現、達成感。愛すること愛されること。

他、人によっていろんな表現ありますけども、結構この喜びというのは人それぞれ、千差万別あるなというふうに感じた次第でありました。

それらをくくって言うとすれば、生きているということの感動、見る感動、学ぶ感動、遊ぶ感動、出会う、愛し合う、家族とあるいは恋人と愛し合う、というようなことを含めて感動だと言えるかもしれません。私たちは一人でも多くの人に大きくの感動を得てほしいなというふうに心から思います。

情報革命で人々を幸せに。冒頭から申し上げましたように、このことが唯一つ、我々が成したい事であります。優れた製品をつくる。料金競争をしてお客さんを1人でもたくさん増やす。そういうことが最大の目標ではありません。

それらを提供することによって人々が幸せを感じてくれる。悲しみを減らす。そのことが我々がただ一つ成したいことであります。

情報革命で人々を幸せにしたい

感動の輪を広げていきたい、幸せの輪を広げていきたい。そこでこれまでの30年間、ソフトバンクを創業してちょうど今年で30周年になるわけですけども、これまでの30年間をちょっと振り返ってみたいと思います。こちらの映像をみてください。

<映像開始>

(ナレーション)デジタル情報革命を通じて人類と社会に貢献する。

高い志、ビジョンを掲げ、一直線に走り続けてきた。

(ナレーション)18歳の孫正義はアメリカにいた。ある日、マイクロプロセッサの写真を見て衝撃を受けた。デジタル社会の可能性に心を奪われた。 (ナレーション)50年間、全知全能を注げる仕事は何か (ナレーション)「30年後には豆腐のように一兆二兆と数える規模の会社にする」

たった2人のアルバイトに、みかん箱の上に立ち力説したが、翌週には彼らは去っていった。

(ナレーション)ひとりになっても孫正義の志は一瞬もひるまなかった。 (ナレーション)「これからパソコンの時代が来る。そのソフトを販売するのが日本ソフトバンクだ」

その一ヵ月後、資本金の全額を使って大阪エレクトロニクスショーに名乗りを上げた。

(ナレーション)一週間、一本の取引の電話が鳴った。 (ナレーション)一年後、年商は30億円を超えていた。破竹の勢いだった。 (ナレーション)そんな矢先、孫正義を突然の大病が襲った。5年もつかどうか。死ぬかもしれないと宣告され、病室でひとり泣いた。創業当時の仲間たちも去っていった。

金も地位も名誉もちっぽけなものに思えてきた。

(ナレーション)人に喜んでもらえる仕事がしたい。苦難の壁を、変わらぬ志で乗り越えた。

はじまったばかりのインターネットに挑戦したい。

ソフトバンクは1994年、アメリカへ進出。それはインターネットの時代を切り開く、航海の始まり。

その大海原へ漕ぎ出すには、地図とコンパスが必要だった。

(ナレーション)コンパスとなるコンピューター展示会「コムデックス」 (ナレーション)地図となるIT出版部門「ジム・デービス」をチームを結する粘りと、時価総額を超えるコンパスを頼りにひとつの原石を手に入れた (ナレーション)「Yahoo!」まだ社員数名の小さな会社だった。

わずか二ヶ月で「Yahoo! JAPAN」のサービスを開始。デジタル情報革命の真の第一歩を踏み出した。

(ナレーション)しかし、ネットバブルが崩壊。ソフトバンクの時価総額は百分の一にまで減った。

それでも、志は揺るがなかった。

(ナレーション)日本をブロードバンド先進国にしたい。インフラを持つ企業がやらないのであれば、我々がやる。

独自のADSLサービスを発表。3日間で100万件もの予約が入った。しかし、既得権益に阻まれ、開通が遅れ、苦情が殺到。4期連続、累積3000億円を超える赤字が続いた。

お客様を待たせてはいけない。損得は関係ない。

高い、高い壁を越え、世界で一番安く、高速なブロードバンドインフラを実現。ソフトバンクが新しい時代を切り開いた瞬間だった。

(ナレーション)インターネットはモバイルが中心となる時代がくる。モバイル無くして、デジタル情報革命は成し得ない。 (ナレーション)当時、日本最大の買収金額2兆円をかけ、ボーダフォン日本法人を買収し、モバイル事業に参入。社運をかけ、時価総額に匹敵する資金をつぎ込んだ。 (ナレーション)他社の草刈り場になる、沈み行く船を買ったと酷評する者もいたが (ナレーション)4つのコミットメントを掲げ (ナレーション)数々の予想外なサービスを開始。 (ナレーション)CM好感度ナンバーワン、iPhoneの販売と、記録的に契約者数を伸ばしていった。 (ナレーション)そして、インターネットの中心はアジアへ。

中国、そしてアジアのライフスタイルの変革に貢献していきたい。

(ナレーション)情報革命を通じて、人々を幸せに貢献する。ソフトバンクのチャレンジは続く。 (ナレーション)30年間変わらない、志。 <映像終了>