昨今、話題になっている「ソフト老害」「マイルド老害」

安藤俊介氏:みなさま、こんにちは。今日は当会のセミナーにご参加いただき誠にありがとうございます。これから新人の方が入って来られて、新人研修が始まります。「今年はどんな新人が入ってくるかな?」と期待したり、逆に不安があったり、どちらもお持ちだと思うんですね。

ここ1~2年、ハラスメントという言葉が非常に聞かれるようになりました。それはすごくいいことではある一方で、「ハラスメントを気にするばかりに、部下に対する指導が難しくなってしまった」と思われている方もいらっしゃるのではないかと思います。

また、最近の特徴として「ソフト老害」や「マイルド老害」といった言葉も生まれてきています。「老害」という言葉自体は前からありますが、私自身もこの2ヶ月くらい、マイルド老害やソフト老害に関して何件か取材を受けています。

実は今朝も、ある雑誌から「どういう人が『ソフト老害』になりやすいのか、何をもって『ソフト老害』になるのか」といった取材を受けていたんですよね。

みなさんはこれから、新人の方を指導する立場、あるいは新人の方と付き合う立場になってくると思います。その中で、新人の方々にどのように伝えていけばいいのか。

今日のテーマにもある「オンボーディング」について、新しく入ってくる人たちにオンボーディングしてもらうためには何を考えればいいのか、どんな視点を持っておけばいいのかという点について、アンガーマネジメント的な知見からお話ができればと思っています。

オンボーディングを左右するのは「人間関係」

今日のテーマは「新しく入ってきた人たちに、どうすれば組織にオンボーディングしてもらえるようになるのか」です。オンボーディングは最近の言葉かと思いますが、採用コスト自体がすごく上がっていますので、「会社に入って組織に馴染んでもらって、すぐに辞められては困る」という本音があるのかなとも思います。

もちろん企業としては、採用してウェルカムな状態で組織に馴染んでほしいと思っています。その一方で、新人の方々となかなか関係が作れない、逆に新人の方々は組織に馴染めない。その課題はどうやってクリアすればいいんだろう? と、悩まれている方も多いと思うんですね。

人間関係には、どうしても「怒り」という感情が関係してきます。我々は特にアンガーマネジメントが専門なので、その点も考えの中心に置きながらお話ししていきたいなと思っています。

オンボーディングする上ですごく大事なのは、人間関係作りですよね。人間関係が上手くいけばオンボーディングはしやすくなりますし、逆に人間関係を作るのが上手くないと、オンボーディングがしにくいわけです。

「自己成長」「自分がやりたいことができる」「仕事の内容」「労働環境」とか、いろんな要因はあるにしても、まずは人間関係です。人間関係が上手に作れるか・作れないかによって、オンボーディングのしやすさ・しにくさが変わるのは明白だと考えています。

人間関係作りが上手な人・下手な人の違い

では、人間関係作りが上手な人とあまり上手じゃない人の違いとは、いったい何なのでしょう? 人間関係作りが上手い人は、実は「同じところ」を見つけるのが上手いんですね。同じところというのは共通事項です。共通事項というのは、趣味や考え方、しゃべり方が同じとか、好きなものが同じといったことですよね。

自分と相手の間にある同じところを見つけるのが上手な人は、人間関係作りが上手いんですね。逆に、自分と相手の間にある違いに目が行きやすい人は、人間関係作りがあまり上手ではないと言えます。

違うところというのは、例えば「見方が違うな」「考え方が違うな」「センスが違うな」「行動が違うな」とか、自分と相手の間にある違いに目が行きます。これだと人間関係を作るのがすごく難しくなってしまうんですね。

みなさんはどちらですか? 誰かと一緒になった時に「この人と考え方が似ているな」と先に思うタイプなのか、それとも「なんか言っていることがちょっと違うな」と、違うところに目が行くタイプなのか。どちらでしょう? これは考え方の癖によるものなんですよね。

アンガーマネジメントもそうですが、考え方の癖自体はトレーニングで修正できるので、「今はどうだから」というわけではありません。ただ、考え方の癖として、自分と相手の同じところに目が行くのか、違うところに目が行くのか。

残念なことに、世間一般の多くの人は相手と違うところへ目が行きたがるんですよね。毎年、「今年の新人は何々世代だ」みたいな話があるじゃないですか。あれは結局、自分たちの世代とは何が違うかを定義しようとしているんですよ。

そして、自分たちと何が違うかを一生懸命見つけようとするがために、「今年の新人は何々世代です」みたいな言い方をするんですね。世間一般と言うと主語が大きくなってしまって申し訳ないのですが、世の中全般からすると「新しく入ってくる人たちは、自分たちとは異質な存在だ。自分たちとは違う」という前提で見ようとしてしまうんです。

つまり私から言わせると、人間関係作りがあまり上手ではない人たちなんですよ。

新入社員を迎える上で大切な心がけ

考えてみてください。みなさんが、最初から「あなたは私たちと違うよ」と言われながらその場に入っていくのって、居心地はいいですかね? なかなか悪いと思うんですよ。「自分たちと同じチームになるんでしょ。でもあなたは違うからね」と言われて入っていくチームは、なかなか居づらいと思います。

なので、みなさんがこれから新人を迎えるにあたって「今の新人ってこうだよね」「若い人たちってこうだよね」という発想は、自分と何が違うかを見つけようとしている行為なんですね。それは、人間関係作りがあまり上手とは言えません。

簡単に言ってしまうと、人が人を好きになる時と人が人を嫌いになる時の話なんですよね。例えば高校生の頃を思い出してください。好きな男の子でも女の子でもいいのですが、好きな人ができたら「その子と何が一緒かな?」って考えるんですよ。

好きな食べ物、映画、ドラマ、漫画、趣味が一緒だなとか、何が一緒かを一生懸命考えてアプローチするんですね。それが相手を好きになるということだし、相手から好かれようとする行為なんですよ。

一方で、誰かを好きになろうとした時、あるいは相手から好きになってほしいと思った時に、いちいち違うところを探しますかね。例えば相手から「○○という映画が好きなんだよね」と言われて、「いや。俺はぜんぜんいいと思わない」と言っていたら、その人とは上手くいきませんよね。

誰かを好きになる、人から好意を持ってもらうというのは「同じところを探す行為」なんですね。そして、誰かと摩擦を作る、衝突するというのは「何が違うかを探す行為」なんです。今日、お話ししたいことの本質はここにあります。

4月になるとよく見る「新人あるある」のニュース

みなさんの視点では、同じところを探しますか? 違うところを探しますか? 新しく会社に入って来られる新人の方々の同じところを見ようとしていますか? それとも違うところが目についてしまいますか? お互いに違うところが目についてしまうようだと、関係作りがすごく難しいですよね。

だから、まずはお互いにオンボーディングする。一緒のチームで働こうとするのであれば、どれだけ同じところを一緒に見られるか、一緒に探せるかなんですよ。それが人間関係を作るコツだと思っています。

ちなみに違いは何から生まれるかというと「べき」という言葉なんですね。「何々するべき」「何々するべきではない」という「べき」です。「仕事はこうするべき」「マナーを守るべき」とか、私たちにはいろんな「べき」がありますよね。

この時期になると「新人あるある」という感じで、「今どきの若い人はメールを一往復しない」といったニュースが流れてきます。内容自体はどうでもよくて、僕はどちらかというとコメントに興味があるんですよね。

多くの人たちはどんなコメントをしているのかな? というと、実は「Yahoo!ニュース 」にコメントをする人たちは、30代以降、40代以降の人たちが中心になってきます。

「メールを一往復なんて、そんなのぜんぜんダメだよ」「お客さまとはもっと付き合わなきゃ」とか、自分の「べき」を中心にコメントしていくわけですよ。「『べき』が違っている。こうするべきであって、あなたの『べき』は違うよね」ということを滔々(とうとう)と書いている人たちがすごく多いんですね。

なので、違いは「べき」から生まれます。「べき」という言葉が、自分の中で相手との違いを見つける時にすごく作用してくるんですね。この「べき」を持っていること自体は悪いことでもないし、いろんな「べき」があります。

「怒り」が生まれるメカニズム

僕はよくいろんなところで言いますが、例えば「コーヒーはブラックで飲むべき」といった、わりとどうでもいい「べき」までたくさんあるんですね。

「べき」を持つこと自体は間違いではないし、持っていてはいけないということではありません。ただ、相手と違うところに目が行きやすい人は、自分の中にある「べき」という言葉がすごく大きな影響を与えているということなんです。

ちなみに、この「べき」という言葉は何なのでしょうか。僕らはアンガーマネジメントの専門なのでアンガーマネジメント的に言うと、「べき」が自分の感情の中でどんなふうに作用するかというと、特に怒りの感情に非常に関係してきます。

怒りという感情をライターに模して説明します。ライターの炎の部分が怒りだとすると、ライターはバチッと火打石を打って、火花が散り、火花が散ったところにガスを送り込むことによって炎が燃え上がるわけですよね。それを怒りの感情に例えます。

炎が怒りだとすると、まずはバチっと火打石を打つのが「べき」が裏切られた時なんです。例えば「メールは一往復半するべき」「三往復するべき」とか、何でもいいです。「今どきの新人はメールを一往復しかしません。そうじゃないだろ」となった時に、バチッと火花が散るわけです。

でも、火花が散っただけでは怒りの炎は大きく燃え上がりませんよね。じゃあ何が必要かというと、ガスなんですよ。ガスというのは、辛い・苦しい・孤独感・悲しい・怖い・焦り・不安といった、いわゆるマイナスの感情です。

それから、疲れた・ストレス・睡眠不足・体が痛い・具合が悪いといったマイナスの状態がいっぱいあるというのは、ガスがいっぱいあるということなんですね。

自分の「べき」が裏切られたら火花が散り、そこにマイナスの感情や状態のガスがいっぱいあると、エネルギーがいっぱいあるので炎として大きく燃え上がります。これが怒りが生まれるメカニズムなんです。