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企業変革・組織変革を推進するための方法論(全4記事)

外資→行政に行ってわかった“危機感の生まれづらさ” 組織を変える上でカギとなる「違いから学ぶこと」の重要性

グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「企業変革・組織変革を推進するための方法論」のセッションの模様をお届けします。本記事では、信頼関係の築き方や社内コミュニケーションのポイントなどを語っています。 前回の記事はこちら

幸福度を上げるコミュニケーションのコツ

井手伸一郎氏(以下、井手):社内にはさまざまな人たちがいる。これもあるあるだと思うんですが、なかなかみなさんが参画してくれない、肯定的になれない。そういった人たちをどう巻き込んでいくか、たぶん悩まれているところがあると思うんです。

一緒にプランニングをしていく、コミットメントしてもらうために、大きな絵姿を渡しながら作ってもらうTips的なものはあります? どうすればみんなを巻き込んでいけるか。

津田恵氏(以下、津田):人間の脳には変化に抗う生存本能があると言われています。その生存本能を刺激しすぎると、アドレナリンが出て視野が狭くなり目の前の問題解決しかしなくなる。

まず1つ、私は生存本能を刺激することは絶対にしない。人は責められると不安になりアドレナリンが出ちゃうので、生存本能が動かないように責めないことが1つ。

あと、絶対にV字型を作らないことを意識しています。人が怒る時は板挟みになっている時なんですね。だから変革を起こそうとして私が誰かに言うと、その人は自分の組織の論理と私の言うことで板挟みになってしまう。

今、隣の部屋で日立の矢野和男さんがハピネスの三角形の話をしているので、また知見録を見ていただけたらと思うんですが、三角形の下の2つの点をつないで三角形になった瞬間に幸せになるんです。

つまり私が誰かにお願いした時に、その人を板挟みにしている相手と私が直接話をすることで、真ん中の人の幸福度が上がるんです。だから任せっきりにしない、必ず自分が行って三角形をあちこちに作っていくことは、コミュニケーション上、意識しています。

井手:「生存本能を刺激しない」というのは、過去を否定しないこととちょっと近いものがありますよね。私も、変化しなきゃいけないタイミングでは、内部のせいにはしない。

外部環境がこれだけ変わったんだから「みなさん、本当に今までよくがんばっていただいてここまで会社が来たけど、環境は変わったんだから、これは変わらないとね」と、よく外のせいにします。

社内だけでなく、外部にも「仲間」を作る

井手:みなさん、ほかにも「どう人を巻き込んでいくか」のTipsはあります? 

各務茂雄氏(以下、各務):1個だけいいですか?

井手:どうぞ。

各務:外の力を使うのはすごく大切だと思っています。例えばもう新聞にも出ておりますが、今、MUFGではいろいろな意図があって、ChatGPT110業務を出しています。

中に仲間がいなくても外にはいる。こういう世の中だから、危機じゃなくてオポチュニティになってくるんです。担当役員の人が「これは自分の仕事で自分の手柄である」というくらいのピタゴラスイッチというか、連動性を設計する。その思考力と実行力はすごく大切だなと思っています。

井手:わざとリークしたり、メディアからアプローチするのもありますよね。

各務:そうですね。メディアだけじゃなくて、例えばMicrosoftさんの「Microsoft Build」というイベントで基調講演することも、すごく綿密に設計しているんですよ。

なぜ110になったかというと、全員が銀行の中での業務やユースケースを出し、110業務が出てくるまでのステップをちゃんと設計し、エンジニアチームがそれを構築しました。これをMicrosoftさんと一緒に作ったんですね。さらにMicrosoft Buildまでのわずか2ヶ月で成果を出す。銀行もそれぐらいできるようになっているんです。

つまりメディアをただ使うのではなく、そこまでのフィジビリティを綿密に設計する。めんどくさいんですよ。でも、仲間が中にある程度いて、かつ外にも仲間ができてくる。こういうテコをきっちり作る設計力がすごく大事だなと思っています。

「この人の言うことだったら聞いてもいいかな」をどう作るか

野本周作氏(以下、野本):話を聞いていて思ったことをちょっとだけシェアします。先ほど言ったように、落ち目、赤字、経営不振のところでの仕事なので、目の前がぼうぼうに燃えていて、火を消さなきゃいけない状況なんです。

会社のみんなもぼうぼうと燃えてるのはわかっているので、ここにいるみなさんに比べて僕は楽だったんだなと思いながら、前半は聞いていました。

一方でちょっとゆるい話で、うちの社内の人がどう思ってるかはわからないんですが、うちはピープルビジネスなので、ふだんの振る舞いや「この人の言うことだったら聞いてもいいかな」をどう作っていくかを考えています。別にそれは作るものじゃなくて、勝手にできるものなんですが。

「挨拶をしましょう」「何かしてもらったらお礼を言いましょう」「自分が悪かったら『ごめんなさい』と言いましょう」とか、究極的にはそういうところだと思っています。そこができてないと「あいつ偉そう」「なんか外から来やがって」になっちゃう。

あと1つ気をつけているのは、なるべくそこの風土や文化に合わせていこうと思っています。昔、僕がいた3社目は毎日ばっちりスーツで、七三に分けて、バシッという会社だったんです。

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):ほんとに、みんな七三なの(笑)?

野本:みんなじゃない(笑)。

(会場笑)

野本:ごめんなさい。みんなじゃないですが、僕は七三でした。何を言おうとしたか忘れちゃったじゃないですか。

唐澤:ごめんなさい(笑)。

野本:その後のフォトウェディングの会社とか、うち(エー・ピーホールディングス)では、髪をもっと長くしてパーマを当てて。「あの人、役員で入ってきたのに、なんだあの格好?」と噂されるような、ちゃらんぽらんな感じだったんですね。

やはり見た目で「あの人はほかの人と違って、ちょっと話を聞いてくれそうだぞ」「ばかなことばっかり言っているけど、意外と考えているんだね」という見せ方……というのは言い方が悪いけど、そこに気を遣っていたのは1つあるかなと思います。

あえて隙を作ることが信頼関係につながる

井手:前半のV字の話はすごくわかりやすかったです。課題が喫緊に迫っていて、「このまま放置すると会社が潰れちゃうかも」という状況は、非常にわかりやすく危機感の醸成ができると。一方で打ち手が限られちゃって、やれることが限定的な中でやっていくしかないのもありますよね。

うちもそうかもしれませんが、来年潰れるかどうかではなくても、このままいったら5年後、10年後はやばい、だけどあまり危機感がない。やろうと思ったら、体力的にはそれなりにいろいろなことができる。

今置かれている状態に合わせて、何がベストなソリューションなのかを毎回考えていく。そんな感じでまとめちゃって大丈夫ですかね(笑)?

野本:(そんな感じで)まとめちゃって、ありがとうございます(笑)。

井手:あと、後半の話にあった「会社の文化になじむ」というのは、僕もものすごく気をつけています。「会議でピリッと、ふだんは愛されキャラで」と、いつもやっているんですが。

野本:愛されているんですか?

井手:愛されているはずなんですが(笑)。

(会場笑)

各務:愛されキャラ?

井手:そうですね、あえて隙を作っています。

野本:大切ですよね。

井手:けっこうそういうのが信頼関係につながったりするんですけどね。

野本:あとはコロナが終わったので、飲みニケーションが……。みなさん、塚田農場で部下の方と飲んでいただければと。

(会場笑)

野本:すみません、宣伝になっちゃいました(笑)。

各務:渋谷の塚田農場、すごく良かったです。

野本:ありがとうございます(笑)。

行政の難所は「危機感が生まれづらい」こと

井手:文化が違うという意味では、政府や自治体もぜんぜん違うと思うんですが、そのへんで気にされていることはあるんですか? どうやってそこに飛び込んでいくかとか。

唐澤:そうですね。僕はもともと日本的な組織の経験がなくて、外資やスタートアップ畑だったので、こういう場で話をさせてもらっても「日本的な組織で苦しんでいる方々の気持ちになれてるのかな?」と思うことが多かったんですよね。だから今、最も日本的だろうという役所に挑戦しています。

先ほどの議論の危機感醸成でいくと、2年やってみて、どうしても危機感が生まれづらい。役所は赤字の概念がないので、しっかりと税金をいただいて予算を組んで、予算消化するという組織になっている。そこがすごく難所ではあると思います。

デジタル庁は900人ぐらいしかいないんですが、公務員は300万人いるんですよ。実は300万人というすごく大きな組織のDX部門という存在だと思うと、ここから300万人全体を動かすことになるんですね。

これは組織全体というか、行政全体にすごく意味があって。「政治から行政を変えていくぞ」という旗としてデジタル庁を作り、外部から3分の1ぐらい民間出身者を入れたんですが、これまでにはなかったことです。

実は数はけっこうな力になります。数名の民間出身者がパラパラいたことは今までもあるんですが、やはり数名だと「まあ、そういう意見もありますね。ありがとうございます」で終わっちゃうんですよ。そうだとやはり変えきれなくて。

「官民」という言葉自体が分断を生む

唐澤:これだけの規模になると、「入った人たちがパフォームするにはどうしたらいいか?」を考えなきゃいけなくなるんですよね。

要は、今まで(一緒に)働いたことがない、Tシャツで働く人たちが出てくるわけですよ。今まで役所にいなかった人たちが、どうパフォームするかを考えないといけない。「エンジニアと話したことのない人たちがとどうエンジニアと協働していくか?」を考える。

僕は、役人と民間出身者の間に入って「こっちに行けば大丈夫ですよ」と、役人の人たちに説明する役割を一番重視しています。

役所に飛び込んでなじまなきゃいけないんだけど、あえて僕は必ずTシャツやパーカーで役所に行っています。それは僕が先頭に立って「みなさんは、こういう人たちと働くのである」ということを見せなきゃいけないなと。

そうすると、何かあれば僕に役人の人も民間の人も言ってくれる。僕は情報も持ちながら、みなさんとコミュニケーションが取れるので、その間のハブになれる。そのロールという意味では、僕の場合は民間出身者だけど、あえて逆側の役割をとっています。

井手:いろいろな人たちが集うので、そこをつなぐということですよね。

唐澤:そうです。「どっちが正しい」という議論を始めると、分断が起こるから絶対によくない。「官と民が一体化」「官民が共同」と言うんですが、「官民」と言うこと自体が、官と民という2つがいることを説明してしまう。本当は使わないほうがいいので、なるべく使わないようにしています。

井手:「既存と新規」とかね。

唐澤:そうそう。既存と新規と言えば言うほど分けちゃうので。官と民で違うかというと、よくよく見ると実はそうでもないんですよ。役所にもいろいろな人がいるし、民間にも小さい会社から来た人、大きい会社から来た人がいるし、それぞれ違ったりするので。

だったら「全員違うよね。お互い学び合おうぜ」を前提に、とにかく違いから学ぶことを浸透させ続けて対話を増やす。ここがポイントかなと思ってやっています。

過去のバイアスを外して、相手との「違い」から学ぶ

各務:バトンゾーンだと思いますね。私は今、唐澤さんのデジタル庁と連携する、東京都と区市町村DXを支援するGovTech東京の理事をしています。結局、バトンゾーンは官民とか壁を作っちゃダメなんだと、すごく思いますね。同じ人間で、仲間なんですね。

井手:会社や国家も含めて本当に多国籍な環境で、どうやってみんなでつないでいっているんですか?

津田:やはり違いから学ぶこと。違いをお祝いできることはすごく大事だなと思っています。例えば、私の上司はイタリア人の女性なんですが、考え方もプロセスもまったく違うのでコンフリクト(対立)が起きます。

でも、必ずとことん本音で話して解決する。その前提として予断を持たずに聞くことはすごく大切にしています。人間は誰でもバイアスを持ってしまう。これは脳の省エネルギーなので仕方ない。本当は過去の実例に頼りたいんですが、それをすべて外してまずは聞くこと。

だからプロセスには余計な時間がかかりますが、結果は絶対にイノベーティブなものになる。全社的にみんながそれを信じています。その上であちこちに多様な方が入っているのが、今の日立の現状ですね。

井手:ありがとうございます。

組織変革のポイントは「企画力」

井手:そろそろ全体の時間は終わりつつあるんですが、最後にこの眠い時間環境の中で構造的な整理をして、みなさんにテイクアウェイ(お持ち帰り)していただきたいと思います。

どう変革をしていくかはコンセプトが大事であり、いわゆる企画力だと私は思っています。そのスタートとして、今、起きていることの見える化、可視化をする。そこに対してどんな課題があるのかを探る。ここはたぶん全員に共通だったんじゃないかなと思っています。

これを元に「こう変えると、このゴールに行けてうれしいことがあるよね」というのを提示するのも共通だったのかなと思います。

そこに至るまでのHowは、業界の特性や過去の組織の歴史や特性に配慮をしながら、ドーンとTo-Beを渡していく場合もあれば、As-Isの中の延長で徐々にTo-Beに近づいていくアプローチもある。みなさんの会社の中でデザインするのが重要なのかなと思います。

実行においては、まさにチーミングであり、仲間作りであり、会話である。あと変革リーダーがみなさんから信頼をもらわなきゃいけないという意味では、そこに溶け込む努力も必要である。

そこに集まる社内外のさまざまなステークホルダーのみなさんをつなぐ役目を、あえて自分が担ってみたり、野本さんみたいにドーンと旗を振って前に行く場合もあったり。変革リーダーが、求められる役割に応じて使い分けて実行・推進していく。そんな整理なんじゃないかなと思いました。ありがとうございます。

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