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企業変革・組織変革を推進するための方法論(全4記事)

戦略設計において、絶対に“地雷”を踏むNGパターン 企業変革を推進するために必要な「多角的」な視点とは

グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「企業変革・組織変革を推進するための方法論」のセッションの模様をお届けします。本記事では、企業変革を推進する際に起きがちな問題について、各社の事例を元に議論しました。

企業変革、どこから始めればいい?

井手伸一郎氏(以下、井手):みなさん、おはようございます。今日は「未来を照らすリーダーの挑戦~変革推進の要諦~」ということで、私も含めグロービスの卒業生の中から、企業変革を推進しているメンバーに集まっていただきました。

私はモデレーターですが、事務局から「私も話せ」と言われていますので、5人でいろいろな視点からコメントしていきたいなと思っています。

みなさんも少なからず、会社の中でいろいろな挑戦をしていらっしゃると思います。企業変革についての悩みは本当にたくさん聞きますが、だいたいは「どこから始めたらいいんですか?」という、よくある話ですよね。

今の会社にいろいろな課題があることは肌で感じていて、変わらなきゃいけないのはわかっているけれど、「本当にどこから始めたらいいんですか?」と。しかも、いち担当、いちミドルマネージャーから始める場合、何から始めていいのかはなかなか難しい。そのあたり、みなさんからそれぞれお話しいただきたいと思っています。

まずは野本さん、(第19回「グロービス アルムナイ・アワード」の)受賞おめでとうございます。

野本周作氏(以下、野本):ありがとうございます。

(会場拍手)

井手:じゃあ、野本さんから。

野本:わかりました。今日は泣かないように(笑)。逆にちょっと人間味を消してお話しようかなと思っています。

今回のテーマや、事前にいただいた井手さんからのお題も考えていたんですが、基本的にはやはり絵姿というか。僕的な言葉で言うと「いかに一番最初に戦略を書き切るか」に尽きると思うんですね。

ただ「戦略を書く」というといきなり大上段になって、「こう変革するんだ」となりがちですが、戦略を書くにあたって僕が一番大切にしているのはファクトの把握です。

戦略設計において“地雷”を踏むNGパターン

野本:危機に直面した会社に入ってくるハイキャリアの人たちがよくやりがちなのは、目の前で起こっている事象に「なんだ、この会社はこれができていないじゃねえか」とか、言い方は別として「商品説明のトークができていない。ぜんぜんダメだな」と言っちゃうわけですよ。

でも、それができていないのには理由があって、その落とし込みがちゃんとなされていなかったり、はたまたその商品説明のスクリプトが作られていなかったり「(説明を)やるな」「もっとほかのことをしろ」などと言われていたりします。

僕は、目の前で見えていることを「2次元のファクト」、その裏側にあるものを見ることを「3次元のファクト」と言っています。ただ、実は変革の時には3次元までではよくなくて、過去に何があったかという「4次元のファクト」の把握までしないといけない。

過去に偉かった人が残した「こういうことをすることが是である」ということが、その人がいなくなっても残っているケースがあるんですよね。しかも、誰も意図せず。それをわかってから戦略を書いていかないと、絶対に地雷を踏むし、うまくいかないんです。

だから一番大切なのは、誰にもバレずにこっそりニコニコ笑いながら4次元のファクトを把握していくこと。そこの厚みが増すと、戦略にも厚みが出ると思っています。

井手:まずはファクトを多角的に把握することですよね。確かに、どこに課題があるかがわからないと、解きようがないですもんね。

野本:そうなんですよね。「ツボ」と言うとなんかダサいですが、「ここだ!」というトリガーポイントがあるはずだと思っていて。

僕はどちらかというと起業の人じゃなくて事業再生の人なので、経験上のものなんですが、「そこを押すと絶対にこの事業は伸びるんだけどな」というトリガーポイントをどう探していくかが肝になりますよね。

井手:においがある、いわゆる仮説が立つやつですかね? 

野本:そうですね。

井手:ありがとうございます。

従業員数32万人、日立製作所の企業変革

井手:次に津田さんにも同じ質問をしていきたいと思うんですが、どうですか?

津田恵氏(以下、津田):ありがとうございます。私は日立製作所に勤めております。32万人の従業員がいる企業ですので、今の野本さんのお話みたいに事業をハンズオンで変革するのは、規模的にはなかなか難しいところです。

私の場合はコーポレート(部門)で、サステナビリティを推進するのがミッションになっています。サステナビリティの推進自体を変革と捉えて、どこから始めるか。私の場合、まずは自分の陣形を整えるところから始めました。

なぜサステナビリティが日立にとって必要なのか、どの強みが活かせるからやるのか。まずはそこに定義をつけた上で、それに乗ってくれる仲間をどんどん集めていきました。

陣形を整えた後はMBA的なんですが、7Sを頭の中でずっと描き、仕組みなどのハードのSから変えていく。わかりやすいところでいくと報酬制度とか。

直接事業の現場に行って話すことができない時にどうメッセージを送るかは、大企業の変革の場合にはすごく大事。(日立では)1つのメッセージとして、現場に報酬制度を変えることを伝えていきました。

井手:ありがとうございます。サステナビリティって、確かに仲間作りですよね。どうやって声をかけていくんですか?

津田:そうですね。例えば会社で、サステナビリティのプレゼンテーションとしてお昼休みにセッションを持つ。そうすると、軽く1万人ぐらい集まるんですね。そうやっていろいろなチャネルを使って、サステナビリティに興味がある人を集めます。

当社は基本的にはジョブに沿ってお仕事をするんですが、「ジョブの外でもやってみたい人はいますか?」と旗を立てると、連絡してきてくださる方が世界中にいらっしゃいます。そういう方々を、1つのイニシアチブとして組織するかたちをとっています。

井手:なるほど、仲間作りから。ありがとうございます。

「守りの組織」にならないために

井手:唐澤さんはいかがですか?

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):おはようございます! 最近、変革に取り組む時の最初は「変革」と言わないことが大事だと思っています。やはり、みんな変わりたくないんですよ。怖いじゃないですか。誰か来て「変えるぞ!」「おおー!」と言われると、「何が始まるんだろう?」と構えるので。

そうすると火が広がっていかなくて、どちらかというとむしろ守りの組織になっていく。そこを変えたいのに、守りの組織になってしまうことが起こる。だからあえて変革とは言わず、最近は「アップデート」という表現を使います。

別にこれまでを否定はせずに、「これまでも良かったよね」「みなさんもがんばっていたし、僕も一緒にがんばってきた。だけど、さらに僕たちは前に進まなきゃいけないから」と話をする時には、アップデートという表現を使っています。

「何から始めるか」は、誰と組むのかが大事です。例えば今、僕はデジタル庁に入りました。役所の文化も慣習も知らないし、役所の人の動かし方も知らないんですよ。

その僕が入ってきて、「こういうふうに変えたらいいと思います」と言っても、「あなた、だあれ?」で終わっちゃいますよね。役所の中で役所の人を動かせる人がいるわけなので、その人たちと仲間になれば、その人たちが動かしてくれる。

だから、自分にできないことをできる人と組むことが常に必要です。自分が組織に長ければ、逆に外から来た新しい知見がある人と組むとか。自分にできないことをできる人と組むことが、火を広げていく上で非常に重要だなと思っています。

井手:ありがとうございます。

社員に伝えるメッセージは「君たちは悪くない」

井手:過去を否定しないのはすごく大事ですよね。私も意識しています。

唐澤:そうですよね。

井手:それをやった瞬間に、「外からの人が何?」と言われてしまう。

唐澤:そうなんですよ。「(あなたは)知らないでしょ?」とか。先ほど野本さんも言われていたけど、過去にそうであったことにはそうである理由があって、それまでの人たちが「これが最適である」と信じてやってきている過去があるんですよね。

自分自身も会社を作っていく中で、後から入ってきた人に「それはおかしくない?」と言われて、「経緯をわかってないでしょ」と感情が動くのを感じたことがあったので。「逆もそうだよね」と思うと、変に否定する必要はまったくないし、肯定しながら「一緒に前に進めよう」と少しずつ変えていくのが大事かなと思います。

野本:よく使う言葉が「君たちは悪くない」。

(一同笑)

野本:すごく落ち目な事業に入っても、そこに残ってくれている人たちは、なんとか「がんばりたい!」と思っているんですよね。もちろん悪いところもあるんですが「君たちは悪くないんだよ」と。

彼らは僕が来るまで、ずっとほかの上の人から「なんだ、お前ら」とボンボン言われているわけですよ。僕は別に意図して使っているわけではないですが、そこを認めてあげた瞬間にグワッとこっちを見てくれることはありますよね。唐澤さんの横から話してしまってすみません。でも、すごく納得感が高かったので。

「To-Be像」はイラスト化できるくらい解像度を上げる

各務茂雄氏(以下、各務):みなさん、おはようございます。各務です。時間がないので、私がお伝えしたいことのすべては言えないですが、2022年11月に出させていただいたグロービスっぽい『日本流DX』という本に全部書いているので、それを見ていただくのが一番早いです。

(会場笑)

各務:ポイントだけ申し上げると、私の前職はKADOKAWAで、実は6,000人のDXをほぼやり終わりました。今は銀行で17万人が対象ですかね。東京都のDXは16万人ということで、けっこう規模が大きい話になります。それが参考になればと思います。

To-Be像(理想像)を描くのは難しいんですね。先ほどの野本さんの話と似ているんですが、To-Be像を書く時はナラティブ(物語)に書けるようにする。まずは全員でA4、3枚にTo-Be像を書きます。ナラティブはすべて文字にして書き、さらにそれをイラストに落とし込めるぐらいまで解像度を上げるんですね。

誰が見ても同じように認識できる状態にするまで、徹底して解像度を上げる。実は今、銀行の中計を作っているんですが、私の担当の部分は全部イラストです。

銀行の中計のいわゆるマネジメントが、イラストで説明される時代になった。ここまで落とし込むというところは、先ほどの野本さんに近いです。実行計画の解像度、4次元ですかね。そういう感じかな。

大企業ほど発生する「バトンゾーン問題」

各務:あともう1つは、大きな会社になると、みなさんもバトンゾーン問題がありますよね? ビジネスとIT、ベテランと若者、中途と既存の人など、いろいろとあると思います。このバトンゾーン問題を解決するのが、全社・全体最適化、DXの目指すところですが、日本はこの問題が非常に下手くそである。

私が昔いたAWS(アマゾン・ウェブサービス)やMicrosoftは、バトンゾーンがうまいんですよ。もうトップダウンでガーンッて落とすので。ここをどうやってやるのかがすごく大事だと思っていますし、私もとりあえずはそこから着手します。

先ほど唐澤さんも「改革と言わない」と言っていましたが、私もそこには気をつけながらも、いきなり刀を振り下ろす感じでバトンゾーン問題には切り込みます。具体的には役割分担ですね。役割分担表をちゃんと書いて、分担している人はちゃんと連携する。ここまでやるのが私の入り口です。

井手:ありがとうございます。みなさんのお話をうかがっていて、2つに分類できるんじゃないかなと思いました。戦略の話やTo-Be像の話、A4を3枚でという話もありましたが、「まずは何を改革するか」というコンセプトやありたい姿を考える、企画立案系のものが1つ。

もう1つは「どう仲間にしていくか」。バトンゾーンの話もありましたが、いろいろな組織が「どう連携をしていくか」という実行局面の中での難所というんですかね。そんな2つに分類できるんじゃないかなと。

戦略や企画のような話と、後半で実行のところも聞いてみたいと思いますが、まずは戦略の立て方からスタートしてみたいなと思います。

日本企業は“実現可能性がない餅”を描きがち

井手:私も経験があるんですが、改革系だと、どうしても目の前の課題というか、As-Is(現状)の視点に引きずられてしまう。先ほどTo-Beの話がありましたが、一方で本当にやらなきゃいけないのは、環境の変化にどれだけ適用するか。それによって会社の仕組みそのものを大きく変えなきゃいけない。

このAs-Isの視点とTo-Beの視点は、どうコントロールしていけばいいんですかね? これは各務さんからスタートしようかな。ちなみに、もう好きに入っていただいてけっこうなので(笑)。インタラクティブにやりましょう。

各務:そうですね。絵に描いた餅でも、良い餅にすることだと私は思っています。先ほどの野本さんのおっしゃったことにけっこう近いかなと思うんですが、日本企業はできないフィジビリティ(実現可能性)がない餅もけっこう描きますよね。これはダメなんですよ。

先ほど4次元や過去の話もあったと思うんですけど、そこをちゃんと踏まえた上で、フィジビリティを確認する。このフィジビリティを確認する担当を、みなさん、よくコンサルのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)に外注していませんか? これではダメです。ちゃんと内製化すると良いTo-Beができると思っています。

井手:良い餅にすると。

各務:大変なんですが、良い餅にするには内製化ですね。コンサルを超える人材のプールです。コンサルの人は事業会社に行ってそこの責任者となって回すことを、ぜひやっていただきたいなと思います。

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