2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズを手がけた映像ディレクターの上出遼平氏。第三部の後半となる本記事では、日本のエンタメコンテンツの“無料文化”の功罪について語りました。
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工藤拓真氏(以下、工藤):今聞いていただいてる中で「高校出ました」「大学出ました」という方で、同じような道を歩みたいと思ってる方もいると思うんですが、今だったら何をすればいいですか?
上出遼平氏(以下、上出):若い子がってことですか? 何でしょうね……もちろんテレビ局に勤めるのもいいですし。でも、枠が小さいですけどね。
工藤:枠が小さい?
上出:採用枠は小さいですが(笑)。最近は大きな企業に勤めることがナンセンス扱いされてるかもしれないけど、やっぱり良いと思いますよ。巨大な客層に向けてものを作り続けるのは、本当に難しいことですし。
その後、仕事を変えて客のサイズを小さくしても、絶対に通じるわけじゃないですか。特にこの商売においては、マスコミュニケーションの作法を知ってるか・知ってないかは大きな違いですよね。
工藤:それは尊いですよね。僕も代理店出身だから完全ポジショントークなだけですが。「超天才」だったらぜんぜん関係ないと思うんですけど、僕みたいな凡人だと逆へは行きにくいというか、個から入ってマスに広げるほうが難しくて。僕も最初はドマスなところからやっていって、今は外へ出てありがたみ(がわかった)というか。
さっきおっしゃってた「マスもわかってて、アウトサイダーもわかる」という分野の広さで言うと、新卒というカードだけでどえらいデカい会社に入れるのは、ラッキーパンチっちゃラッキーパンチですよね。
上出:ものすごくラッキーパンチですし、そもそもある程度名のある大学の新卒という条件を持ってる時点で、とんでもない少数ですからね。
工藤:ありがたい話ですよね。
上出:ほとんどはそうじゃないわけですから、ありがたいもんです。
工藤:メディアの環境もどんどん変わるじゃないですか。上出さんと僕は同世代ですが、なんとなく入社する時ぐらいから「今のまんまじゃないよね」という感じでした。それこそTwitter(現X)は黎明期で、震災があった年です。そこから10年、15年経ってガラっと変わった部分もあって。けど、しぶとく変わってない部分もある。
上出さんは外に出て、物理的にもニューヨークで世界をもっと見ています。とはいえ上出さんが表現する時は、別にテレビだけじゃないかもしれないですが、いろんなメディアと一緒に作っていくことになると思います。上出さんにとってのメディアって、どんな存在なんですか?
上出:メディアね……常に歯がゆいところがありますよね。結局プラットフォーマーが強すぎて、今回の『muda』も「やっぱりYouTubeに上げないといけないんだよな……」みたいなことになるじゃないですか。
工藤:(笑)。そういう葛藤がありましたよね。
上出:ありましたよね。「なんでこの期に及んで、俺はYouTubeに上げなきゃいけないんだ」というか。でも確かに、どう考えたってそれ以外に置く合理性がないよなってなるわけですが。
工藤:そうですね。そう考えると、テレビは発明として偉大ですよね。
上出:テレビというプラットフォームはものすごいことだと思います。
工藤:広告ビジネスで、無料であんなものをみんなが見られるみたいな。
上出:なので歯がゆいですよね。かといって、プラットフォームをイチから作るのは並大抵のことじゃないですし。
上出:そういう意味では文章のほうが幅があるので、出せるプラットフォームがたくさんあるじゃないですか。映像だったらテレビかYouTubeか……Vimeoか? みたいな。
工藤:(笑)。玄人Vimeo。
上出:文章だったらZINEでもnoteでもいいしとか、いろんな出し方があるので。今はそこにちょっと羨望の眼差しがあるというか。
工藤:文章の可能性、テキストの可能性。
上出:そう。やはりコントロールされずにいたいわけじゃないですか。どうしても映像だと、Googleのアルゴリズムに依存せざるを得ないわけですよね。
工藤:そうですね。使う限りはね。
上出:その時に「じゃあ、こういう文言をタイトルに入れないといけない」というふうになってきて、だんだん窮屈さを(感じています)。
工藤:YouTubeだけの話じゃないですが、さっきのマスのお作法とか、作法の賞味期限がすごく早くないですか? 回転もすごく早くて、それこそ思考停止のほうに引っ張られがちというか。
「こういうサムネを使ったらいいんです」「こういう尺です」「この画角です」とか。もう少し緩やかだった時代はもっと試行錯誤があったと思うんですが、鉄板があっという間に決まっている。
上出:確かに。本当ですよね。それをやるか・やらないかで、明暗がしっかり分かれちゃう。シンプルにつまんないですよね。
工藤:(笑)。そうですよね。
上出:「どうやら賞味期限が早いぞ」ということも、なんとなくみんな気づき始めた。その追いかけっこの中で、本当に芯を食った文化が生まれるのかな。YouTubeで2年前に流行っていた動画が、今後クラシックなものとして残っていくんだろうかと考えた時に、そうでもなさそうだなっていう気がしちゃいますよね。
例えば、日本でYouTubeが一般化したあとの映像文化が、果たして20年後にどう評価されるのかっていうのは、ちょっと恐ろしさがある気がしますね。
工藤:そうですよね。
工藤:それこそ今は『ゴジラ −1.0』が公開してますが、山崎(貴)さんはちゃんとVFXの技術を『ゴジラ』という伝統の中に入れているけど、「『ゴジラ』を1回YouTubeでやってみるか」となっても、ぜんぜんシズらないですもんね。今後はあるかもしれないけど。
上出:シズらないでしょうね。あと無料っていうのが、果たして良いのか悪いのか。
工藤:そうですね。無料の功罪みたいなものはありますよね。
上出:ありますよね。テレビも無料なので、日本は無料文化に親しんでますけどね。「CMをどこで入れましょうか?」という話を昨日した時に、「なんでこんなことが必要なんだっけ」と思いましたもんね。
工藤:(笑)。そうね。
上出:「これ、誰のためのものだっけ」みたいな。良い映像を作るんだ、映ってくれた人にも満足してもらって、視聴者にも喜んでもらいたいんだってなった時に「CMを入れるのはやっぱこのへんがいいんじゃないか」「2分が3回あるんだよな」「これ、誰のためにもなってなくない?」みたいな。
お客さんのためでもないし、クライアントもこんなふうに邪魔者扱いされていいんだろうか? って思ったんですね。テレビを1回離れてるからこそ、そういう感情になれたというか。
工藤:なるほど。いろんな手段があるのに、それに固執していないかと。
上出:テレビにいる時には当たり前になってたんですが、邪魔者扱いされているもの、ねじ込もうとしてるものが不幸だなと思ったんですよね。もっとお互いにWin-Winになれる状況はないのかな? と思いましたけどね。
工藤:本当にそうですよね。
工藤:テキストの可能性の話もありましたが、いろんなメディアを行き来する中で「テキストよりも今は映像が」「音声が気軽」という話もあるじゃないですか。
テキストに関しては「ちょっと限定的なのでは?」みたいな話も挙がると思うんですが、映像を作った時とモノを書いた時って、メディアごとに客層が変わってる感覚はあるんですか?
上出:やはりあります。当然、映像は一番広いですよね。受け手の能動性に依存しないので、クリックすれば見られる。やはりお客さま方はみなさんお疲れなので、本を読むなんていうのは、もうなかなかできないわけですよ。
工藤:(笑)。そうですね。なかなかね。
上出:本を読んでくれる人は、1冊に1,600円、1,700円も払っていただいているわけです。Netflixで言ったら1ヶ月間死ぬほど(コンテンツを)見られるわけですから、それやってくれる人は、本当に自分のことを好きでいてくれてる人。ちょっとファンビジネスに近い部分もありますけどね。
僕の感覚的には、映像、特にYouTubeなんかはとにかく広くいろんな人に見てもらえる、知ってもらえるものとして機能している。……でも、どうなんだろう。わからないです。もちろんモノ作りとしてどっちかを優先させようとは思ってないですし、どっちも気合い満点でやってますが、善し悪しがありますよね。
そういう意味では、本や文章のほうが自由というか。こっちを信じてくれてる人が目にするものなので、自由にものが作れる。YouTubeのほうが、もうちょっと客観性の割合が高い感覚はありますね。
工藤:なるほど。
工藤:その中で、音声はどういう存在なんですか?
上出:音声はもっと自由ですね。これは他社の話になるのかもしれないですが……。
工藤:もうぜんぜん。
上出:ちょうど昨日、TBSラジオで『上出遼平 NY御馳走帖』というポッドキャストが始まったんですが「大丈夫かな?」みたいな。僕がふだん飯食う時にRecしてるだけのやつなんですけど、楽ですよねぇ。
工藤:(笑)。
上出:本当に「これ、誰が聞くんだろう」と思ってやってますが、もしもあれがたくさんの人に聞いてもらえるんだとしたら、僕の中の何かが瓦解してしまいそうです(笑)。
工藤:(笑)。
上出:「これでいいんだ」ってなっちゃいそう。手軽さもあって、金もかからないし。音はすごく好きですよ。文章と映像の間ですよね。自由さで言ったら。
工藤:テレビはぜんぜん見ないわけですよね。もともと音声は聞くんですか?
上出:いや、音声もそんなに聞かないですね。だからもう、何が正しいのかぜんぜんわからないですね。ラジオもほとんど聞かずに生きてきていますから、適当にやってますよ。
工藤:じゃあ基本は文学少年というか、文章好き。
上出:基本は。でも、秘密基地を作って篭もってた人なので。
工藤:もう基本が基本じゃないのよ。どういうこと? 秘密基地?
上出:雑木林を見つけたら秘密基地を作って、その地主に怒られるまでどうにか過ごす。
工藤:(笑)。東京の大自然に囲まれて。
上出:一橋大学が近かったので、一橋大学の校庭裏の雑木林を僕はメインフィールドとして活動してましたね。
工藤:(笑)。そっか。登山についても、小さい頃から山を登った体験があるから、手を変え品を変え、いろんなところで魅力を伝えてるところがあるんですね。
上出:そうですね。ナチュラリストとしてやってます。
工藤:ナチュラリストとして(笑)。
上出:肩書きは「ナチュラリスト」ですね。
工藤:(笑)。
工藤:音声の企画とかもなかなかだと思うんですが、それも何かのアンチテーゼだったりするわけですか?
上出:あ、いや、ぜんぜん。ないです。
工藤:(笑)。
上出:普通にTBSの方が「なんでもいいので、やらないか?」と言ってくださったので、「飯の時は本当に休憩なんで、そこでなんか録ります?」と聞いたら、「それだ!」と言われて。「それですか?」みたいな。それで、今に至る。
工藤:(笑)。すごい時代ですね、TBSさまの看板のもと、ご飯を食べてる音が流れてる。
上出:本当ですよね。本当に誰が聞くんでしょうね。心配ですが。
工藤:(笑)。だけど、たぶん「ラジオ大好き」「音声メディアでやってきた」という人では、そんなことはできないですよね。
上出:恥ずかしくてしょうがないんじゃないですか。そんなのはプライドが許さないと思いますよ。
工藤:(笑)。「辺境人間だからこそできるもの」みたいな。
上出:それはありますよね。部外者の強み。
工藤:いろんなチャレンジがあると思うんですが、最後に「これからこういうものもやっていくぞ」みたいなのはあったりするんですか? それとも、毎回偶然に身を任せてる部分も大きいんですか?
上出:かなり身を任せてますね。でも、すでに先々までやることはある程度あります。それこそ洋服にまつわるプロジェクトが動いたり、文章の話もいろいろ進んでたり、大きな映像の企画もちょっとは話があったりとか。あとは、ニューヨークにいるからできることをやらないとな、とは思ってますね。
工藤:そうですよね。ニューヨークもどれぐらいいらっしゃるかもわからない中で、ニューヨーク的なものも(コンテンツを作っていく)。じゃあ、Voicyさんの企画でニューヨークに行くしかないですね。ロケするしかないな。
上出:ギャラはどんなもんですか?
工藤:どんな話を(笑)。
上出:担当者の方がニヤニヤしてるじゃないですか。よっぽど良いんでしょうね。
工藤:よっぽど良いってことなの?(笑)。あのニヤニヤを「良い」って受け取る、その精神よ。
上出:ヤバいですよね。
工藤:さすがですね。本当にいろいろな良いお話をうかがった最後に、ギャラの話が待っているという。
上出:やっぱり世の中金ですから。
工藤:そうか、金だもんな。ということで、お金大好き、映像ディレクターの上出遼平さんにお話をうかがいました。
上出:言い得て妙です。
工藤:(笑)。上出さん、ありがとうございました。
上出:はい、ありがとうございました。
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