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常に二面性から深堀る〜プロフェッショナルな部外者でいること〜(全2記事)

自信がない日本人は“誰かが評価したものモノ”を重視する メディア消費の傾向から見る、作り手に求められる“真の価値”

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズを手がけた映像ディレクターの上出遼平氏。第三部の前半となる本記事では、インスタントな情報が求められる現代において、作り手として意識していることを明かしました。 ■音声コンテンツはこちら

“短く凝縮された情報”が求められがちな昨今

工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会じっくりブランディング学」。この番組は、業界や業種を超えて生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyさんが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは、ブランディングディレクターの工藤拓真です。本日も引き続き、異例の謎テンションでお届けさせていただければと思います。

上出遼平氏(以下、上出):暗っ。大丈夫ですか?

工藤:(笑)。確かに暗いというか、謎めいた独特な感じになっていますが、映像ディレクターの上出遼平さんに来ていただいております。

上出:お願いします。

工藤:お願いします。ここまでいろんなお話をうかがっているんですが、上出さんは音声もたくさん(配信)されてるじゃないですか。

上出:はい。

工藤:今、Voicyさんのメディアでこうやってお話しさせていただいてるんですが。この番組がもともと始まった成り立ちも、特にNewsPicksさんやPIVOTさんなどのビジネスや経済メディア系って、短い時間でギュっとしてパンッと結論を出すことがわりと求められがちです。

YouTubeを耳で聞く方も増えてるじゃないですか。当然、そういう話もあっていいんだけど、正直結論が出ることは少ないよねと。

上出:うん、うん。

工藤:それこそタイトルにある「ブランディング」でいうと、ブランディングの答えがあるとかいったら、まあないよねと。右往左往して、出してみて「どうだったかな……」と思いながら、うまくいくこともあれば(ないこともある)。

本当はそうなのに、着飾るのはもうやめませんか? ということで(この番組は)やっている部分があります。そういう意味でも「成功の秘訣は?」「『ハイパーハードボイルドグルメリポート』はなぜそこまで多面展開できてるんですか?」みたいな……。

上出:お教えしましょう。

工藤:きた(笑)。「答えはない」って言ってるのに。

上出:僕は逆張りなんで。そう言われると、もう無理やりにでも(答えを出します)。

工藤:そうか。じゃあお願いします。

上出:嘘です(笑)。すみません、余計なことを言いました。

工藤:(笑)。いやいや。

今の時代に、2時間以上ある映像をYouTubeに投稿

工藤:「『ハイパー』はこうだった」とか、ご一緒にやらせていただいてる『muda』が「こうやってみんなに見てもらえた」という話じゃなくて。「ここはなかなかうまくいかんよね」ということも含めて、本音のクエスチョンでいくつか聞かせてもらえればと思うんです。

上出:確かに。ここまで我々、2話に渡って嘘ばっかりついてましたもんね。

工藤:そう? 2話に渡って、全部嘘。

上出:ここからは、本当のことを言ったほうがいいってことですよね。

工藤:そう。線引いたほうがいいし、道徳的なほうがいいし。

上出:もちろんですね。数字に全力を注いだほうがいい。

工藤:そうですよね。だから、視聴率を取れないやつは一昨日来やがれと。

上出:存在意義がない。

工藤:(笑)。数字を取れないやつは存在意義がない。数字を取ってなんぼやと。

上出:なんぼです。数字の世界です。ゼロイチですから。

工藤:(笑)。すべてはゼロイチ、この世界は0と1で成り立っている。

上出:もちろんです。マトリックスの世界なので。

工藤:だから曖昧なものとか、はない。

上出:わかりづらい、そういうの。良いのか悪いのか教えてほしい。

工藤:そうね、パキッと教えてほしい。「ダラダラ言ってんな」と。

上出:パキッとしてほしいですね。最短で答えが欲しい。あとお金が欲しい。

工藤:(笑)。インスタントでいきたい。

上出:もちろんですね。当たり前じゃないですか、曖昧なものとか「考えさせられました」とか、何を言うてんねんと。みんな忙しいんだから。

工藤:そうね、もうやってられんよと。10分かかるものも5分で知りたいのに。5分も2倍速したいのに。

上出:当たり前ですよね。

工藤:そんな時代に、僕らはどえらいもんを作りましたね。

上出:2時間半。

工藤:2時間半のYouTube(笑)。ちょっと冒頭の話に戻るかもしれないですが、上出さんと仕事していても、今日話を聞いても思いましたが、やっぱり毎回ちゃんと考えなあかんなってことかもしれないですね。

お作法で言うと「だいぶ良くないよね」というところも踏むんだけど、わかってないので踏むのとわかってて踏むのは、ぜんぜん違うじゃないですか。

上出:はい、はい。

工藤:まだ結論出てないのでアレですが、これからどんどん伸びていってほしいなと思います。

放送当初は上層部から怒られた『ハイパー』の裏話

工藤:(『muda』について)「2時間半、なんでだよ」と思ってたけど、最後まで見てる人がめっちゃ多いんですよね。これ、けっこうなびっくり具合。当然、多少は離脱もいらっしゃいますが、最後まで見切ってくださる方が多くてなかなかだなと思いました。

上出:パッと再生数だけ見た実感ですが、1話だけ踏む人がダントツで多いのはそれはそうですが、2話以降も見てる人は最後まで見てる感じありますよね。

工藤:いや、恐ろしいですね。

上出:ありがたいですよね。まあ、おもろいですからね。

工藤:(笑)。今、映像があったらよかったな。今の決め顔、載せたかったなぁ。

上出:あれね、おもろいですよ。

工藤:おもろいですね。

上出:だって俺、自分でも何回も見てますもん。

工藤:(笑)。そういうことは、なかなかないですか?

上出:なかなかない。だって編集で死ぬほど見てますから。表に出したら見たくもないっていうのが基本的なんですが、これはけっこう見てます。

工藤:奥さまからのリーク情報も僕のもとに入っていて。「本当にずーっとニヤニヤしながら編集してたんですよ」と。

上出:そうなんですよね。「おもろー」つって、ケラケラ笑いながら編集してました。もう最高ですよね。

工藤:(笑)。

上出:(仲野)太賀くんの熊のマネとか、もっとあったので、もっといっぱい使いたかったんです。

工藤:僕も途中で素材を見たりしましたが、本当はもっといろいろ使えるんですよね。

上出:ええ、もっと。ずーっとやっていたので。

工藤:(笑)。そういうのも使っていきたいわけですが。

上出:はい。ごめんなさい、ちょっと逸れすぎましたね。

工藤:いやいや、ぜんぜん。「勝ち馬に乗っかる」というのがあるじゃないですか。世間って怖いもんで、『ハイパー』も今となってはみんなが「すごかったよね」と言うけど、始めた当時はそんなことない部分もたくさんあったと思うんです。

上出:そうですね。最初、オンエア翌日に呼び出されて、偉い人に?責されましたからね。

工藤:(笑)。偉い人に?

上出:「あんなのテレビじゃねえ」って言われましたからね(笑)。

工藤:(笑)。当時はサラリーマンですよね。なんて言うんですか?

上出:「ああ、そうですか」なんつって。

工藤:すげぇサラリーマンっぽい回答じゃないですか(笑)。

上出:「うーん、おかしいなぁ。思ってたのと違うものが放送されました。ちょっと責任者に確認します」とか言って。(責任者は)自分なのに。

工藤:(笑)。ちゃんとサラリーマンしてますね。

上出:いやいや、冗談ですよ。「ごめんなさい。なんか思ったより危なかったです。でも、次は大丈夫です」と言って、毎回オンエア後に「話が違う」って怒られる。

日本は“外の評価”をとにかく大事にする

工藤:Netflixさんとか、ほかにも展開してく時の1個のターニングポイントはあったんですか? 「ちょっと抜けた感じ」があったというか。

上出:うーん……何ですかね。本当に恥ずかしい話ですが、オンエア後にTwitter(現X)でガーっと話題になったんですよ。

今お伝えしたとおり、オンエア翌日の朝に偉い人に呼ばれて「こんなのテレビじゃねえぞ」って怒られたんですが、その時にはすでにSNS上で「なんだこれは」と、いろんな人が言い始めていて。それこそ有吉(弘行)さんが、ぜんぜん関係ないのに呟いてくれたり。

工藤:そうなんだ。それは知らなかった。

上出:いろんなところで火がついて、「話題になっているぞ」となり始めた時に、だんだんと局内の反応が変わるわけです(笑)。

工藤:(笑)。

上出:「なんかあれは良いらしいぞ」「テレビじゃねえって言ったけど、それは良い意味でだからな。新しいものを作ったということだ」みたいな。

工藤:(笑)。褒め言葉だったんやって。

上出:「そうでしたか」なんつって。そのあと賞をいただいたりして、もう怒られないというか。なのでそういう意味では、どうやって外圧を作るかがいかに大事かは感じましたね。

つまり日本では、評価においてはとにかく「外」が一番大事なんですよ。例えば「アメリカから逆輸入された日本の洋服のブランド」って言われたら、みんな「アメリカで評価されているだと!? 欲しい!」ってなるわけですよ。

工藤:確かに。「全米が号泣!」みたいなね。

上出:全米が号泣したら、もうそれは日本人は大好きなわけじゃないですか。日本人は特に、もはや自分たちの物差しに自信がないわけですよ。まあ、ここで「日本人は、日本人は」って言うとちょっとね。

工藤:さすがニューヨーカー。そういう差し込み方してくるわけですね。

上出:「さすがニューヨーカー」。そうそう、ちょっと嫌われるのでアレなんですが。

工藤:(笑)。

上出:引っ越す前から思ってたんですが(笑)。

日本人は“自分なりの評価の物差し”を持てない

上出:(日本人は)物差しを持てないんですよね。捏造でもいいぐらいに思ってますが、「外の誰かが良いと言った」ということをきっかけにいろんなことが動き出すことが多いので、外からの評価をどう作るかはすごく大事だなと思いました。

工藤:そこらへんの感覚はすごく大事なのかもしれないですよね。さっきおっしゃった「コアな部分」と「パッケージの部分」で言うと、嘘でもいいっていうのは本当にパッケージの部分じゃないですか。

逆に、それ(パッケージの部分)を真ん中のほうに持ってきちゃうことが多々あるような気がして。評価されるべく内容をちょっといじったり、アイドルさんに入ってもらったり。(本質的には)そうじゃないってことですよね。

上出:そうですね。行列のできるご飯屋さんを紹介する番組は違うと思うんですよ。

工藤:というと? もうすでに見つかってるってことですか?

上出:なんて言うんだろうな。その行列は番組の外に用意しないといけないので、画面の中に行列を見せて「行列のできるお店を取材しに行きます」というのは、ある意味では“ドラッグ”というか。

有名人の定義は「有名であること」みたいな。「行列のできるナントカ」とかも、人の欲望をその中に収めて、人の欲望を見せることで視聴者の欲望を惹起するという構造ですよね。それってこう……なんて言うんですかね……何ですか?

工藤:(笑)。

上出:あれ? ちょっとごめんなさい。目が覚めたと思ったら、まだ覚めてなかった。

工藤:(笑)。

大切なのは「行列」ではなくその先にあるもの

工藤:「行列ができることをメディアとして扱います」じゃなくて、本当はその作品自体に行列が並んでないといけない。

上出:そうだと思うんですけどね。ちょっとウロボロス的というか、トカゲが自分の尻尾を食ってるみたいなイメージが僕の中にあるんですよ。

工藤:そういうことをしてると、デキレース的に見えちゃう。

上出:仮想通貨じゃないけど、存在しないものをみんなでありがたがってるような感じ。

工藤:そういうことか。なんとなくわかってきた気がします。

上出:その世界では行列が大事であって、行列のできるご飯屋さんの先のメニューは、たぶんカップ麺でも何でもいいんですよ。行列の先にできるメニューを、本当は僕らは映像コンテンツとして作らなきゃいけないんです。

それを諦めた結果、行列のほうを撮ろうとする。すでに人気のあるものを見せることによって、「みなさんにとって見る意味がありますよ」という番組の構造になっている。段階が1個手前にきちゃっているというか、ある意味ではチートなんですよね。

本当は「うまい飯を作る」ことが、僕らの作り手としての務め。行列を撮るのは、ものを作っていないに等しいという感覚が僕の中にあります。

上出:ただ、行列は人を引きつけるので、番組の外に行列ができた時にそれをどう可視化して、パブリックリレーションズに組み込むかは考えるべきだと思っている。いかに早く外部的な評価を作って、それを利用するか。

ただの逆張りは薄っぺらいものになる

工藤:さっきの境目の話に結局なっちゃうんですが、上出さんを「移植のものを作るクリエイター」という見方すると、どうしても「大衆とかは関係ねえ」みたいな。すげぇパンクロックでアウトローだ、というふうにばっかり見ちゃうけど、それはそれで思考停止な物差しだと思うんですよ。

そうじゃなくて、今おっしゃったみたいに「危ないものを届けるために、もっと世の中に無理やりにでも関心を作っていかないといけないんだ」と。パッケージの大事さは、むしろ人一倍気にしないといけないということが、本当はあるわけじゃないですか。

上出:あります。

工藤:その二面性がないと、学びとしては薄っぺらくなっちゃうというか、逆にいろんな人を不幸にしちゃう。「上出さんを目指します!」と言って、「ヤバいもんいっぱい作りました!」みたいなこともきっと起こってますよね。

上出:起こりがちですね。アウトサイダーであろうとするなら、それなりにマスの作法をしっかり身につけないといけないのはありますよね。さっきも「鉄板のトークからずらす」と言われた時に、「じゃあ鉄板でいきます」という、いわゆる逆張りなんですが。

工藤:(笑)。

上出:僕がやってるのはだいたい逆張りなんですよ。「今はテレビはこっちへいってるから、こっちをやりたい」とか、基本的にはカウンターです。その瞬間は当然ニッチなんですが、テレビなんて東京で言ったら5局ぐらいあるわけじゃないですか。みんなが同じ方向を向いてたら勝てないわけですよ。

逆張りのほうが勝てるっていうのは、あらゆる業界にあるわけじゃないですか。ある意味では、商売的な勝利の合理性がある。結局「どういうスパンでものを見るか」ということに、いろんなものが依存するなと思ってます。空間的なスパンとか、時間的なスパンとか。「時間的なスパン」は、過去や未来をどういう尺度で見るか。

「部外者」であることが上出氏の強み

上出:例えば、短期的に今回は数字が取れないかもしれないけど、ここで逆張りをしておくことによって、1年後、2年後にその逆がメインストリームになりつつあった時に、先行者利益がありますよね。そういう、ものの見方は絶対にあるはずなんですよね。

僕はわりとアウトサイダーな立ち位置にはいるんですが、その中ではわりとメインストリームにいる自覚はあるんですよ。本当のアウトサイダーではないというか、ちゃんとマスの中のアウトサイダーみたいな。そこが、自分のブランディングという意味ではわりと重要なんですよね。

工藤:どっちもちゃんとわかっている。

上出:どっちもわかった上で、僕は分野横断を生業としてるところもあるので、とにかく自分がいろんな場所の部外者になろうとしてるというか。そうすることで自分の価値が保てる。でも、部外者であろうとする時には「どこかの場所のプロフェッショナルである」という出発点がないといけないので。

そういう意味では、テレビ局におけるマスコミュニケーションのプロフェッショナルとして、工藤さんがおっしゃった「マスに届けるためにはこういう作法が必要ですよね」という引き出しは十分に備えた上で、いろんなところに顔を出している。……というのが僕の生存戦略なんですが、そんな話じゃなかったでしたっけ(笑)?

工藤:いや、そんな話でぜんぜん大丈夫です。じゃあ、結果的にテレビから始まってめちゃくちゃ良かったわけですね。

上出:絶対に良かったとは思いますね。僕が最初にテレビに10年いたのは、とてつもなく大きな財産ですね。

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