2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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本イベントは、世界的に数少ない「脳のリズム」についての研究をしている異色の脳科学者であり、DJでもある宮﨑敦子氏の『聴くだけで作業効率が自然に上がる!「すごい音楽脳」』の出版を記念して開催されました。本記事では、高齢者施設で行われたドラム演奏プログラムの検証結果についてお話しします。
宮﨑敦子氏:じゃあここから、ドラムを続けることでどういうメリットを期待したかを考えていきますね。先ほどのモーツァルト効果にも出てきたんですけれども、空間認知課題は、私たちのIQにも関連するすごく重要な課題です。
この空間認知課題と、タッピングの精度。つまり、叩きたいタイミングできっちり叩けるかどうかの成績と、脳の白質の関係を調査した論文がありました。この空間認知課題、みなさんわかりますか? この(図の一列目の)縦を見て、(二列目の)縦を見て、3列目のここに、下の選択肢から同じルールの図を選ぶ。これをひたすら解くのが、空間認知課題ですね。
このスコアが高い人と、叩きたいタイミングで叩くのが上手な人たちの脳を調べたところ、(スライドの脳の写真の)青い部分ですね。空間認知課題の成績が高い人の、脳の体積(皮質)が厚いところを、青としています。
赤がタッピングの精度。叩きたいタイミングでしっかり叩ける人の、脳の体積が厚いところ。赤と青が重なって紫になっているんですね。つまり、タッピングの精度で、叩きたいタイミングでその認知能力を評価することもできるよ、という論文でした。
もっとシンプルに言うと、ドラマーはIQが高いんじゃない? という話です。ドラムの人は、叩きたいタイミングで叩きますよね。とても重要なことです。その能力に長けている人は、おそらくIQのテストも高いという論文でした。おもしろいですね。
したがって、認知症の人たちがドラムを叩きたいタイミングで上手に叩けるようになったら、こういった空間認知、IQに関係するような能力も改善するのではないかと私は考えました。あとは上肢の運動のトレーニング。さっきも言いましたけど、腕は重いので、自分の腕を上げるって非常に大事で、かつ必要な運動です。
これは普通のリハビリテーションの教科書に載ってるような話なんですけど。上肢を運動する方法は2種類あります。左側の(図の)ように、腕の重さを支持ありでコントロールすることで、腕を動かすトレーニングをする。支持なしというのは、自分の腕をそのまま上げる。(支持ありの場合は、腕の重さを支えるような道具を使っています。支持なしの場合は、こうした道具を使わず自分の腕の力で上げます。)
このような上肢を活動させる筋活動は、自分の腕を上げ下げするほうが筋活動としては大きいということがわかってます。かつ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、呼吸機能がうまく活動しななくて、ちょっと運動すると苦しくなってしまうような患者さんでも、この支持なし、自分の腕を上げ下げするようなトレーニングのほうが苦しくなくて、運動を持続することができますよという論文※がありました。
ドラムって、さっき言いましたように、ドラムを叩くことでちょっとバウンドするというサポートはあるんですけど、ただ(リハビリの)支持ありほどサポートはない。自分の腕を上げ下げする、支持なしに近いのではないかと思いました。
なので、認知症があったり、筋力が落ちてるようなサルコペニアの人でも、このこのドラムを叩くことが、腕のトレーニングには有効ではないかと考えました。
あともう1つ、発達障害の子どものお話とかについて質問がけっこうあったんですけれども。今ASD(自閉スペクトラム症)の方の、ちょっと古い論文※なんですけれども持ってきてみました。
本には書かなかったんですけれども、これは健常児とASDの方に、同じ課題をやってもらった時の脳の活動を見ている実験です。何の課題をやってるかと言うと、モニターにいろんな顔の表情が出てきます。その顔の表情の真似をしてもらうというタスクです。
人の表情を真似する。つまり、コミュニケーション、他者の行動や感情を理解するような能力になるわけですけども。
そういった課題をやってる時の脳活動を見るとですね、先ほどドラムのビートを知覚する時にこめかみのあたりの脳活動が引き起こされるという図を見せましたでしょ。下前頭回、模倣課題で健常児の場合は、うまいことタスクをやっていて、顔の表情を真似してモノマネしてる時に脳活動が出てるんですね。ただし、ASDの人は課題が上手くできず、下前頭回の脳活動が上がってこない。
ビートを聞くと、下前頭回の活動が引き起こされます。それによって、他者とのコミュニケーションとか、他者が何をやっているかがわかるようなメリットにつながるのではないかということで、ドラムのプログラムをやったわけです。
「ドラム・コミュニケーション・プログラム」と名前をつけてますけども。輪になってみんなでドラムを叩くというプログラムです。
これは、ドラムとコミュニケーションを使っているプログラムということで、ドラム・コミュニケーション・プログラムと名づけてますが。ドラムサークルでやってることと同じになります。
私が期待したことは、太鼓を叩きながら上肢の運動をして、認知機能をアップ(させることです)。それがコミュニケーションに必要なトレーニングになるのではないか、と想定したわけです。
実験に参加していただいた方は、埼玉県所沢市にある特別養護老人ホーム「アンミッコ」という、非常に大きな高齢者施設でした。こちらで初めてのドラム演奏した時の映像をちょっとご覧ください。
(動画再生)
ではプログラムの効果を検証していきますが、それには無作為化比較試験、Randomized Control Trial(RCT)という実験の手法があります。いろんな研究の仕方があるんですけれども、私が使ってるこの方法はエビデンスレベルが非常に高いものなので、この方法に従って実験をやりますよ。
どういうふうにやったかと言いますと、ドラム・コミュニケーション・プラグラムを3ヶ月間やります。ドラムをやるチーム、ドラムをやらないチーム、2グループ作ります。そして3ヶ月後に「認知機能と身体機能はどう変わったか」という評価をしますよ。
ドラム演奏を週3回30分、3ヶ月間やるグループを介入群といいます。ドラム演奏を3ヶ月間やらないグループ、これはコントロール群と言って、日常生活をしてもらいます。
これらの2グループには、最初にベースラインとして同じテストをします。そしてフォローアップとして、3ヶ月後にベースラインと同じ試験をします。認知機能はさっき出たMMSE、国際標準化されてる認知症のスクリーニングに使われているテストと前頭葉機能検査の2つの課題をやりました。
MMSEのスコアですが、ドラムとコントロール群の差はありませんでした。前頭葉機能検査、FAB(Frontal Assessment Battery)というものなんですけれども、これは18点満点で(ドラム介入群が平均)6点台ですね。
認知症のスクリーニングとしても使いますけれども、さっきのMMSEよりもちょっと難しい課題になります。したがって、点数がちょっと低いかもしれませんね。
で、フォローアップからベースラインを引きます。つまり、プラスになってれば改善、マイナスになってたら改悪、ということになります。介入群とコントロール群を比較します。同じテストをやって、変化量を比較します。ここからその結果にいきますね。
こちらが認知機能の変化量の差を比較したものになります。オレンジがドラムをやった介入群です。ブルーがドラムをやってない、日常生活をしていただいたコントロール群です。(ドラム介入群は)3ヶ月でMMSEのスコアが2.05点上がりました。前頭葉機能検査で言うと2.36点上がりました。
MMSEについて言えば、ドラムをやってない群だと3点下がっちゃったんですね。したがって、非常に大きな差として、ドラムをやった群は改善したということになります。
身体機能は何を測ったかと言いますと、ドラムを叩く時は利き手だけでやっていただいたんですが。この利き手の関節可動域、関節が上手に曲げられるかどうかを見ています。
肩屈曲というのはバンザイですね。あとはドラム叩くのに肘を使いますから、肘が変わるのかとか。ドラムのスティックを持つので、掌屈(手首の関節を手のひらの方向に折り曲げるこ動作)・背屈(手を甲の方向に曲げる動作)なかなかこの掌屈・背屈を使うトレーニングってないと思うんですけど、ドラムはたくさん使うので、こういったところを計測しました。
結果はバンザイの角度が6度上がりました。ドラムをやってないと、3か月前より5.88度上がらなくなっていました。あとは、掌屈が10.91度、ドラムをやると改善しておりました。
高齢者施設の場合、バンザイはあまり日常生活で使わないかもしれません。しかし、この手首を曲げる掌屈が上手にできると、自分で食事をすることができるようになったり、トイレの時に自分で何かできるようになったり、ちょっとできることが増えるかもしれませんね。
それでは、3ヶ月後のみなさんの演奏をお聞きください。
【動画再生】
宮﨑:しっかりドラムを叩いて、止まるところもすごくきれいに揃ってできるようになりましたよね。
認知症の方は可塑性があるのか? という話になるんですけど。こちらの論文※では、3つの脳の図が並んでいます。左側は健常で、真ん中がMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)、認知症になる一歩手前の方、右側がアルツハイマーの方になっています。
(軽度認知障害の方、アルツハイマーの方になるにつれて)だいぶ脳と頭蓋骨のところにすき間ができて、脳細胞が死んでしまっている場所が増えてきているわけですけれども。このような状態でも、ドラムは上手になっていませんか? この方たちはMMSE(認知機能の低下を点数で客観的に計測することができる、世界各国で用いられている検査方法)のスコアで言うと12点台でした。
ということで、何歳からでも使えば使うほど、鍛えれば鍛えるほど、可塑性はあるんじゃないかなと私は考えてます。
トレーニングをすることはやはりちょっと大変で、私たちにとっては、生活を変えるって大変なんです。しかし、音楽が私たちのサポートをしてくれるということをまとめたのが、こちらの『すごい音楽脳』になります。私の説明はここまでになります。ありがとうございました。
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