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第191回『【異色トーク】生命科学者×清水寺のお坊さん「もっと自由に生きるための思考法」』#2(全1記事)

人間の遺伝子は世代交代ごとに0.1%ずつ変わって進化する 企業が変化する環境で生き残るために、生命から学べること

さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」。今回は、『生命科学的思考』の著者で生命科学者の高橋祥子氏と清水寺の僧侶・森清顕氏をゲストに迎えた放送回の模様をお届けします。生命科学と仏教の観点から、もっと自由に生きるための思考法が語られました。

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今注目の研究領域は「不老長寿」

入山章栄氏(以下、入山):今週もお客さまにジーンクエスト取締役ファウンダーの高橋祥子さんと、清水寺の森清顕さんをお迎えしました。高橋さん、森さん、どうぞよろしくお願いします。

高橋祥子氏(以下、高橋):よろしくお願いします。

森清顕氏(以下、森):よろしくお願いいたします。

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):高橋さんのプロフィールです。京都大学を卒業され、2013年、東京大学大学院在学中にジーンクエストを起業。個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝える、ゲノム解析サービスをスタートされました。今年4月には代表取締役社長を退任され、取締役ファウンダーに就任されています。

また、これまでの活動も高く評価され、東京大学大学院農学生命科学研究科長賞、経済産業省第2回日本ベンチャー大賞、経済産業大臣賞などに選ばれ、各方面で注目を集めています。また、NewsPicksパブリッシングから出版されたご著書、『生命科学的思考』も好評発売中です。

入山:あらためて、今週から聞く方のために、高橋さんが今どういう活動されているかというのをもう一度教えていただけますか?

高橋:ジーンクエストという会社で人の遺伝子を解析する仕事をしていまして、人の遺伝子の違いを調べることでどういう病気のリスクがあるかとか、どういった体質の傾向があるかというのをお知らせするサービスを提供しています。

あと、ゲノムのデータベースを作って、この遺伝子は何に関わっているのかというのを解明していく研究も行っています。

入山:なるほど。先週はビジネスの話をおうかがいしましたが、研究だと高橋さんが今一番ご関心のあるのはどこになるんですか?

高橋:不老長寿ですかね。

(一同笑)

ちなみに、不老不死ではないんですよ。みなさん笑うかもしれないんですけど、不老長寿は研究領域としてはものすごくホットで、ここ10年ぐらいでかなり研究の論文数も増えているんですよね。

老化は病気の一種じゃないかという認識で、「病気だったら治せるよね」ということで、理論的には不老長寿はもう達成できるはずなんです。

入山:理論的には!?

高橋:不死はだいぶハードルが高く、難しいと思うんですけど。これまで寿命は伸びてきましたけど、健康寿命と寿命の差は広がっているんですよ。医療で延命しているだけなんですけど、そうじゃなくて健康寿命自体を伸ばしていくという。

入山:100歳ぐらいまでバリバリの若々しい感じでいって、そこでぽっくりみたいな。

高橋:そうですね。

夜、閉門後の清水寺で行われる新たな取り組み

高橋:世界で一番長生きした人がフランス人で120歳ぐらいの方になるんですけど、その人は90歳で初めてフェンシングを始めたんですよね。

(一同笑)

だからそういうことになるかもしれないです。

入山:すごいね。

田ケ原:きれいなまま歳をとれるようにがんばりたいですよね(笑)。

入山:急にテンション上がっているじゃん(笑)。ありがとうございます。じゃあ今週もよろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。

田ケ原:続いて、森さんのプロフィールです。立正大学大学院を経て、現在は清水寺に勤める森さん。講演・執筆などを通して、観音信仰や仏教をより親しみやすく伝えるだけでなく、京都市社会教育委員会副議長や上智大学非常勤講師としても活動されています。お父さまは、年末に今年の漢字を特大の筆で描き上げる森清範貫主です。

入山:仏教界を超えていろんな幅広いご活動をされているわけですけど、あらためて今どういうことをされているかを教えていただけますか?

:今紹介いただいた学校関係とか行政、そしてお寺の仕事ですよね。そういうことをいろいろさせていただいたりしております。特に最近力を入れさせてもうているのが、これは本当に限られた方ですけど、夜、閉門後に……。

入山:清水寺に?

:はい。お一人やその方のお知り合いだけとかで、仏さんに誓いとか願いごとをするという会をしていましてね。コロナのちょい前ぐらいからやっていて、他の人がいはるとちょっと恥ずかしいなとかあるじゃないですか。

ですから夜に、その方1人だけでもいいのですが、紙に誓いや願いごとを書いて、私が仏さんの前で経を上げさせてもらいながらそれを仏さんに伝えて、ちゃんとお伝えになったということで御朱印を押しましてね。

それをお渡しして持って帰ってもろて、何か迷う時とか、どうしようと思う時に、あそこで誓ったからということがあればなと。なんでもいいんですよ。ダイエットをがんばるでもいいんですよ。

帰りにラーメンを食べて失敗したなと思っても、「あっそうそう、仏さんと約束したから」っちゅうので、もう1回原点に立ち返る。初心に立ち返る1つのかたちとしてね。

入山:そっか、清水寺で仏さまの前で誓うというのはとても印象深い経験だから、その原点に常に返れるという。

:日本人ってよく無宗教と言われるじゃないですか。けど、無信仰ではないと思っているんですよ。受験の時には北野天満宮に行って合格祈願をしたり、お守りをもらうとか。人知を超えた存在がおられて、そこに対して「お願いします」というのが、誓うとか願うということなんですよね。

それって我々の日常生活の中でも、身近にあるんですけど、意識していないんですよね。なので、それを顕在化させるという意味でも大きいかなと思って、そんなことをしております。

人間の遺伝子は世代交代ごとに0.1%ずつ変わって進化する

入山:ここからは、お二人と「もっと自由に生きるための思考法」というテーマでお話ししていこうと思います。今回は、自由に生きるとはビジネスの文脈でどういうことを考えていけばいいのかというお話をしていこうと思います。

まず、高橋さんからおうかがいしたいんですが、生命科学から見ると、ビジネスはどう捉えればいいかについて教えていただけますか?

高橋:最近会社という組織を生命体として捉えて考えるという考え方がけっこう出ているかなと思うんですけど。

入山:そうですね。例えばティール組織なんていうのはそういう考え方ですよね。

高橋:そうですね。生命ほどこの世界でうまくできた仕組みはないと思っていて。生命の何が強いかというと、環境は必ず変わるという前提に立って、リスクを取る仕組みで、自分たちが変わって生き残っているんですよね。

資本市場の中で会社が生き残っていくことも、かなり共通したところがあるなと思っていて。市場環境も変わらないということがありえないじゃないですか。その前提に立って、生命から学べることがけっこうあるなと思って本にも書かせていただきました。

入山:高橋さんからご覧になると、生命科学を参考にした時に、企業はどういう視点を持てばいいとお考えですか?

高橋:変わるとはそもそも何かという話と、その変わるという仕組みを変わらずに持っておくようにするということかなと思っていて。会社の事業全部が変わるとか、何もかもが変わるということではなく、変わらないこと、例えば事業とか組織とかミッション・ビジョンとかがあって、その一部を新しく変えていく、リスクを取っていくという設計がまず大事ということです。

例えば人間の遺伝子も世代交代をするごとにどんどん変わっているんですけど、基本パッケージは一緒で。99.9パーセントは同じ遺伝子配列なんですけど、0.1パーセントだけ人によって変えていくから進化するんですよね。

そういうふうに「変化とは何か」をまず定義すること。変えることってすごくエネルギーが要るので、例えば生命って勝手に変わるような仕組みになっているんですよね。

だから例えば企業も、何年ごとにここは必ず新しくチャレンジするみたいなこととか、私個人の話で言うと、必ず3ヶ月に1回は何か新しいことにチャレンジすると決めていて。

本当にちっちゃいことでも良くて、最近パーソナルトレーニングジムを始めたとか、やったことがないことをやるということを生活に入れておくと。必ず変化を取り入れるようにしているみたいな。

仏教は1つのパターンを作らない

入山:清顕さん、今のお話いかがですか?

:確かにそうなんですよね。うちもそこはすごく考えるところなんですよ。不易流行じゃないですけど、変化しない、今のままでいることはものすごく楽なんですよね。

入山:そうですね。

:けど、今の世の中に通用しないところもあるので、仏さんの世界とかを伝える時に、今までやったらこういうふうに伝えられていたけど、今の技術を使うとこうなるよねとか。

ただ、その技術が目的になってはいけないと。それは伝える手段、方法論であって、それをやりたいからやるんじゃない。伝えたいものを伝える1つのかたちなんだというところを外さずに考えないかんのちゃうかなと。

入山:今のはたぶん、どちらかというと仏教そのものの仕組みのお話だと思うんですけど、仏教の教えや考え方の中では変化をどういうふうに捉えられているんですか?

:結局解釈を変えるか否かっちゅうところになってくると思うんですよね。言うたら、読み方って自分の都合なんですよね。例えば経典に書いてある、精神性とは何ぞというのがまずあって、それを理解した上で、今に照らし合わせた時に、どういう結果になるのかということになると思うんですよ。

書いてあるものを、今現状こうやからこうやって解釈しましょうということになると、信仰の世界ではちょっと違う方向に行く。要は恣意的にそのものを変えていくようなことになりうると思いますね。

入山:なるほどね。高橋さん、いかがですか?

高橋:例えば人を殺めてはいけませんみたいなのって、昔だと別に違ったりするじゃないですか。また今後もそうであるとは限らないじゃないですか。例えば人のゲノム編集がOKになった場合、元の遺伝子を持つ人を殺すようなもので、生命観とかも変わると思うんですけど。それって誰がアップデートしていくんですか? そもそもアップデートをしないものなんですか?

:仏教は1つのパターンを作っていないんですよ。仏教は人間の心を解いているんですよね。つまり、人それぞれによって捉え方がまったく変わるんですよ。例えば仏教ではどうだといった時には、「私の仏教観ではこうだ」になるんですよ。

不老長寿が変える、人間の「死」に対する考え方

入山:それは例えばキリスト教とかイスラム教とはだいぶ違うって理解してよろしいですか?

:違います。そこが大きく違います。例えば、死後の世界に関して、例えば阿弥陀経では西方極楽浄土があって、そこに極楽があると信じていますと言う人もいれば、「いや、死んだらしまいやねん」と思っている人も当然いてる。それでもいいんですよ。

だから、「これ」というかたちというか、決まりがないんですよね。たぶんゲノム編集になってきた時に、そもそも人間のどこにそれがあるんやということを、仏教界もこれから考えていかなあかんことになると思うんですよね。

それを言われた時にみんな焦るんですよ。例えば、「人間は死んだらどうなんの」って聞かれた時に、たぶん宗教者は「えー、うーん、そらな」とちょっとドギマギする。その言葉で、宗教者の死生観が問われているんですよ。

それをあなたが信じるか信じんかは別問題で。死んだらどうなるかを答えれるかどうかは、言い換えると自分の宗教観になってくるので、そういうものをちゃんと持っている人かどうかがわかってくる。

高橋:その死の考え方も、今後数十年ぐらいで絶対に変わるはずなんですよ。だって死が最も悲しいのって、理不尽なタイミングと理由による死じゃないですか。でも、今後健康になって、不老長寿が達成されて、健康なままみんなが死ぬようになると、不幸な死じゃなくて幸せな死をどう設計するかみたいな考え方になる。死に対する人間の考え方もガラッと変わるはずなんですよね。

体の細胞に置き換えるとめちゃくちゃ不健康な日本企業

入山:清顕さん、いかがですか? 理想的な死に方というか。

:それも人それぞれなんでしょうけどね、本心はわからんけれども、例えばがんになられた方で、きれいに亡くなってはる方が何人かおられたりするんですけどね。

亡くなる時にうちの住職が呼ばれて、「急に呼ばれて何ですか」言うて行ったら、「いや、もうこの世は卒業した」って言いはったんですよね。「ただ、まだお迎えが来うへんねん。上で揉めとんのかな」てね。

そして、「みんな、ありがとうな」「こうやったな」とそれぞれの人に言葉をかけて、その半日後ぐらい亡くなったんかな。その先生の死に方は、「あぁ、すごいな」と思ったんですよね。

入山:卒業、いいですね。

:卒業って。

入山:よく考えると、今日最初のテーマはビジネスだったんですけど。

:あぁ、そうですね(笑)。

入山:いやでも、ぜんぜんすごいおもしろくて。高橋さんも読んでくださった僕の『世界標準の経営理論』でも、これからの時代はもしかしたら企業組織を生命体として捉えないといけず、生命っていつか死ぬんだから、会社にも死があっていいはずだと書いているんですね。

ところが今の世界の資本主義の仕組みはゴーイング・コンサーンというやつがあって、生まれたら半永久的に生き続けて、特に上場企業は株価を上げて株主にリターンをずっと返さないといけないという謎の仕組みになっているんですよね。

だから、死は常に抗うものだという前提になっていて、そこから実は考え直さなきゃいけないんじゃないかなみたいなことを書いているんですけど、そういうその組織の死みたいなものの考え方ももしかしたら変わってくるかもしれない。

高橋:そうだと思いますよ。そもそも日本はアメリカと比べて会社の新陳代謝が少ないじゃないですか。生まれる会社も少ない。それって体の細胞に置き換えると、めちゃくちゃ不健康な状態ですよ。資本主義のイケていないところはそういうところだと思うんですよね。イケていないというか、織り込まれていないところは。

入山:織り込まれていないですね。

高橋:そう。

ゲノムの多様性を知ると人は優しくなる

:お寺は、長く持たさなあかんという伝統がなぜかありますよね。けどね、これは私の個人的な感覚ですけど、宗教っちゅうのは最後はなくなったらええなと思っているんですよ。

入山:またすごいことを言い出しましたね。

:例えば、悪いことをせえへんかったら警察がなくなるのと一緒で、宗教がなくてもみんながハッピーに、みんなが心穏やかに過ごせるというのであれば、なくてもいいんじゃないんかなという。仏教も、最後は法滅いうてなくなるって言っているんですよね。

入山:仏教の中で?

:そうそう、そうなんですよ。仏教は、お釈迦さんが必ずなくなるって言っているんですよ。

入山:やっぱりお釈迦さんはすげぇな。

高橋:どこかの会社で、この社会課題を解決できたら解散するという……。

入山:クックパッドさんですね。

高橋:クックパッドさんか。

入山:でもそういう考え方が出てきますよね。タガエミちゃん、すみません、ぜんぜん振らなかったんですけど。

田ケ原:いやいや、ぜんぜん。

入山:お二方に何かありますか?。

田ケ原:組織という捉え方で言うと262みたいな法則があるじゃないですか。組織をより良くしていくための熱狂的な2が上にいて、その下の6を巻き込んでいくのがいいみたいなのがあると思うんですけど。

入山:今の話は高橋さんに聞いてみたかったんですけど。いろんな生命を見ているわけじゃないですか。この生物は、生物的に仕組みがよくできているなというか。

高橋:それはないですね。

入山:それはないんだ。

高橋:ないですね。

入山:優劣がないという?

高橋:優劣がないですし、今この瞬間、例えば個体数が多いものを挙げてもしょうがないので。絶対に変わっていくから。だから、ないですね。

先ほどの話で言うと、人間の遺伝子の中にも、新しいものにどんどんチャレンジしたいという、新規の開拓性に関わる遺伝子があって、

新規開拓性もある意味で多様性があると思っていて。例えば私みたいに、新しいもの好きというか、新しいことをどんどんやりたい人が全人類だったら、たぶん人類は絶滅すると思うんですよね。新しいことをやる人もいれば慎重になる人もいて、それで全体の生存の可能性が上がっているわけなので。

例えばLGBTQとか、マイノリティの遺伝子があることで人類が生存ができている可能性だってあるわけなので、本当はマイノリティに感謝しなきゃいけないはずなんですよ。ゲノムの多様性を知ると人は優しくなるはずなので、そういうのをやりません?

(一同笑)

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