2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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「人間はゴリラに学ぶべきだ」と説く霊長類学者の山極壽一氏と、経済学者・宇沢弘文氏を父親にもち、社会的共通資本の提唱と社会実装に向けて活動する占部まり氏が登壇したイベントが開催されました。本記事では、山極氏の基調講演の模様をお届けします。現代の人々の関係性や社会システムの課題を指摘しながら、より良い社会を構築していくためのポイントを語りました。
山極壽一氏:人間が共感力を高めた背景は、おそらく共同の子育てにあると思っています。それは人類の祖先だけが、サバンナという食物が少なくて危険がいっぱいの環境へ出ていったことにあります。
年齢ごとに、それぞれの類人猿と人間の成長段階を表すと、人間だけに変な時期が挟まっています。子ども期と青年期と、そして老年期が長いという特徴があります。
オランウータン、ゴリラ、チンパンジーは、だいたい3年から7年ぐらいお乳を吸って育ちます。離乳した時に永久歯が生えてるから、大人と同じ硬いものがすぐ食べられるようになる。
でも人間の子どもは1年、2年で離乳してしまって、6歳まで永久歯が生えないから、子ども期という時期がある。その時期は、乳歯を持っている子どもだけに食べられるようなものを運んできてやらなくちゃならなかったわけです。なんでそんな時期を作ってまで離乳を早めてしまったのか、ということが謎として残っている。
そして繁殖能力がついたのに繁殖できない、繁殖しない、青年期という時期が人間だけにある。これもおかしな話ですよね。そして老年期が長い。この3つが組み合わさって人間の社会が作られているはずなんです。
長い離乳期と思春期があることが、実は人間の社会を複雑にしてくれたんですね。長い離乳期ができたのは、人間がサバンナに出ていって、初期の時代に肉食動物に襲われて、子どもや幼児をたくさん亡くしたことに起因すると思っています。だって肉食動物の餌食になる動物たちはみんな多産で、たくさん子どもを作りますから。
人間はどのようにして多産という能力を身につけたかというと、出産間隔を縮めたんですね。そのためにおっぱいを吸ってる子どもを早くから離乳させる必要があった。
おっぱいを吸っていると、プロラクチンというホルモンが出て排卵を抑制してしまいます。赤ちゃんがおっぱいを吸わなくなればホルモンも分泌しなくなって、排卵が回復します。そういうことをして、人間はたくさん子どもを作ったんです。そうしなければ人間は生き残れませんでした。
多産になったはいいんだけれども、今度は200万年前から脳が大きくなり始めました。そうすると脳に過大な栄養を送る必要があって、身体の成長を遅らせ始めたんですね。そのために頭でっかちの成長の遅い子どもをたくさん抱えるようになって、親だけでは子どもを育てられなくて、みんなで寄ってたかって共同保育をするようになった。
そこでいろんな特徴が出てきたわけですね。人の脳の成長というのは、類人猿とは非常に違っています。まず生まれてすぐ、コピーする能力が出てくる。猿真似というのは、実は猿ではできないんです。相手の行動をそのままコピーするという能力は人間だけで、これはもう生まれついた頃から始まるんです。
そして9ヶ月頃から仲間の視線を追随し、「いったいどういう意味があるのか」ということを理解する。そして18ヶ月ぐらいから、自分が持っている知識を相手が持ってないことがわかって、それを一生懸命教えようとする。そして他者と触れ合うことによってコピーしながら、だんだん共感能力や学習能力が育っていくわけですね。
ただ重要なのは、人間の脳は12歳から16歳ぐらいで大きさは完成するんですが、そのあとメンタライジングという、他者の心の状態を推論・解釈して、文脈に応じて柔軟に行為を理解する能力が育ち始めます。これは25歳ぐらいまで続くんですね。その結果、類人猿とは2段階レベルの違う認知能力が育つ。これがとても重要な話なんですね。
今の話をまとめてみると、直立二足歩行をして食事という文化を発達させて、サバンナに出て行った。だけどそこで肉食動物にやられたもんだから、たくさん子どもを産まなくちゃいけなくなった。
そして200万年前に脳が大きくなり始めると、頭でっかちの成長の遅い子どもをたくさん持つようになって、共同保育が生まれる。これが、今でも人類の社会性の基本になっています。
その基本とは何かというと、家族と、複数の家族を含む「共同体」という重層構造です。ここで、人類独自の精神性が発達した。それは何かというと、自己犠牲を払ってまでも集団のために尽くしたいという精神性です。動物はこういうものを持っていません。
自分の利益を高めるために動物は群をなしているわけであって、自分の利益が落ちていったら群を離れるのが普通。でも、人間は自己犠牲を払っても集団に尽くそうとする。集団のために尽くすというのがわかっているからこそ、集団へ出たり入ったりできるわけですね。あるいはほかの集団にも受け入れてもらえる。
だからみなさんも日常的に、さまざまな集団に出入りして暮らしてるわけですね。これができるのは人間だけです。ゴリラはいったん集団を離れたら、自分の集団にすら戻れなくなってしまう。
もう1つ、「育児が音楽の能力を向上させたのではないか」という話があります。これはインファント・ダイレクテッド・スピーチといって、赤ちゃんは最初は言葉の意味を理解しません。
でも、絶対音感の能力を持って生まれてくるから、どんな言葉で語りかけても、そのトーンやピッチを聞いて安心してくれるわけですね。これが音楽の能力を向上させたと言われていて、これは国境や文化を越えて通じる話なんですね。
そしてそれが大人の間に普及して、あたかもお母さんと赤ちゃんに生じるような効果が大人の間にも生まれた。それはお互いの壁を乗り越えて一体化して、1人では乗り越えられない艱難辛苦をみんなで一緒に乗り越えていこうという精神です。そういうものができたおかげで、人間の社会力は強化された。
だから人間の本質は何かといったら、言葉以前の音楽的コミュニケーションではないかと私は思っています。そして重層社会ができたことによって高い認知能力がついて、それが言葉に結びついたんだと思うんですね。だから未だに人間の心身は、小規模な社会、つまり150人ぐらいの規模の社会の暮らしに適応しています。
言葉は小規模な社会をつなげる役割を果たしたんだけれども、信頼関係はダンバー数の150人以上に広がっていない。だから我々は未だに農耕・牧畜が始まる前の、狩猟採集社会のシェアリングとコモンズ……つまり、平等社会の原則を求めている傾向が強い。
農耕・牧畜が始まったことで我々が社会の原則としたのは、定住と所有です。我々はそれに人間の価値を置いている。だけど我々は今、それに悩まされていることも事実なんですね。
言語以前のコミュニケーションをまとめてみると、対面交渉、これは類人猿と一緒ですよね。食の共同や子育ての共同によって音楽的コミュニケーションへと発達させ、気持ちだけではなくて考えを読むという心の理論が出てきて、そして言葉というものが創出された。
その上で言葉が出てきたってことは、すごいことなんですね。だって言葉は重さがないから、どこにでも持ち運びができる。見えないものを見せる効果がある。過去と現在と未来をつなぐ効果がある。物語を作って、それは虚構として、現実にはない未来を見せることができる。
そのおかげで人類はパラレルワールドを拡大したんですね。言葉以前にパラレルワードを夢見ていました。だからこそ人類は、これまで暮らしたことのない未知の土地へと出かけていくことができたはずです。でも、言葉はそれを拡大したんですよ。
大航海時代、『ガリバー旅行記』『ドリトル先生アフリカへいく』、これは虚構の物語ですよね。『バンビ』はアニメになりました。そして『キングコング』『猿の惑星』『2001年宇宙の旅』……これ、みんなパラレルワールドですよ。こうやって未来を創造してきた。
そして今、AIによってメタバースが生まれた。このメタバースはすばらしい世界ではあるんだけれど、危険な世界でもあります。
バーチャルリアリティやデジタルツインは、現実の世界を虚構の中に移し替えて、そこで実験をして、また自分の世界に戻ってくるという働きを持っている。ところがメタバースは初めから別の世界があるわけですね。
アバターを使って変身して、その世界に潜り込む。そうすると、その世界の倫理が現実の世界に反映されてしまう可能性が出てきました。だから現実の世界では起こりえないことをメタバースでやって、そしてそれを現実の世界に持ち込むということも可能になりつつあります。
これはヤバいことだと、私は思っています。人間の脳は意識と知能の部分からできています。これが分かちがたく結びついて、判断力をもたらしている。でも、情報革命によって知能・知識の部分だけ情報化されて、それが人工知能によって分析されているのが現代の技術です。
でも、意識の部分は外出しにできないから、直感力を働かせる機会を失って、今の人間は情緒的社会性を失いつつあるんじゃないかと私は懸念しています。
考え直さなければならないのは、ウイルスやバクテリアも合わせて、目に見えない命と命のつながりを正確に見据えた上で、新しい人間の暮らしを作り上げなくちゃいけない。
SDGsというのは今、17の目標と169のターゲットを目指して各国が推進しています。これはすばらしいことなんだけど、実は人間が生きる上で、SDGsにはない不可欠なものがあるんですよ。それは文化です。
文化というのは、人間が持っている価値観です。それは心や身体に埋め込まれているものであって、外出しができない。外出しにできるものは生産物です。みなさんが座ってる机や椅子や、そして私が持っているマイクはみんな文化の産物なんですが、価値観そのものは外出しにできないわけです。
だからこそ音楽的なコミュニケーションによって、さまざまな総合的な事物によって、我々はその価値観をコミュニティの中で共有しているわけですね。
今、私がいる総合地球環境研究所は2001年にできたんですが、その時の初代の所長が「地球環境問題の根幹は人間の文化の問題である」と言って始まりました。同じ年、ユネスコ総会がパリで行われて、その時に「文化的多様性に関する世界宣言」が採択されている。これは非常に重要なものだと思います。
「生物的多様性が自然にとって必要であるのと同様に、文化的多様性は、交流、革新、創造の源として、人類に必要なものである」。文化は多様でなければいけないと言っているわけですよね。
そして第7条は「創造は、文化的伝統の上に成し遂げられるものであるが、同時に他の複数の文化との接触により、開花するものである」。文化は個性的で多様でなければいけないけれども、それが互いに接触しなければ未来は開けない、創造性は生まれないって言ってるわけです。これはとても重要な指摘だと思います。
今、世界で起こりつつあることは何かといったら、文化の無国籍化です。GAFAというICT産業によるプラットフォームが世界中に張り巡らされて、個人の情報が吸い上げられて、同じ方向へと誘導されているのが現代です。それによって世界は一元化しています。
文化が違えば価値観は違っていたはずなのに、同じ価値観によって人々は暮らし始めた。だから格差が増大して、人々が移動をし始めるわけですね。
それは信用社会、つまり社会関係資本から契約社会への移行によってもたらされた。そこには信用というものがあるわけではなくて、制度やシステムと人々が契約を結ぶ社会があるだけです。そっちのほうにどんどんシフトしてるんですね。みなさんがたくさん持っているカードは、この契約の証です。
契約社会は制度とシステムがあるだけで、その先に人間はいないんです。制度やシステムが壊れれば、それで終わりです。
でも信用社会は、たとえ自分の身近な人がいなくなったとしても、身近な人が持っているネットワークがまた我々の近くにやってきてくれるわけでしょう。だからこれはレジリエントなんです。契約社会とは違います。
契約社会がなぜできたかというと、これまで人と人とをつなぎとめてきた3つの縁、「地縁」「血縁」「社縁」が喪失したからです。でも、人々は縁がなくては生きられません。だから一時的な縁を求めて、いろんなイベントにみんなが殺到するという事態が起こっている。
我々がしなくてはならないのは何かというと、新たな社交を創出して、文化を再構築することではないでしょうか。
3年前に亡くなられた劇作家の山崎正和さんは、2003年に出した『社交する人間―ホモ・ソシアビリス』という本の中で「社交とは何か」を定義してるんですね。「人間のあらゆる欲望を楽天的に充足しつつ、しかしその充足の方法の中に仕掛け(礼儀作法)を設け、それによって満足を暴走から守ろうという試み」であると。
全部は言いませんが、この中で重要なのは「リズム」と「音楽」の話です。「行動の全体をまるで音楽のように一つの緊張感で貫く」、これが社交なんです。
山崎さんは社交とはリズムであると言っているし、社交とは文化そのものであると言っています。だから我々は社交をもっときちんと創出することによって、新たな文化を作り上げることができると思います。
人間の社会をゴリラの社会と比べてみると、「移動する自由」「集まる自由」「対話する自由」の3つの自由によって作られてきました。しかしそれが今、第2のノマド時代によってさらに拡張されようとしている。
ICTやAIを賢く利用すれば、我々は農耕・牧畜以来のくびき……つまり定住と所有という縛りから、解き放たれる可能性があると思ってるんですね。
だって、移動する時にたくさん物を持って歩けないじゃないですか。多数の拠点を持てば、物を貯めておく必要がないじゃないですか。だったら分配やシェアや、そして共有財を増やすことによって、人々はもっと豊かになれるはずじゃないですか。
そのためには我々が、企業によって決められている商品の規格や価値を、個人の領域に取り戻すことが必要です。だって、もともと生産者と消費者の間でネゴシエーションによって価値は決まっていたわけですよ。ところが今はすべて、マーケットの価値によって決められているわけですね。
そこを乗り越えないと、人々が自由に交流することにはなりません。それを見直すことによって、自律分散、そして社会関係資本を利用できるような社会になるだろう。だからこれからは、シェアとコモンズがとても重要になるだろうと思っています。
最後に、最近私が出した本を紹介しておきます。『動物たちは何をしゃべっているのか?』は、鳥の研究者の鈴木俊貴さんと、ゴリラの調査をしてきた私が話をして盛り上がった話です。
今日は「実は共感が人類独自の特徴なんだ」ということを申し上げましたが、それについて『共感革命』という本を最近出しました。ぜひお暇な時に読んでいただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。
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