社内が巻き込めていない時は、つい「気持ちの問題」に注目しがち

山田裕嗣氏(以下、山田):さっきの(「インテグラル理論」の)4象限の文脈で1つだけ補足というか、エピソードをご紹介すると、銀座あけぼのという会社の代表を今されている(細野)佳代さん。長谷川さんもご存じで、一緒にワークショップをやってました。

インタビュー先として、佳代さんにもお話をうかがいに行った時に、彼女もすごく発達理論やインテグラル理論の造詣が深くって。実際に会社の中でも、インテグラル理論やMBTI(Myers–Briggs Type Indicator マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)など、いろいろ活かしながら経営をなさってるんですけど。

すごく印象的なお話が1つあります。店舗が今80店舗くらいあるそうなんですけど、いろいろあって、数店舗統括するエリアマネージャーみたいな方を外したと。

そうすると、経営陣本社と80店舗というような構造になって。そのうちの起こったことの1個として、「現場のスタッフの方が、エリアマネージャーにあたる人と話す機会がなくなったのが寂しいんです」とおっしゃっていたそうです。

寂しさみたいな感情とおっしゃってたんだけど、それを解消されたアプローチがすごくおもしろかったんです。要は現場のスキル向上を手伝う施策を打っていったら、結果的にその(寂しいという)声がなくなっていったという話をされていて。

僕の理解なので、もしかすると彼女の見立てとは若干間違ってるかもしれないですけど。彼女からすると、どの象限を満たしたいかということによって現れているものも違ったりするので。

技術スキルが十分にあることによって、より心地よく仕事ができる状態を作ってあげて、それによって、当人が抱えていた寂しさみたいなものが解消されたとおっしゃっていたんです。

それはすごくユニーク(な施策)だけど、けっこう大事なところだなと思ったんですね。なぜこんな話をしたかというと、さっきの例でいくと、「20人中8人しか書いてない」というのが、つい気持ちだけの問題に還元しがちだったりするんですけど。

実はもっとできる能力があるのに、単純にまだ訓練されてないだけで。書くことに心理的ハードルがめっちゃあるのは、実は単に下手だからだとしたら、スキルをちゃんと身につけてもらおうぜという解決策がぜんぜんありうるよね。4象限的に書くと、客観っぽいところもちゃんと扱おうねという話だと思っています。

巻き込めてないなという時って、なんだかつい盲点になりがちなんですよ。必ずしもそれだけじゃないと気づくためにも、やっぱり4象限というアプローチも1つ入れることは大事だなと思いました。

長谷川博章氏(以下、長谷川):確かに。

ネックになっている要因を多面的にみる重要性

加留部有哉氏(以下、加留部):スキルがないから自信がなくて書けないとか、これを書いてもいいか不安だから書かないということもぜんぜんありますもんね。

山田:そうです、そうです。議事録って何を書けばいいのかとか、簡単じゃんと思っているけど、実は通常の人の8倍かかるものだとしたら、そりゃやりたくなくなるよねと。だとしたら、せめて簡単にできるように練習する機会を作るみたいな。

スキルの向上によって、生産性を倍にしてあげるのもぜんぜん妥当な打ち手なので。ネックになっている要因はなんだろうねというところを多面的に考えれば大丈夫だと思いました。

長谷川:そうですね。たぶん要因が本当にいろいろありますよね。

山田:やっぱり、つい自分の好きな象限から原因を求めにいっちゃうので。「どれ?」ということをちゃんと考えると(いいと思います)。

長谷川:いや、この好みの問題ってけっこうあって。

加留部:ありますね。

長谷川:同じ箇所から見ちゃうというか。例えば僕はたぶん文化から見てしまいがちなんですけど、好みってありますよね。

山田:必ずみんなあるんですよ。銀座あけぼのの社長の佳代さんは、経営チーム4人でそれを補い合ってるというような言い方をされていて、すごく素敵だなと思って。

長谷川:確かに。

山田:彼女も個人の内面にいきがちだったりするんですけど、その他の役員が「ちょっと佳代さん、そこで見すぎじゃないですか」とコメントをくれると。「『他も見ようね』って対話がそこで行われる」とおっしゃっていました。

みんな偏ってるからねという前提で、チームで見ることはすごく大事だなって。なんか素敵な実践を聞かせていただいたので(エピソードとしてご紹介しました)。

長谷川:ああ、すばらしいですね。なるほど。

「関係性を扱う」とはどういうことか

加留部:さっきのケースは、ちなみにホラクラシーだとなんでしょうね。やっぱり、事業推進と関係性を分けて捉えるようなところも重要ですし。

例えば、こういうノウハウ蓄積が業務推進上で必要だとなったら、役割につけてしっかりやろうねという文脈もあると思うんですけど。

この組織はちょっとロール別というか。ホラクラシー的に動くとしたら、長谷川さんの中では、どういうイメージになりそうですか。

長谷川:そうですね。いったん動いてみて、20人中12人が書かなかったという事実があると思うので、たぶんそこに対してホラクラシーだったら、テンションが上がっていくはずなんですね。

それをさっきのロールや構造で解消できたり、ストラテジーで解消できるんだったら、そこで扱っていくんですけれども。そうじゃなくて、関係性や個人のスキルになった場合は、それをまたプロジェクトで作っていったり。

さっき言ったみたいな上司と部下の関係性があって、議事録を書くんだけど逆に怒られるから書けないといった心理的な構造がある場合は、たぶん合宿など関係性そのものを扱う場になるので。それはちょっと別対応で扱っていく感じになるかなということですね。

加留部:関係性を扱うって、あんまり多くの企業がやられているイメージがないんですけど。

長谷川:確かに。

加留部:そのあたりをお二人から教えていただきたくて。確かに重要だし、そこは勝手にやってくれみたいな文脈だと思うんですけど、会社としてどうアプローチできるのかはけっこう気になっています。いかがですかね。

会社の中にある「ランク」という関係

長谷川:じゃあ私から。一応システムコーチングという文脈もけっこう学んでいたりするので、さっきもちょっと話に出たんですが、システムってやっぱりいろいろな関係性で成り立ってるんですよね。

それが思った以上に影響を及ぼしているという見方をする。その関係性だけにレンズを当てていくやり方になるんですけど。例えばこの問題も、さっき加留部が少し言ってくれたみたいに、若手が問題提起してプロジェクトを進めていたとすると。

ここにたぶんランクという関係があるんですね。入社した年次や役職が低い人が起案すると、だいたい潰される構造があると、実はそれも関係性として見ていくような問題になっていくので。

それがまっとうな起案で、代わりに社長が提案したら通るものだったら、それは関係性の問題だったりするんですね。

加留部:けっこうそれ、よくありそうなケースなイメージを持ってました。

長谷川:いや、確かにそうですね。

加留部:ランクって言うんですね。

長谷川:そうそう、ランクという問題として扱っていきますね。

加留部:なるほど。裕嗣さん、そのあたりについてコメントありますか。

山田:僕がちょうど先々週お話をうかがってきたのが、よなよなエールというエールビールを造っている、ヤッホーブルーイングさんという会社で。

彼らはチームビルディングという表現をしていますが、関係性にすごく時間を使っていて。必ずニックネームで呼び合うとか、毎朝必ずやる朝礼では基本的に雑談しかしないとか。

あとは社長の井手さんという方にお話をうかがったんですけど、新入社員が4月に入ってきたら、新入社員の自分への口のきき方をすごく丁寧に直すとおっしゃっていました。

「いや、先ほど店長もおっしゃっていた……」と言うと、「いやいや、おっしゃってたじゃなくて言ってたでいいよね」とか。「ちょっと社長におうかがいを立てて」というと「いやいや、聞くでいいよね」ということを、すごく細かくチュー二ングするんですって。それを15年ぐらいずっとやられてるんですよ。

そういうところから不要なランクが生まれるんだよねということで、大事にされてるんだと僕は思っていて。本当にそういうちょっとしたところから、会社には階層があって、役割が違ってというふうに、年次が上の人をリスペクトする以外の不要な上下関係が持ち込まれてしまう。そうすると、すごくチームビルディングが崩れていくと感じているので。

自然な序列ではない「余計なランク」は取り除く

山田:もう本当に地道に15年ぐらいそれをやり続けていて、チームビルディングもすごくちゃんと学ばれていて。だからこそ、一人ひとりが生き生きと自分のやりたいことができて、支え合えるような関係になるよねとおっしゃっていたのは、とても丁寧にそこに向き合っていると思いました。

そういう個体の扱い方をする会社もあるんだなというのが大変印象的で、感銘を受けたのがヤッホーさんでした。

長谷川:いやー、すばらしいですね。本当に言葉一つひとつにもこだわっていて、すごいなぁって思いますね。

加留部:それが習慣になっちゃいますもんね。

山田:まさに。

長谷川:無駄にへりくだったりとか。

山田:今日参加している人もたぶんトップというか、上の役職の方も多いと思うので、やっぱり上の方ほどランクが高いのは当たり前なので、その分情報が届きづらいのをどう……。

もちろん適切な役割とか責任の重さとかはあるし、自然な序列は大切なんですけど。余計なランクはやっぱりうまく取り除いていきたいなぁと思いますよね。

加留部:「ホラクラシーは細かいルールで作られたシステマチックな組織形態のように思っていましたが、関係性を扱うという話が出てくるのは意外でした」というコメントをいただいてるんですけど。

確かにホラクラシーだと、関係性はこれから入ってくるんじゃないかという話もあるんですが、けっこうシステマチックなもので。僕から見たRELATIONSと、途中から関係性を扱う必要があるよねということで扱い始めたと解釈してるんですけど。そういう感じで合ってますかね。

長谷川:そう。たぶん最初のホラクラシーはそういうところがすごく要素として強かったんですけど。最近はやっぱり関係性は大切だよねということで。

憲法もバージョンアップがどんどん進んでいって、今5.0とかなんですけど。(関係性は)そこではけっこう入ってきている要素ではあります。ただ独自のやり方を推奨している面もあるので、各社さんごとでけっこう実践の違いはあると思います。RELATIONSの場合は特に、自分たちで実践した関係性をホラクラシーに加えていっている色合いは強いなぁと思います。

加留部:ありがとうございます。

組織の話は、組織のことだけを語っても解消しない

加留部:いつの間にか20分になってしまいました。あとちょっとなので、ケース2は以上にできればなと思います。みなさんも、もしかしたら察知していただいてるかなと思うんですけど、ケース3がちょっと(時間的に)難しそうかなというふうになっております。

今後、お二方と話せる機会やイベントもやられていくようなので、ケース3の「次世代を担う人財の発掘」に興味があったり、意見を聞きたいというところがありましたら、そういう機会も活かしていただければなと思います。

ということで、最後にケース2か、ケース1・2を通してでもいいんですけど、何かコメントはありますか? 大丈夫そうですかね。

山田:じゃあ、1つだけ申し上げると、組織の話って、組織のことだけを語っても解消しないことが、いっぱいあるじゃないですか。それは経営の当事者である今日のみなさんも当たり前に感じてらっしゃると思うんですけど。

それは事業の環境が変わったら変わるしとか、会社のキャッシュの状況が変わったら変わるしとか。あと、メンバーのその時のコンディションでも変わるし。いくらでも変数がある中で組織づくりという観点で何を扱うかというのは、本当にみなさんが複雑な方程式をどうにかしようとしていると思うので。

「今何を見たいんだっけ」ということを、さっきの4象限のような感じで考えたり、「どの切り口で、どのレンズで何を扱いたいんだっけ」という問い自体がすごく大事だと思います。

今日もぜんぜん話しきれないことがたくさんあると思うんですけど、またいろいろなかたちで対話が重ねられるとうれしいなと思いました。

加留部:ありがとうございます。長谷川さん、最後に何かコメントございますか。

長谷川:そうですね。今日は情熱というテーマが1つあったと思うんですけれども、今の世の中は、やっぱり考え方も含めて本当にいろんなレンズが出てきているので。

これを学んでどう組織に当てはめていくかで、いろいろな色合いが見えてくるので、すごく大切だなと思う一方で、今、山田さんがおっしゃっていただいたように……。なんて言うんですかね。

「自分たちがどういうことをしたいか」とか、その時の状態によって答えが変わってくるので、自分たちで一つひとつ答えを出していくのが何よりも大切で。

やっぱり自律のスタートは自分で決めていくところからだと思うので。本当に根っこの深いところの思いから、それができるんだろうかと。その補助線として、このレンズはいろいろと使えると思います。そんな視点で、今日はみなさんに少し使えるようなものをお持ち帰りいただけるとすごくうれしいなと思いました。

加留部:ありがとうございます。ではトークセッションは以上にさせていただければと思います。2つのレンズを題材に扱わせていただきましたが、何かしらの武器というか、こういった視点で考えるとこうなるなというものをぜひご利用いただければと思います。