AIに代替されない人間の能力

本間正人氏(以下、本間):ChatGPTの4が出ましたけど、僕は「動物的」というのがこれからのキーワードになると思うのですよ。

佐野創太氏(以下、佐野):昨日出ましたね! 転職活動でも使い放題できます。(※2023年3月16日に開催されたイベントです)

本間:すごいね。

佐野:あれ、すごいですね!

本間:そうすると理屈で考えることに関しては、奴ら(AI)のほうが性能いいわ。

佐野:もう勝てないですね。

本間:でも我々人類に残されている、AIに代替されない能力の根幹に動物的直感がある。好きか嫌いかもそうだし、モヤ感と言ったけれども、いわく言いがたいこと。AIとの関係性で言えば定義ができないことに、どれだけこう意味を付与できるかどうかがすごく重要で。

僕たちは感情やアルファベットを見ているけれども、結局AIがやっていることはその奥に010101という電気信号があって処理している。だから01に転換できないことは、やはりAIは処理できないと思うんですね。

でも僕たちはもっとアナログな、言語表現できないことに対して、ものすごく膨大な情報を感じていて、それにまた意味を付与できることがとても重要なんです。だから動物的感性みたいなものが、今後ますます求められてくると思うんです。

佐野:情報が多い中で、動物的感性はけっこう鈍りがちというか。

本間:それはもちろん、鈍りがちでございますわよ。

佐野:(笑)。

本間:つい百数十年前まで、日本人の90何パーセントが農民をやっていて、土の匂いや花の香りの中にいて、スポーツジムに行っていた人なんていないわけですよ。「農作業イコール体を鍛える」だったわけじゃないですか。

佐野:確かに。

本間:だからその時には「どう体を動かしたらこの重い荷物をうまく運べるか」「この空気の匂いは雨が降りそうだな」「あそこにおいしそうな香りの果物があるな」みたいな身体感覚を、すごく鋭敏に感じていたはずなんですよ。つい百数十年前まで。今日はソニービルのすてきな空間の中にいますが、オフィスにいてごらんなさいよ。

佐野:(笑)。

本間:100年前に比べて、五感を使う度合いが確実に低下している。だから僕たちは生きていく中でアジェンダ(行動計画)の1つとして、動物的直観を研ぎ澄ますことを考えたほうがいい。今日僕は、えらくよくしゃべるんだけどさ。

佐野:ぜんぜん大丈夫。

自分の内側に意識を向けることの大切さ

本間:特に学校教育は、自分の外側に意識を向けていくんです。だって自然科学、理科といったら、生物であれ天体であれ観察するじゃないですか。意識が外に向くわけ。社会科だったら地理だと地図だし、歴史だと年表だし、何が起こったかを組織図などで分析するじゃないですか。意識がみんな外側に行くわけ。

でも例えば中高校生が1週間に30時間学校に行っていて、自分の内側に意識を向ける時間は、さて何時間あるでしょうか。

佐野:ほとんどないですもんね。

本間:だからさ、自分の内側を感じるトレーニングがないのですよ。武術、ヨガや瞑想をやってみたりしないと。Googleのキャンパスにはメディテーションルームがあって。

佐野:ええ。やっていますもんね。

本間:自分の内側に意識を向けてみようということは、人類のフロンティアが人間の内側にあることをかなり明確に意識しているんじゃないかなと、僕は思うんですよね。

佐野:人類のフロンティアは内側に。

本間:そう! よくしゃべるんだけど。

佐野:(笑)。

本間:人類は、外側にフロンティアを求めてきたわけです。最初は部族社会、村社会じゃないですか。ちょっと隣の村まで行ってお嫁さんを探してこようかな、そういうことをやっていたわけだ。

もっと遠くに行くお調子もんがいて、船で太平洋に行っちゃったり、今まで誰も超えたことのないあの山を越えて、向こうに行っちゃったり、そうやって人類はアフリカから始まって、だんだん広がっていったわけじゃないですか。

それで遠くのものと交易をすると、いろいろな価値が生まれる。公益、貿易という比較優位なことがだんだんわかってきて、スパイスを探して大きな船を使って新大陸へと漕ぎ出し、宇宙空間や深海の底や、外へ外へフロンティアを拡大することで、科学技術文明を進化させた。

でも、例えば僕たちは脳のことをほとんどわかってない。免疫のことも実はほとんど知らないわけで、そのうち「昔の人は盲腸を本当に切っていたんだね。あんなに重要な役割をしている臓器なのに」となってくるんじゃないかなと、僕は思うんですよ。

実は自然が作り上げたものの中には、1つとして無駄なものはなくて。僕は「未科学」と言いますが、僕たちがまだ発見していない未科学的な価値が、僕たちの人体や意識の中にもまだあって、そこが次なる文明のフロンティアになる。特にAIが発展していったら、そっちがすっごく重要になってくると思うんですよね。

AIとキャリアの相性の良さ

佐野:AIとキャリアは、実はすごく相性がいいと思っていて。

本間:本当に本当に。

佐野:キャリア相談をやっていて、それこそ転職がどうのこうので志望動機が書けないという話がすごく多い。会社の情報を打ち込んでから「志望動機をちょっと書いて」とAIに打ち込んだら、今けっこう志望動機を書いてくれるんですよ。

本間:書いてくれますわよ。

佐野:それを見て、自分らしくないところを変えたら。

本間:ちょっと修正してね。

佐野:いいように書けるのがすごくわかって。その人は転職活動がすごくはかどったんです。いいですよね。

本間:だから、文章を書くことがノーストレスという人は別として、文章を書くが大変、つらい人は、ChatGPTを使ったらいいんです。昔は計算するのに手計算。それがそろばんに、電卓になり、Excelになり、今はもっと自動的にいろいろやっているわけじゃないですか。

同じように文章の作成も「昔の人は原稿用紙を使い、ワープロの専用機を使い、PCでWordなどワードプロセッシングソフトウェアアプリがあったんですね」という時代になる可能性があるわけです。

僕たちが脳波で感じ取った想念が、もうきれいな文章になっているなんていうのもあるかもしれない。

佐野:確かにありますね。テレパシーじゃないけれど、内面にあるものと外側に出てくるものがつながる時代がきちゃうんですよね。

本間:本当にそう思うな。

人生100年を24時間に換算する

本間:今、ちょうど受験シーズンが終わったぐらいなのかな。お子さんがいらっしゃる親御さんは、短期的な受験に一喜一憂しなくていいですよ。人生100年時代ですからね。今いくつになったんだっけ。

佐野:僕ですか? 僕は今年で35歳で子どもは2歳9ヶ月です。

本間:2歳9ヶ月。35歳はまだ人生の3分の1だということですよ。朝の8時15分、そのぐらいですね。僕は人生100年を24時間に換算してみようと提案していて。昭和の年齢感覚に振り回されてちゃダメよと。郷ひろみは67歳だからね。

佐野:テンションが高いですもんね。

本間:「君たちおばあちゃん、僕たちおじいちゃん♪」に見えないじゃないですか。

佐野:元気ですもんね。

本間:吉永小百合さんは78歳ですわ。

佐野:あ、そうですか! そう言われるとびっくりしますね。

本間:後期高齢者だわ。

佐野:(笑)。

本間:でもあの人を捕まえて、絶対におばあちゃんだと思わないじゃないですか。

佐野:思わないですね。

本間:1日24時間で換算すると、50歳の人がお昼の12時。僕が今63.5歳なんですけど、午後3時15分とかだね。僕は甘党なんですけど「おやつを食べて、まだこれから仕事するもん」という感じですよ。

後期高齢者の75歳が夕方の6時ですわ。「晩ご飯食べて残業するか」という人もいれば、「いやこれから盛り上がるぞ」というのが、今時の75歳です。

佐野:元気ですもんね。

本間:だから日本社会で蔓延している、高齢者をお荷物扱いするのも、絶対にやめたほうがいい。みなさんもイメージが湧くと思うんですけど、昔は10人の労働人口で2人の高齢者を支えていました。これが4人の労働人口で2人の高齢者になり、そのうち1人の労働人口で1人の高齢者を支えますと。2歳のお子さんの未来が明るいかという話ですよ。

佐野:暗いですもんね。

本間:逆に考えようと。だってAIやロボットが、高齢者の働く能力を高めてくれるわけ。だから高齢者を年金をもらって福祉サービスを受けるお荷物にするんじゃなくて。

高齢者の「記憶がどうも」なら、AIにサポートしてもらえば、人間にしかできないことが残るわけだ。子どもの数が減っていくから、2歳のお子さまなんてもう社会の宝物ですからね。

佐野:宝です。

本間:高齢者が増えて労働人口がボンボン増えていく。子どもの人口が減っていて、去年は80万人もいないんだよ。子どもの数が減っていくんだから、これをお神輿する上に乗っけたら、支える人口が増えてどんだけ明るい社会になるか。言っていることが、わかります? 

そっちの未来にしたほうがいい。僕たちが本当にAIやロボットと仲良くなって、使いこなしていくという。働き方改革なんか言っている場合じゃなくて、抜本的に社会が変わるんだと思ったほうがいいですよね。

定年の60歳はまだ午後3時

佐野:それこそ今回の参加者の参加動機を見ていたら、「そろそろ定年を迎えます」という転機や意思決定を迎える方がいて。今(本間先生の)お話を聞いていると「いや、定年とか言ってないで、まだまだやれんぞ」という感じもあると思うんですが、どう定年という節目を迎えていくといいんでしょうね。

本間:視野を広く持つことだと思います。今日の視聴者はソニーの方が多いわけでしょ。東南アジアやアフリカに行って「ソニーで働いていました」と言ってごらんなさいな。神と言われますから。できることがいっぱい。

日本にいたら、人口減少社会だ、超高齢化だ、少子化だと景気の悪い話ばっかりだけど、ちょっと海外に出たら、経済成長率10パーセントで成長している国がバンバンあるわけじゃないですか。ナイジェリアなんて人口2億人、インドネシアは3億人じゃないですか。その人口で10パーセントの経済成長率でガンガンと成長している。

ソニーで働いていた人は、何でも作れますよね。だからちょっとリスクテーキングする必要はあるけれども、じっと座して死を待つほうがよっぽど大きなリスク。体が動くうちに、一気に海外で勝負に出るぐらいのことをやったらいい。「ええ!? 語学が」という声が、今聞こえたけれどさ。

(一同笑)。

本間:語学はDeepLやChatGPTが、いくらでもお手伝いしてくれる時代になったんですよ。だから雑談やカジュアルな英会話は難しいけれども、ビジネス英会話なんて一番優しいんだから。

主語、動詞、目的語もはっきりしていて、「私はあなたからこれを買います」「私はいつまでにこれを作ります」「いくらの値段で」という約束なんて、DeepLが正確に訳してくれる。恐るるに足らずですよね。

特に技術、営業やクオリティコントロールなどの技を持ってる方は「ソニーで何年働いてきました」というのは宝物です。まさに強みですから、それを最大限に活かしていただいたらいいと思う。

だって60歳はまだ午後3時ぐらいなんだから。これからですよ。実際元気で、エネルギーが有り余っているんだから。

ChatGPTでは見つけられない自分の強み

本間:僕、いっぱいしゃべっているよ。

佐野:ぜんぜんしゃべっていただいて大丈夫です。スライドは作ったんですけど。

本間:スライド、何だっけ? もう打ち合わせしたっていうこと自体を忘れているからね(笑)。

佐野:(笑)。

本間:それとか高齢者になってくると、昔のことを覚えているんですよ。郷ひろみの昔の歌とか覚えてんだけど、最近のことがわかんない。

佐野:最近のこと、一応こんな感じで(スライドを)作っていて。

本間:なんて素敵なんでしょう! でもいきなり本田さんって書いてあるところがさ。

佐野:でも、ちゃんとソニーの創業者、井深(大)さんの本に書いてあったやつです。

本間:「本田さん」というのは本田宗一郎さんだね。

佐野:そうです。そうです。

本間:了解了解。

佐野:(スライドを読んで)「私も本田さんも、この技術があるから、それを生かして何かということはまずしませんでした。最初にあるのは、こういうものをこしらえたいという目的・目標なのです」という言葉があったので。

今日はゼロストレスなキャリアに興味を持った方から、事前にたくさんのコメントをいただいていたんですよ。「ゼロストレスなんてできるんですか」というコメントもやはりありましたし。

本間:僕は専門家じゃないですけど、ストレスマネジメントの専門家からすると「ゼロストレス」というのは多少語弊があるでしょうね。ストレスは高過ぎてもいけないし、低過ぎてもいけない。適正なストレスレベルというのがある。でも適正なストレスレベルにいる時はストレスを感じないから、そういう意味では実質的に「ゼロストレス」と言ってもいいんだろうと思います。

それはやはり「好きこそものの上手なれ」で、好きなこと。自分が向いているなと思ったり、楽しく感じることをやってみるということなんだろうと思うし、今、モヤっとしているという人は、過去を振り返って、自分が一番楽しんでいた時は何だろう? 何をやってる時だろう? 「あの求人票書いてる時だった」みたいな。

佐野:それ、佐野です(笑)。

本間:そういう自分の過去にヒントがあって、それはChatGPTは教えてくれないわけですよ。「私は佐野創太です。私が一番ストレスフリーな時はどんな時でしょうか」という質問へのカスタマイズした答えはChatGPTは出してくれない。

「こういう時にストレスレベルが下がります」という一般論ならChatGPTはいくらでも言えるけど、私用にカスタマイズした答えは出してくれないので、自分の内側を自分で探索するしかないと思います。

佐野:AIは一般論を過不足なく網羅的に出力してくれます。人間はその出力結果に刺激されて、自分だけの本音や強みと出会い直す。そんなAIと人の関係が作れそうですね。