読売広告社・小学館を経て、ブランドコンサルタントに

守山菜穂子氏:それでは、「企業が抱える課題を解決する~今、求められるブランディング~」というテーマで、ここから45分間お話しさせていただきます。今日はお集まりいただきありがとうございます。

私がこちらのマーケティング・テクノロジーフェアでお話しさせていただくのは2016年、2017年、2018年と3回あって、今日は4回目なんですね。4年ぶりになるんですけど、その間コロナ禍で展示会がなかなか厳しかった時代もあったと思います。今日は、この場所でみなさんにまたお会いできて、すごくうれしく思っています。

あらためまして、私、守山菜穂子と申します。今は東京の渋谷区で株式会社ミント・ブランディングという会社を経営しており、代表取締役/ブランドコンサルタントという肩書で活動しています。

私は大学で広告デザインを学んだ後、広告会社の読売広告社と、出版社の小学館に、合計16年間勤めていました。出身は広告屋さんという感じなんですが、2014年に独立し、2017年に法人化いたしまして、現在のブランドコンサルタントという肩書で9年目になります。

現在は、いろいろな企業さんやクリエイターさんに向けて、ブランディングやメディアの扱い方、宣伝・広報の技術や心がまえをお伝えしています。年間50日ぐらいは、こういう企業研修やセミナーでお話をしています。当社主催のセミナーの際は、表参道にある小さいセミナールームにお越しいただいたりもしています。

日本企業の抱える課題をブランディングで解決

そして、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会という団体のエキスパートトレーナーを務めています。入り口で、みなさんのお手元に、紫色の牛のマークのパンフレットをお配りしたと思うんですけれども、こちらの協会です。

ブランド・マネージャー認定協会は東京・新宿に本部があり、2008年に発足して、2009年に一般財団法人になりました。全国に約120名のトレーナーが在籍していて、私もその1人なんですね。今日も会場に何人かトレーナーが応援に来てくれているんですけれども、全国でブランディングに関する講座や企業研修をしています。

会社員の方で、自社の中にブランディングを導入して定着させていきたいということで、社内教育のためにトレーナーの資格を取っている人もいます。

あとは書籍やイベント、シンポジウム。受講生同士のコミュニティやトレーナー同士のコミュニティがあって、私も日頃こちらに書いてあるようなブランディングの講座をやっています。ブランド・マネージャー認定協会で、「ブランドとは何か?」「ブランディングとは何か?」という定義がありますので、今日の前半は、そのレクチャーをちょっと抜粋してお話ししたいと思います。

後半は、非常に先が見えにくい時代の中で、企業さんがいろいろな課題を抱えていらっしゃると思うので、その課題をブランディングという手法でどうやって解決していくかというお話をしていきたいと思っています。

今、日本の企業が抱える課題は非常にたくさんあります。原材料費が高騰していて、「値上げしたいけど、お客さんが離れていくんじゃないかと心配」とか。

少子化、人材不足で採用が非常に難しい。採用会社さんや人材会社さんにお願いしても、ものすごく費用がかかるとか。もちろんアルバイトの方や従業員のお給料も上げていかなきゃいけないという部分。

それから、ESG経営やSDGsという世界的なテーマについても、みなさんが「やらなきゃ」「でも何からやるかな。それって儲かるの?」というところで、なかなか食指が動かないとか。

あとは、そもそも国の人口が減少しています。日本語を使うユーザーさんが減っている。だから、日本語で商売をしているみなさんは、これからどんどん見込み客が減っていく時代に入るんですけれども。

あと、地方でご商売をされているみなさんは、地域自体が過疎化してしまっているとか経済が弱ってしまっているとか、都会の人も可処分所得が減っているといった、日々新聞やテレビを賑わせているようなたくさんの課題があります。

そもそも「ブランド」とは何か

今日、私がお話ししたいのは、「日本の企業が抱える課題は、実はブランディングで解決できる!」ということです。「ちょっと大風呂敷を広げすぎかもしれないな」とみなさん思っていますか? 私もちょっと緊張しながら広げているんですけれども(笑)、最後はちゃんと回収したいと思っています。こんなテーマでがんばってお話ししていきます。

今日は「ブランディングで日本を元気にしたい」というテーマです。ブランディングって、単におしゃれに見せる演出とか、きれいにすることとは、ぜんぜん違います。企業が抱える経営課題を、ブランディングという統合的な手法で解決できる。そういうアプローチがあるという、今日はさわりのお話をしたいと思います。

内容としては、BtoB、BtoCのどちらにも対応できます。今日はどちら(の事業をされている方)もいらっしゃっていると思いますが、「うちはBtoBだからブランディングは関係ないよ」と思わないでください。関係あります。

あと、ブランディングは実は長期的に取り組むものなんですね。正直、3ヶ月では成果は出ないです。3ヶ月でブランドを構築する準備はできるんですけど、結果が見えてくるのは、やはり1年とか3年とか10年というスパンになるんですね。

経営の非常に本質的な方向性なので、結果が出るのはちょっと時間がかかるんですけども。「なぜ時間がかかるのかな?」「なんですぐ売上が上がらないの?」とよく言われますけども、今日はそういうお話をしていきたいと思います。

では、まず前半の「ブランディングの基礎」ということで、用語の整理ですとか、「ブランディングってそもそも何なの?」というお話をしていきたいと思います。

こちらがブランド・マネージャー認定協会による「ブランド」の定義になります。読みますね。「ある特定の商品やサービスが消費者・顧客によって識別されている時、その商品やサービスを『ブランド』と呼ぶ」。

「ある特定の商品やサービス」というのは、みなさまが作っている商品やサービス、もしくは会社そのものだと思ってください。だから、自社や自社の商品が消費者、顧客、お客さまによって識別されている時に、その商品やサービスを「ブランド」と呼びます。これが「ブランド」の定義になります。

「ブランドか否か」は消費者・顧客が識別できるかどうか

文字だとわかりづらいと思うので、絵にしていきたいと思いますけど、向かって右側が企業です。(企業が)みなさんの会社で、ここにいる人がみなさん自身だと思ってください。向かって左側がみなさんのお客さまです。BtoCの場合は「消費者」と呼ぶと思いますし、BtoBの場合は「顧客」と呼ぶと思いますが、左側がお客さまです。

まず、消費者・顧客が御社の商品やサービスを見て識別できる。「これはあの会社の商品だ」「サービスだ」とわかる状態がブランドであるということです。なので、企業が商品を「ブランドでーす」と言って出しても、お客さまが識別できなかったらぜんぜん意味がないですね。

こういうことがあると思います。似たような商品がいっぱいあって、どれもあんまり(違いが)わからない。BtoBでも取引先がいろいろあって、どこが出してくるご提案もあまり変わらないという状態は、ブランドじゃないということですね。なので、「ぱっと見てわかる」「理解している」「識別できている」ということが、ブランドの状態になります。

私、今日はお昼過ぎに来て(会場を)見ていたんですけど、みなさんは、この会場にいらっしゃって、知っている会社はありました? 「この会社は知っている」「これはうちの会社で導入している」とか、「CMを見たことがあるよ」「取引先が使っているから聞いたことがあるよ」とか。わかった会社は、みなさんにとってブランドだということです。

すごく有名かもしれないけど、自分はぜんぜん知らなかった、わからなかった。「へえ、こんな会社があるんだ」と。それは、自分にとってはブランドじゃないということですね。「識別できる」というのはそういう意味です。会社名やロゴや看板を見て、わかったか。

スライドの一番下に書いてあるのですが、「『ブランド』か否かは消費者・顧客が識別できるかどうかによる」というのが、ブランドの定義です。

ブランディングって、結局何をすればいいの?

次は「ブランディング」の定義です。ブランディングはどういうふうにするのか。まず、同じく向かって右側の企業は、「ブランド・アイデンティティ」という名前の旗印を立てます。「私たちはこういう会社だと思われたい」「こういう商品を作っている人たちだと思われたい」という旗印を明確に立てます。自分たちのことを自分たちでしっかりと言います。

そうしますと、それを見たお客さまの頭の中に「ブランド・イメージ」というものができます。「あなたたちのブランドをこういうふうに思っているよ」とお客さまが思うんですけど、これ(自社の旗印とお客さまのイメージ)を一致させる行為が「ブランディング」です。

なので、みなさんがやらなきゃいけないことは、まずブランド・アイデンティティをはっきりさせることです。そして次にやることは刺激を作ること。刺激というのは、具体的には「ブランド要素」と呼ばれるもの。

会社のロゴやコーポレートカラー、キャラクター、あとは音楽を使う時もあります。ブランド要素は全部で9つあり、それらを使ってお客さまに刺激を送っていきます。

もう1つは「ブランド体験」と言います。例えば接客や、ホームページからECサイトに流れていく時の導線など、時間軸に沿って設計していくものをブランド体験と言うんですけれども。これらのものを企業が作って、お客さまに送っていくことで反応が生まれて、それがブランド・イメージにつながっていく仕組みになっています。

「ブランディングって何から手を付けたらいいかわからないんだけど」「言葉は聞いて知っているけど、結局何をすればいいの?」というのは、よくある質問なんですけれども、私たちにとっては非常に明確です。

まず、「ブランド・アイデンティティ」を作りましょう。そして、「ブランド要素」と「ブランド体験」を設計して、お客さまに対して「刺激」を送っていきましょう。こういうステップでご案内しています。スライド一番下にある「ブランディングとは、ブランド・アイデンティティとブランド・イメージを一致させるために刺激をコントロールしていくことである」。これが「ブランディング」の定義になります。

ブランディングによって、顧客と企業側が得られるメリット

続きまして、ブランディングをするメリットをお話しします。みなさんは今日ここに、「ブランディングって何かメリットがあるよね」と思ってお越しいただいていると思うんですけれど。具体的には全部で8個ありまして、消費者・顧客側のメリットと、企業の側のメリットをそれぞれご説明したいと思います。

まず、消費者・顧客側のメリットですね。1つ目は、「購買時の意思決定が容易になる」。つまり、迷わず決められるということです。例えば、みなさんが冷蔵庫が壊れてしまって、家電量販店に購入に行った時に「メーカーはここかな」とか、だいたい決まっていたりしません?

もちろん型番を見たり、容量を見たり、メーカーさんのパンフレットなどでいろいろ比較するんですけど、「この会社で買いたい」ってだいたい決まっていたりしませんか? 車を買う時も、だいたい決まっていたりしません? 

強いブランドであればあるほど、決定が容易になり、みなさんがイチ消費者として迷わなくなる。結局、これがお客さまにとってのメリットです。

2つ目は「ブランドのイメージと自分自身を重ねることができる」。(ユーザーが)ちょっと喜んでいる絵にしてみたんですけど、そのブランドの商品を買った自分がすてきな感じがするということです。

「このブランドを買っている私は、目利きのような感じがする」「洗練されている感じがする」「賢い感じがする」。逆に「すごくコスパが良くて、買い物上手のような感じがする」とか。ブランディングがうまくいっているものを買う時に、お客さまはすごくうれしく感じるというメリットがあります。

ブランディングのゴールは「自社のため」だけではない

3つ目。「モノやサービスだけじゃなくて、『情緒的な価値』も手に入れることができる」。例えば腕時計をイメージしていただきたいのですが、腕時計の基本的な機能は「腕に巻きついて落ちない」「遅れずに時を刻む」ということぐらいですね。

だけど、みなさんが腕時計を買う時は、おしゃれかどうか、歴史があるかどうか、人と被らないかどうか。いやいや、むしろみんなと同じがいいとか。いろいろな情緒的な価値を求めているものなんですね。他にも、雑誌に載っていたから、あのタレントさんがしていたから、誰々がお勧めしてたから、憧れの先輩と一緒に同じブランドを着けたい……とか、いろいろあると思いますけど。

こういう、モノ以外の価値を「情緒的な価値」と言います。ブランディングがうまくいっている企業は、この情緒的な価値の作り方が非常に上手です。モノだけを売っているんじゃなくて「価値」を売る。サービスを売っているのではなく、サービスを取り巻く「価値」を売っている。それがわかっています。ブランディングがうまくいくと、お客さまは情緒的な価値も手に入れることができます。

4つ目は「信頼できるブランドを購入することで、リスクの回避ができる」。「◯◯メーカーで家を建ててもらったら、まあ間違いないだろう」とか「◯◯社で車を買えば、まあ間違いないだろう」。「◯◯社のハンバーガーだったら、時間以内にちゃんと出てきて、それなりにおいしいものが食べられるだろう」という安心材料になるんですね。

信頼できるブランドであることは、その人にとって安心であるということです。これがお客さまの側から見たブランディングのメリットです。みなさんがブランディングをがんばると、お客さまの側にこんなにたくさんメリットがあるんですよ。

だから、みなさんはぜひ「お客さまのために」ブランディングをがんばっていただきたいなと思います。「自社のために」はもちろんなんですけど、お客さまを喜ばせることができる。

私がブランディングで好きなところは、ここなんですよ。「我が社のためにやるんじゃなくて、我が社のお客さまを喜ばせるためにやろうじゃないか」「お取引先に喜んでもらおうじゃないか」。こういう面もあるのが、ブランディングの非常におもしろいところかなと思います。

価格競争からの脱却や、マーケティング効率の向上につながる

次に、企業の側のメリットですね。もちろんこれはみなさん気にしていらっしゃると思います。1つ目は、プレミアム価格での販売が可能になります。「価格決定権を得る」という言い方もあります。価格競争が厳しいジャンルの方ほど、ぜひブランディングに取り組んでいただきたいんですよね。ブランディングに取り組めば、価格競争から抜け出すことができます。

2つ目は「参入障壁を築くことができる」「法的な保護が受けられる」です。ブランドを取り巻くロゴや、タグライン・キャッチコピーといった言葉は、商標や著作権などで保護されるんですね。なので、競合他社よりも早く自社をしっかりとブランディングしていくと、やっていることをトレースされることが減っていきます。

3つ目は「マーケティング効率が高まる」「指名買いが起きる」。今日はマーケティングフェアということで、このへんにご興味がある方は多いかもしれませんが、その会社を覚えているということは、指名買いにつながっていくということなんですね。

例えば広告を打ったとしても、広告費がムダに消えていくようなことがないです。お客さまの側に蓄積されていきます。WebサイトやSNS、パンフレットなどのいろいろなツールを使っていると思うんですけど、それが全部1つのブランドに価値が集約されていくので、マーケティング効率が高まると思います。

4つ目は「自社ブランドと社員の一体感」「意思統一と社員モチベーションの向上」というふうに書いたんですけども。「私たちはこのブランドの下で働いているんだ」という強い気持ちが起きるので、離職率も減っていきますし、そのチームが強くなっていく感じですね。

あとは意思統一が速くなります。「これはどうする?」と、いちいち全部、部長や社長に確認することがなくなります。「このブランドとして、この事業はやるべき」「このブランドとして、こういうことは絶対にやってはいけない」という判断がつきやすくなるんですね。

私はよく「ブランドはこう振る舞うべき」というルールを決めたら、新入社員でも判断できるようになると申し上げています。そういう意味で、非常に意思統一がなされていきます。あとは新卒採用、中途採用、アルバイト・パートさんの採用にもプラスになっていきます。ということで、企業側はブランディングによって、こんなにたくさんのメリットがあります。

企業の経営全体に関わる「ブランド戦略」の意義

前半の座学の最後のページです。「ブランドと企業経営の関係」という図を持ってきました。これは「ブランド戦略ピラミッド」というもので、ピラミッド全体でブランド戦略を示しているんですけど、その内訳がどうなっているかお話をしていきます。

まず、三角形の土台には「経営理念(ミッション・ビジョン)」があります。「うちの会社はなぜ社会に存在するのか」「うちの会社は、そもそも何のために、お客さまにどういうものを提供したくて、事業をやっているのか」を考えるのが経営理念ですね。

その上に乗っているのが「経営戦略」です。今日、経営者の方がいらっしゃっていたら、みなさんのお仕事という感じなんですけども。会社がどういう事業をやっていくのか、何にお金を投資していくのか。長期のことを考えて、どうお客さまに喜んでいただくのかという会社の根幹を考えるのが経営戦略です。

ここから顧客にフォーカスすると、「マーケティング戦略」になります。今日のマーケティング・テクノロジーフェアは、いろいろな会社さんがたくさんのツールを出されていますが、お客さまに対して何をするかを考えるのがマーケティング戦略です。

例えば「EC(電子商取引)でリピーターさんを増やそう」「Aの商品を買ってくれている人にBの商品をご案内しよう」と、お客さんに対していろいろ施策を実施していくのがマーケティング戦略です。

それをさらにメッセージ化したものが「コミュニケーション戦略」になります。例えば「Webサイトをどうする?」「パンフレットをどうする?」「広告はやるの? やらないの?」「どこのメディアでやるの? テレビなの? 新聞なの? SNSなの?」とか。どういう言葉遣いをして、どういう写真を使って、何を伝えていくか。それがコミュニケーション戦略です。

これらは全部一貫している必要があるんですね。当たり前ですが、経営戦略とぜんぜん違うコミュニケーションをやってしまうと意味がないので、土台にある経営戦略に基づいて、コミュニケーション戦略を作っていくのが企業の事業の作り方です。

ブランド戦略はピラミッド全体です。なので、経営理念も経営戦略も理解していて、マーケ戦略を作りながら、コミュニケーション戦略を作っていく。これを筋を通してやっていくのがブランド戦略になります。

例えば、「うちの部署のアルバイトさんが絵を描くのがうまいから、あの人にブランディングを担当してもらおうか」というのは間違いですね。経営戦略がわかる人がブランド戦略も作るというのが、会社の中での正しい設計の仕方になります。マーケティング戦略は、ブランド戦略の中核となるものであり、ブランド戦略は企業の経営全体に関わることです。