プロティアンキャリアの3つの概念

安田雅彦氏(以下、安田):法政大学の田中健之助先生の「プロティアンキャリア」ってご存じですか? 僕はこのプロティアンキャリアがけっこう好きで、田中先生は3つの概念があると言っているんですね。

1つ目は、キャリアは個人と組織のより良き関係を作るものだと。キャリアを追求するということは、組織と個人が良い関係になっていくということなんですね。

2つ目が、キャリアの成功とは、個人が心理的成功を味わうこと。要するにキャリアがうまくいくことで、個人が心理的成功を味わう。当然、これはエンゲージメントにつながるわけですね。

3つ目が、キャリアはいつからでも開発が可能だということ。若い人だけじゃなく、ハイレベルの人だけじゃなく、キャリアは誰でもいつからでも開発が可能なんだという考えです。

ということは、価値あるキャリアが得られるということは、結果的に組織が高いエンゲージメントを生み出すことになると。いかに個人が価値あるキャリアを得られる組織でいるか。そして、いかに個人のパーパスと共感するパーパスを有する組織でいるかが非常に大事になってくると考えています。

ジョンソン・エンド・ジョンソンで使われた言葉「ターゲットジョブ」

ここでまた具体的な話になるんですけど。これは、さっき少々お話しした私のキャリアです。

後付けみたいな話ではあるんですが、私は5社経験していますが、振り返って見れば、各々の節目で「何を得るか」を考えながらキャリアをチェンジしてきたような気がします。

スライドの一番上を赤くしたのは、私の中で一番インパクトがあったことですけど、最終的にその国の人事の責任者になりたいという想いがあって、その間のパズルのピースを埋めていく感じで、それぞれの会社でエンゲージして、成果を出すためにがんばったところがあります。

ジョンソン・エンド・ジョンソンで使っていた言葉で「ターゲットジョブ」というものがあるんですけど。自分の目指す仕事があって、そこまでのギャップを埋めるために、実務を重ねていくことが非常に大事で、たぶんリスキリングも同じ考え方だと思うんですよね。

そのためには、みなさん自身が今どういうスキルを持っていて、客観的に見てそれがどのように発揮されているか。将来就きたい仕事に必要なものは何かをきちんと把握することがとても大事だと思います。

この後カオナビさんやUMUさんのお話も出てくると思うんですけど、そういう仕組みやソリューションを持つところは非常に有効かなと考えています。

もう1つ。すでにいろんな会社さんでもやってらっしゃると思うんですけど、キャリアはプランすべきだということ。

簡単に言うとこれまではこのようにやってきて、今はこうで、将来はこうなりたいということをちゃんとプランするというところ。プランがあってのリスキリングだと思うので、これをきちんと作ると非常に効果があると思います。

社員に「外で通用するチカラ」を育むことの重要性

(スライドの)組織におけるキャリア開発の考え方ですけど、やはりリーダーとスタッフのそれぞれにキャリア開発の役割、責任があるということなんですね。

部下の能力を引き出して育てるのがリーダーの役割というのはわかると思うんです。スタッフのやる気を引き出して、エンゲージメントを高める。そして、スタッフのキャリア開発を積極的にサポートする。

一方で働く側の人間も、自己のキャリア開発に真摯に取り組んだり、キャリア機会に積極的にチャレンジするという姿勢が非常に重要で、組織がそれをポリシーとして持つことが肝要かなと思います。結果的にそれが組織のミッション・ビジョン・バリューやパーパスに紐づく中長期のゴールにつながっていきます。

もうちょっと言うと、このキャリアプランや、あとでお話しするキャリアカンバセーションの仕組みを持つことが大事です。「外で通用するチカラがつく組織」に人が集まってきます。そのような力を育むことが、これからの企業の1つの責任だと思います。

ちょっと余談ですけど、外で通用するマーケットバリューのあるケイパビリティを持つことがこれからの良い企業の1つの定義だという話をすると、「そんなこと言ったら、みんな転職しちゃいます」とか、「転職を奨励してるんですか」ということをけっこう言われます。

私自身が転職で成長しているので何とも言えないところはあるんですけど、外で通用するチカラがつく組織になると、結果的にはエンゲージメントが上がって、定着は良くなるはずなんですね。

よしんば外に出ていったとしても、僕は長いこと人事をやっていますからわかりますけど、レジュメを見て、「あ、この会社だったら採りだよ」という会社ってあるんですね。成長機会を目指して優秀な人が集まってくるので、やはりこれからの組織開発はいかに成長機会を作るかが重要になると思います。

外資系企業の「タレントレビュー」で必ず出る質問

ちなみに、私はグローバルカンパニーでの勤務経験が4社なんですけども、どこも共通して言っていたのが、キャリアを実現するために重要なことは何かというところ。(スライドは)それをまとめたものです。

1つは実績で、もう1つは将来行きたいキャリアに必要な能力。これは表裏一体ですよね。能力があるから、実績がある。実績があるから、能力があると推定できると考えると、もう1つ大事なのがアスピレーション。やる気なんですね。

昇格や新しいお仕事をアサインする時に、私が過去にいた在籍した会社の鉄則はアスピレーション。やる気がない人には絶対にやらせない。

従って、「タレントレビュー」と言って毎年評価調整会議などのあとに一人ひとりについて、今後の人材育成方針を話すことがよくあるのですが、その中で「アスピレーションはどうなんだろう?」という質問が必ず出るんですよね。

上位職にいきたい、より高い、より良いキャリアを求めたいという気持ちが本人にあるかないかが、会社の中で重要な仕事をアサインメントする上でも不可欠だという話です。

ちなみに、このアスピレーションを高めるには、失敗から学ぶことです。失敗を恐れないことが成長を実現します。失敗を恐れない組織文化や職場の文化が非常に有効だと感じます。

日頃の仕事の中で「成長機会」を作るための取り組み

(スライドは)キャリアプランをどう作るかですね。

日頃の目標設定も同じですけど、より具体的にきちんと切り刻んで考えること。私はよく「将来のビジョンを手元に近づける」という言い方をします。

強み、弱み、何が足りないか。3年後、1年後、半年後、3ヶ月後、来月と切り刻んでいくと、将来のビジョンが実現可能なアクションのレベルまで寄ってくるんですよね。なので、こういうことをきちんとして、キャリアプランを組み立てましょうという話です。

もう1つ。実務的なところで、「日頃の仕事の中でいかに成長機会を作るか」が重要ですね。

最近、私は顧問先の評価調整会議に出席するんですが、評価結果で前期はどうだったか。なんでうまくいき、なんでうまくいかなかったのか。そこからわかる強み・弱みを考えて、来期はどんなチャレンジをしようという話をする。

この目標設定や、評価・フィードバックをやる時に、必ず将来のキャリアの話をされるといいと思います。

さっきターゲットジョブと言いましたが、来期のチャレンジはあなたが将来就きたい仕事にどう貢献するんだろうかと。あなたが将来行きたいところに、来期こういう取り組みをやることが結びつくよねと。

言い方を変えると、将来こういうことがやりたいんだったら、今回のプロジェクトでピープルマネージメントに近しいことをやってみようよとか。今度のプロジェクトの財務分析のタスクをあなたがやったら、将来のファイナンシャルプランニングの仕事に近づくんじゃないのとか。

評価のフィードバックをして、来年の目標を立てる流れの中でキャリアの話をすることが、すごく大事なわけです。日頃の仕事と成長機会が結びついているという会話を、会社の仕組みとしてある程度計画的にやっていく。

みなさんも自分が成長したポイントとか、ブレイクスルーしたポイントが何かと考えると、「○○の管理職研修だった」ってあまりないですよね。あの時の上司に言われたこととか、あの時にすごく苦労したことが今の成長につながっていると考えると、職務能力の80パーセントはオンザジョブ。日頃の仕事の中で成長していくと考えたほうがいいと思うんですね。

なので、いかに日頃の仕事の中で、どんな成長機会があるかとか、将来どういうふうになりたいのかというキャリアカンバセーション。

来期の仕事で言ったら、こういうことは役に立つよね、というような話。今のあなたの強みはこれで、伸び代はこうだから、もうちょっとあのエリアでの顧客開拓をがんばったほうがいいんじゃないみたいな。

そういう話をきちんとしていけば、いわゆる評価面談などの今ある仕組みの中でキャリア開発の一歩を踏み出せるし、対話でサポートすることができるのではないかと思います。

自分のキャリアプランを作る時のキークエスチョン

そして、目指すキャリアをどう考えるかというところですが、(スライドの)これはよく僕がワークショップでやることです。

3年後、1年後、半年後のビジョンと現状。強みや伸びしろは何か。キャリアに何が必要か。

あと、6ヶ月以内に何をするかというアクションプランがすごく大事です。こういうことを評価レビュー、フィードバックの中で合わせてやってみるといいかなと思います。

(スライドの)これは、キャリアプランを作る時のキークエスチョンです。

3年後にどうなっていると思いますかとか、どういう強みを自覚してますかとか、自問自答の参考にもなるんじゃないかと思います。

「周囲の人は、あなたの強み・能力について何と言ってますか」とありますが、僕は360度評価は客観的に強みや伸びしろを知るのにいいツールだと思っています。

こういうクエスチョンで将来のためのスキルをクリアにしていくことは大事だと思います。あと、ここには書いてないですけど、どういう仕事をしている時がハッピーかを考えるのも、これからはけっこう大事ですよね。

さっきのエンゲージメントの観点で言うと、やっぱり成果が出る仕事はだいたい楽しいわけですよね。どういう仕事や、どういう達成をした時にやりがいを感じるかみたいなクエスチョンもすごく大事かなと思います。

あと、(スライドの)キャリアヒストリー。僕はリスキリングの下準備として、当たり前ですけど「過去にどんなことをやってきたか」がすごく大事だと思っています。

さっきちょっと言いましたけど、何がわかったかとか、どういう時に快感を得たかみたいなことはすごく大事だと思うんですね。だから、キャリアヒストリーの真ん中にわかったことや感じたことを書くと。これを過去に遡って書いてみると、自分のやりがいのスイッチみたいなのがわかるものです。

みなさん、なかなかこれをやっていないんですね。なので、ちゃんと1回書き出してみる。一番いいのは上司とか、人事の場合もあるかもしれませんが、対話をしながらそこを明らかにしていく。これは、リスキリングの下準備として非常に大事です。

ちなみに僕は、あえて「ライフイベント」も横に書きました。自分の生活も並べてみると、その時のことを思い出すからよりリアリティが出るんですよ。こういうことをやることで、将来の道しるべがクリアになっていくんじゃないかと思います。

これ(スライド)は、先ほどもちょっと言いましたが「人事戦略の考え方」ですね。将来行きたいところに対して、今の組織に足りないものをどう埋めていくか。そのように考えると、個人も同じなんですよね。

まず成功イメージをちゃんと持つこと。これが、組織の戦略と一致しているとベター。そして将来なりたいところに対して、今のあなたに足りないものをどう埋めていくかが、リスキリングなのかなと。「将来こうなりたい」というところをちゃんと持つことが、すごく重要だと思います。

最後にまとめとしてで、ポイントをいくつか挙げます。

組織のパーパスと個人のパーパスを一致させる努力をする。キャリアに自律性・自主性・意志を求める。キャリアをプランし、実現に向かう宿命を持つ。

やはりプランがあってのリスキリングなので、そういう仕組みを持つことが大事です。それが最初にあって、組織の意志と個人の意志を一致させる努力が日頃のマネジメントの意味かなと感じています。

ちょっと駆け足でしたが、私の話は以上です。ありがとうございました。