誤った分析・理解は“顧客を捨てる”ことにつながる

橋本直久氏:今日は従来のマーケティング手法とは違った、さまざまな種類の「つながるデータ」によって、今まで分かれていたデータを一気通貫で見ることで、みなさまにいろいろな視座をご提供できればと思っています。

つながるデータが1つのポイントになってくるので、それを頭の片隅におきながら、この後のお話を聞いていただければと思います。

まず1つ目は、「“脱デモグラ”のすすめ」というお話をさせていただいています。先ほども少し触れましたが、顧客を理解する時に、「弊社のお客さん層ってM1層が多いんですよね」「F1層が多いんですよね」と。

ちなみにM1やF1というのは、20歳から15歳刻みで男女で分けるくくり方になっています。例えばM1は20歳から34歳までの男性、F1は(M1と同じ年代の)女性となっています。

今はだいたい1学年に100万人ぐらいいるので、F1と言いながら1,000人単位ぐらいのお客さまが出てきてしまって。それが全部ターゲット層なのかというと、なかなか乱暴(なくくり方)になってきますよねと。

実際に弊社がその疑問をデータで解析したので、ご紹介します。今ここに映っているように、デモグラフィック(年齢、性別、居住地、家族構成、職業などの人口統計学的属性)によってお客さまを分析すると、実は約7割程度のお客さまを捨てていることがあります。

例えば、衣料用洗剤の年間購買者を弊社で分析すると、約7割、74パーセントほどの方が購入経験をしています。まったく買わない方は、25パーセント程度です。この74パーセントを分解してみると非常におもしろいことがわかります。

例えば洗剤などをCMする場合は、女性層かつ主婦層を想定顧客にするので、いわゆる35歳から49歳までのF2層をターゲットにしたCMを作ります。ただ、その層は購買層の中で言うと、26パーセントしかいないんですね。

つまり、先ほどの7割はあながち嘘でもないですよ。(F2層以外のすべての購買層を)足していくと、73パーセントほどになるので。(ただ、購買層の中にF2層以外のターゲット層も含まれていることを)意識せずにターゲティングしてしまったり、顧客理解を始めていることになっていきます。

特定のデモグラで絞ると、7割の顧客データを見落とすことも

もう1つ。例えばビールは、衣料用洗剤よりも少し利用者が多いので、83パーセントぐらいの購入者がいます。最近は、若年を狙うためにF1やM1をターゲット層にしたものもありますが、ビールはだいたい男性の35歳から49歳までのM2をターゲット層にしたCM(になります)。

そうすると、M2は(ビールの購買層全体の)だいたい23パーセント前後です。ビールの場合は衣料用洗剤よりもさらにさまざまな方たちにお買い求めいただくので、M2だけ(セグメントを)かけると、23パーセントしかいません。

このようにビールに限っても、特定のデモグラフィックで絞ってしまうと、7割以上の方たちのデータを無視することになってしまいます。なので、みなさまにぜひ今日覚えていただきたいのは、デモグラで把握し始めてしまうと、顧客理解が非常にぶれてしまうということです。

顧客データを活用する場合は、デモグラではないところから活用するだけで、約7割もの忘れていたものを取り戻して顧客理解をすることができます。それだけでもかなり効率が上がるということが、データを使ったみなさまに対するメッセージの1つになります。

では、2つめのテーマですね。みなさまのお客さまが、みなさまの会社に対していくらぐらい、もしくはどのぐらいご利用しているかを把握されていますか? ここを把握することによって、ぜひ顧客理解を深めていただけると、顧客も一人ひとりにいろいろなタイプがあることがおわかりいただけるかと思います。

そのお話をする前に、ちょっとクイズを出したいと思います。この人が誰だかご存じでしょうか?

ほぼほぼ知らないですよね。答えはヴィルフレド・パレートさんです。

「パレート」と聞いた時に「あ!」と思う方は、マーケティング・プロフェッショナルの1人かと思いますが、あのパレートですね。

「パレートの法則」は分解して考える必要がある

ここからは「“パレートの法則”のすすめ」と称してお話をしていきたいと思います。

先ほどのパレートさんは、非常にいいことを言っています。もともとマーケティングのお話から発展した法則ではないようですが、特に日本のマーケティング業界においては、「パレートの法則」と言うと顧客理解のところで必ず出てくるようなワードです。

このパレートの法則は、言い方を変えると「2:8の法則」と言われているかと思います。売上の8割を2割の顧客が占めているので、その2割の顧客に的を絞ることによって、非常に効率のいいビジネスができますよと。

そうですよね。100人いたら、20人が売上の80パーセントを作ってくれるので、たった2割の人に手厚いコミュニケーションやサービスをすることによって、どんどん商品を買ってもらえる。逆に残りの8割は売上にして2割の構成なので、コミュニケーションを薄くしておいたほうがいいよねという話になります。

これは昔作られた法則なので、実際に今のビジネスに合わせて本当にそうなのかをちゃんと分解していければいいのですが、そもそもこの2割と8割(の顧客)をちゃんとご理解いただいて、コミュニケーションをとっていますか、と。

テレビなどから始まったプロモーションを得意としている会社さまは、やっぱりマスでコミュニケーションするので、こういう分解をしにくかったりします。

また、先ほどご紹介したように、インターネットを主軸にしているお客さまも、比較的リマーケティングのようなかたちになってくるので、来訪者という特性をセグメンテーションするところまではします。

ただ、その人たちがみなさまにとってどのくらいロイヤリティが高いか、商品を購入してくれるかという分解は、データがつながらないので、なかなかできないかたちになっています。

このロイヤル(ユーザー)・ライト(ユーザー)、もしくは未利用(ユーザー)といった分解をすることができていますか。これはけっこう重要なキーワードになるのですが、単純に2対8を適用して自社のブランドを見ればいいのかというと、なかなかそうでもないということを、これからご紹介したいと思います。

売上貢献で顧客分析すると見えてくる、意外な事実

今お見せしているのはスナックカテゴリーです。弊社のネットワークで、スナックというカテゴリーの商品を買っているお客さまを売上の上位2割と下位8割で分けています。この2割の人たちが、売上全体の金額のどのぐらいを表現してるのかを調べてみました。

さあ、どのぐらいだと思いますか。パレードの法則では2割と8割になるんですけれども、実際はスナックカテゴリーの場合は、よく買う人で構成される売上が60パーセントです。逆に残りの8割の方たちは40パーセントの売上を構成しています。

ちょっと2割と8割とは雰囲気が変わってきました。でも(売上構成比が)6割ぐらいだったら、やっぱり2割のお客さまをどんどん大切にしていこうって思いますよね。

もう1つ、上位20パーセントで構成される売上を、とあるスナックのブランド(で見てみましょう)。みなさまもたぶん1回ぐらいは買ったことがあるんじゃないかと思います。いわゆるフライドスナックと言えばというブランドをピックアップしてきているんですけれども。

数字の関係上、18パーセントと81.9パーセントにしていますが、18パーセントの人たちがどのぐらいの売上を構成しているかと言うと、先ほどスナックの場合は60パーセントでしたよね。

この方たちは52パーセント。なかなか微妙な数字になってきたと思いませんか。私も初めて数字を出した時に、まぁずれるんだろうなとは思ったんですけど、この微妙な加減はなかなかおもしろいなと。

いわゆる2割のお客さまは、半分の売上を出しています。半分と言ったら、かなりのボリュームになりますよね。8割のお客さまも実は半分出しています。もうこうなってくると、2対8で振り切っていいものかどうかすら、わからなくなってくる。

つまり、この2と8で分けた売上が半々ぐらいになるような現状が理解できると、今度はロイヤル層はロイヤル層、ライト層はライト層で、やはりどちらも大切になってきます。ただ、購入傾向は大きく違うのではないかというところが頭の中に巡ってくるわけであります。

まずは、お客さまをライト・ヘビー、もしくはパレートで言うと2と8というかたちで(分けて)、売上貢献に関してしっかり分解してみることが1つのポイントになってくると覚えていただければと思います。

では、こういうふうに分けるところまではできたとして、その人たちがどんな人なのかがわからなければ、マーケティング活動を実行できないかと思います。

顧客をヘビー層とライト層に分解すると何が分かるのか

ここからが弊社のデータを使った、より具体的なご紹介になります。よく買ってくれるヘビー層と、そうでないライト層に分解すると何がわかるのか、具体的な事例を元にご紹介していきたいと思います。

先ほどご紹介したスナック領域について、スナックブランドも同じようにして、購買者を約15万人程度、セグメントして分析しています。この15万人程度は購買者全体で言うと、だいたい女性層が6割ぐらいで、男性層は4割ぐらいの構成比になっています。

先ほどのライトとヘビーを分けると、少しおもしろい傾向が出てきています。8割のライト層に関しては、この色味がついてるところが、とあるスナックブランド全体の構成比よりも特徴が出ている。要は上に出ています。

一番特徴的なのは、女性の右側を見ていただくとわかるのですが、真ん中で一番大きいボリュームのところが少し削られているのと、男性層が削られていることがご理解いただけるかと思います。

ですので、スナックブランドはヘビー層を除くと、ライト層に関してはメイン層ではない人たちに支えられていることがわかるかと思います。

一方でヘビー層、ロイヤルユーザーに関しては、実は男性のほうが多くなっています。女性も当然中心層が多いんですが、その中心層の多さよりも男性のほうが多くなります。

これを先ほどの全体と比べると非常におもしろいのが、全体だと6割だった女性構成比が55パーセントほどに下がります。

男性の構成比が非常に増えてきて、ヘビー層は男性、ライト層は女性というふうに中心像が変わってきます。ここだけでも、コミュニケーションの仕方が変わるということがご理解いただけるかと思います。

同じ商品を購入しているユーザーでも属性は別物

ただ、先ほども言ったように、性別・年代というデモグラフィックだけの理解では、やはりまだまだ不十分なので、このデータをより深掘りしていく方法をご紹介します。

弊社のBIツール「Market Watch」と、その中の「Target Profiler」という分析ツールを使ってご紹介していきたいと思います。ちなみにMarket Watchは、さまざまな生活者のリアルな情報を多面的に可視化して、お手元で見られるツールです。

大きくは基本情報としてデモグラがあり、購入しているエリアや、志向性がわかる顧客DNA、購買の傾向や興味関心。ウェブ上の行動データに基づいた興味関心も最近導入しました。弊社のBIツールの特徴は、そうしたデータがお手元のPCで(分析)できるようなものになっていることです。

先ほどご紹介したのはデモグラですね。顧客DNAを軸にして、スナックのご紹介をしていきたいと思います。ヘビー層の食に関する特徴を抽出すると、ライト層と非常に差分が出てくることがわかります。

ですので、ヘビー層とコミュニケーションをとる時のヒントや、ライト層とコミュニケーションをとる時のヒントがわかり、(マーケティング施策に)ご利用いただけるようなツールになっております。

例えばロイヤル層はテイクアウトが好きで、単品で食を好みながら、毎回同じものをリピートする。スナックが好きなので、ファストフードも好きという傾向が出てきて、なんとなくイメージがつきます。やや男性が増えているので、そういう傾向の人になることが、このデータからもご理解いただける(と思います)。

一方でライト層は、一家だんらんタイプで1人ご飯が苦手。上と1番と2番は対になっている感じだと思いますが、野菜が好きで、品数を重視するという食の傾向があります。なんとなく家でご飯を食べる女性層のようなイメージがあるかと思います。

同じ商品を買っていても、よく買っている人とちょっと買っている人を比較することによって、このような違いがしっかりと出てきます。これら(のユーザー)をまとめて、同じようなコミュニケーションをしてもいいのかというと、なかなか疑義が生じるかと思います。

自社のユーザーが他にどんな商品を買っているかも分析可能

もうちょっと深掘りしていきましょう。弊社では購買カテゴリーというものがあり、とあるスナックを買っている人たちが、他にどんな商品を買っているのかがわかるような分析になります。

とあるスナックブランドのロイヤル層が、どんなものを買っているのかをライト層と比較したものになりますが、全体的に言うと(スナック菓子全般の)ロイヤルなので、とあるスナックだけではないことがこのデータからもわかると思います。この横線で引いている黄色のところが、その平均値になります。

ライト層と比べて平均的に買っているものが、黄色の線の上に上がっていきます。黄色の線より上にいくと、そのライト層よりもよく買っていることがわかります。当然とあるスナックだけじゃなくて、お菓子好きの人たちが集まっていることがここだけでもわかると思います。どんなものが好きなのかもブランド単位でわかったりします。

例えば、とあるスナック(のロイヤルユーザー)が湖池屋スコーンを2.2倍買っていることや、飲み物で言うとペプシやカルピスソーダなどの炭酸飲料を片手にスナックを食べていることがわかったりします。

このように自社の商品と相性のいい商品を見つけることによって、タイアッププロモーションをしてみましょうといった、オケージョンが想起できます。そういったオケージョンを想起したコミュニケーションプランを作りましょうといったところにも活用できるかと思います。

競合を知ることは、さらなる顧客理解や差別化に有効

スナックのお話ばかりしていたので、ちょっと切り口を変えて、今度はドレッシングを題材にしてみました。先ほどと同じように、デモグラフィックで紹介しています。

みなさまが一度は買ったことがあるようなメジャーブランドのドレッシングなのですが、それをよく買っている約4,000人を対象に、関東圏の60万人ぐらいの方たちとエリア比較をしています。

このよく買っている方たちは、非常に女性が多く、特に65歳から69歳の方たちの多さが際立っていると思います。約3万人の方たちが分析対象になるのですが、ライト層も女性中心で、少し若年に振れてきて、30代40代が少しずつ増えてきていることがわかると思います。

これを先ほどのインターネットの興味関心データと比べると、非常におもしろいことができるので、ちょっとご紹介していきたいと思います。ヘビー層とライト層を比較すると、なんと不動産や電子マネー、ペット、健康食品、あとはテレビ好きといった関心を持って、インターネットを活用されている。

(データを見ていると)女性だろうというイメージがしっかりあるのですが、生活スタイルが変わるから、今のタイミングで不動産を売ろうかななど。あとは電子マネーとよく言われているので、若者は調べることは少ないと思うのですが、高齢者の方が調べてるんだなと推測できたり。

(少子化で)子どもが少なくなってるので、家にペットがいたりという特徴がぱっと見てとれたりします。こうやってヘビー層とライト層を比較することもできますが、当然、自社の商品だけではなくて、このビジネスをしている競争相手がいると思います。

この数字に関しても、競合と比べてみると、今度はぜんぜん景色が変わってきます。同じヘビー層でも、先ほどは電子マネーというものがありましたが、競合では中学受験というものが出てきたり。

あとは、ペットで犬が出てきたり。先ほどは出てこなかったような自分向けのファッションや、スーツといった洋服周りが出てくるのも非常に特徴的だと思います。

競合と比べるとより志向性が異なるので、その中で際立ったコミュニケーションをしようかなと思うと、こういうキーワードを使って差別化を図ったり、顧客理解ができると思います。

購買者を起点にした顧客理解が、収益の源泉につながる

さて、最後のまとめになります。今、弊社のデータを使って、新規顧客の見つけ方と顧客理解の方法について、3つのキーワードをお届けしました。

まずみなさまの商品のどこが収益の源泉なのか、もしくは今後収益の源泉になってくれるのかを理解するためにも、パレートの法則を活用してみてください。

今までライト層としてアプローチをしなかったところは、ある意味、新規顧客に類するものだと弊社は考えています。ですので、分解することによってターゲット層が違うことはご理解いただけるかと思います。

もう1つ、通常やっているプロモーションは、まだまだデモグラフィックでセグメントしている方々も多いと聞き及んでおります。なので、ぜひデモグラではないかたちで、顧客を理解してみてください。

最後に比較ですね。自社内の商品で比較することもさることながら、先ほどのような競合と比較することによって、自社の商品の特徴が浮かび上がってくると思います。

比較するネタ元は、やはりみなさまもお客さまを起点にするべきですし、それがみなさまのパレートの法則にあるような収益の源泉になると思われます。

アンケートとの大きな違いは、やはり購買者というデータを保有しているところです。購買者を起点として、3つのキーワードを基にした顧客理解をすることで、今までみなさまが触れていなかった、もしくは考えが及んでいなかったところを弊社がお手伝いできるとご理解いただければと思います。

最後にちょっと宣伝させていただきたいと思います。今回のようなお話を、『顧客起点のマーケティングDX データでつくるブランドと生活者のユニークな関係』と称しまして、2022年に、弊社のエグゼクティブ・アドバイザーの横山(隆治)さんと共著で本を出させていただいております。

もしご興味があれば、こちらもお買い求めいただければと思います。では長い時間でしたが、私のプレゼンテーションは、以上にさせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。