読書の観点から徳川家康ををひもとく『家康の本棚』

西舘聖哉氏(以下、西舘)『家康の本棚』という書籍が日本能率協会マネジメントセンターから出版されるということで、著者の大中尚一さんにお越しいただきました。

出版記念イベントとして「いつの世も“読書”した者が勝つ」という、ちょっと強めのタイトルをつけたランチタイムセミナーを始めていきたいと思います。

というわけで、本日進行役を担当させていただきます、イベントアクセラレーターの西舘聖哉と申します。みなさんよろしくお願いします。そして、本日のゲストは著者の大中尚一さんです。よろしくお願いします。

大中尚一氏(以下、大中):よろしくお願いします。

西舘:「イベントに申し込んで、初めて大中さんのことを知りました」という方もいると思うので、少し自己紹介していただいてもいいですか。

大中:はい。みなさま、お昼のお忙しい時間に見ていただいてありがとうございます。大中尚一と申します。現在、株式会社學天堂という会社の代表取締役をやっております。

事業の一環でもありますが、もともと僕は高校の歴史の教師でしたので、ライフワークとして歴史研究をずっとしています。

この度、『家康の本棚』という本を出させていただくことになりました。読んでいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

西舘:ありがとうございます。教師から、今は歴史の経験も活かしてビジネスをされているのがすごい。大中さんに初めて出会いましたが、僕もそこまで歴史に詳しいわけじゃないので、素人質問もいろいろしちゃうかなと思うんですが、今のビジネスに活きることをいろいろ聞ければと思います。すごく楽しみです。

大中:よろしくお願いします。

2023年の大河ドラマの主人公として、再注目される家康

西舘:ちなみに『家康の本棚』という本についてもいろいろ知りたいので、なんで出すことになったのかとか、どんなことが書いてあるかを教えていただいてもいいですか。

大中:なぜ出すことになったかというと、編集の方からお声をかけていただきまして、「これはおもしろそうだな」と思って書かせていただくことになりました。

家康は2023年の大河ドラマ(『どうする家康』)の主人公ですが、もう何回もさまざまな作品の主人公になっていますし、いろんなところで取り上げられています。

ぶっちゃけ僕も「家康で書くテーマはこれ以上あるのかな?」と思っていましたが、編集の方が「そういえば、家康がどんな本を読んで成長したかとか、学んだかはないなぁ」という着眼点を持っていらっしゃって、それはおもしろいなと思って書かせていただいた次第です。

西舘:なるほど、ありがとうございます。大河ドラマと連携した書籍はけっこうJMAM(日本能率協会マネジメントセンター)さんから出ているイメージですが、最初に「書籍を出したい」と言われた時、どう思いましたか? 「やった」なのか、本音のとおり「書くことはあるのかなぁ?」という思いが正直あったのか。

大中:そうですね。やっぱり、先達の歴史の専門家のみなさまがたくさん書いていらっしゃるので、プレッシャーはありましたね。

「主人公っぽくない」家康は、海外での評価が高い

大中:僕はあくまで研究者なので、家康は好きではありますが専門で研究しているわけでもないですし、正直なところ「さて、どうしたものか」とは思いました。

西舘:ただ、書かれたものを見ると、大中さんの中に家康に対する熱いものがあったり、もしくは今回の書籍執筆を通じて学びを深められたんですかね。

大中:そうですね。調べて書いていく中で家康像がどんどん立体化していきましたし、自分が今まで気づいていなかったことにもたくさん気づくことができました。戦国時代は、特に信長や武田信玄がすごく人気で、徳川家康は本当に人気がないんですよね。

西舘:そうですね。近年の戦国時代系のコンテンツを見ていると信長が多いですよね。

大中:だと思います。僕もやり込みましたけど、某ゲームソフトの『信長の野望』とか。

西舘:あぁ、ありますね。

大中:残念ながら、家康のはないじゃないですか。

西舘:確かに主人公っぽくはない感じですね。

大中:海外では家康のほうが評価が高いんですよね。

西舘:そうなんですね。

大中:信長は旧時代を壊して新しく築こうとした人ですが、会社でいうと(徳川家康は)260年続く企業を作った。信長の作った企業は2代でぽしゃっちゃった。そういう意味では、家康の評価のほうが高い。

家康から学ぶ、新しい時代を作るためのヒント

西舘:「正解はないよね」「これまで通りだとだめだよね」と、いろいろ言われていると思いますが、新しい時代を作るところがまさにVUCAの時代と言われる現代だと思います。

そういう意味でいうと、旧時代を壊す的な要素ももちろん必要だと思うんですが、新しい時代を作っていくことを家康から学べるのは、今のビジネスパーソンの方々にすごく参考になると思うので、ぜひそのへんを聞ければいいなと思っています。

大中:信長も秀吉も本当に魅力的ですが、最終的に勝ったのは家康ですし。

西舘:そうですね。

大中:一応僕もビジネスをやっている身として、「続く企業を作らないとだめだ」というところでいうと、家康には見習うところがあるのかなとは思います。

西舘:あらためて思い返すと、あれだけ続いた江戸幕府を作って、それを続けていける体制を作ったのはすごい功績ですよね。ぜひ、そこも深く聞いていければと思います。

今回、大中さんといろいろお話ししていこうかなと思っているんですが、とりあえず大きく4つあります。ご視聴いただいているみなさんのから事前質問も募集させていただいて、聞きたいところをピックアップさせていただいて持ってきた4項目です。

これ以外にも、気になったこととか「ぜんぜん違うんだけど、こういうことも聞いてみたいな」というものがありましたら、ぜひコメント欄に投稿していただければ拾います。いろいろ路線変更しながら聞いていったりもしますので、ぜひコメントもお願いします。

“後世に残るものを作る”という意味では、家康は最たる成功例

西舘:主にはこの4つで進めていこうかなと考えています、ジャブ打ち程度に軽いものからいこうかなと思うんですが、「新時代を作った」という話があったかと思います。そこでもいいですし、それ以外のもっと広い部分でも大歓迎です。

大中さんが思う徳川家康の魅力とか、「ここは現代人もちゃんと知っておいたほうがいいよね」ということがありましたら、ぜひ教えていただきたいです。

大中:ありがとうございます。家康さんは晩年に花開いた人ですが、信長は早い段階からぱっと活躍して一気にドーンといったので、(一般的には)そういうものに憧れると思うんですよね。特にビジネス界隈でいうと、スタートアップ企業もそうだと思います。

西舘:憧れですよね。今活躍している方々も、僕の同年代や年齢が下の方でもすごく聞くので、「うわー、すごい」って思うことがあります。

大中:ぶっちゃけ羨ましいなと思うことがあるわけですが、継続して成功できる人の割合がどれくらいか? という話ですよね。

頭打ちして失敗してしまう人もいますし、最後にどれだけの結果を残せているか、後に続くものを作れているかはすごく大事だと思います。そういう意味で、戦国時代では家康が一番成功した例だと思います。

彼の場合は、ひたすらがんばり続けて最後の最後で栄冠を掴んだので、失敗しても「諦める」という選択肢はあんまりなかったと思います。

失敗するのが当たり前なので、そこは現代人も見習ったほうがいいんじゃないかなと思いますよね。大器晩成の見本みたいな人なので、僕も見習いたいです。「努力」という言い方はあんまりよくないかもしれないですが、早々に諦めることなく、継続して努力するのがいいんじゃないかなとは思います。

今も昔も変わらない、諦めずにやり抜くことの大切さ

西舘:ありがとうございます。今の日本社会でひもといていくと、「失敗が怖いな」という気持ちとか、「失敗したら責められるんじゃないか」というのもあります。実際、企業の中からも「失敗したら出世できなくなった」という話もけっこう聞こえてきます。

そういう風土的なところというか、カルチャーみたいなところって、家康さんの周りだとどんな感じだったんですかね。

大中:まず家康の周りに限定していくと、そもそも彼自身が何回か死にかけています。

西舘:(笑)。戦国時代っぽい。

大中:そうですね。あとは織田信長だって死にかけていますし、秀吉だって危なかった。家康の部下も1回彼を裏切ってから戻ってきて、そこから出世した人だっています。今風にいうと、名誉挽回の機会、リベンジの機会があったはあったと思います。

一番名誉挽回した人は家康じゃないんですが、家康の敵方の立花宗茂という人です。関ヶ原の戦いで家康と戦って負けた人ですが、全部を失って浪人しながら全国を回ったけど、結局また大名になったりしている。僕たちも、リベンジしようと思ってやっていれば、できるんじゃないかなと思いますけどね。

西舘:なるほど。わりと個人の気持ちでどうにでもなったと。

大中:そうですね。当然、戦国時代なので死んじゃいますけど、生きてやり続けている限りは何らかの結果を出した人はけっこういますよね。

西舘:今、若い人は諦め癖があるってよく聞くんです。よく聞くというか、僕も言われるんですが(笑)。でも、やり抜いたり諦めないのは一定の価値があるということは、昔と今でそんなに変わらないところなのかなと思ったので、これはいいですね。すごく希望だなって思いました。

家康はどんな本を読み、読書で何を学んでいたのか

西舘:家康周りで諦めなかったエピソードというか、具体例をちょっとだけ知りたいなと思います。諦めなかったエピソードとか、今回の書籍に絡めたところでいうと、「こういうことを学んでいたから諦めずに進めた」ということはあったりしますか?

大中:本の名前が『家康の本棚』ですが、彼は古典や昔の書物の事例をよく読んでいて、今の自分がどういう人の・どういう状況に当てはまるかはよく知っていたと思います。

例えば、2022年の(大河ドラマ)『鎌倉殿の13人』でも、前半の主人公格だった源頼朝のことについては『吾妻鏡』を読んでよく知っていた。

なんせ彼も前半生は捕虜みたいな感じだったので、非常に苦労して、そこから劇的に自分の天下を築いていった。家康は『吾妻鏡』でそれをよく読んでいましたし、それを見て「自分も必ず這い上がる」と、諦めずに行動していたんじゃないかなとは思います。

自分に合った“戦い方”をロールモデルから学ぶ

西舘:やっぱり、諦めないための源泉は必要ということですよね。今の話を聞いていると、自分の「軸」になるというか。

大中:そうですね。頼朝さんの場合は本当に自分が最初だったので、しんどかったと思うんですよ。家康の場合は源頼朝という前例があったので、余計にやりやすかったんじゃないかなと思います。

現代のビジネスパーソンで言うと、頼朝とか家康が成功しているわけですから、ロールモデルはすでにあるので見習うことはできるんじゃないかなとは思います。

西舘:なるほど。歴史的な人物でもいいですし、今はいろんなビジネス書とか「こうやったらうまくいった」「こうやったらうまくいかなかった」という書籍も増えているので、自分に合った情報のインプットを重ねていくと、もしかしたら自分なりの戦い方や諦めずにやる方法が身につくかもですね。

大中:そうですね。いろんな方がいらっしゃって、いろんなタイプがいらっしゃる。家康の場合は確実に粘り強くやって成功するだったので、それが向いている人はぜひ真似されたらいいんじゃないかなと思いますね。

西舘:なるほど、めちゃくちゃ魅力が伝わりました。僕の中の家康像がちょっと変わりました。ありがとうございます。